My dear, littel Hero - そして再びランニング - 後編
./
さて、こちらは領事館の建物の中。受付の脇にある小さい執務室。
二人の女性が厳しい目つきでにらみ合っていた。
片方は黒髪をポニーテールにした、背の高い若い女性。
もう片方は…年増。
ディンさんと在ウィンダスバストゥーク総領事だ。
ディンさんはさっきの喪服のまま。
だけど…おなかの周りには自分で作ったたくさんの爆弾が巻きつけられているわけで。
それだけで、全然喪服って感じじゃなくなってる。
おまけに口元は黒い三角状の布を結んで隠して、目にはサングラスだ。
領事館を占拠するのにふさわしい格好にしようとした努力は認められるだろう。
総領事はいつもの白のレースのブラウスに黒のベストと緑のスカートだ。
「どうしてもダメですか?」
「ディン、アレスはウィンダスのミッション中に亡くなったのです。おまけに話を聞く分には私闘の様子もあった」
「それはだって!」
「故に、バストゥークは彼とは関わりなく、そのような事は許可出来ません」
「どうして!? 師匠ってすごい人なんでしょ!? バストゥークに貢献してきたんでしょ!? なんでそれが正当に評価されないんですか!? なんでお墓を移すぐらい出来ないんですか!?…ゴホゴホ」
一息で叫んだディンさん。
その後咳き込んでしまったのは、まぁしょうがない。
咳が治まって…咳のせいなのか感情の高ぶりのせいなのか、涙目で再び総領事を見下ろした。
「ディン…」
そんなディンさんを見て、総領事も熱いものがこみ上げてきて。
「…え?」
次の瞬間、ディンさんは総領事に抱きしめられていた。
「ディン、貴女はいい子ですね」
「…総領事?」
総領事はディンさんの疑問には答えない。そのまま続ける。
「貴女がアレスの側にいてよかったと…私は本当にそう思っています」
「ど、どういうことですか?」
お母さんといった年代よりは少し若いけれど、そんな年齢の女性に抱きしめられればディンさんだって赤面モノだ。
オタオタしながら疑問を繰り返すのだけど。
「あの子はウィンダスに来て、自分の為すべき事や本当の自分から目を背け続けて…そこから抜け出せないでいた。ディンは、あの子を元のアレスに戻してくれたのです」
「…?」
ディンさんは、総領事が何を言ってるのかわからなかった…本当の師匠とか、目を背け続けていたってどういうことなんだろう?
総領事は、やっとディンさんから身体を離す。
ディンさんの顔に手を伸ばし、サングラスと口元の布を取り去った。
そして、しっかりとディンさんの双眸を見つめる。
「私とて彼をバストゥークで眠らせてあげたい…けれど、それはアレスの望む所ではないでしょう」
「師匠が…帰りたくない? そんなのって!」
「正確に言えばアレス自身は帰りたいかもしれない。既に彼の魂はバストゥークに在るのかもしれない。けれど、人々が彼に平穏な眠りを許さないのです」
「どういう…?」
「詳しくは私の語るべきことではありません…けれど、きちんとアレスを理解している人達もいるということだけは伝えておきましょう」
総領事は、何がなんだかわからなくなってるディンさんに背を向けた。
そして自分の机の引出しから、小さな飾り箱を取り出す。
恭しく蓋を開けて、その中から…リボンがついたヘキサゴンを取り出す。
「これは、正式なものではありません。けれど上の人達はアレスのためにこれを用意しました」
「それって…なんなんです?」
「共和ミスリル章ですよ」
「え!?」
ディンさん、ものすごく驚く。
共和ミスリル章と言えばかなり高位の勲章だ。
授与される人なんて早々いるもんじゃない。
まさかアレスさんがそこまでの人だとは、ディンさんは思っていなかったのだ。
総領事はリボンの部分を持ってディンさんの前に持っていくと、今度はキッとした目つきでディンさんを見た。
