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幽霊にまつわる事(その2)


1.≪目に見えないモノのこと≫

■2007/02/20 (火) 09:19:44 案外たいせつなこと

「お経でも唱えているの?」ネコちゃんは物事をズケズケと言う。
飼い主に似るのだろうか?

「ことばを覚えようとしてるの。邪魔しないで」わたしはムっとする。

「どんなことば?」

「いちばん大切なことは目に見えない」言っても無駄だと思いつつも、一応はこたえる。

「目に見えないねぇ〜」ネコちゃんがニヤっと笑う。

「なにょ」文句があるなら言ってみなさいよ。
と、なぜか身構える。

「じゃ、目にみえない幽霊てのは、案外たいせつなことなんじゃないの?」

「・・・そういやぁ、そうょね」ネコちゃんは、やはり鋭いとこをつく。

「つまりね、最終的に人間は、みんな幽霊を食べて(無)になるべきなのよ」ネコちゃんが自信たっぷりに言いきる。

ネコちゃんは、ほんとにそう思っているのだろうか?
あらためてネコちゃんの目をじっと見てみる。

透き通っている。


■2007/02/20 (火) 21:02:45 年表

たとえば地球の歴史を東海道に当てはめてみる。

地球の誕生が新大阪で、東京を現代とする。

人類は新横浜を過ぎたころから、ようやく2足歩行を始めたらしい。

つまり<人類の歴史>といえるものなんて、あってないようなものだ。

だとすると、コンピューターができたのなんて、東京駅に電車が入りこんでから、なお車体が惰性で動いている最中。

というか止まる寸前くらいだろうか?

それにしても品川あたりから東京駅までの人類の進歩はまったくスゴイ勢いだ。

もしその進歩の度合いを折れ線グラフで表すならば、最後の1メモリで激しく急上昇しているはずだ。

ずっと横ばいだった線が、品川を過ぎたころから、急に縦方向に折れ曲がり、限りなく上へ垂直に伸びているグラフ。

太古、地球自体の変化がとてもゆっくりならば、そこに生まれた生き物も、長い長い時間をかけてそれぞれの進化を遂げたらしい。

ところが今やどうだろう?

なにもかもが異様に速すぎるんじゃないの?

「ねえ、ネコちゃん」と、ネコちゃんに振ってみる。

「は?」ネコちゃんはキョトンとしている。

「ううん。なんでもない・・・」ココロで考えていることだもの、彼女にわかるわけがない。

世の中が便利になって、人間の寿命がどんどん長くなっているのに、実はまったく対極にある何かが、同じ速度で同時進行してる気がするんだよね。

つまり急速な進歩は、急速な衰退と滅亡を招いているって気がしてならないんだ。

「ねぇ、ネコちゃん」と、もう一度ネコちゃん声をかける。

「だから、何よ?」ネコちゃん面倒くさそうに答える。

「・・・幽霊になれば、もう死ぬことはないの?」

「定義上、死ぬことと無になることが、同義でなければ、彼らは永久に死なないって言えるわ」ネコちゃんは、ひとつ欠伸をする。

彼ら(幽霊)はあくまでも(無)であり、(死)ではないということだろうか?

死んでもいない。同時に生きてもいない。
幽霊ってなんだか・・・。

「じゃさ、幽霊は生きかえることがあるの?」

「なんで、そんなこと聞くのよ?」仰向けに寝転んでいたネコちゃんが、ムクっと起きあがる。




2.≪派遣社員≫

■2007/02/22 (木) 09:45:21 戸だな

「いえ、ただ、参考までに聞いてみただけ」とわたしは言った。

「なーんだ、またかおるさんが一度幽霊になって、あとで生きかえってみる、ってなことを言い出すのかと思ったわ」
そう言うと、ネコちゃんはまた、つまらなそうにゴロッと横になる。

