冬の章<2> 初霜


月のたいそう明るく澄み渡るのに惹かれて夜を明かす。
朝早いうちに彼女の許に文を送ろうと、
「いつもの童は来ていないのか?」と側仕えの者に尋ねているところへ、彼女からの文が届く。

今朝の霜の白さに驚かされてのことだろう、

手 枕の袖にも霜はおきてけり 今朝うち見れば白妙にして
(私の手枕の袖にも一面に霜が降りていました。
今朝起きてよく見てみると、真っ白になっていたのです。)

(悔しいな、先を越されてしまった。)

「妻恋うと おき明かしつる 霜なれば・・・」
などと口ずさんでいると、ようやく小舎人童がやって来た。

まったく、来るのが遅すぎる。



「こちらからの文が届く前に宮様は私をお呼びになったのですが、私が参上するのが遅かったのでたいそう御不興で・・・。」
と、小舎人童はすっかりしょげた様子で敦道様からの文を差し出した。

昨夜の月は素晴らしかったですね。

寝 ぬる夜の月は見るとや今朝はしも おき居て待てど問ふ人もなし
(共寝したあの夜のことを思いながら月を見ているのだろうかと、今朝霜の降りる頃まで起きて待っていたのですが、誰からも便りは届きませんでした。)

(本当に、宮様の方が先だったようね。そのお気持ちだけで十分嬉しい。)

それにしても童が、「宮様がひどくお責めになるのです。」と嘆くのがおかしくて、お返事の文に一言書き添えておく。




まどろまでひと夜ながめし月見ると おきながらしも明かし顔なる

(一睡もせずに一晩中月を眺めていたと、霜の置く明け方まで起きていたと、そうおっしゃいますけれど、本当ですかしら?)

霜の上に朝日さすめり 今ははやうちとけにたる気色見せなむ
(霜の上にも朝の光が差してきたようですわ。
あなたも、霜の解けるように、心を解いてはくださいませんか。)

童がとても落ち込んでいます。

という彼女からの文に対する返事。

今朝のことで、私に先んじたとあなたが得意気になっているのがとても悔し い。
いっそ、この童を殺してしまおうか、と思うぐらいですよ。

朝 日影さして消ゆべき霜なれど うちとけがたき空の気色ぞ
(朝日が差して霜は消えるでしょうが、空模様の方はなかなか良くならないようですよ。私の機嫌も、ね。)

すると彼女から、

殺してしまうだなんて・・・。

君 は来ずたまたま見ゆる童をば いけとも今は言はじと思ふか
(あなたはいらっしゃらず、たまに文使いに来るこの童さえも私のところへ行け、どころか、生きよ、とすら言うまいと思っていらっしゃるのですか。)

と返事がある。

思わず笑ってしまい、機嫌の悪いのも直ってしまった。




こ とわりや今は殺さじこの童 忍びのつまの言ふことにより
(もっともですね。いまはもう殺しませんよ、この童を。
忍び妻のあなたの願いを聞き入れることにしましょう。)

そうそう、『手枕の袖』は忘れてしまったようですね。

と敦道様がおっしゃるので、

人 知れず心にかけてしのぶるを 忘るとや思ふ手枕の袖
(人知れず心の奥にじっとしまっている思いですのに・・・。
あなたはわたしが忘れると思うのですか、あの『手枕の袖』を。)

と申し上げる。
すると、お返事は、

も の言はでやみなましかば かけてだに思ひ出でましや手枕の袖
(私が言い出さずにそのままにしておいたら、絶対に思い出しはしなかったでしょう。
手枕の袖のことは。違いますか?)




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