「ディン、貴女がこれから為すべき事は何ですか?」
「それは…弟子として師匠の…」
「その通り。アレスが討たれなければならなかった理由を突き止め、そして彼の仇を取ることです」
ディンさん、コクリと頷く。
「これをあなたに預けます…これは上の人達の想いであると共に、私のアレスに対する想いでもあります。連れて行ってください」
「わかりました…総領事、では私が仇を取ってきたら、師匠がここへ来た理由をお話していただけますね?」
総領事を睨み返すディンさん。
「多分、その時には貴女にお話するような事はなくなっていると思いますが…約束しましょう。そしてこの勲章をアレスの墓に入れましょうね」
にっこりと総領事は微笑んだ。
でもアレスさんは『そんなのいらない』って言うだろうけどね。
「さて…私は貴女の顔を見ていない。職員は誰も貴女の顔を見ていない…それでいいですね?」
「…えーと」
ディンさん、ウィルパナルパさんのプランを思い出す。
「あ、はい。そういうことでお願いします」
汗を流しながら、お願いした。
実は手順なんか、すっかり忘れていたのだ。
総領事、パンパンと手を叩く。
扉を開けて、武官のガルカが入ってきた。
「ディンと彼女の竜を街の外まで飛ばしてあげて下さい」
そんな風にお願いしていた。
「あ、いえ…一応デジョンの呪符はもってきてますから」
ディンさんは断ろうとしたのだけれど、
「外から入ってきた方がアリバイにはなりやすいでしょう」
総領事がそれを遮る。
「でも…この方戦士ですよね?」
背の高いディンさんよりも頭二つ三つ分ばかり高い武官を見上げた
魔法なんか使えそうにない人なんだけど、って感じで。
「俺は黒魔道士でもある」
ちょっとむっとしたような顔で、ガルカの武官は言った。
「彼がウィンダス駐在に抜擢されたのは、それが理由ですよ」
総領事は楽しそうな表情で補足する。
「あ…そうですね。すいませんでした。それじゃお願いしますね」
武官のガルカは、ディンさんとクィクィル君を交互に見つめた。
「あの…何か?」
ちょっとビクっとしちゃった立て篭もり犯のディンさん。
「闇の竜か…アレスが初めてここに来たのはそれが理由だったな」
「え? そうだったんですか?」
ディンさんは知らなかった事だ。
「闇竜との縁によって成り立っているのだな、領事館とアレスの関係は…俺もアイツが殺された理由を知りたい。よろしく頼む。では行くぞ」
巨大なガルカが歌う、時空魔法の詠唱。
ディンさんはちょっと涙ぐんでしまう。
領事館の人達は、血も涙もない役人だと思っていたのだ。
でも実際は、みんなアレスさんと親しくて…アレスさんの死を悲しんでいる。
ディンさんが彼らから背負わされたものは大きい。
けれど、それはディンさんにとって嫌な重さではないのだ。嬉しい重量感である。
./
「ああ、あの子からそういう話が行っていたのですか」
ウィルパナルパさん、リンクパールに向かって話し続けてる。
相手は高笑いのバーサンだろうか、はたまた妹を困らせてばかりいるニーチャンだろうか。
まぁ、どちらにせよ相手が酷い事には変わりがない。
「…ほう? そりゃまた…ええ、仰る通りここに来てますよ」
チラリとスカイリッパーさんを見上げる。
「どうした?」
それに気付いたスカイリッパーさんが問い掛けたけれど、
ウィルパナルパさんは軽く首を振るだけ。
「今更混成チームを認める義理はないと? 確かにそれは以前にも聞いたが…ずいぶんとちゃっかりしてらっしゃる」
「…言ってくれますね。ならば今回の彼の件、原因はご存知ですか?」
「いやいや、私のは単なる予想ですよ。貴方の仇敵…白髪猫の一派も関わっているらしいのでね」
「仇敵というのは言い過ぎですか。同じ連邦と星の神子を守る立場ですからな。それに今は双方の誤解も解けたでしょう?」
だんだん不機嫌になってきたウィルパナルパさん。
「…了解」
最後にそう言うと、
ガッシャーン!
