| ■2006/09/03 (日) 21:05:16 花火 |
きょうは豊年村祭り。
合併して村じゃなくなってしまったけど、やっぱきょうは村祭りなの。
夕方、茄子を揚げていたら、(ドーン・・・ドン、ドーン)って遠くから花火の音が聞こえてきた。
「お、始まったぞ。ねぇ、流れ星くん、花火見に行く?」わたしはガスの火を消して星くんに聞いた。
「もちろん行きます。・・・でもハナビって何ですか?」
実は我が家には夏の終わりから一人の星くんが同居している。
「そそそぉねぇ。空に向かって飛び立とうとする流れ星かな」
「じゃ、ボクの仲間ってことですね」星くんがキラキラ輝く。
そう、彼とは夏の旅の途中で、偶然出遭ってしまったのだ。
−
(「夏のドライブ」より)
「ん〜、正確には星じゃなくて、星になりたい子たち、かな」
答えながら車のキーを捜す。
「みんな星に憧れてるんでしょうか?」
「宇宙に憧れてるっていうか、まぁ見ればわかるよ」
わたしは流れ星くんをそっとポッケに入れて、川の堤防に向けて車を走らせた。
夜はずいぶん冷えこむ。風が冷たい。
花火を打ち上げている傍の、農道の脇に車を停めて、暗闇の舗装道路に座った。
アスファルトにはまだ太陽のぬくもりが残っている。
骨ばった巨人の胸板にでも座ってるみたい。
花火は次々と上がっている。
近くの山々が猛獣たちの遠吠えのように哀しくこだまする。
ポッケから星くんをだして、アスファルトに置いてあげる。
「ほら、見て。花火だよ。キレイでしょ」
「は、はい!」
星くんは最初、目をシバシバさせてみていた。
そうよね。花火って華やかだし眩しいし、儚いし・・・
「音もよいでしょ」
「あ、はぃ・・・」
「どうしたの?」
星くん、なぜか元気がない。
「なぜ、あの子たちは空へあがれないのでしょう?」星くんは涙声。
「・・・そそそれは、ですねぇ」
「こんなに大勢が空に向かって飛び立とうとしているのに、一人も行きつけないなんて。誰一人空に上がれないなんて。みんなみんな散って消えてしまう・・・」
「・・・そういえばそうよね、一人くらい成功してもよいのに」
「空ではあんなにたくさんの仲間が待っているんです」
「う、うん」たしかに満天の星空。
「空に行くことってそんなに難しいことなんですか?」
「そ、そりゃそうよ!誰にだって行けるってもんじゃないょ、空なんて」
「・・・」
まずい、
おしゃべりな流れ星くんが、きゅうに黙ってしまった。
ど、どうしよう?
| ■2006/09/05 (火) 22:02:13 カエルくん、現る |
花火大会も終わって、いっそう秋の気配が深まってきた。
そして相変わらず、流れ星くんには元気がない。
日に日に物思いにふける時間が長くなってる。
ごはんもあまり食べてくれない。
今朝もそんな流れ星くんのことをあれこれ考えながらトマトもぎをしていたら、ふいに目の前に一匹のカエルが現れた。
口のとがった茶色いカエルだ。
「おはよーカエルさん」とわたしはあいさつ。
ところがカエルさんは「クククッ」と含み笑いをするだけ。
「あら、何がおかしいの?」
「おいら、知ってんだ」
「なにを?]
「空へ行く方法さ」
「はぁ」
「お前んとこに、空から落っこちたドジな星がころがりこんでんだろ?」
「ドジって・・・あなたねぇ」
「おいら、そいつが空へ戻る方法、知ってんだ」
「はっ?・・・あっそ。じゃ、どうやるの?」
「クククッ、教えないよ」カエルさんは意地悪そうに右目の目じりを吊り上げた。
「意地悪なのね」
「あぁ、そうさ、おいら意地悪カエルなのさ。クククッ」
「・・・ふぅん。でも知ってるなんて、どうせウソなんでしょ!」わたしはカエルの態度にとても腹が立ったので、おもいっきり大声でそういってやった。
「ウソでなんかあるもんか!おまえらなんかに絶対に教えないからな!」
疑われたことによほどカチンときたのか、カエルさんは震える声でそう言い残すと、ピョンピョンと跳ねて、ハウスから出ていってしまった。
(朝っぱらから、ははは腹の立つ〜〜〜。なんなのょ、あのカエル)
最悪の朝だ。
| ■2006/09/08 (金) 20:23:26 救出 |
殆どのイネの穂が垂れ下がり、早生の田は早くも黄金色。
なまいきなカエルはどこへ行ったのやら。
冬眠するにはまだ早いしね。
午前中の仕事が終わり、用水で手を洗って家に帰ろうとしたら、どこかで誰かの声がしたような・・・。
キョロキョロ。
周りをみても誰もいない。
(気のせいか、疲れてんだな)
「おい、待てよ!」
(あら?やっぱ誰かいる)
そう思って、声のしたほうをよくよく見てみる。
もしかして、このバケツの中かしら?
用水の傍にはポンプや消毒用のタンクがあって、水を汲むための深めのバケツも置いてある。
わたしはバケツの中をそっと覗いてみた。
ビンゴ。
そこに居たのは、なんとあの口のとがったカエルさん。
「そこで何してるの?」
「見りゃわかるだろ。バケツの中に入ってんだ」
「あっそ。じゃ、ごゆっくり」
そう言って、そこを去ろうとすると、またカエルさんが呼びとめる。
「おい、待てよ!!」
「なんなのよ。わたし、疲れてんだから、」
「オレを見捨てる気か?」
「は?見捨てるって、もしかしてあなたそこから出れないの?」
「つべこべ言わずにはやくここからオレを出せょ」
「それが人にものをお願いするときの態度かしら?」
「・・・出してください」
「イヤです」
「なにぃ?!」
「じゃ、流れ星くんのことをドジなヤツって言ったの、取り消す?」
「・・・くそぉ・・・と取り消します」
「星くんが空に帰る方法、教えてくれる?」
「・・・そそそれは、」
「さいなら」
「おおお教えます。だから助けろって言ってるだろがよぉ!」
「よ〜し、約束ね!」
わたしはバケツをひっくり返して、いまにも干からびそうになっている茶色いカエルくんを救出した
| ■2006/09/11 (月) 13:25:18 カエルくんがやってきた |
「たく、人の弱みにつけ込むなんざぁ、人間の風上にもおけないヤツだ・・・」
「今なんか言った?」
「いゃ、別に・・・、」
「じゃ、家に帰るから、ついてきて」
「う〜す」
そういうわけで、秋の深まりゆくある日の午後、口のとがった一匹のカエルさんが、わたしの家にやってきたわけです。
| ■2006/09/12 (火) 21:26:23 ご対面 |
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい」
星くんが出迎えてくれる。
だれかが家で待っててくれるって良いものだな。
「友達つれてきたよ」わたしは後ろからピョンピョンとやってくるカエルくんを指さして言った。
「こちらがこのまえ話した意地悪なカエルくん」
「おい、意地悪ながよけいだぞ」
「え〜、だって自分でそう言ってたじゃん」わたしはあえて念をおす。
「こ、こんにちは。ボクが海辺に落っこちたドジな星です」星くん自己紹介。
「・・・君のことをドジだなんて、いったい誰が言ったんです?」カエルくん、しらばくれる。
「お前じゃろ」またもや念をおす。
「お喋りな女は嫌われる」かえるくんがわたしの顔をまじまじと見ている。
わたしはカエルくんのため、風呂場から深めのバケツを持ってきた。
| ■2006/09/15 (金) 21:28:30 ちょっと引っかかること |
あれからみんなで軽くごはんを食べて、わたしは再び仕事に出た。
二人を家に残していくのはちょっと気がひけたけど、星くんがカエルくんをそれなりにあしらってくれたみたい。
それに、どうやらカエルくんは星くんの前では素直なのだそうだ。
おまけに身の上話しまでしたらしい。
びっくらこいた。
なぜあの子はわたしの前にくるとひねくれるのだろう?