「・・・それも面白そうよね。だいたいからして、あなたが言ったのよ。人間はみんないちど全員が幽霊になって(無)になるべきだ。って」

「そりゃ、そうね」ネコちゃんは目を半分閉じて、半ば上の空で答える。

そのときだ、台所の戸だなから、なにやら物音が聞こえた。

ゴト、ゴトッ、ガタン、ピシ。

「ネ、ネコちゃん、ネズミかもよ・・・」ネコちゃんに教える。

「このわたしがネズミごときを見逃すはずないじゃないの」ネコちゃんは首だけ起こすと、台所のほうを見る。


■2007/02/22 (木) 09:59:53 生け捕り

「ねぇ、見てきてよ」ネズミは苦手なのでネコちゃんにお願いする。

「いいけど、これじゃ戸だなを開けられないわょ」そういうとネコちゃんは白い手をつきだす。

(あぁ、また、あたしかぁ)

「・・・わかったわよ、行けばいいんでしょ」

わたしが戸だなを開ける。
飛び出してきた何物かにネコちゃんが飛びつく。
間髪を入れずムシャムシャ・・・。
そんな段取りを頭に描く。

言っておくがネズミは、わたしには珍しく苦手、且つ非常に腹のたつ動物なのだ。

なんでも許可なく闇雲にかじってしまうし、第一トイレの場所が定まらないってとこが最もイケナイ。

ウサギもニワトリも、当然ネコちゃんも大体の動物は所定の場所で用をたす。
なのにネズミは所構わず、お構いなしだ。

というか、彼らにとって彼らの行動範囲つまりは彼らの行く所すべてがトイレなのだ。
まてよ、それとも自分のフンの上を歩くのが趣味なのだろうか?

う〜鳥肌がたつ。

以前、台所の鍋の中に黒いフンを見つけたときは、そっこく犯人をとっ捕まえてその鍋で絶対にかま茹でにしてやる〜!とココロに誓ったものだ。

(ま、実際そんな勇気など、これぽっちもないのだが)

気を取り直して「じゃ、行くわよ」と、わたしが台所に足を踏み入れたときだった。

なんと驚いたことに、戸だなの上の引き戸が、スルスルとひとりでに開くではないか!

(やめてくれ〜)とココロで叫ぶ。

いくら小さな引き戸とはいえ、自力で開けるなんて、どんだけデカイねずみじゃい!

「イヤだよ〜恐いよ〜」とネコちゃんに伝える。

「ネズミじゃないわ」と、ネコちゃんがつぶやく。
見ると彼女の体中の毛が逆立っている。

「ひぇ〜〜、じゃ、なんなのょ〜〜」こんどは全く別の恐怖心が膨らむ。


■2007/02/22 (木) 16:33:24 小さな人

「うんこらしょぃ・・・」

わたしの恐怖心をなぎ倒す勢いで、戸だなから出てきたのは他でもない、なんと「人」だ。

それも雪まみれ。

「あ、あ、あの〜、」わたしは恐怖と驚きのあまり、かけることばがみつからない。

「あ、どーも、どーも。どうぞお構いなく」その(人)はわたしに気付くとそう言った。

「お構いなくと言われても・・・」ここでネコちゃんのほうをチラっと覗う。

どうやら毛は逆立ててはいない。

それどころかテーブルの下できちんとお座りしている。

とりあえずは安心ということだろうか?

そうこうするうち、引き戸から這い出た彼は、台所のテーブルをはさんだ向こう側に立った。

あらん?なんじゃ?

子どもじゃん?

