騎士の心 (後編)
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「お前なんかは破門だ!」
「望むところです。大体もう独立して何年も経ってるのに破門も何もないでしょう」
「ここまでしてやった恩を忘れやがって!」
「先生は何か勘違いしてませんか?私はお金を出してあなたの教育を買ったのです」
「なんだとぉ!?」
「とにかくもう二度とお話をすることは無いでしょう。では失礼します」
そう言い捨てて彼女は先生の家を飛び出したそうだ。
「私は占術学校を出たわけではないですから…魔法学校と平行して、占いをやっている人へ弟子入りして、学校を出た後もその先生の所にしばらくお世話になってたんですけど…喧嘩別れしちゃいました」
こんな話を聞けば、あたしと先生との関係は非常に上手くいっているのだな、と感じざるを得ない。
それと同時に、見かけによらず随分骨のある性格をしているのだな、と彼女を見直した。
こんな小さな身体のどこにそんなエネルギーがあるのだろう。
普段はまさに「ほにゃ~」としている彼女なのだけど…
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次の日、ラングモント峠の入り口から少し入ったところ。
昼過ぎにあたし達は休憩を取っていた。
ファピナナはゆっくりと彼女の過去を語っている。
「それで私はウィンダスにいられなくなったんですよ…だから冒険者をやってるんです」
ファピナナは微笑しながら、あたしに顔を向けた。
今まであたしは、彼女が積極的に、冒険者を兼業しながらの旅の占術師をやっているのかと思っていた。ところがそれは違っていたようだ。
「なんていうか…結局堪え性がないんですよね。私は」
「そんなことないわよ。そういうことをきちんと言えない人の方が問題あるのよ」
「そうだよ。ファピナナさんは立派だよねぇ」
あたしとリンツァイスが彼女の自嘲を否定する。
「そうですか?」
あたしは隣で黙って聞いていたスカイリッパーの膝を彼女にわからないように蹴り飛ばす。
(ちょっと!何か言ってあげなさいよ)
「む…まぁ、一概に悪いこととは言えないだろう…」
「ですよね」
彼女は少し嬉しそうだった。
洞窟の中は冷え込んでいる。一年中氷に閉ざされたボスディン氷河へ続く道だ。寒いのは当然ともいえる。
(天然冷蔵庫みたいなものかな?)なんてくだらないことを考えてしまった。
たまに襲い掛かってくるコウモリ達を相手にしながら、あたし達はのろのろと奥に向かって進んでいた。
あたし達の強さだと、ここら辺の獣人やモンスター達と組み合っても負けることは早々ない。
隠密魔法のミスで孤立してしまう状況などを考慮して、とりあえず安全第一、全員で蹴散らしていくことになった。
ファピナナの戦い方はサンドリア騎士そのものだった。
大きな盾で身を守りつつ、剣を振るう。そして傷ついたら自分で回復魔法を使う。
よくもまぁ、小さなタルタルがこんな戦い方をするものだ、と感心してしまった。
あたしのような受け流しではなく、敵の攻撃をしっかり受け止める。そんな騎士の戦い方だ。
「そして先生のところを飛び出して冒険者登録をして、とりあえず魔法学校で覚えた白魔法を頼りにしながら旅をして…その時に出会ったのが今の司書官なんです」
クリスタルの力を使って自分で暖めたホットワインのカップを手にしながら彼女の話は続く。
「昔の仲間だったの?」
「仲間というか…パートナーでしたね。彼女は代々文書関係の文官の家系らしくて、そのせいでサンドリアの二つの騎士団には入れなかったのですね。将来は家の役職を継がなければならないから」
「全くサンドリアって所は…」
厄介なところである。
「でも御父様が健在の間は家にいても仕事がないからって。騎士見習としてサンドリア剣術を習って…役職に就くまでに外の世界を見てくる、なんて理由をつけて冒険者をやっていたんです」
「ああ、それでねぇ」
リンツァイスは納得したようだ。
そんな理由がないと冒険者にもなれない家庭ってのは何なんだろう、とあたしは疑問を持つ。
あたしが冒険者登録をすると言った時、父さんも母さんも文句なんて言わなかった。