まぁいい。
さて、その夜、われわれは、念入りに<星くん空へ帰還>作戦を練ったわけだ。
| ■2006/09/16 (土) 12:18:49 作戦会議(1) |
夕飯のあと、星くんとわたしは、カエルくんから<空へ戻る方法>ってやつを伝授してもらった。
それは驚くべき方法。
まず星くんを、ある特殊なビンに入れる。
そして、それはある特別な夜に決行されなくてはならない。
その特別な夜というのは、特別な月が出ていて、その特別な月の光にビンごと空へ吸引してもらうという方法。
「ねぇねぇ、いろいろ質問があるんだけどさ」わたしはカエルくんに訊ねる。
「ん、なんでしょ?」
「その方法て、どうやって知ったの?」
「そんなこと、どうでもいいじゃないの」
「ぅむむ〜〜、気になるのだ。ねぇ星くん」わたしは星くんを見た。
星くんも肯く。
「そんなことより、特別なビンのことだけど・・・」カエルくん、話しをそらす。
「あ、そぉだ。ビンね。ビンといえばコレ」
わたしは、戸だなから一つのビンを取り出した。
それは裏山に住んでいる一人のおじいさんから頂いた、イワクつきのビン。
(http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/6014/ojiisann.htm)
| ■2006/09/20 (水) 17:40:50 決行の日取り |
月齢カレンダーというものがある。http://www.moonsystem.to/
世の中は、まさに便利になったものだ。
こうしてPCの前に居るだけで、いろんなものを調べられる。
それもクラッシックを聴き、カフェ・オレを飲みながら。
カエルくんに伝授してもらった星への帰還作戦は、ある特別な夜に決行されなくてはならない。
それは満月の夜。
そう、裏山のおじいさんが解き放っている(生き物)くんに逢ったのも、満月の夜。
カレンダーによると今から一番近い日が10月7日だ。
あと2週間とちょっとか・・・。
そうそう、あれから何故かカエルくんはうちに居すわっている。
星くんの傍から離れない。
何やらふたりで延延と話しこんでいる。
「あ、かおるさん、居たんですか、」仕事から帰ると、カエルくんはいつもこう言う。
「居ちゃ悪ぃかい?」
「かおるさん、今夜は晩飯、何です?」
「考えてない」
「星くんがはらぺこなんですから、早くしてくださいょ」
ムカ〜
という日々が繰り返されているわけだ。
| ■2006/09/21 (木) 13:24:52 過ぎ行く秋の一日 |
今年もとうとうイネ刈りが始まった。
黄金色の田んぼが見る間に空っぽになっていく様は、まさしく季節の変わり目というにふさわしい。
強烈に目に映る(時の流れ)というものは、こころにこびりついたオリまでもキレイに剥がしていくようで、それは清々するというより、どちらかというともの哀しい。
きょうはおそらく今年さいごとなるであろう消毒をした。
再び疫病が蔓延しそうになったら、10月に入ってもやらねばならないが、今のところは彼らは小康状態。
このまま最後までいってほしい。
このところカエルくんにとって、寒ざむしい日が続いている。
動きが鈍いし、お喋りにもキレがないもの。
でも久しぶりにきょうは天気がよい。
小春日和ってこんな日のことをいうんだろうな。
消毒から帰ってきたら、窓辺でカエルくんと星くんは日向ぼっこをしていた。
「かおるさん、なんか飲み物くださいよ」
わたしが帰宅してもカエルくんは相変わらず(お帰りなさい)とは言わない。
「オーライ、でもシャワー浴びてからね」
「うぃ〜す」
消毒は高圧ホースを使い、動力噴霧器で200リットル〜300リットルくらいを2,000本のトマトに噴霧して歩くので、当然わたしの身体中に消毒がかかっている。
なので、消毒のあとは速攻シャワー。
あちこちに付着している殺菌剤と殺虫剤を洗い流す。
シャワーを終え、朝、回しておいた洗濯物を外に干す。
柔らかい陽射しと甘い風が、洗濯物にあたる。
一瞬、こころがフニャンとなる。
ポカポカ、ポカポカ。
さて、ミルクティーでもいれよう。
| ■2006/09/23 (土) 17:43:20 移動 |
きのうの夕方、急用で宇都宮に車を走らせた。
夕べは宇都宮の宿舎で0時近くに就寝。
きょうは早朝あちらを出発し、朝6時半にはトマトハウスでトマトをもいでいた・・・。
短時間で長距離を移動すると時間の感覚がオカシクなる。
浦島太郎気分だ。
夕べの宇都宮は竜宮城。
(宝島)という焼肉店で外食してしまったし。タン塩最高。
留守中、二人はお留守番。
ちょっと心配だったけど、何事もなく平和に一晩が過ぎたようだ。
まぁ、二人とも頻繁にあくびをしているところを見ると、かなり夜更かしをしたんだな。
まぁ仲のよいこと。
来週は実家の親戚に葬儀があり、帰省するかもしれない。車でも電車でも10時間以上かかるんだよね。
それにトマト、どうしよう?
