エピローグ

./

「本当にねぇ、遅れちゃってすいませんでした。お詫びに剣の研ぎ賃の方はサービスさせてもらいましたから」
鍛冶ギルドの女将が愛想よく挨拶してくれた。
やっと戻ってきた修理に出していた鎧。百人隊長装備と呼ばれるバストゥークの官給品だ。
とは言ってもあたしには胴鎧をつけられる体力なんてないから、手足だけ。だけどこれでも全然違う。
それとこの間頂いたフルーレの研ぎ直し。これで一応装備は全部手元に戻ってきた。
保存食やいざという時のための薬品類はもう揃えてあるし、何とか明日には出発できるだろう。
アイツは今年も遠出するなんて言い出した。

そんなことを考えながら鎧袋を背負って大工房を出ると、見知った顔に出会った。
「あれ、ねえさん、どうしはったんです?」
あたしの三倍をゆうに超える背丈を持ったエルヴァーンの青年。弟弟子のオノレだ。
バストゥークにやってきて先生のところへ弟子入りしてから、もう一年以上が経つ。
冒険者となってからは成長が目覚しいし、精神的にもかなりしっかりしてきた…かもしれない。
幼馴染の婚約者を抱えて異国の地で、しかも学徒と冒険者の二重生活をするというのは大変なことだ。そのせいだろうか?

「ちょっと修理に出してた鎧を取りに鍛冶ギルドまで行ってたのよ。そう言うあんたはこんなところで何やってるのよ?」
「はぁ、ちょっと先生のお使いを任されまして商業区にいっとったんですが、終って戻るところです」
「あ、そ。丁度良かったわ。あたしも今から先生のところに行くから一緒に行きましょ」
「ねえさん、いつまでその鎧使いつづけるんです? もう補修も限界なんやないですか? なんなら知り合いに新しくてもっといいやつ手配しておきましょうか? 僕とクィラ・リキゥからのお礼って事で」
その言葉にちょっとムカッときた。
確かにずっと使いつづけてる鎧だ。もうだいぶよれてきてるけど愛着もあるわけで。しかも弟弟子にそんな事を言われるなんて。
「あんた、あたしをバカにしてるの? 自分達の食い扶持で精一杯の新米のあんたなんかに情けをかけられるほど落ちぶれちゃいないわ!」
と、睨んでやった。
オノレは恐縮しちゃった様子で、
「あ、そりゃどうもすみませんでした」
と謝ってきた。
冒険者になってからちょっとひねくれてきたけど(まぁ職業病みたいなものだ)、姉弟子や自分のパートナーの言うことは絶対に聞かなきゃいけないって刷り込まれてる。
うんうん。いい傾向だわ。

./

世界はおおむね平和だ。
それが健全かというと…ちょっと疑問ではあるのだけれど。
闇の王なんてのが現れたはずなのに、殆どの人がそれを知らない。それを倒した英雄も、まだ噂の粋だ。勿論彼はそれ以外にも名が売れているから、やっぱりあの人が…ってのはあるだろうけど。
でも、そんな大事な事が知られないというのは、健全なのだろうか? それは英雄の意に沿うことなんだろうか?

…人々が英雄を求める気持ち、それはわからないでもない。
なにかしらの拠所を求めてしまうものなのだ。
多分、あたし達がお互いに拠っているように。

./

大工房から商業区の北のはずれへ向かう。
先生の塾は魔法屋と同じ建物にある。ソロロやツェイラはオノレに触発されたのか、最近魔力量をふやすための瞑想や身体作りを店番の合間にやっているようだ。
クィラ・リキゥは先生の専門である暗黒魔法を受け継ごうとしているわけだから、実質的な弟子入り状態だ。
独立したあたしを含めて今の所、塾の弟子は五人。
とは言え、あたしも最近はオノレの面倒をよく見ている。先生よりもあたしと議論していることの方が多いぐらい。
リンツァイスは灰色魔道士なんて言い方をしたけど、実際はオノレは赤魔道士の範疇に入る。ただ、あたしみたいに付与魔法を得意とするから赤魔道士なんじゃなく、異なる種別の魔法を満遍なく使うから赤魔道士なのだ。あたしとは方向性が違う赤魔道士。だからあたしとの議論の種は尽きない。
ソロロやツェイラも二人の面倒をよく見ているから、先生の負担はそれほど多くないはず。