さっき軍師さんの手から救ったリンクパールを、今度は自分で地面に叩きつけた。
「「「「!?」」」」
軍師さんもスカイリッパーさんも、そして交渉がどうなるか見守っていた、いや、聞守っていた人達も、皆驚く。
「交渉決裂だ。突入する」
ギリリと歯軋りしてから、本当に憎々しげに言った。
「…全部茶番だった、というわけか?」
スカイリッパーさんの小声での問いかけに、
「茶番とはなんのことだい? 現にこうやって領事館は占拠されている」
すっとぼけるウィルパナルパさん。
「本当は領事館の中と話してはいないのだな?」
「なにをいってるんだい? 私はこれでも役人だ。虚偽の報告などするはずがないだろう?」
「…」
あくまでもシラを切り通すウィルパナルパさんに、スカイリッパーさんは渋い顔だ。
「それでどうなったのだ?」
「ああ…アレスはあくまでバストゥーク領事館員だそうだよ。連邦政府の関知する所ではないそうだ」
「確かにそうだ」
納得しかけたスカイリッパーさんだけど、
「くそっ…両国とも同じ事を言う! だったら彼は一体誰のために戦って、誰のために死んだんだ!?」
ウィルパナルパさんの声は低いけど、込められた感情はとても激しい。
「共和国大統領は『自分の利益のために戦え』と言ったそうだぞ」
スカイリッパーさんが、又聞きした事を言う。
もちろん、それでウィルパナルパさんが納得するとは思っていない。
自分自身も納得してないんだから。
けれど、足元からは、先程と同様の殺気じみた視線が返ってきた。
「…君は自分の利益のためだけにあれだけのことが出来るのか? 今まで受けたミッションは全て自分の利益のためだったのか?」
まぁ、そう言われてしまえば、スカイリッパーさんとしては反論できない。
先程の軍師さんの言葉が頭の中に頭の中に蘇る。
確かに、あの言葉にはスカイリッパーさんも驚愕して、そして怒りを覚えた。
「…君に言った所でしょうがないな」
はっと息を吐いて、首を振るウィルパナルパさん。
「それで? この事件は解決するのか?」
「ああ、突入と同時に…」
ウィルパナルパさんがそう言ったとき、丁度領事館に駐在していた鋼鉄銃士隊のあんちゃんが、ドアを開けて外へ出てきた。
「?」
おかしい、一応ウィルパナルパさんが突入して、その際にディンさんは呪符を使うはずだったのだけれど。
./
東サルタバルタに飛ばされて、ディンさんは駆け足で城門を目指した。
もう事件は片付いているだろう。
手順が違っちゃったけど、でもまぁ、問題はないだろう、なんて楽観的に考える。
ディンさん、さっきに比べれば、ちょっとハッピーだった。
そうして、城門まで後少しという所…ディンさんと一緒に飛ばされてきたクィクィル君は立ち止まる。
「!!」
二人の前で風が舞う。
季節どおりに枯れ始めた草原が、茶色い草を巻き上げた。
旋風を巻く中心には…紫の竜騎士と、聖なる印を薄く持った竜。
ディンさん、唇を噛む。
「貴方は…!」
こんなに早く敵討ちの機会が来るなんて!