とりあえず来週早々シルバー人材センターに連絡してみよっかな・・・。
「え!かおるさん、実家に帰るんですか?」星くん心配そう。
「っと、まだ、わからないょ」
「あちこちで事故が多発してますからね、気をつけてください」
「うん、ありがと」
カエルくんは窓から、じっと空を見上げてている。
| ■2006/09/30 (土) 21:18:59 ふりかえる |
9月が終わろうとしている。
てことは、あと3ヵ月で2006年ともおさらば。
この夏をちょいとふりかえってみる。
・・・うん、いつになく充実した夏だったな。
仕事とか、仕事とか、仕事とか・・・。
勉強やヴァイオリンは殆ど手付かず。
でも、仕事に関しては、多くのやるべきことの中から、そのときの自分に出来うることを、とことん見極めた一夏だったと思う。
みなさんの協力があって、今週は長野の実家に帰省し、親戚の葬儀にも参列することができた。
例外などなく、目が醒めている間は四六時中多忙ではあるが、一つ一つがきちんと終わっていく、その手応えがある。
「かおるさ〜ん、ストーブつけましょうよ」カエルくんが甘えた声でいう。
「え、だって、きょう別に寒くないじゃん」
「充分寒いですよね?」カエルくんは星くんのほうをチラっと見て、なにげに同意を求める。
「宇宙では、どちらかと言えば、きょうなんかは暑いくらいです」星くんがふつーに答える。
「灯油は今年も高そうだし、もうちょっと我慢してよ」
カエルくんは尖った口をさらに尖らせて、南側の窓のほうへ行ってしまった。
秋バエでも捕まえるのだろう。
そうよね、彼は冬眠するんだから、もうちょっと太ったほうがイイし。
「明日から10月だね」カレンダーを見ながら星くんに言う。
「ハイ」
「もうじき満月だよ」
「暦だと、あと1週間です」
「晴れたらイイね」
「ハイ!」星くんはキラキラ輝く。
よほど嬉しいんだろうな、
・・・空へ帰るの。
| ■2006/10/03 (火) 11:38:06 植え替え作業 |
疲れがたまってくると(温泉にでもいこうかな〜)と思う。
でも、わたしの場合、そう思うのが何故かたいてい火曜日なの。
つまりどの温泉もクローズ。
きのうは一日事務処理をして、いま非常に肩がこっている。
こんな時って、じっとしてるより身体を動かしたほうがいいんだよね。
しゃあないなぁ・・・、いっちょ来年にむけて、イチゴの植え替えでもしてくるか。
てことで、裏の家庭菜園に出動。
3日前、この夏のあいだに新しく伸びたイチゴの新芽をポットに移植しておいたので、あとは畑に堆肥と肥料を蒔いて耕し、マルチビニールを張って植える作業。
トマトの出荷を終え、遅い朝飯を胃袋に押しこんでから、家の裏でぼちぼちとイチゴの植え替えの準備をする。
ふと山に目をやると紅葉が着実に進んでいる。
(明日の朝は寒そうだな〜)
道具を運び、畑を耕していると、ふ〜と星くんがやってきた。
「かおるさん、何やってんですか?」
「イチゴを植え替えるんだよ。こうしておくと、来年良い実が沢山なるからね」
「へ〜そうなんですかぁ。じゃ、ボクも手伝います」
「ぁぁ〜ありがと・・・、そうねぇ、じゃ、マルチビニールを張るとき、片側を押さえててくれる?」
「了解です!」星くん、おおハリキリ。
そこへカエルくんもやってくる。
「はぁ〜、また、しちめんどくさいことやってんですねぇ」
「うるさいなぁ、星くんがやってんだから、あなたも手伝いなさいよね」
「ィイヤですよ。おいらは冬眠に向けてエネルギーを温存しないといけないんですからネ」カエルくんの尖った口がとんでもない方を向く。
「あ〜ら、じゃ、あなたは来年の新鮮なイチゴジャムを食べたくないってことね」
(ゴ、ゴクリッ)と唾を飲みこみ、
「来年の話をすると誰かに笑われますよ」と、相変わらず減らず口のカエルくん。
「あっそ、」わたしは構わず畑に肥料を蒔く。
「・・・たく、やりゃぁいいんでしょ、やりゃぁ。くそお〜」
「はい、じゃ、植え穴に苗を運んでちょうだい」
「なんでおいらは重労働なんですか?」
「あのさ、その尖った口を紐でしばってあげようか?」
「・・・が〜もう!やりゃいいんでしょ、やりゃ。ったくよぉ」
「そうよ、黙ってやればいいのよ」
こうして今年も、20本ほどのイチゴと、その横に10株ほどのニラの苗を植え替えることができた。
あーよかった、よかった。
| ■2006/10/04 (水) 22:37:11 お茶 |
秋はなんといっても食材が豊富。
夏に比べて料理する時間もとれる。
きょうは友達から貰ったサツマイモで、大学イモを作った。
温かいムギ茶をいれ、星くんとカエルくんを呼ぶ。
「二人とも〜お茶だよ〜」
「ハ〜ぃ!」と星くん。
「う〜す」とカエルくん。
二人が仲良く食卓につく。
「ねぇねぇ、星くんが空に帰る日だけど、もし次の満月の夜、天気が悪かったらどうするの?」
わたしは、お茶をすすりながら、カエルくんに質問。
「そりゃ、しょうがないから、次の満月まで待つわけですよ」
「でも、あなた、そろそろ土にもぐるんでしょ」
「ですな」
「てことは、わたし一人で星くんをお見送りってこともありえるわけね」
「てことです」
「・・・不安」
「ほんじゃ、来春まで待ってなさいョ」
「半年も?それじゃ星くんが気の毒よ」
「じゃ、やるしかないっしょ」
「・・・ややるわよ。でも、土にもぐる前に、そのやり方をきちんと教えなさいよね」
「かおるさん、それが人にものをお願いするときの態度ですか?」カエルくんが片目を吊り上げてわたしを斜めに見上げている。
わたしは咄嗟に彼を捕まえ、尖った口に大学イモの固まりを突っ込んでやった。
「ゲゲゲゲゲホッ!!!何をするんですかぁ!」
| ■2006/10/05 (木) 17:41:12 夕方 |
雨が降り始めた。
台風17号が南太平洋から北上するため、このあと秋雨前線が活発になるらしい。
7日の満月の夜も危ういな。
わたし一人で星くんを送り出す覚悟を決めたほうがよさそう。
(カエルくんだってそろそろ土にもぐらないと、凍死しちゃうしね・・・)
カエルくんはさっきから一匹のしつこい秋バエにねらいをさだめている。
彼が観葉植物の葉陰でじっとしていると、うまいことハエくんが鉢の縁にとまった。
ピョンッ!
カエルくん、素早くハエくんに飛びつくが、ハエくんの察知が100分の1秒ほど早かった。
ハエくん、悠然と去りゆく。
(ぷーっ、へたくそ〜ぉ)
「かおるさん、今、なんか言いました?」
「別に」
「あっそ。そりゃそうと、星くんはどこ行ったんですかね?」
そう言えば星くんの姿が見あたらない。
今夜のメニューは星くんが好きな、温かいそうめん。
「ねぇ、探してきてちょうだい」カエルくんにお願いする。
「自分で行きなさいよ」
「だって、わたし、そうめん茹でなくちゃだも〜ん」
「じゃ、オイラのぶんも茹でてくださいよ」
「ハイハイ、わかったから、さっさと行く!」
「うぃ〜」
| ■2006/10/06 (金) 21:07:14 シャボン玉 |
そうめんも茹で上がったし、しいたけベースのおつゆもできた。
・・・でも肝心の二人が帰ってこん。
呼びにいったカエルくんまで帰ってこないとは。
仕方がないので自ら呼びに行くことにする。
「お〜い、二人とも〜!どこにおるのじゃ?」
「ここですよ」と近くでカエルくんの声。
見ると星くんが窓辺に座ってシャボン玉を吹いている。
その横でカエルくんが大あくび。
「も〜〜〜ぅ、星くんを呼んできてって頼んだのに・・・ぶつぶつ」
「シャボンの液がなくなるまで、待ってもらってんです。すみません」と星くん。
「あ、別にいいのよ。あなたが悪いんじゃないから」
「どーして、こうも態度がちがうんかなぁ?」
そう言うカエルくんに(プチあかんベー)を贈る。
(有難く受け取りなさい!)
