実習報告書
【実習内容】
@利用者とのコミュニケーション
A歯磨き・手洗い・入浴の介助(基本的には、利用者が自分でできることは自分でやってもらい、その上で不十分な点を補助した)
Bトイレや部屋の掃除・リネン交換
@を行う上で心がけたことを記しておく。
まず、目を見て相手の名前を呼んだ。どんなに知的障害が重度の利用者も、自分の名前を呼ばれると必ず何らかの反応を示してくれた。
次に、笑顔で挨拶をして自分の存在をアピールした。手を握ったり、抱きしめたりなどのスキンシップも積極的に行うようにした。以上の
ことを心を込めて実行した。上辺を装うと、表面的には何の反応を示さなくても、利用者は直感的にそのことを見透かし、心を開いてくれ
ないと聞いていたからである。さらに、利用者の一挙一動をつぶさに観察し、相手の関心に合った遊びや話をし、ときに相手の表情や発声
を真似してみた(決して相手を小馬鹿にしているのではなく、同じ目線で対話するための試みである)。
【実習の感想】
対人コミュニケーションにおいて「あ・い・さ・つ」(実習前に教わった患者接遇の標語)や相手をよく観察するのが大事だということ
は、「健常者」間で良好な人間関係を築こうとする場合も同じであり、「知的障害者だから…」といって別段構えることは基本的に不要
であると感じた。もちろん、『大雪の園』利用者は知的障害を持っている。しかし、たとえば彼らはよだれを垂らしたり、大声をあげて
歩き回ったりするが、「健常者」と呼ばれる人の中にも、路上につばを吐いたり、酔っ払って叫びながら夜の住宅街を徘徊する人はいる。
両者の間に何の差があるというのだろうか。「健常者」と同じことをしていても、「知的障害者」というだけでバイアスがかかり、「知的
障害者の行為」として敬遠され、結果的に「知的障害者との交流は困難である」という先入観を持たれていると思えてならない。
また、「健常者」においても、目が悪かったり耳が遠かったり、何かしら「障害」を持っているものであり、他者の助けなしではでき
ないこともたくさんある。ただその程度や内容が「知的障害者」と呼ばれる人々と異なるだけで、「健常者」と「知的障害者」との間に
根本的な違いはないのではないか。
最後に、医学生として感じたことを二点述べる。一点目。医師にとってコミュニケーション能力は欠くべからざる資質であり、その能力
を伸ばしていくためにも、観察眼を磨き、非言語的なサインを汲み取る力をつけていかなければならないと痛感した。
二点目。今回の実習を通じて知りたかったことの一つは、「施設の利用者は自分が社会的に知的障害者と分類され、健常者と呼ばれる
マジョリティと区別されていることを自覚しているのだろうか」ということであった。重度の知的障害をもつ人にその自覚はないようで
あったが、職員の方にうかがったところ、軽度の知的障害をもつ人の中には「健常者」の生活に憧れる人もいるという。しかし、彼らは
その事実を受け入れ、与えられた環境をできうる限り楽しんでいるようであった(会話のできる利用者には、「ここでの生活は楽しいです
か?」などと質問してみた)。そのような人々と出会い、触れ合っているうちに、遺伝子診断や遺伝子治療等の技術に改めて疑問を抱く
ようになった。これらの技術が多くの悩める人々を救うに違いないことは理解できる。しかし、これらの技術を支えているのは「障害は
負の因子である」という考えであり、それを除去しようとすることは、期せずして「障害者」の存在を否定することにつながるのではない
か。
【今後の実習に対する希望・提案】
大変ではあろうが、他の学校の実習生同様、泊り込みで実習をしてみたかった。
ヒトの染色体
(1)テーマ
ヒトの染色体の核型分析および染色体異常症の同定
(2)日時
2004年5月25日 13:20〜18:00 および 2004年6月1日 13:20〜18:00
(3)目的
ヒトの染色体の特徴や染色体異常について造詣を深め、人類遺伝学を学習する際の礎を築く。
(4)材料・方法
【核型分析】