見ると彼はとても小さい。
わたしの半分くらいの身長かしら。
80cmってとこね。

それに、そのいでたちがまた妙な感じだ。
昔の中国人みたいなコスチュームだ・・・人民服ってやつだろうか?
服とおそろいの布で、緑色の人民帽も被っている。

「あのぉ、失礼ですが、いったいうちに何のご用なんでしょ?」人民服の小さな彼に再度質問する。

「あ、申し遅れました。僕は派遣社員で名前をポーといいます」

「派遣、ですか・・・。えっと、ポーさんはどのあたりから派遣されたんでしょかね?」

「幽霊会社ですよ」

なぬ!・・・またかぃ。

たぶん、うちは丸ごと祟られているに違いない。

いつの間にかネコちゃんが椅子の上でくつろぎ始めている。

この状況にどう対処すべきか・・・・。

う〜ん。

誰か、たすけてくれ。


■2007/02/23 (金) 09:48:59 発見

「ねぇ、ネコちゃん」わたしは椅子の上のネコちゃんに小声で話しかける。

ネコちゃんがチラっとこっちを向く。

「あれ、もしかして、尻尾じゃなぃ?」わたしはポーくんのお尻のあたりを軽く指差す。

ネコちゃんが僅かに頷く。

「いったい何の尻尾かしら?」どこか見覚えがあるような・・・。

「ネコよ」と、ネコちゃんがささやく。

「え”!!!」


■2007/02/24 (土) 20:41:50 赤ちゃんポスト

ば、化けネコ・・・ですかぃ?

と、言っても、彼はどちらかというとキュートな顔立ちをしている。
ドラエモンみたいだ。

見るとネコちゃんはお気楽に体をペロペロと舐めているし、とりあえず危険はなさそうね。

そうとわかれば、とりあえず彼に質問してみよぅ。

「あのーポーくん、ちょっとお聞きしたいんですが、どんな理由で、わたしのとこになんかに派遣されたんでしょか?」

「えっと、ターゲットは赤ちゃんポストなんですが、この辺りにありますか?」

「は?」

「赤ちゃんポストです」

「赤いポストなら坂を下りたとこの酒屋の前にありますけど・・・」

「違いますよ。生まれたての赤ちゃんを入れるポストです」

あっ!思い出した。

それって、この前ニュースでやってたやつかしら?!

えっと、どこかの病院に設置されたというあれね。

確か事情があって子供を育てることのできない親が、その子をあずけていくための箱のことだわ。

「残念ながら、うちの傍には赤ちゃんポストはないんですけど・・・」とわたしは正直に答える。

「そんなはずはありません。ほら、会社のほうから地図ももらってきてるし」ポーくんはポケットから一枚の紙切れを取り出す。

その地図にはみどりのクレヨンで、路、山、川、湿原、家、そして、一匹のネコが描かれている。

なんてシンプル。

「えっと、どうしてこれがわたしの家ってわかるんでしょ?」

「一目瞭然です」ポーくんは自信たっぷりである。

この地図の中でもっともらしいのが湿原とネコちゃんだが、世界を探せばこれに似たシチュエーションはいくらでもあるだろうに。

「ごめんね、こころあたりが全くないの。他をあたってくれる?」とわたしは言った。

「そ、そんなはずありません。ちょっと家の周りを確認させていただけませんか?」

「・・・はぁ、ぢゃ、まぁ、それほど言うなら、どーぞご自由に」

ポーくんの真剣さに押され、しぶしぶ徘徊を許可する。

でも、あちこち散らかってて、本当はあまり見られたくないんだけどな・・・。


■2007/02/25 (日) 08:57:07 コンテナ

「すみませ〜ん、靴をお借りします!」

玄関先でそう言うと、ポーくんはわたしの長靴をはいて、雪の残る外へ出ていった。
当然長靴はブカブカ。

ま、いいや。
どうせ赤ちゃんポストなんてあるわけないんだし。すぐ帰ってくるはず。

そだ。ココアでもいれよう。

「ネコちゃん、ココア飲む?」椅子の上で寝そべっているネコちゃんに訊いてみる。

「いらなーい」

「あっそ、」

ポーくんはどうなんだろ?

彼はまだ子どもみたいだからココアを好きかもしれないけど、もしネコ科だったら煮干の味噌汁のほうが好きかも・・・。

などと考えていたら、ポーくんが戻ってきた。

「ありましたよ」台所に入るなりポーくんが言う。

「へ?何が?」

「赤ちゃんポストです」

「ウソッ」

「ホントです。裏の倉庫に積み上げられているコンテナの上です」

「トマト用のコンテナのこと?」

「あ、あれ、トマトを入れるんですか?」

倉庫にはトマトを出荷する際に使うブルーのコンテナを数百個ほど格納してある。

冬のあいだコンテナの中に時々小鳥が巣を作る。

でも今だかつて赤ちゃんポストが置かれたことはない。

って、そんなことが、あってたまるか!!!!