「雨の日のシャボン玉もきれいね」久しぶりにシャボン玉を眺める。
「はい、高くは飛べませんが・・・」
「まるで水中の泡ぶくみたい。自分がさかなになった気がする」
細かい雨を縫って飛ぶ小さなシャボン玉。
空っぽを運んでいく。
静かに割れて空っぽが飛び散る。
「ぁぁ、雑魚ってやつですね!」カエルくんが目を細めてわたしを見ている。
-無視-
「なぁんか、明日も天気悪そうね」厚い灰色の雲を見上げて言う。
「ハイ。でも、明日がだめでも次の満月を待ちます。スミマセンがもうしばらくお世話にならせてください」
「あ、いいのいいの。正直いって、わたしはそのほうが嬉しいし。だって急に一人にならずにすむもの」
星くんが最後の一ふきをして、シャボンが終わる。
静かな秋の夕暮れ。
雨の音だけが響いている。
| ■2006/10/08 (日) 21:50:23 願い |
10月7日満月の夜は、秋の嵐に見事にもみくちゃにされて、狂った風と供に去ってしまった。
きょうも朝から嵐は続き、どんどんひどくなる始末。
そんな日に限って熟したトマトの量が多く、収穫に昼までかかってしまった。
「だだいまぁ」
帽子を何度も飛ばされてしまい、ボサボサの髪で家に戻る。
「あ、おかえりなさい」星くんが気をきかせてキッチンでお茶を入れてくれる。
「あれ、カエルくんは?」
「2階で寝てます。夕べ風の音で眠れなかったらしいです」
「あれじゃ、誰だって寝不足になるよね。風ひどかったもん・・・」
星くんが入れてくれたお茶をすすり、ドーナツをもさもさ食べる。
「ねぇ星くん、」
「ハイ?」
「(オズの魔法使い)ってお話知ってる?」
「いいえ、どんなお話なんでしょうか?」
「ドロシーって女の子が、竜巻で家ごと飛ばされてしまうんだけど、カカシくんとブリキのきこりさんと、ライオンの力を借りて、おじいさんとおばあさんの元へ無事に戻るって話なの」
「面白そうですね。でもオズは何処に出てくるんでしょ?」
「オズは最後に出てくるの。でね、みんなの願いを叶えてあげるわけよ」
「願いですか」
「星くんの願いは空へ戻ることよね」
「ハイ!」
「ほんじゃさぁ、カエルくんの願いってなんだろね?」
「・・・さぁ?なんでしょね?」
「あの尖った口をなんとかしたい。だったりして」
「まさか、」
わたしと星くんは顔を見合わせてクスクス笑った。
「フハヒッ、へへックショイ〜!」カエルくんが2階から降りてきた。
「今、オレのこと喋ってませんでした?」
「別に。ねぇ、星く〜ん」
| ■2006/10/11 (水) 12:49:03 空ろな季節 |
いよいよ寒くなってきた。
カエルくんの動きが目に見えて鈍っている。
身体の動きもだし、ここ数日、お得意の口さえ動かない。
稲刈りも終わりに近づいてきたし、そろそろ土へ潜る時期よね。
あぁ静かになっちゃうな〜。
天気予報に雪だるまのマークが登場してた。
賑やかだった虫たちも何処かへ潜んでしまうね。
いろいろが空ろになる季節。
色も思い出も、静かに剥がれ落ちていく時。
どこかで涙が出たがっているのに、その理由が見つからないの。
| ■2006/10/13 (金) 11:36:44 説得 |
今朝、この秋はじめて霜注意報がでた。
カエルくんったら、やせ我慢にもほどがあろうに・・・。まだ居間で頑張っておる。
トマトもぎが終わっるのは、だいたい午前10時を過ぎるんだけど、きのうと今日はことさらに小春日和でやんわりと暖かい。
腹ペコより先に、ねむくなる。
そろそろカエルくんを地中にもぐらせないとネ。
あのまま居間で眠られたら、それこそどうして良いかわからないし。
昼ごはんを食べ終わったら、星くんと説得しなくちゃ。
「ただいまー」
「よ、お疲れ!」
あんら〜、珍しくカエルくんが玄関で出迎えてくれる。
雪が降るかも・・・。
| ■2006/10/16 (月) 20:02:49 想像 |
秋晴れが続いている。
その分、朝と夜の冷え込みが厳しい。
トマトをもいでいると手が凍りそうだもの。
トマトの収穫はたいてい一人。
左手でトマトを樹からもぎ取り、右手のハサミで軸をパツンと切る。
それを一つずつ、傷や打ち身ができないように丁寧にコンテナに入れていく。
その繰り返し。
今の時期は2,000本をもぎ終わるのに、だいたい3〜4時間くらい時間がかかる。
その間、身体の動きは自動操縦。
なので、頭の中では、まずまずいろんなことを考えてる。
たとえば、こんなこと。
数週間のうちに星くんは空へ向かい、カエルくんは地中へ向かうけど、それって、ちょっと表現を変えると、「天国と地獄」とも言えなくもないな。クスクス。
などと、トマトをもぎながら時々一人笑いをしたりしている。
ハタから見たら、たぶん気持ち悪い。
そしてまた、こんなことも考える。
土の中っていったいどんなだろう?
空の上って想像しやすい。
何度か飛行機に乗ったことあるし、テレビや映画で空や宇宙の映像を見たこともあるし。
でも、閉ざされた土の中ってどうなんだろうね?