・材料…予め用意されている正常男性の染色体核板を写真撮影したもの
・方法…染色体の形態や相対的長さを手掛かりに、相同染色体同士を対にして分類する。この際、判別が困難なC群は最後に分類する。
【染色体異常症の同定】
・材料…スライドNo.46
・方法…@長さが適当で重なりがなく、適度に広がった核板の染色体数を総合倍率400倍の下で数える。これを10個前後の核板で行い、
染色体数を決定する。A各染色体の形態や相対的長さに留意して、総合倍率1000倍の下でスケッチする。B核型分析を行う。
(5)結果
別紙1〜4の通りである。実際に観察した標本の染色体異常症は、男性の21トリソミー(trisomy21, Down syndrome)と同定された。
(6)考察・研究
【Down症候群について】
おそらく最も有名な染色体異常症である。実際、染色体異常が発見される以前から臨床像が確立されていた疾患であり、また、最初に
発見された染色体異常症である。罹患率は1000人に1人の割合で、高齢出産に多く伴う。
核型ではtrisomy型が90%前半で最も多く、次いで、Robertson転座型(D群・G群の染色体が動原体部で転座する。短腕同士が接合
してできる小形の染色体と長腕同士が接合してできる大形の染色体が出来上がるが、前者はその後の細胞分裂で消滅する)の5%前後、
mosaic型の2%となっている。このように、trisomy型以外でもDown症候群を引き起こし得るのは、21q22(21番染色体長腕部の
region2-band2)にそのような遺伝子が存在するためだとされている。
症状について述べる。表層的な特徴としては、眼裂斜上・瞼裂離開・内眼角贅皮(以上、目周辺の形態的特徴)・鞍鼻・翼状頸・猿線・
第5指単一屈曲線(最後の二点は手の形態的特徴)が挙げられる。乳幼児期は筋緊張低下のために腹・臍の突出が目立つ。
合併症としては心奇形が最も高い頻度で発症し、重症心奇形合併の場合、出世以後早期に死亡する確率が高い。一般に、Down症候群
における心奇形の合併頻度は出生時で40〜50%であるが、20歳以後に発症する例は稀である。心奇形の内訳は、心室中隔欠損症が約40%、
心内膜床欠損症が約23%、動脈管開存症が約10%、心房中隔欠損症が約8%、Fallot症が約5%となっている。このうち、心内膜床欠損症
が高頻度でみられるのが特徴的である。この他の合併症としては、きわめて予後の悪い急性白血病であるM7型急性骨髄性白血病・
先天性十二指腸閉鎖・甲状腺低形成による甲状腺機能低下症がある。
精神遅滞・発育遅滞もみられるが、性格は楽天的で人懐こく、優しく朗らかで、リズム感がある・人真似が上手いなどの特長がある
ので、「普通児」と日常的に触れ合う場が提供されれば、社会的に十分独立して生活できる。
Down症候群特有の顔貌・病理学的変化は、各々、21q末端部の過剰・21q22の重複に由来することが分染法による研究により推論される
ようになっている。
【染色体異常の成因】
新生児では200人に1人の割合で、自然流産児では半数以上の割合で染色体異常が認められる。これらのほとんどは、両親のどちらかの
生殖細胞で生じた染色体突然変異が原因であると考えてよい。
Down症候群ではtrisomy型・Robertson転座型・mosaic型の3種があると記した。trisomy型のような異数体の成因は、減数分裂時の
染色体不分離が考えられる。つまり、減数分裂時において、相同染色体の分離や両極への移動が阻害され、一方の娘細胞に入ってしまい、
結果的に染色体数に過不足のある生殖細胞が形成されるのである。
これに対し、体細胞分裂時の染色体不分離に起因するのがmosaic型である。つまり、染色体の数的異常は細胞分裂時の染色体不分離が
成因と言える。では、不分離を引き起こす要素は何なのであろうか。これについてはまだ明らかな実験事実が得られていないが、母年齢が
大きく影響しているようである。母年齢の上昇に伴う染色体の不分離は指数関数的に増加する。ここで考えられるのは、母年齢の上昇