リンツァイスまで巻き込んじゃったのに、あいつのご両親も笑顔だった。
「その時の私は、ウィンダスから放り出されたばかりで冒険者としても駆け出しでしたし…初めての仲間でしたから、もう彼女にメロメロになっちゃって」
顔を赤らめながらそんな事を語るファピナナ。
「二人で本当に色々な所へ行きましたね。もっぱら二人で行動してたから私も戦わなければいけなかったし、それでサンドリアの剣術や盾の使い方なんかも教えてもらって…」
納得がいった。それでこんな格好をしてるんだ。
想像するに、丁度あたしとリンツァイスのような感じだったのだろう。
確かに二人だけで行動する場合、魔道士も剣を持たないと攻撃力不足だし、少なくとも自分の身は守れるようにしておかないと、どちらかが倒れたときに致命的なことになる。
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休憩を終えてしばらくした後、あたし達は洞窟の奥まった一角へ着いていた。
「ここの奥なんですけど…」
と、ファピナナが言ったとたん、あたしはいや~なものを見てしまった。
「あ!!」
「ん?…あれぇ?」
リンツァイスも声を上げる。
その場には、ゴブリンが一匹居座っていた。
「どいてくれないかな?」
正直に言うなら、獣人とは戦いたくない。彼らだってあたし達と同じような文化をもつ種族なのだ。
「無理そうだねぇ」
「じゃ、しょうがないですね~。あのゴブリンさんには申し訳ないけど、黙って通してくれそうもないですよね」
ファピナナはそう言うと、小さな弓と矢を取り出して構えた。
意外にあっさりしたものだ。
それでも彼女は笑顔でいるわけではない。真剣な顔をしている。
彼女が右手を離した途端、ヒュッと鋭い音を立てて矢がゴブリンの足元に突き刺さった。
もとから狙ったわけではないのだろう。おびき寄せるか…それとも逃げてくれるならばそれでよし、といったところか。
…残念ながら好戦的なヤツだったようだ。ゴブリンは唸りを上げてこちらへ向かってくる。
「え~?」
ファピナナの顔が少し曇って歪む。やっぱりこちらの人数を見て逃げ去ってくれるのを期待していたのだろう。
「しょうがないな」
スカイリッパーが背中から巨大なアイスブランドを抜き、雄たけびを上げてゴブリンの注意を引き付けた。
リンツァイスとあたしも剣を抜く。ファピナナも弓をしまって腰から剣を抜いて盾を構えた。
そのゴブリンは懐に手を入れながらこちらに駆け寄ってきて…
彼らはもっと爆弾を放り投げる練習をするべきじゃないかって、いつも思う。
ものすごい音を立てて炎と煙が洞窟内部に広がった。
リンツァイスが咳き込んでいる。
「もう、なんなのよ!?」
耳がグワングワンとなってて、目が回ってしょうがない。
一度も剣を交えないままにゴブリンは勝手に吹っ飛んでしまったのだった。
ファピナナがとっさに唱えてくれた対炎の耐性魔法のおかげで致命傷は負わなかったけど、それでもかなりの威力だった。
みんな到る所に火傷を負ってしまったのだ。
あたしのローブなんかは着る人間の魔法力を防御力に応用するような織り方になってる。だから燃えてしまう事はないのだけれど、魔力の影響のない金属の鎧はこういう場合に悲惨だ。
鎧自体が熱を持ってしまって、それが火傷の原因になる。こればっかりはどうしようもない。
あたしが立ち上がって、とりあえずリンツァイスの火傷を治そうと思ってケアルの詠唱をはじめようとしたら、
「今ケアルガ使いますね~。ちょっと待ってください」
ファピナナからそんな声があがった。
スカイリッパーは普段から骨細工の鎧を着ているし、リンツァイスは一応鋼鉄銃士隊の鎧も持っているけど、今回みたいな戦闘が目的じゃない時は皮鎧を愛用している。あたしは金属鎧は手足にしかつけない。
だから全身金属の鎧を着ている彼女が一番火傷がひどいはずなのだ。
「ファピナナ、大丈夫?」
「平気ですよ~」
彼女はすばやく癒しの魔法の効力を高める印を切ると、詠唱を始めた。
可哀想に…彼女の愛らしい顔は煤だらけだ。
短い旋律が終ると、あたし達の身体を暖かい光がふわっと包む。
それだけで、あたし達の傷はほとんど癒えていた。
「…さすがね。魔法学校出身は」
あたしが彼女に笑顔を向けようとした時…
キシャー!!