「何かの間違いでしょ」わたしはココアを作る手をとめてポーくんの顔を見る。

「ウソだとおもうなら自分で行って見てくださいよ」とポーくんが言う。

言われるが早いか、わたしは玄関を飛び出していた。


■2007/02/25 (日) 09:03:09 金属の箱

どこだ?

これか?

ちがう、

ん?もしやこれ?

(ぐげ〜〜〜!あったし!)

20個ほど積み上げたコンテナの山が7つある。
そのうちのひとつの山の一ばんてっぺんに、クリーム色に光る金属の箱が置かれている。
(いったい、いつのまに・・・)

形は大き目のボックス型ポストといったところだろうか。

わたしは自分の目線より上に置かれたポストを見て思った。

(置くならちゃんとした病院とか教会でしょが?)

無責任にも程がある。

全くワケがわからん????

そそれに、まさか入ってないでしょうねぇ。

あかちゃん、


■2007/02/25 (日) 13:34:26 幽霊会社その2

「中身は空っぽでした」気付くと後ろにポーくんと、ついでにネコちゃんもきている。

よかった。
まだ未使用ってことね。

「いったいだれがあんなとこにポストを置いたのかしら?」なにげにポーくんに尋ねてみる。

「所有者はわかっています」とポーくんが言う。

「なーんだ。じゃ、その人にさっさと返さなくちゃ」ちょっと安心する。

「それは絶対にできません」ポーくんの口調が厳しくなる。

「へ?じゃ、どうするの」

「ぼくが回収します」

「あ、なるほど。つまりポーくん所属の幽霊会社が回収作業をしてるってことね。・・・でも、またどーして?」

「いまこの種の赤ちゃんポストが世界中にばらまかれているんです」

「あら、うちだけじゃないのね」

「はい。世界中のいたるところです。
 それというのも幽霊界には僕が所属する会社の他に、もうひとつの幽霊会社があるんですが、実はそいつらが身寄りのない小さな命を狙っているんですよ」

なんだか話しが複雑そう・・・。

「おまけに彼らは人間の赤ちゃんだけじゃなく、動物の赤ちゃんたちも対象にしている」

「命ならばなんでも良しというわけね。だからポストが山の傍の我が家の倉庫に設置されたわけかー」と、納得。

「でも、なんで赤ちゃんたちを狙っているのかしら?」

「(無)になりやすいからでしょ」ネコちゃんが会話に割って入る。

「その通りです」

「(無)的な命を増やそうとしてるってこと?」

「はい。幽霊会社の規約上これ以上は言えませんが、少なくともぼくの会社はそれを阻止する活動をしています」

「ふ〜む。そっか。人間ばかりか動物にまでも(無)が押し寄せつつあるってことね」

「そういうことです」

そういえばここ数年、日本各地で野生の熊が出没してるって事件が多発しているけど、あれも(無)化してることに関係あるのかも。

熊の本能が狂ってきているわけじゃなく(無)が本能を侵蝕してるんじゃないかしら?