とともに、染色体不分離を誘引する因子が卵細胞内に蓄積されるか、あるいは、卵細胞自身の老化が染色体不分離に影響しているか、
ということである。
一方、染色体切断や転座などの構造的異常の成因としては、放射線や化学物質(生合成阻害剤・抗がん剤・抗生物質・アルキル化剤・
ニトロソ化合物など)がよく知られているが、科学的実証は得られていない。
(7)参考文献
『染色体異常アトラス』阿部達生・藤田弘子共編(南江堂)
『標準小児科学 第3版』森川昭広・内山聖共編(医学書院)
(8)感想
早期体験実習Tで知的障害を持つ人々(その中にはもちろん、Down症候群の方もいた)と触れ合う機会を持ち、その経験を通じて、
「(知的)障害者と健常者の間に本質的な違いはない」と感じたが、今回染色体異常の教科書を紐解いてみて、正直、ショックを受けた。
様々な染色体異常症の症例が、生々しい写真とともに列記されていたからだ。ショックというのは、それらに嫌悪感を抱いたとかそういう
ことではなく、「(知的)障害者と健常者の間に本質的な違いはない」という考えの半分はきれい事であり、医学を学ぶ者として、染色体
異常症と対決する姿勢も必要である、と感じたもう一人の自分がいることに気付いたということだ。染色体異常を持って生まれた人々の
「異常」を医学的に治療するのが困難な以上、出生前の処置が求められるわけであるが、それは、既に生まれ障害とともに生きている
人々の存在意義を否定する側面も併せ持つ。ここに医療者としての葛藤が生じる…。
将来、小児科学を志すかも知れない自分にとって、今回の実習は意義深いものであったと思う。反省すべきは、かなり古い(ヒトゲノム
計画の遥か昔)文献にしかあたれなかったことである。ネットも多少活用してみたが、有用な情報を得るには至らなかった。医学が
日進月歩の学問である性格を考えれば、以上二つの反省点は致命的なことだと思う。今後は、各分野で研究を行っている先生方のところ
へも赴くなりして、出来る限り新しい情報にもとづいて考察を行うようにしたい。
〔課題1〕健康 レポート課題 テーマ1
WHOによる ‘a state of complete physical, mental and social well-being’ という定義に従う場合、「健康」な人間など存在しなく
なってしまう。障害者や慢性疾患をもつ人間などを例に出すまでもなく、どんな人間でも年を重ねるうちに肉体に不具合を感じるし、
何らかの悩みをかかえているものだからである。ニーチェが「君の肉体にとってすら、健康とは何を意味すべきかを決定するのには、
君の目標、君の視界、君の力量、君の衝動、君の錯誤、とくに君の魂の理想や幻想が決め手となるのだ。それゆえに数限りない肉体の健康
がある。」と書いているように、そもそも「健康」には幅があり、不「健康」との境界は曖昧であるはずだ。つまり、WHOのような固定的な
定義は何の意味ももたない。
そこで私は以下のように、「健康」を動的に定義する。「健康とは、外部環境の作用に対し、内部環境を平衡に保とうと個体が努力して
いる状態である。」ここで「外部環境の作用」とは、生活環境の変化のようなストレス要因やウィルスの侵入といった、精神や肉体の平衡
状態を崩す現象を意味する。また「内部環境」とは個体の精神および肉体を指し、それを「平衡に保つ」ということを換言すれば、個体が
己の心身をコントロールするということになる。身体障害者を例にとれば、四肢が不自由で健常者と同等の生活がおくれないことが「外部
環境の作用」の一例であり、それでも前向きに生きようとすることが「内部環境…」に相当する。慢性疾患も「外部環境の作用」の一例に
なるが、その合併症を防いで息災に生きようとすることが「内部環境…」に相当する。
【参考文献】
『健康論の誘惑』野村一夫編(文化書房博文社)
〔課題2〕感覚の受容と生体の応答 レポート課題 テーマ5
唐辛子を含む「辛い」料理を食すると、「辛味」を感ずるとともに、熱感が惹起されて発汗する。ごく日常的に経験している生理現象