自分の幸福を祝うべきか、はたまた自分の不幸を呪うべきか。
ディンさんが片手に握った漆黒の槍が、纏う闇の色を深くしていって。
先程までは鈍く輝いていたのに、完全に光を吸収する色になっていく。
「貴方は…!」
ディンさんは、自分以外の竜騎士を睨みつけて、繰り返した。
「槍は有効に働いているようだな…俺の方もつい先程一匹やれたのでな。お前の竜は見逃してもいいぞ」
ディンさんの声にならない激昂とは反対に、淡々と声を出す紫の竜騎士。
「…? それなら、どうして私達の前に?」
相手が静かに喋るものだから、ディンさんの声も低くなる。
だけど、それは感情とは裏腹だ。
「私の目的はその槍だ。大人しく渡せばお前の竜を殺す事には拘らない」
「…貴方の方はそうでも、私とクィクィルには貴方を殺す理由があります」
「私は元々お前を殺すつもりなどないぞ? お前の竜は殺すつもりだったがな。お前を殺したら相殺されてしまう」
「…何を」
ディンさんには、紫の竜騎士が言ってる事がさっぱりわからない。
だから、もう話を聞くつもりもなかった。アレスさんの漆黒の槍を構える。
「どうしてもやるつもりか? 私や私の竜がお前を殺すのはまずいのだがな…直接手を下せないとなると…」
「どうするって言うんですか!」
「代理を使うしかあるまい?」
「…?」
ディンさんが戸惑いながらも、改めて紫の竜騎士と聖なる印を持つ漆黒の竜を睨みつける。
ふと、聖なる印と思われる紋様が、この間よりも薄くなっているのに、ディンさんは気がついた。
一昨日は…感情が高ぶりすぎてよく覚えていないけど、もうちょっと濃かったような。
…あれ?
腹になんかもう一つ模様が…?
けど、今は余計な事は考えてられない。
目は相手を睨み付けながらも、槍の穂先でスカートの横を切り裂いて、白い足をかなり高い位置まで露出させた。
タイトスカートのままじゃ上手く動けないから。
ディンさんはかなり本気だ。
「フンっ」
ところが紫の竜騎士、鼻で笑ったもんだ。
「何がおかしいんですか!?」
「後で回収に来るとするか」
後ろから漆黒の聖なる竜が飛び上がり…彼は竜の足を掴んで空へ舞い上がっていく。
「…ちょ、逃げるんですか!」
ディンさんの口から飛び出したけど、彼らの姿は見えなくなって。
ゴゴゴゴゴ…
辺りに音が響き渡る。
ちょっと離れた所の地面から光が噴出した。
はっとそちらに目をやるディンさん。
なに?…魔法陣?
地面に炎が走り、枯草が燃える炎で巨大な魔法陣が描かれて。
その上に、闇の印を持った巨大な黒い竜が現れた。
「…え?」
ディンさんが信じられないように目をしばたいて…次の瞬間、炎で描かれた魔法陣の中にドラゴンはいなかった。
「!?」
もう一度目をパチクリ。
だけど一瞬の後、自分に接近してくるナニモノカを察知。
殆ど天才的な勘でディンさんは前方に転がる。
クィクィル君もディンさんを追って、彼女を守るように覆い被さった。
爆風が巻き上がって。彼女達がさっきまでいた場所の草原は、完全にえぐられて土を丸出しにしていた。
「ど、どこから…クィクィル!」
疑問を発しながらも、クィクィル君の名を呼ぶディンさん。
彼女に覆い被さっていたクィクィル君は、すぐさま飛び上がって戦闘体勢に入った。
ディンさんも、アレスさんの槍を構え、油断なく周辺を見回す。
白いブラウスが晴天から降り注ぐ陽光を反射し、漆黒の槍がその光を吸収する。
おなかには…。
そしてまた真上から、ドラゴンブレスが襲い掛かった。
「キュルリー!」
「…!!」
いち早く察したクィクィル君の叫びを聞いて、ディンさんは反射的にその場から飛び退く。
さっきの天才的な避け方といい、アレスさんが見たら泣いて喜ぶような反射速度だ。
いや、草葉の陰で喜んでるんだろう。多分。