暗くて、冷たくて、音のない世界。
きっと時間とかも流れ方が違うんだろうな。
身体にかかる土の圧力と同じように、時間も押しつぶされてひしゃげているの。
きっと淋しいよね。
心細いよね。
眠るしか方法ないんだよね。
| ■2006/10/17 (火) 20:39:00 すご〜く寒い朝のこと、 |
朝、この秋いちばんの冷えこみ。
ワゴン車のフロントガラスが凍っている。
なので7時から収穫に行く予定を1時間遅らせる。
そして居間に初ストーブをつける。
「う〜暖かいですねぇ」カエルくんはストーブから離れない。
「夕べも言ったけど、そろそろ地中へもぐりなさいよね」
「わかってますって」
「いつだって返事だけはいいんだから」
「人の心配してないで、かおるさんこそ、はやくトマトをもぎに行きなさいよ」
「だってストーブから離れたくないんだもん」
「オイラがストーブを見張ってますから、大丈夫ですって」
「いや別に、見張らなくていいから」
などと、いつものように押し問答していると、星くんがやってくる。
「かおるさん、おもてのツツジの木のとこで、アマガエルくんhttp://www.asahi-net.or.jp/~jh3m-fjym/shumi/amagaeru4/amakaeru4.htmlが凍えてるんですけど・・・」
「へ〜、誰かさんと似たようなカエルが、けっこういるもんねェ」思わす感心してしまう。
「あのねぇ、感心してないで、ここへ連れてきましょうよ」とカエルくん。
「あ、そね、星くん、その子のとこへ連れてってちょうだい」
| ■2006/10/20 (金) 08:55:29 地下で起きていること |
アマガエルくんをストーブの傍に座らせる。
かわいそうにすっかり凍えて固まっている。
なので洗面器にぬるめのお湯をはり、アマガエルくんの横に置いてみた。
「あの、よかったら、入ってみて?」
「・・・・」暫くのあいだ洗面器からほんわかたつ湯気をぼんやりみていたアマガエルくんは、急に意識が戻ったのかピョンとジャンプして洗面器に飛びこんだ。
「あ〜、いい湯加減」やっと口を開く。
「え〜、かおるさ〜ん、オイラにも洗面器の風呂をやってくださいよ」とカエルくんが甘えた声で要望する・・・が、無視。
「不思議なんだけど、こんなに寒くなってきてるのに、なぜ土にもぐらないの?」
アマくんに聞いてみる。
「いえいえい、実は、先日一度もぐってみたんです」
「あら、そうなの?」
「ですが、ちょっと変なんです」
「何が?」
「そのぉ、土の中の雰囲気というか、暗闇の匂いというか・・・」
「匂い?」
「目を閉じてじっとしてると、皮膚がピリピリとしびれてくるんですよ。」
「あらあら、何故かしら?」
「なので、どうしても深く眠ることができません」
「そりゃそうよね」
「とうとう耐えられなくなって、今朝がた再び地上に逆戻りしたんです」
「で、土から這い出したら、この寒さだったわけね」
「その通りです」
星くんがお茶を入れてくれる。
カエルくんは窓辺で大あくびをしている。
| ■2006/10/27 (金) 08:39:55 二人 |
いかん、いかんいかん・・・。
このままでは大変なことになってしまう。
風邪ぎみなのに、宇都宮出張やハウスの片付けやらで毎日を超多忙に過ごしていたら1週間なんてあっという間だ。
ふと見ると、窓辺の日だまりで、例の二人が(ウトウト)している。
口の尖った茶色いカエルくんと、アマガエルくんの二人。
その横で星くんが、のんびりと絵を描いている。
お〜〜芸術の秋か・・・。
と感心している場合ではない。
あの二人をなんとかしなくては!
二人の話しによれば、どうやら地下ではよからぬことが起きている。
それは間違いない。
でも以前みどりさんとの出遭いの時から薄々感じていたけど、問題は地下だけではないのよね。
この世界そのものに異変が起きつつあるのかも・・・。
カエルくんたちのように皮膚のシビレとかではなく、それに似たある種のシビレや麻痺みたいなものが、気付かないうちに人のこころの内側に起きつつあるもの。
そして怖いのはそれらが慢性化しているってこと。
でも今はとりあえずあの二人をそれなりの場所で眠らせねば。
どこが良いだろう?
(湿原)
そだ、クマさんの番人がいるあの湿原がよいかもしれない。
あそこならみどりの分身が水や土を浄化しているし。
次の日曜日に湿原に二人を連れていこう。
この後に及んで二人がどう抵抗しようが、半強制的に連行することにする。
| ■2006/11/04 (土) 07:03:17 湿原にて |
5日前の昼過ぎ、裏山の湿原に行った。
恒例の紅葉を楽しむため。
そして本来の目的はそう、あのカエルくんたちを眠りにつかせるため。
久しぶりの湿原は、すっかりベージュ色に枯れ、迷子の子犬のように、じっとうずくまって空を見上げていた。
木道の途中に、毎年ヒツジ草が花を咲かせる小さな水溜りがある。
わたしはそこに彼らを放した。
そして約束。
「いい子だからちゃんと眠るのよ。来年の夏、また来るからね」
彼らは暫くのあいだ4つの黒い目で、じっとわたしを見つめていた。
「いろいろお世話になりました。かおるさん、お元気で」とアマガエルくん。
「いえいえ、どういたしまして」
「くれぐれも星くんに迷惑をかけないように」と口の尖ったカエルくん。
「あなたに言われたくないわ」
そこで会話がプツリと途切れる。
ひんやりとした風が湿原をわたっていく。
口の尖ったカエルくんが水溜りに飛びこみ、アマガエルくんがそれに続く。
チャポン!
チャポン!!
水面に二つの輪が広がり、消えていった。
| ■2006/11/04 (土) 23:50:17 思いを馳せる |
仕事の合間をぬって、2年ぶりに尾瀬を訪れた。http://www.fun.ne.jp/utsukushima/spot/oze.htm
三池から沼山峠を超え、尾瀬沼まで木道をゆき、沼を一周するコース。
20kmくらい歩いたかな。
紅葉の季節はとうに過ぎ、ビジターセンターや長蔵小屋はクローズ。観光客もまばらでとても静かな尾瀬に出遭えた。
ブナもカエデも大亀の木も、足元にたっぷりと葉を落としていた。
尾瀬沼ではもういつ雪が降っても大丈夫。
天気予報では(晴れ)のマークでも、今の時期、尾瀬はたいてい冷たい霧に包まれている。
軽い冬装備をしていったけど、手はずっと冷たい。
沼と言っても標高は1500m以上だもの、寒くて当然。
今回は知り合いのガイドさんも同行。
わたしはかねてから疑問に思っていたことを彼に質問してみる。
「1500m以上の高山にできた湿原に、どうやったら多くの魚が住むようになるのですか?つまり彼らはどうやって最初にそこにたどり着いたのかってことです」
「まぁ様々な説がありますが・・・、何万年もの間に、たまたま偶然に魚の卵が鳥の脚に付着していて、それが沼に運ばれたのでは、という説が有力です。そしてそれが長い年月をかけて繁殖した」
「何万年もの間に、ふとしたはずみで(鳥の足に卵)という偶然が起き、その鳥が標高1500mの湿原に降り立ち、(卵を沼に落とす)という奇跡が起きたのね」
高山の沼に住む魚たちを観ていると、地球という星に偶然たどり着いた最初の生き物のことに思いを馳せてしまう。
海の泡ブクが寄せては返すうちに、長い年月をかけて泡の中の無機物が有機物に偶然変化したという説があるけれど、わたしは違うのではないかと思う。
この宇宙のどこかから、隕石に付着した生命の源(あるいは単純な形の有機物)がたどり着いたのではないかしら?