耳の院やオノレの学費を出していた政府機関とは思いっきり喧嘩をしてしまったけど、だからといって先生の信用が失われたという事はなく、今でもあたしや先生は目の院や耳の院と共同の仕事をしている。
バストゥーク政府との関係だって良好だ。

ふと、オノレがあたしの左手に目を留めた。
「…ねえさん、結婚しないんですか?」
「え!?」
「いや、ねえさんもそろそろいい歳やから。それが自然なんやないですか?」
あたしはまたまたムカッとして鎧袋を振り回して彼の足にヒットさせた。フレイルの要領だ。
「いてっ!!何するんです?」
「女性の年齢を口にするなぁ!!」
今あたしは二十五歳…もうすぐ二十六になる。かなり微妙なお年頃だ。
でもこの一年、あまりにもいろいろな事が起きすぎたのだ。とても相手を探す暇なんてなかった。それに…
「この指輪を見てそう思ったわけ? 確かに薬指にはまってるけどね」
「いやぁねえさん、それ…男避けに見えるんやけど」
「実際そうなんだもの。バカな男に言い寄られないためってのもあるわよ?」
「バカな男って、そんな事言ってたらいつまでも」
「あんたね…自分が身を固めたからって人に押し付けるのはやめてよね」
「そんなつもりはあらへんのやけど…どんな男だったらいいんです?」
「んー、少なくとも…アイツに認められるようなのじゃなくちゃダメね」
「は?」

というところで、あたし達は先生の塾についた。
勝手知ったる先生の家、上がりこんで、先生の書斎まで向かう。
「お、フェムヨノノか」
あたしは一礼して、
「先生、また明日からちょっとでかけてきますね。今年もまたサンドリア方面に行くので、何か入用のものがありましたら、言付かりますが。」
「そういえば、お前もうすぐ誕生日なんだな」
あたしは頷く。

先生、最近はすっかり落ち着いてしまった感がある。もちろん今でも積極的に仕事はこなしているけど、ソロロとツェイラには出来ない、自分のコアな所を受け継いでくれるオノレとクィラ・リキゥという後継者が出来たというのも大きいのだろう。
二人のおかげで暗黒騎士の業にケリをつけることが出来た、と先生は言っていた。
別にソロロとツェイラがダメとかそういうことじゃない。先生の政治能力や運営能力はあの二人に強く受け継がれている。でも、ソロロとツェイラは冒険者じゃない。
そう考えてみれば、あたしが先生から受け継いだものってなんだろうと思う。
…多分、戦う、と言う事?

「どうだった、この一年は?」
先生が真顔で訊いてきた。
「…いきなりなんですか?」
「ん、別に深い意味はないよ…そうだな、誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
あたしの返事には、少しばかり戸惑いが含まれていたと思う。
ちょっと意外だったのだ。先生はあまりそういうことを気にしない性質なのに。
それでもあたしが子供の頃は、気を使ってくれて誕生会みたいな事をやってくれたし、それはソロロとツェイラの時も同じだった。
でも、皆それなりの大人になってしまってからは、すっかりそんな言葉はご無沙汰だったのだ。
「先生、どうしたんです?」
「明日出発なら今年も帰ってくる頃には年を重ねてるかな、と思ったからね。それだけさ」
「はぁ…」
「買って来て欲しいものっていうのは特にないなぁ。ま、とにかく気をつけて行ってきなよ」
「では、失礼しますね」
あたしは先生に一礼した。そのまま書斎を辞そうとした時、先生から声が掛かった。
「フェムヨノノ、その格好似合ってるよ」
「ありがとうございます」
と笑顔で返す。
今のあたしは、目の院から押し付けられた連邦軍師と同格であることを示すコートを着ていない。
自分の意思で脱いだのだ。あたしにはもうウィンダス政府の後光なんていらない。
その代わり、紋様を刺繍した手製のガンビスンを着ている。勿論魔力を織り込んだものだ。
そして腰にはさっき戻ってきた剣。先生から頂いたフルーレ様式の魔剣だ。
柄のバランサーに元々入っていた女神教会のホーリーシンボルを消して、今着ている服の刺繍と同じ紋様を新しく刻んでもらった(勿論リンツァイスにね)。
エアハルトが英雄であることを示す象徴が白いサーコートとパールホワイトの鎧ならば、この二つは…『スクラッパー』であることを示す、あたしの象徴だ。
決して英雄みたいなものじゃない。あくまで『スクラップを扱う人』だ。
だけど、それこそがあたしの誇り。