ではあるが、調べてみると、その機構は未だ明確になっていないようである。
まず、「辛い」「辛味」を括弧つきで表した理由を説明する。「辛味」という味覚は存在しないから、というのがその理由である。
様々な生理学の文献をあたってみたが、味覚は甘味・苦味・酸味・塩から味の四種に分類され、「辛味」は存在しないのである。しかし、
「辛い」ものを口にしたとき、我々は確かに何らかの刺激を受容している。その刺激とは一体何なのであろうか。
キーワードはカプサイシンという化学物質である。カプサイシンとは唐辛子に含まれる「辛味」の成分である、ということは、昨今の
「健康ブーム」により世間一般の共通認識になっている。しかし、カプサイシンとは発痛物質である、というのが生理学での常識である。
つまり、我々が日常で「辛味」と認識している刺激の生理学的分類は痛覚なのである。
ここで、痛覚の受容について簡単に述べておく。痛覚受容器は侵害受容器とも呼ばれ、身体のほぼすべての組織にみられる自由神経終末
である。我々が日常で経験している通り、痛みには、鋭い刺すような痛みprickling painと鈍い疼くような痛みburning painの二種あり、
それぞれ別個の受容器が刺激されることで生ずる。前者の神経インパルスを中枢神経系に伝導するのが有髄性のAδ繊維
(伝導速度12〜30m/sec)、後者が無髄性のC繊維(伝導速度0.5〜2m/sec)という神経線維である。Aδ繊維には物理的痛覚を受容する
機械的侵害受容器が存在するのに対し、C繊維には機械的・化学的侵害受容器がある。そして一部のC繊維には、非選択的陽イオンチャネル
を内在するカプサイシン受容体が存在する。カプサイシンを受容すると、ほぼすべての無髄神経線維が破壊され、成人では痛覚過敏が
もたらされる。「辛い」食べ物を摂取すると、「辛味」と同時に「ヒリヒリ感」を知覚し、さらには舌が麻痺するような感覚におそわれる
が、これらはC繊維においてカプサイシンが受容され、以上のような反応が喚起されているからだと考えられる。
さて、問題の熱感であるが、これはなぜ惹起されるのであろうか。この問いに答えるには、生体の温度受容器についても多少言及
しなければならない。温度受容器には、体温より少し低い温度に最もよく反応する冷受容器、体温より少し高い温度に最もよく反応する
温受容器という二種の自由神経終末があり、冷神経線維がAδ繊維とC繊維であるのに対し、温神経線維はC繊維のみである。
結局のところ、C繊維には痛覚受容器および温受容器が存在すると言える。事実、C繊維末端にはポリモーダル受容器と呼ばれるものが
あり、ここで機械的・化学的・熱的刺激が受容されることが分かっている。ここまでくると、一つの仮定を立てることができる。
カプサイシン受容体は化学的刺激(発痛物質)のセンサーであると同時に、熱的刺激のセンサーでもあるのではないか。
この仮定は正しいようなのだが、証拠となる事実は最近の知見であるらしい。その事実とは、カプサイシン受容体のイオンチャネルが
急激な温度上昇によっても活性化されるということである。この事実に従えば、逆に以下のようなことが考えられる。カプサイシンを含む
唐辛子を摂取したとき、カプサイシンなる発痛物質の受容により、当然のことながらカプサイシン受容体のイオンチャネルは活性化される
が、このイオンチャネルは熱的刺激によっても活性化されるものであるから、受容した刺激が化学的であるか熱的であるか、生体は区別が
つかないのである。実際、一次求心性繊維であるC繊維は痛覚と温覚をまとめて伝導する。C繊維は後角で二次ニューロンにシナプスし、
そこで受け取られた刺激は外側脊髄視床路を上行して視床に伝えられ…、という具合に中枢神経系に伝達されるのである。
結論。唐辛子が熱感を惹起するのは、痛覚受容器に内在するカプサイシン受容体が熱的刺激によっても活性化してしまうからである。
【参考文献】
『医科生理学展望 原著20版』岡田泰伸ほか訳(丸善株式会社)
『生理学テキスト 第3版』大地陸男(文光堂)