星くんのように。
明日は満月。
| ■2006/11/12 (日) 10:13:01 コンサート |
7日の夜、峠に雪が降る。
ヴァイオリンコンサートのあとだ。
着実に冬が到来している。
素晴らしいヴァイオリンの演奏が、のんびり屋の冬をせかしたのかしら?
でも、冬さん、どうぞゆっくり来てちょだい。
だって、やらなくてはなことがまだまだ残っているのだし。
コンサート終了後、成道さんに握手してもらった。
奇跡を生み出す、繊細な指。
ヴァイオリンと供に生きつづける、いちずな男性の手だった。
暖かかった。
ずうずうしくもサインまで頂いた。
彼の詩集の表紙に、お名前を書いていただいた。
目が見えなくても、確たるモノを創り出せるんだね。
人々のこころに届く、素晴らしいモノ。
星くんに聞かせたかったな。
地球上にあるステキなモノのひとつ。
音楽。
そう、星くんは行ってしまった。
コンサートの二日前。
厳格なほどに美しい満月の夜。
透明なビンに入った星くんは、何億もの仲間が待つ空へと帰ってしまった。
| ■2006/11/16 (木) 11:17:23 星に願いを |
このところ空っぽな日々が続いている。
あんなにぎゅうぎゅうづめだったココロさんが、今では空っぽ。
「ただいまー」て家に帰っても、「おかえりなさーい」が無いって、こんなにも空っぽなのね。
「は〜疲れた」ってため息ついたときに、「はやく飯を作ってくださいょぉ」が無いって、こんなにも空っぽなんだ。
どんなに美味しい料理を作っても、どんなにステキな絵を見ても、どんなに素敵な音楽を聴いても、共感してくれる誰かがそばに居てくれないってことがこんなにも空っぽだったなんて・・・。
そういえば星くんが、空へ旅立つときに言ってた。
「ボクが空へ着いたら、青くチカチカと輝くようにサインを出します。
そしたら、願い事を一つだけこころの中で言ってみてください。うまくいくかわかりませんが、できるだけそれを実現させてみます!」
「はぁ・・・ども、ありがと」
そのときは適当に答えておいたけど、お言葉に甘えて願ってみよっかなぁ。
このままじゃ、あまりにも空っぽだし。
自分が不安になるもの。
青くチカチカと輝く星。
今夜から探さなくちゃ。
| ■2006/11/17 (金) 22:37:40 散らばってしまったもの |
青くチカチカと光る星・・・。
あ、あれかな?
東の山の少し上に、ひときわ青く光る星を発見。
星くん、無事に戻れたのね。
あ〜よかった。
(ねぇ、星くん、聴いてくれる?
きょう仕事しながら考えたんだけどね・・・、
こころの中が最近ちょっと空っぽぎみだって思っていたんだけど、実はそうじゃない気がしてきたの。
そうじゃなく、ホントはバラバラに散らばってしまったんじゃなかしら?
危うく積み上げられてきたものが、知らないうちに崩れてしまったの。
沢山のモノが散らばって落ちているのも気付かずに、それらピースの上を無闇に歩いてみたり、走ってみたり。
あまりに急な出来事で足元を確認しないまま、行き場を失ってしまう。
宇宙に投げ出されたようなココロもとない感じに襲われる。
きっと自分なりに塔を築いていたはずが、土台から崩れていたんだよ。
きのうまで在ったはずのお城が、あっという間にレンガの山になってしまったの。
確実に存在していたものが、幻のように消えてしまう。
そんな現象がこころの中で起こったのではないかしら?
そんな気がするの。
星くん、だからさ、
バラバラになってしまった土台をね、
探すのを手伝ってくれませんか?
もう一度最初から、1個いっこレンガを積み上げてみたいの。
また崩れるかもしれないけどね、
何もしないではいられないんんだ。
星くん、お願い・・・)
| ■2006/11/24 (金) 07:59:03 鮭 |
やっぱ遠いんだなぁ。
待てど暮らせど星くんからは何の音沙汰もなし。
願いが届かないのか、それとも無茶なお願いなのか。
ていうか、お願いがあまりにも抽象的すぎるのかなぁ?
相変わらずこころの中のあらゆるピースはバラバラとそのあたりに転がっている。
・・・まぁ、いい。
じたばたあがいても、意気消沈しても、散らばったものはそのままなのだもの。
いつになく暖かい秋がのんびりと過ぎている。
冬の前に幾度か大地の熱を冷ますキツイ霜も、まだ数えるほどしか降りていない。
ゆるい寒さの中で、ひとつひとつ冬の準備を進める。
数日まえ、北海道の知人から新鮮な生鮭が送られてきた。
流線型にぴんと張りつめた見事なからだ。
強い潮流にも負けない洗練されたシルエット。
硬く青黒い頭と背。
角度によってモスグリーンにもシルバーにも輝くわき腹。
何者も寄せ付けない純白な腹。
過酷な自然が創りだす形や色というものは、もはやそこに何かを加えることもそぎとることもできない完結した美しさがある。
神の領域。
命のゾーン。
そんな鮭の姿を見ていると人間の不完全さがまざまざと見えてしまう。
科学の進歩につれ、人間は様々な物を得ているように錯覚しているけれど、実はそうじゃない。
見えない部分でいろんな物をそぎ落としてしまってるんだな。
だからふとした拍子に、ぎっしり詰まっていたはずの大切な入れ物が、空っぽなことに気付きそうになる。
でも気付いてしまうと自分が自分で居ることが危うくなる気がして、慌ててそこから目をそらす。
あたふたと蓋をする。
一歩さがってみてみると、私たちの容姿って、なんて不恰好なんだろ?
手を加えすぎてしまったんだよ。
手を加えすぎて、いろんなモノを無くしてしまったんだよ。
もうバランスをとろうとしたって、保てやしないんだ。
どうやったって崩れてしまうの。
(星くん、何故わたしたちはこんな風になってしまうのかしら?)