そう思ったとき「すみません、脚立を貸してくれませんか?」とポーくんが言う。


■2007/02/25 (日) 14:00:13 へき地担当

ポーくんが赤ちゃんポストを回収し終わり、みんなで暖かい台所に戻った。

「ポーくん、ココアでも飲んでいったら?」わたしはいれかけのココアを温める。

「ありがとうございます。ちょっと体が冷えていたんで、いただきます」ポーくん素直。

「そういえば、さっき戸だなから出てきたとき、雪だらけだったわね」わたしは思い出して聞く。

「あ、あれは南極のペンギンたちの村へ行っていたからです」

ペンギン村?・・・ふと「Dr.スランプあられちゃん」を思い出す。

「その村だけで赤ちゃんポストが5台も設置されていたんです」

「そりゃ大変ねぇ」わたしはココアをマグカップに注いでポーくんの前に置く。

「はい、で、次はインドの山奥という指令なんですが・・・」

「へき地ばかりなのね〜」ネコちゃんが呟く。

「はい、まぁ、派遣なんで辛いとこです」ポーくんはシュンとしてココアに息を吹きかける。

お、やっぱネコ舌。


■2007/02/25 (日) 14:14:06 ティータイム

「よかったらこれも食べて」わたしは味噌汁用の煮干をお皿にのせてポーくんの前に置いた。

「え、いいんですか?」ポーくんが意外な顔をしている。

「いいわよ。だってあなたの移動距離を考えただけで、お腹が空くもの」

それを聞いていたネコちゃんが言う。

「ねぇ、わたしにもちょうだいょ」

「ダメ!」間髪を入れずに答える。

「そう言うと思ったわ」ネコちゃんが恨めしい顔をする。

「あ、そういえばポーくん、」

「ハイ?」ムシャムシャ。

ポーくんは実に美味しそうに煮干を食べている。
かわいい。

「このまえわたしも幽霊退治みたいな体験をしたのょ」

わたしはひよこ豆とアルマジロくんの一件を思い出して言った。

「と、いいますと?」ポーくんが興味深そうに訊ねる。

「実はね、一匹のアルマジロくんがひよこ豆を連れてうちにやってきたわけ」

「ホントですか!」ポーくんの顔が輝く。どうやら彼らを知っているらしい。

「ええ。そんで、あの子たちは、わたしを連れて幽霊退治にでかけたのね」

「ハイハイ」ムシャムシャ。ポーくんの口の端っこから煮干の頭が飛び出している。

「あのときは、初めにデパ地下に行って、コンビニに行って、最後にハンバーガー屋さんに行ったわ」

「そりゃスゴイ。収穫はありましたか?」

「ええ、ひよこ豆のスープと、肉まんと、いちごのシロップよ」

「それと携帯電話もね」ネコちゃんが付け足す。


■2007/02/25 (日) 21:44:32 正社員のこと

ポーくんは煮干を食べ終わると、ペロペロと指先を舐めた。

「実はアルマジロくんたちは正社員なんですよ」ポーくんが言う。

「はぁ、正社員ね」

「ぽくの仕事は今のところ赤ちゃんポストの回収だけなので、幽霊と直に関ることはあまりありません。ですが彼らは正社員として直接幽霊と交わらねばならないんです」

「ま交わる・・・」なんだか説得力のある表現ね。

「そうです。ま、正社員はみなさんが特殊な訓練を受けていますから(無)に乗っ取られるようなことはないんですが、幽霊たちと交わったときの消耗はひどいようです」

そういえばあの時も、帰るころには、ひよこ豆たちは身動きひとつしてなかったわ。
家から出発する前は元気にピョンピョン跳ねまわっていたのに・・・。

「じゃ、ぼく、そろそろ失礼します。きょう中にあと二つの赤ちゃんポストを回収しなくちゃなんです」

「へ〜、大変なのね」こんな小さな体で世界中を飛びまわっているなんて、なんだか不憫に思えてしまう。

・・・いかんいかん、こんな時は励まさなくちゃ!

「あの、もしよかったらこれ全部もっていって」
わたしは煮干の袋を丸ごと渡す。

咄嗟の出来事に、ネコちゃんの開いた口が塞がらない。

「ご親切にありがとうございます。それではごきげんよう」

そう言うとポーくんは赤ちゃんポストと煮干の袋を抱え、戸だなによじ登ると狭い扉から中に潜りこんだ。

扉がピシャッっと閉まり、辺りに異様なほどの静けさが戻る。

まるでポーくんがモノ影に潜んでいた僅かな音まで、一切がっさい持っていってしまったようだ。

残ったのはいつもの殺風景な台所と、身動き一つせず、口を開けたままこっちを見ている一匹のネコちゃん。



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