それほど遠くないところからモンスターの叫びが聞こえてきた。
「!!」
「もしかして…」
「呪われた武器か!?」
そう、この叫び声、クリスタルラインの近くでよく見かける魔法生物。俗に呪われた武器と呼ばれる種類のモンスターだ。
「近くにいたのか…手強いな、これは」
スカイリッパーが唸る。
この種類のモンスターは魔法で生み出されたらしく、魔法力に対して敏感な反応を示すのだ。
自身が魔法を使う上に、魔法への抵抗力が高い。おまけに武器の存在意義そのものを具現化されただけあって攻撃力だって半端じゃないのだ。
魔力の壺とともに魔道士にとっては戦いにくい相手。
「やっぱり古代文明の産物なんでしょうか?」
ファピナナが口にする。見ると彼女はすでに剣と盾を構えて臨戦体勢だ。
あたしはファピナナにリフレシュを唱えた。詠唱が終ると彼女の足元から緑と青の光が螺旋を描いて立ち昇る。
「あれはどう考えても付与魔法よね。武器に自意識を与え使役する特殊なエン系魔法…そんな感じじゃないかしら?」
答えながら、あたしはもう一度フルーレを抜き放つ。
リンツァイスもスカイリッパーもすっかり準備ができていた。
そして数瞬の後…呪われた武器が姿をあらわした。
すぐさまスカイリッパーが敵を引き付ける。リンツァイスも集中して攻撃力を高め剣を振るい始めた。
あたしはまず弱体魔法を唱える。魔法抵抗力が高いだけあってなかなか綺麗に入ってくれない。
あたしが弱体強化魔法で手一杯の間、ファピナナが攻撃しながらスカイリッパーの回復を担当してくれている。
しかしさすがに相手は戦う意思そのもの。スカイリッパーの傷は見る間に増えていく。
それをカバーするためにファピナナが強力な癒しの魔法を使った瞬間、呪われた武器の注意が彼女の方を向いた。
そして頭上に浮いている剣が高く躍り上がり…
「危ない!!」
強力な一撃の前触れだ。
いくら彼女が騎士の戦い方を知っていても、彼女はタルタルなのだ。強力な一撃は命にかかわる。
「くそっ!」
スカイリッパーが必死にモンスターの注意を引こうとするがうまくいかない。
モンスターの剣がファピナナに振り下ろされる。あたしは目を瞑ってしまった。
ガツン!!