魔法屋に顔を出して弟弟子、妹弟子達に挨拶してから、自分のモグハウスへ帰った。
明日の出発までにやらなきゃならないことは…とりあえず荷造りだ。
部屋に乱雑に積まれている蔵書の山を見ればわかるように、あたしは、この手の作業が苦手だったりする。
果たして寝る時間が取れるのだろうか。

./

結局ブルストの行動は公表される事はなかった。
実際にエアハルトは世界を救った英雄には違いないし、ブルストの存在がなくなったこれからも、彼とその仲間は英雄の道を進んでいくのだろう。
だが…それは誰かに強制されるものではないはずだ。
ましてや英雄を作るなんてとんでもない話だ。

./

次の日、去年の通りにオルデール鍾乳洞までチョコボで乗り付けたあたし達は、そこに一泊する事にした。
リンツァイスが手ごろなウサギを狩ってきて、それであたしは簡単なスープを作った。
最初に直火で炙ってから、あたし達用の小さな鍋にそのまま入れて乾燥トマトと一緒にコトコト。
セージを中心にして風味を整え、仕上げに塩漬けで持ってきたマーガレットの花びらを散らしてみる。
このスープと乾パンが夕食。
相変わらず、二人だけの時はシンプルな食事だ。

ここの所、周りに人が多かったから…ちょっと食べ過ぎだったかもしれない。
スカイリッパーは巨体に見合うだけの量を食べるし、ファピナナもあれで結構大食漢なのだ。小さい身体とは裏腹によく食べる。
そんな人達に囲まれてたんだからついつい量を作ってしまってたし、自然自分で食べる量も多くなっていた。
おまけにイー・キノエがいたから、辛味スパイスを効かせた脂たっぷりの肉食が中心だったり。そのせいでアルコールも過剰摂取だった。

そんな事を考えてしまったので、飲みかけのスープの入ったブリキのカップを脇において、ついついお腹のお肉を摘んでみてしまうあたしだけど…
「う…」
直後に後悔しながら絶句してしまった。ただでさえポンポコなお腹が…。
タルタルだからナタリアみたいなスタイルなんて望むべくもないのは判ってる…というか想像も出来ない。
ファピナナだってふっくらしていてるけど愛らしい。彼女みたいなのが、タルタル女性の理想体型なんだろうけど…でもね。
やっぱりあたしは紛れもなくバストゥークで育ったタルタルなのだ。

「…どうしたのさ?」
半分呆れたような顔をしながら、訊いてくるリンツァイス。
「…あんた、体重増えてない?」
おずおずと上目遣いになって言う。
「え? 別にそんなことはないけど」
「ううう…じゃあさ、あたしって最近…重くなった?」
「どうだろ? 言われてみれば…確かにそうかもねぇ」
あたしは、今ここにしっかりと決意した。
「リンツ、食事減らすわよ!」
「減らすも何も…今日だってこれだけだよ? 確かにスカイリッパーとかにつられて食べ過ぎてたかもしれないけどさ」
「減らすの!」
そう断言するのだけれど…確かにリンツァイスの言う通り、何をどう減らしたらいいのか。さっぱり判らない。決意した直後にいきなり途方にくれてしまう。