| ■2006/11/25 (土) 10:17:50 来客 |
「こんばんは」
夕べ、本を読みながらコタツでごろごろしていたら、珍しい人がやってきた。
裏の森に住むおじいさん。
ビンと伴に暮らしている。http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/6014/ojiisann.htm
「あらー、おじいさん、お久しぶりです!」
「雪が降る前に、用事を済まそうと思ってな」
おじいさんは寒そうに手をこすり合わせている。
「ちらかってますけど、どうぞあがってください。温かいほうじ茶でもいれますから」
「そぃじゃ、ちょっとだけ」
ツルで編んだ籠をさげたおじいさんは、嬉しそうにそそくさと上がりこむ。
そして居間のこたつにちょこんと座った。
「寒くなりましたね」
「ぁぁ・・・」
「ビンの中のあの子たちは元気ですか?」
「仕事は冬はお休みじゃ」
「あら、そーなんですか」
「だから、わしももうそろそろ眠る」
「ぇ!?おじいさんも冬眠されるんですか?」
それには答えず、おじいさんはコタツの上のみかんをじっと見ている。
「あ、よかったらミカン食べてくださいな」
「え!食べてもよいのか?」
「どーぞ、どーぞ」
おじいさんは、籠に乗った一番上のみかんをおもむろに取り、ひざの上でゆっくりと皮をむきはじめた。
| ■2006/11/27 (月) 09:14:05 ひとつのビンのこと |
「それで、おじいさん、用事は済んだんですか?」
「いいや」
「あらあら、今週末の天気予報は雪マークですから、早く済ませたほうがいいですよ」
おじいさんは、それには答えず、もくもくとみかんを頬張っている。
「もうひとつ、食べてもよいかな?」
「あ、たくさんありますから、いくらでも食べてください」
にこ〜〜〜。おじいさんの顔がフニャフニャになる。
ふとみると、籐で編んだかごの中にいくつかのビンが見えている。
「あら、冬の間はお仕事、お休みじゃないんですか?」
「休みじゃょ」
「じゃ、そのビンは?」
「・・・おぉ!そうじゃった。忘れるところだった」
そう言うとおじいさんは籠の中からビンをひとつ取り出した。
「これをあんたに渡しに寄ったんじゃった」
受け取ったビンを透かしてみると、中に紙が入っている。
「何かしら?」
「さて?」
「開けてもいいですか?」
「あんた宛てじゃ。好きにしなさい」
「え、どぅしてわたし宛てってわかるんですか?」
「蓋に似顔絵が描いてある」
「・・・これ、わたしですか?」
「そっくりじゃ」
「はぁ」
蓋に描いてある絵が、わたしに似ているかどうかはさておき、中身が気になるので蓋をあけて紙を調べてみることにする。
| ■2006/12/04 (月) 10:09:51 てがみ |
「かおるさま:
前略
お変わりございませんか?
その節は大変おせわになりました。
早いもので・・・・ 」
誰からの手紙かしら?
最後の行をみると小さな「☆」マーク。
(あら!星くん・・・)
「・・・
さて、前置きはこの辺にして、お問い合わせの件についてお話しようと思います」
(お問い合わせ?、ぁぁ、もしかしてわたしのココロに散らばっているモノたちのことかしら?)
「実はあれからボクもいろいろ考えてみたんですが、こんな風に考えてみました。
こころに存在するモノ・・・その中には、とかく散らばってしまったり、とじばってしまったりしてしまう不安定な種類のものがあります。
それらは宿主の言うことを殆ど聞きません。
そしてそれらは日々積み上げられていく(記憶)などとは違って、量や質が定まらず、時間と供に姿を変えたり、埋もれたり浮遊したりする厄介なモノです。
ココロを持つものはみな、ココロのどこかで、その不安定さからジワジワと滲み出してくる、(恐れ)みたいなものと常に葛藤しているのではないでしょうか?
そのワケの解からぬ不安や焦燥から逃れるために、わざと現実に見える「敵」=実体を探し出しては、戦いを挑んでしまう。
イジメや虐待などもこの部類です。
なぜこうなってしまうのでしょう?
何故なら、ココロというのは戦っている相手が存在している間はある意味、安定しているからです。霧散してしまわない。
敵を中心にして、なんとか繋ぎとめられている。
話しが少しズレてしまいましたが、つまり、かおるさんのココロにあらゆるモノが散乱しているのは何も異常ではなく、自然のことなのです。
でも、ここで、あわよくば、かおるさんはじめボクの知る皆さんには(敵)に相応するものを見出して欲しくないという強い思いはあります。
なので、ここでまずボクが提案したいのは、散乱しているモノの存在に対して闇雲に途方に暮れるのではなく、一度じっとそれらの動きを観察してみてください。
たぶんそれらは時間と供に、ふと姿や形を変えてはそれら自身で動いているはずです。
たとえその動き方がかなり気まぐれであったとしても、その微かな動きを大切にしてほしいのです・・・・」
(大切に・・・か、ふむふむ、なるほど)
| ■2006/12/04 (月) 10:39:32 パンケーキ |
「そろそろ行こうかね」
手紙を中ほどまで読み終えた頃、おじいさんがコタツから立ちあがった。
「え、もう行ってしまうんですか?」
「ぁぁ、そうさなぁ、雪も降り出したし」
「あの、もしよかったら、お土産に今からパンケーキ作りますよ」
おじいさんが急に居なくなってしまうのがなぜか心もとなくて、咄嗟に思いついたお土産でおじいさんをひきとめてみる。
「ぬぬ!!!パンケーキ!
んじゃ、もぅちっと暖まらせてもらうとするか」おじいさんの顔がほころぶ。
「そうこなくちゃ」
わたしは、手紙をテーブルに置くと、台所に立ち、小麦粉と卵、ミルクと砂糖などを準備する。
そしてフライパンをコンロで熱しながら、ココロに散らばってしまったモノたちをじっと見てみる。
ゴツゴツしているものもあれば、ツルツルしているものもある。
ピラミッド型もあれば将棋の駒のような形もある。
よく見ると、灰色や黒ばかりかと思えば、黄色やピンクやグリーンもあるし、
透き通った感じのものもある。
そして大小さまざま。
それらを眺めながら、フライパンにサラダオイルを敷き、そこにパンケーキのたねを静かに流し込んだ。
| ■2006/12/04 (月) 10:59:42 つづき |
部屋中にパンケーキの焼きあがる匂いがゆっくりと満ちていく。
おじいさんはコタツに戻ると、シアワセそうにもうひとつミカンを剥き始めた。
わたしは火を極弱火にして、手紙を読み進める。
「・・・ですが、ただ単に大切にする、とい言っても、とても抽象的ですよね。
そこのところがたぶんとても難しい個所です。
ですが、何にも増して重要という気がしてならないのです。
散乱してしまったモノや、とじばってしまったモノたちを大切にする。違う表現で言えば「愛でる」とでも言うのでしょうか?
解かりづらいモノたちこそ、愛してあげるべきと思うのです。
ボクの感では、そこから、きっと何かステキなものが生まれる予感がするんです!