恐る恐る目を開けると…
彼女はふんばってその一撃を盾でしっかり受け止めていた。
「ファピナナ!」
「そう…あの人とのことも私の一部なんだ…こうやって私を助けてくれる」
そうポツリと呟いたファピナナは、そのままモンスターの剣を押し返してしまった。
そのタイミングにあわせて、スカイリッパーが敵の背後から強力な一撃を浴びせて注意を引く。
呪われた武器はスカイリッパーを倒すべき敵とみなしたようで、彼に対して攻撃をはじめた。
あたしも、またファピナナが標的にならないように彼女と分担してスカイリッパーの回復をしていく。
その合間合間に効力を失った強化魔法や弱体魔法をかけなおしていく。
しばらく小康状態が続いたけど…最後はリンツァイスの研ぎ澄ました一撃で呪われた武器はその姿をふわっと消した。
モンスターの頭上に舞っていた細身の剣が、キィーンと乾いた音をたてて石灰質の地面へ転がった。
「…大丈夫なの?」
あたしはすぐにファピナナに確認を取った。
「ええ、大丈夫ですよ~」
彼女は顔がちょっと青ざめてはいるものの、別段たいしたこともない様子だ。
とりあえず二人がかりで、攻撃を受けつづけていたスカイリッパーの傷を癒していく。
大体の治療が終った後、あたしとファピナナは床に座り込んだ。
魔法抵抗力が高い相手で弱体魔法をかけるのに二倍近いの魔力が必要だったから、リフレシュの力を借りてもあたしは疲れきっている状態だった。
ましてや重い剣と盾を振り回して回復魔法、そして時には強力な弱体効果のある神聖魔法まで唱えていたファピナナは、もっと辛いだろう。
「ちょっと休ませて…」
あたしは息も絶え絶えになりながら、その場に腰を下ろした。ファピナナも同様だ。
しばらくの静寂の後、スカイリッパーがボソリと声を発した。
「ファピナナ、騎士の戦い方を教わったといっていたが…」
「…はい」
「その司書官は騎士として強かったのか?」
「ええ、とても強かったです。戦闘だけじゃなく精神的にもとても強い人でした。彼女からはいろいろなことを教えてもらいました」
「ふむ…」
「もう完全に惚れちゃってましたね~」
恥ずかしそうに笑いながらファピナナが答える。
もちろん女性同士なのだから、惚れた云々というのは例えみたいなものなのだろう。
だけど彼女がそんな風に例える気持ちっていうのもわからないでもない。
「でもさぁ、別れちゃったんだよね?」
ふとリンツァイスがそんなことを口走った。
「ちょっと、リンツ!!」
人それぞれプライベートがあるのだ。あたしに訊くのとは違う。ましてや相手は女性なのだ。彼女が口にしないことまで…
あたしが咎めようとした時、ファピナナがそれを遮る。
「いえ、いいんですよ」
「でも!?」
「そうですね、なんと言えばいいのか…」
魔力が回復したのか、彼女は立ち上がって部屋の奥にとてとてと歩いていった。
「ファピナナ?」
「あ、ここです。ありました~」
小さな銅製の小箱を抱えて、彼女は戻ってきた。
「それなの?」
「はい。この中身を彼女に見せれば」
「直接話せる、というわけだな?」
「だからと言って問題の文書を見せてくれるかどうかは保証できませんけどね」
「いや、それは構わんのだが…」
ファピナナはもう一度腰をおろすと、リンツァイスとあたしを交互に見てから、
「私達冒険者は、普段生死の境で生きることが多いわけですから…自然に絆は強くなりますね。私と彼女の絆はとても強いものだったと思います」
「ならどうして?」
リンツァイスは不思議そうな顔で訊き返している。
「ふと気が付いたんですよ。絆という名前の依存に自らのアイデンティティを見出すようでは駄目なんじゃないかと」
「ふむ…なるほど」
「お互いがいなければ生きられない、私達はそんな状態に陥りかけていたんです。決して健全な状態ではないですよね?」
「うーん…」
リンツァイスが唸る。
「おまけにその時はサンドリアに引っ込んでしまって冒険をしてるわけでもなかった。言ってみれば二人の絆がお互いをこの地に縛り付けてしまったわけですよ」
あたしもちょっと顔をしかめてしまう。確かにそうかもしれない…けど。
「だから私は彼女との別れを決意したんです。彼女に依存することがない旅の占術士としての自分を探すために」
そして彼女はもう一度あたしとリンツァイスの目を見つめたあと、こう問い掛けてきたのだ。
「フェムヨノノさんとリンツァイスさんはどうですか?」
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「彼女が言っていたこと…なんとなくわかる」