./

イー・キノエはもうしばらくしたらサンドリアのナタリアの元へ帰るって言ってた。それまではバストゥーク近辺をブラブラするそうだ。さすがに今回の旅に同行するとは言い出さなかったけど(勿論言われたとしてもあたし達は断ったはずだ)。

最近考えるのは、彼女の正体って一体なんなんだろう、って事。
訊いちゃいけないのはわかってるから、自分で考えてる。
頭がすごく切れるくせに、それを台無しにするぐらい変な所にこだわる。まるでそれが世の中で一番大事な事だって言うぐらいに。それが自分の強さの源だと言わんばかりに。
それが許される仕事をしているって事なのだろうけど…それはただの冒険者じゃないという事でもある。
正直に言っちゃえば一番得体の知れない仲間だった。
それでもまぁ、彼女のおかげであたし達はたどり着くことが出来た。
彼女が居る事で恩恵を一番多く受けたのは…多分あたしだ。

./

あたしの心に重い影を落とした食事、その後はのんびりとするだけだ。
もう秋も終わり。だんだん寒くなってきている。火が無いととてもじゃないけど、野宿なんか出来ない。
火は絶やさないようにしないと…それでも寒い。
あたしは荷物から毛布を取り出して、リンツァイスに渡す。
「ん、ありがと」
そして、そのまま胡坐をかいている彼の膝の上にちょこんと座った。
リンツァイスが毛布を肩からかぶって、あたしは毛布と彼に包まれる。

やっぱりここはすごく落ち着く。リンツァイスの膝の上はそんじょそこらの玉座なんかよりもよっぽど座りやすい。
ちょっと違うかな? あたしにとってすごく納まりがいいのだ。すっぽりとはまり込む。
英雄じゃないってこういう事なのかなって思う。彼の膝のクッションなんてフカフカの玉座に比べればひどく貧弱だけれど…でも、暖かい。
多分…あたしにとっての玉座。幸せを胸一杯に感じて、有頂天になれる場所。

二人で高原を覆い尽くす巨大な天球を見上げた。この時期にしては空気はそれ程揺らめかず、空も遠くは感じない。
星は時間に合わせて少しずつ動いているように見える。でもそれは天球自体が大きく動いているのだ。だから衝突する事はない。星と星はいつまで経っても出会わない。
だけど、永遠にお互いを照らし続ける。

あたし達は地上にいて、星達のそんな様子をじっと見詰めていた。

./

スカイリッパーは最近落ち着かないみたいだ。目を白黒させながら鉱山区の半地下の通路を行ったり来たりしている光景を、しばらくの間見る事が出来たぐらい。
ファピナナは逆に以前よりも更にやわらかい表情になって、ジュノに戻っていった。
何があったかは言うまでもない。さすがにあたしはぴんときた。
北グスタベルグの山に二人で出かけていって、帰ってきた直後のスカイリッパーの顔は、今思い出しても笑えるものだった。

まぁ、それはともかくとして、スカイリッパーはエアハルトと会談を持ったらしい。彼らが見てきた歴史の事実を公表するかどうか、多分議題はそれが中心だったはず。
その話し合いの結果を、あたしは知らない。でもまぁ…悪いようにはならないんじゃないかなって思う。

./

そして…あたしとリンツァイスは…

./

「あのね…リンツ」
あたしは彼に包まれたまま、目の前の焚き火から目をそらさずに切り出した。
ちろちろと燃える炎。劫火ではなくじんわりと温めてくれる炎だ。まるで…。

毛布の中で右手が左手薬指にはまった、明後日の夜輝きを取り戻すはずの指輪を探り、指から外してしまう。
今だけは、この指輪から自分を解き放たなきゃいけない。これは最初から薬指のために作られたものじゃないから。
「ん?」
リンツァイスは、多分きっと空を見上げてる。
「あたしね…」
そこで一つ、ため息をつくあたしだ。さすがに、なんていうか…その。
相手の膝の上に乗った状態でそんな事口にするってのも…なかなか大胆よね、って自分で感心するのだけれど。
「どうしたのさ?」
後ろから優しい声が先を促してくる。おまけに…膝の上に載ってたはずのアイツの両手があたしの胸に回されてしっかりと抱きしめてくれる。あたしとリンツァイスの体温が融け合う。