長い手紙になってしまいました。ごめんなさい。
裏山のおじいさんにこれを託します。
ボクはいつでも空から皆さんのことを見ています。
またいずれお逢いできる日を楽しみにしています。
☆ より 」
読み終わると同時に、フライパンのパンケーキが程よく焼きあがった。
大皿にそれを盛ると、オイルを塗りなおしたフライパンに残りのたねを流しこむ。
| ■2006/12/04 (月) 11:23:46 お返事 |
「おじいさん、焼きたてを少し食べませんか?」
「へっ!よいのか?」
おじいさんの顔がさらにほころぶ。
「勿論ですよ。パンケーキは熱々が一番おいしいんですから」
わたしはケーキ用の白い皿を2枚用意すると、2ピース分を取り分けてそれぞれ皿に盛りつけた。
その上にブルーベリーのジャムを載せ、ストーブの上で湧いたお湯で、熱い紅茶も入れた。
「さ、どうぞ召し上がれ。もうすぐお土産用のも焼きあがりますから」
「ぉぉ、ありがとさん。いただきマスじゃ!」
「ねぇ、おじいさん」
「なんじゃ」おじいさんは口の周りにジャムをつけている。
「もし、わたしが、この手紙にお返事を出したいとき、どうすればよいのかしら?」
(ムシャムシャ)おじいさんは黙々と食べつづけている。
わたしは窓の外を眺め、紅茶を一口のむ。
(美味しい)
ストーブを焚いているからかしら?思いのほか咽が乾いていたことに気付く。
外では細かい雪がフワリフワリと戯れている。
「そうさなぁ、わしはもうすぐ眠ってしまうし・・・」もごもごと口一杯にパンケーキをほお張りながら、おじいさんが呟く。
「・・・は?てことは、おじいさんが起きている間は、お返事を届けてもらえるってことですか?」
「・・・んん、まぁ、そうとも言う」
「へ?じゃ、もしかして、今から書いたら、間に合いますか?」
「・・・んんん、ギリギリじゃな」
「マジですか!じゃ、ちょちょちょっとだけ待ってください。今すぐ返事を書きますから」
自分の皿のパンケーキをたいらげてしまったおじいさんは、大皿に残っている分をじっと見ている。
「あああの、よかったら、これ、全部食べちゃってくれて結構です!」
とたんに、おじいさんの目がまん丸になる。
「なななに??ぜぜぜんぶじゃと!?」
「ええ、勿論です。どーぞ、どーぞ!」
おじいさんはおもむろに大皿を自分のほうに引き寄せた。
わたしはおじいさんのカップにもう一杯紅茶をそそぎ込むと、急いで便箋を探した。
| ■2006/12/05 (火) 16:30:41 託送 |
「星くん、お久しぶりね。
手紙をありがとう。
裏山のおじいさんがちゃんと届けてくださいました。
空での生活は如何ですか?
そこからは、さぞ、いろんなモノが見えるのでしょうね。
相変わらずドジばかりしてるから、ちょっと恥かしいです。
ココロの中に散らばっているモノについては、わたしもずっと考えているの。
考えながら、ずっと観察してます。
そしたらね、不思議なんだけど、どれもこれもとてもユニークな表情をしていて、なんだか愛くるしいです。
暫くの間は、この子たちを慌てて積み上げなくてもいいかなぁ・・・なんて考えたりもしてます。
全部を組み合わせて、無理に一つの形にしなくても、ひとつひとつの持ち味をもっと引き出したほうがよいかとも思ってみたり。
・・・でも、まだよくは、わかりません。
あと、他にも、ちょっと気付いたこともあります。
不器用なココロについてです。
このことは長くなってしまうし、まだ考え途中なので、つづきはまた次の機会に書きます。
何故なら、おじいさんが眠ってしまわないうちに、大急ぎでこの手紙を託さなくてはならないから。
こちらは、もう雪が降り始めているの。
星くんのところでも、雪が降るのかしら?
風邪ひかないようにね。
来年、カエルくんたちが土の中からでてきたら、また皆で逢いたいわ。
それではさようなら。
かおる」
書けた。
慌てて書いたから、字が間違ってるかも。
それにこれって、きちんと封筒に入れるべきかしら?
「あのぉ、おじいさん、手紙は書けたんですが、封筒に入れたほうがよいですか?」
ZZZZZ・・・、
あらあら、おじいさんったら、コタツで居眠りしてる。
あまりにも気持ち良さそうで、起こすのが申し訳ないけど、このまま冬眠されちゃっても大変だし。
「お・じ・い・さ・ん!!!」おじいさんの耳元で大声で呼んでみた。
「ぶ、ほっぉ、ほぃ!」おじいさんが驚いて飛び起きる。
「いかん、いかん、わしとしたことが、眠っておった」
「起こしてしまってスミマセン。手紙が書けたから」
「おお、そうじゃった。どれ、じゃ、この中に入れなさい」
おじいさんは籠の中から、新しいビンを取り出してわたしのほうに差し出した。
| ■2006/12/06 (水) 09:29:08 おやすみなさい |
わたしはおじいさんから新しいビンを受け取り、油性のマジックで蓋のところに星くんの似顔絵を入れた。
まぁまぁかわいく描けた。
「おじいさん、じゃ、これ、お願いします」
手紙といっしょに、ビンにミルクキャンディーをたっぷり入れておじいさんに渡す。
「こころえた」おじいさんはビンを受け取り、そっと籠に入れた。
「あと、お土産のパンケーキ焼けましたから」
「かたじけない」いつものように、おじいさんがニッコリわらう。
「あの、また手紙を書いたら、届けていただけますか?」
「わしが起きておるときならば、いつでもよいぞ」
「じゃ、また来春にお願いに行きますから、」
「ん、」おじいさんは軽く返事をすると、よっこら立ちあがって窓を見た。
「ではでは、雪が小降りのうちに戻るとするかの、」
「はい、おじいさん、お体に気をつけて・・・おやすみなさい」
わたしは姿が見えなくなるまで玄関先でおじいさんを見送った。
籠をさげたおじいさんの背中が、小雪の混じる風の中でとても小さく見えた。
闇は深く、森は瞬く間に小さなおじいさんを飲みこんでしまった。
| ■2006/12/06 (水) 21:13:19 冬の到来 |
そそくさと家に入る。
ストーヴが点いているのになんだか火が消えたみたいだ。
ぁぁ、また冬が来た。
夜が明けても鳥が鳴かない。
川の音も届かない。
草花は風になびくことはない。
コオロギもアサガオも遠いところへ行ってしまった。
カエルくんは地中で眠り、星くんは遥かな空に漂っている。
そして今、おじいさんも森へ戻っていった。
とうとう本当の冬の到来。
淋しい。
昨日ときょう、全く違う本を読んでいたら、両方の本に「予定調和」ということばが使われていた。
そう・・・今の世界は調和しているのかもしれない。
このことばのように、物事はあらかじめ神の意志によって、調和すべく定められているのかもしれない。
でもね、でも・・・、
もし、太古のむかしから、とてつもなく長い年月をかけて、何万分の1ミクロンくらいのズレが、この世に起きていたら(或いは人のココロの中で起きていたら)、とてつもない遠い未来には、予定されていた事象からは、かけ離れた現実となって現れるのではないかしら?
それは恐らく「調和」とは言いがたいモノでしょ?
何かがね、何かズレているような気がするの。
この冬の間に、何かを見つけられるかしら?
新しい出会いがあるかしら?
淋しいなんて言ってられない。
本を沢山読まなくちゃ。
ね、星くん。
おしまい