あたしは呟いてベッドの横に座ってたリンツァイスの顔を見上げた。
あたし達はサンドリアに戻ってきていた。司書官にはとりあえずファピナナが一人で会う方がいいだろうと思い、あたし達はレンタルハウスに残っていたのだ。
彼女は件の時期の公文書について司書官に聞いてみると約束してくれた。見せてもらえるかはともかくとして、とりあえずの目的は果たしたわけだけど…
ファピナナがとても大きな宿題を出してくれた。
「うーん」
リンツァイスもやっぱりそのことについては考えていたようだ。
脇ではスカイリッパーが難しい顔をしながらあぐらで床に座り込んで、じっとファピナナが帰ってくるのを待ってる。
「やっぱり正論だと思う。僕とフェムは世間一般で言ったら確かに健全ではない関係だよねぇ」
「そういう自覚があったのか?」
驚いたようにスカイリッパーがリンツァイスを見た。
「自覚って言うか、まぁ、普通じゃないなって事はわかるよ」
「そうよね…」
あたしとリンツァイスは、また二人して黙り込んでしまった。
でも、結論は…お互いにわかってる…と思う。
ただ、彼女のように感じて別れの選択をする人もいる、それを突きつけられて、ちょっとショックを受けているのだ。
あたし達は、こんな歳になっても、長い間冒険者をやってきても、全然成長していないんじゃないか、って。
ファピナナは司書官の彼女との関係で培ってきたことを無駄にしないで、旅の占術士、そして冒険者としての自分を形作ってきた。
決して飾らない背伸びしないありのままの自分、それを本当にうまく活かした交渉術。人に対しての愛情、そして恋心。
そしてある程度それに決着がついたと感じたからこそ、別れた元パートナーにもう一度会う気になったのだろう。
もしかしたら、今回戦士が二人もいるのにわざわざ騎士の格好をしてきたのも、その仕上げだったのかもしれない。
あたしは、そしてリンツァイスはどうなんだろう?
ずっと二人で一緒にいることで、お互いの成長を止めてしまってるんじゃないだろうか?
「俺はお前達のような関係はよくわからん…幼馴染でパートナーか?」
「まぁねぇ…」
「二人で一人だと?」
スカイリッパーは首を振りながら言って見せたのだけれど…
「あぁ、それかもねぇ」
リンツァイスが妙に納得した声で言った。
「二人で一人っていうの?」
あたしが訊いてみる。
「そのままじゃなくてね。。。『二人で二人』っていうのはどうかな?」
あたしは一瞬理解できなくてポケッとした表情を見せたに違いない。けれど言いえて妙な表現だった。
「…何か納得できるわね」
そう呟いて頷いてみる。うん…そうか…
だけど、目の前ではスカイリッパーがしきりに首をひねっていた。
その時、ドアがノックされて、ファピナナがすごく晴れやかな笑顔で入ってきた。
彼女の蒼銀の髪には、星型に刻まれたペリドットがついた金の髪飾りが穏やかな光を携えて輝いていた。
ああ…あたしとリンツァイスも、いつか彼女のようになれるのだろうか?
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確かにあたしとリンツァイスは「二人で二人」なんだと思う。
お互いに一人じゃ成り立たないけど、「二人で一人」なんてそんなひどい関係じゃない。
でも、今のままじゃ…
「二人で一人と半人前って感じかな?」
声に出してみる。あいつは起きる気配も見せない。すやすやと安らかな寝息だ。
今、旅先でいつもやるように、あたしとリンツァイスは一緒に寝ている。
ファピナナは一人でいることで自分を見つけようとした。そしてそれは成功したんだと思う。
でもその反対の方法もあるんじゃないだろうか。
二人でゆっくりと大人になっていけばいい…そんなやり方もあるはずだ。
「リンツ…」
あたしの頭のちょっと上に位置しているリンツァイスの寝顔を見上げてみた。
いつもの寝顔がそこにある。
胸に込み上げてくる感覚…それは優しい感覚にあふれた愛しさだ。
いつも一緒にいる自分の片割れ…切っても切れない関係。
そう、彼女にもう一つ気付かされたことがあるのだ。
あたしは…どうしたらいいのだろう?
それはナタリアを裏切っちゃうことだけれど、リンツァイスを裏切ることじゃない。
だから…余計難しいのだ。
そんなことを考えていたのだけれど、疲れきっていたあたしはリンツァイスの暖かさに包まれて、もう一度眠りに落ちていってしまったのだった。