…こ、このタイミングでそういうのって、とんでもなく反則だ。
叫びだしたくなる気持ちを必死に抑えて、あたしはその先を続ける。

「あたしさ…気付いたの…あたし…あんたの事が…その…」
それでもやっぱり、最後まで言い切れない。
言わなきゃダメって分ってる。でも、どうしても途中で詰まってしまって…

「フェムはやっと気が付いたねぇ…遅かったなぁ」
ところがそれを遮って、後ろから予想もしない言葉が発せられたのだった。
「え?」
なに? どういう…
「僕も、同じだったからさ」
半分は笑ったような、そんな感じの口調。だけどそこに自嘲の香りを感じ取る事は出来なかった。
「…?」
唖然としてしまうあたし…え? それってつまり。
一瞬の後、あたしは、答えに辿り着く。

…なんで今まで気が付かなかったんだろう。
ずっといっしょに成長してきたのだ。あたしとリンツァイスが辿る道がそんなに違っているわけがない。
コイツはあたしよりももっと早く同じ状態にたどり着いた。多分リンツァイスもあたしと同じように、すごく自然に、その想いと…そしてあたし達が辿り着く先を受け入れられたんだと思う。

だから…それを越えた。
ナタリアという想いを寄せる人が現れてくれたから、それをきっかけにして乗り越えたのだ。
そうしなきゃ、あたしたちはいつまで経ってもだめなままだっただろう。
あたしとリンツァイスは魂を半分共有してても、でも違う人間なのだ。

あたしは、それを迎えるのが遅かっただけ。
リンツァイスはこんなあたしの想いをずっと見守っていてくれた。
多分あたしが気付くもっとずっと前から。
どっちが年上なんだか、と思う。

あたしは抱きかかえられたまま体をひねらせて、リンツァイスの顔を見上げる。
「ねぇ…リンツ」
「フェム、どうしたの?」
チラッと見上げれば、優しくあたしを見つめてくれる優しい双眸が目に入る。
あたしは慌てて俯いて、そしてしばらく黙っていた。
拒否されるのが怖いとかそういうんじゃない。わかってくれないわけはない。
でも…
「フェム?」
「お願い…一度…だけ…」
途切れ途切れだけど、やっと言葉が出てきてくれた。でもあたしは俯いたまま。
やっぱりあたしはダメなんだ。誰に対しても大事な時に肝心の言葉が出てこない。ましてや今はリンツァイスが相手で、そしてあたし達にとって一番大事な事なのに。
それでもやっぱりアイツはあたしをフォローしてくれる。
「…うん、そうだね」
アイツはにこっと笑う。
そのいつもの笑顔すら、今はとてつもなく切なくあたしの胸を締め付ける。

そう…一度だけ。最後に。
子供じみた…だけど本当に確かなあたしの想いを。
一瞬だけでもいいから。

あたしは体の向きを変えてそのままリンツァイスの胸に抱きつく。
おずおずと顔を上に向けて…そして目を閉じた。

./

何をしてるんだろうね、あたし達?
お互いに元からわかっていたことなのに、今更…だけど、これは多分あたし達には必要なことなんだ。
…二人になるために。

多分顔は真っ赤になってる。自分でもはっきりとわかるぐらいに頬が上気してる。
でも、身じろぎもしないで、あたしはじっとその時を待つ。

リンツァイスの…リンツの冷たくて乾いた唇が触れてきた瞬間、そうならないように目を閉じていたはずなのに…涙が溢れてきてしまった。
ほんの短いくちづけの間にどのぐらいの涙が流れていっただろう。
お互いに顔を離したすぐ後、あたしはリンツの胸にしがみつき…そしてずっと泣き続けた。

./

あたしの名前はフェムヨノノ。タルタルの…もう女の子なんかじゃないよね?