秋の章<6> 代作


月末頃、敦道様より文が届く。
普段なかなか訪れることのできないことなどを詫びられた後で、

ところで、妙なお願いにはなりますが
日頃親しくしている人が遠方に行ってしまうというので、何か身に沁みるような一言を届けたいと思うのです。
こういう場合あなたの作る歌に優るものはないと思われますから、ぜひ私に代わり一首詠んではいただけないでしょうか?

とある。

(別の女性に贈る歌を私に、なんて、いい気なものね。)
とは思うけれど、「そんなこと、できません。」と申し上げるのも生意気なようだし・・・。

あなたがおっしゃるようにはとても詠めませんけれど、

惜 しまるる涙に影はとまらなむ 心も知らず秋は行くとも
(別れを惜しんで流れる私の涙に、せめてあなたの面影だけでも留まって欲しい。
私の心も知らず、秋が過ぎてゆくように、私に飽きたあなたが去って行くのだとしても・・・。)

真面目に代作するのも、気恥ずかしいものですね。

 



代作の歌を書いた紙の端に、

それにしても、

君をおきていづち行くらん われだにも憂き世の中にしひてこそふれ
(あなたを置いてその方は一体どこへ行くというのでしょう。
数ならぬ身の私でさえ、この辛い恋の中にあえて留まっていますのに。)

とあった。
おもわず笑みがこぼれ、

思い通りの歌です、などと言うのも、いかにも通ぶっているようですね。
それにしても、『憂き世の中』だなんて、どうしてそんな風に思ったりするんです?気の回しすぎですよ。

う ち捨ててたび行く人はさもあらばあれ またなきものと君し思はば
(私を捨てて旅立つ人のことなどどうでもいいのです。
かけがえのない人と、あなたが私のことを思ってさえくれるのなら。)

『憂き世』を二人で生きていきましょう。

と返事をする。




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