ディンさんはそのまま20歩ぐらい離れた距離まで転がって、ようやく上半身を起こした。
草がちぎれたり枯れたりしたようなのが、喪服のブラウスとスカートにくっついちゃってる。
ディンさん、思わずさっきまで自分がいた場所を見た。
またもや、草原がそこだけ削られたような。
ドラゴンブレスといえば炎の精霊力だけれど…それだけじゃない。
「…空!?」
上を見上げるディンさんだけれど、
バチバチ。
自分の腹の辺りからそんな音が聞こえてきたのを認識する。
下を見れば…
「……?」
音を立ててだんだん短くなっていく導火線の塊。
しげしげと見つめて。
「…あ」
そりゃまぁ、引火もするだろう。
「ひゃああああ!」
情けない叫び声を上げて、慌てておなかからダイナマイトの束をはずして放り投げた。
すぐさま、クィクィル君の尻尾を掴んで乱暴に引き寄せる。
当然の飼い主の突然の行動に悲鳴をあげたクィクィル君だけど、ディンさん、そんなこと聞いちゃいられない。
自分の頭とクィクィル君の頭を抱え込んで、伏せる。
巨大な振動が辺りを揺るがした。
ぱらぱらと頭の上に降り注ぐ、草原だったものの一部。
あたり一面火の海…とはならなかったけど、大分えぐれてる。
自然破壊もいいところだ。
「こ…こんなに強烈だったの? 調合間違ったかな…」
ディンさんは、うつ伏せのまま頭だけ起こして爆心点を呆然と見つめる。
「ギュワ!」
ブラウスの胸に押し付けられてるクィクィル君がまた悲鳴をあげる。
「あ、ごめん、痛かっ……くっ!!」
再度襲ってきたブレスを、転がりながら必死に避けたディンさん。
やっぱり炎の精霊力だけじゃなくて…風?
でも、あまりにも強烈な勢いだったのか、殆ど空気の爆発みたいなもん。
ディンさんの極悪な所業によって露出した地面から土が巻き上がって、周辺は土煙で満たされていた。
ダイナマイトの煙とあわせて、もう目に入るのは完全に煙だけ。
ディンさん、焦る。
視界が全然ない。
クィクィル君を胸から離して、とりあえず体を起こして。
ディンさんはしゃがんだまま右手でアレスさんの槍を掴み直す。
「ったくあの子の思い出に浸ってるうちに、こんなものがね」
突如後ろから声がした。
直後、別の爆発、そして衝撃。
ディンさん、後ろに吹っ飛ばされる。
たった短い間に、どれだけの緑の草原が破壊されただろう。
真に罪深いのは人間。
ヤグードの高僧達が説く教えに同調したくなる。
「いったぁ…どういう火薬の調合してるんですか。普通の人だったら死んでますよ」
自分の事を棚に上げるのは彼女のお得意技だ。
頭を抑えながら起き上がろうとするディンさん。
「え?」
…火薬の爆発?
いや、違う。
ディンさんだって、初歩の初歩ではあるけれど魔法を学んだ人間だ。
さっきのドラゴンのは風の精霊力も含んだ炎。
ディンさんのダイナマイトは純粋な炎の力。
今度は、少しも炎じゃない。
氷の精霊力が周辺に満ちている。
氷の塊でもぶつけたのだろうか?
まぁしかしエネルギー自体はすごいもので。
確かに連発の度が過ぎているけど、爆発には爆発で対処するって発想は間違ってない。
さっきまで満ちていた土煙はあらかた吹き飛ばされ、
丁度よく吹いてきた風によって、流されていく土煙の中から人影が浮かび上がってきた。
洒落た青いローブ、黒いパンタロン、腰に何本かの短剣、そして茶色い三角帽のタルタル。
帽子は吹き付ける爆風に揺られて今にも飛んでいきそう。
赤い三つ編みが帽子からこぼれてる。
よれよれの帽子と風になびく三つ編みを器用に左手でだけで抑えながら、右手は詠唱印を結びかけて、ギリっと前方を睨んでいる。
「…星の大樹が見ている連邦首都で、よくも好き勝手やってくれる。喪中ぐらい静かにしてればいいのに」
そのタルタルは、ソプラノの柔らかい声でそう呟いた。