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幽霊にまつわる事(その3)

■2007/03/06 (火) 11:55:11 リピート

きょうは寒くないなぁ。

そう感じてストーブを消す。

暫くPCをやっていると手先や足先が冷えてくる。

背中も少し寒い。

なのでストーブをつける。

30分もすると部屋中モワ〜んとした熱気が漂う。

なのでストーブを消す。

けれど30分もすると、また手先が冷たくなる。

・・・けどもうストーブつけるのは面倒。

でも寒い。

仕方ないので再びストーブをつける。

でもまたすぐ暑くなる。

なのでストーブを消す。

ディスプレイの上でネコちゃんがニヤニヤ笑っている


■2007/03/07 (水) 14:14:35 初め

「そろそろ本腰入れて、体調を戻してくださいよ」歯を磨いていたらネコちゃんが足元にやってきて言う。

「ほんなこほ、いはれでもね〜」口中が歯磨き粉だらけでうまく喋れない。

「早くしないと幽霊がどんどん増えちゃいますよ」

ブクブク、ガラガラ、ペッ。

「それって、わたしの責任なの?」タオルで口を拭きながらネコちゃんに質問する。

「そうとも言えます」

「何処でどうして、何時からそうなったわけ?」

「・・・初めから設定されていることです」

「初めから?」

「はい、そもそもの初めからです」


■2007/03/07 (水) 17:03:56 キャベツのスープ

「かおるさん、何か焦げてますよ」

「しまった!キャベツのスープを作りかけてた!」

わたしは慌てて台所へ駆け戻る。

「げっ、またやっちゃった・・・」

キャベツのスープは水を殆ど使わない。
きょうは薄手の鍋で作るから、絶対に気をつけなくちゃって思っていたのに。

なんてザマ・・・。

またもや凹む。

「やれやれ、進歩がないわね〜」ネコちゃんがやってきてダイニングの椅子に飛び乗って言う。

「あなたが話しかけるから悪いのよ!」とネコちゃんに八つ当たりしてみても焦げたキャベツは元にもどらず。

「ネコのせいにしないで」とネコちゃんに無表情で言われる

言われないでも、わかってるわよ。

だけど・・・。

はぁ〜〜〜。

身体から一気に力が抜けていく。

もはや、何に対してもやる気なし。

そんなわたしの様子を見てネコちゃんが言った。

「そろそろ出発なんですから、さっさと気持ちを切り替えてくれません?」

「出発?」

「青色申告も終わったし、早くしないと春がきてしまいますからね」

「出発ってどこへ?」

「幽霊会社ですょ」

「なんでまた?」

「だから、さっきも言ったでしょ。初めからそういうことになっているんです」

自信たっぷりにそう宣言するネコちゃん。

そんな彼女を見ていたら、なにやら急に腹が立ってきた。

「・・・わたし、絶対に行かない!」


■2007/03/08 (木) 18:01:47 再来

「あ〜ら、怒るだけのエネルギーはまだ残ってるじゃないの」ネコちゃんが片目を吊り上げて言う。

無性に腹の立つ顔だ。

わたしはネコちゃんから目を逸らし、焦げたなべを勢い良く流し台へ突っ込んだ。

盛大に蛇口をひねり大量の水を投入。

ゴシゴシ、ゴシゴシ、ゴシゴシ。

「鍋に当たっても仕方ないわよ」

傍でネコちゃんがブツブツ言っているが聞こえないフリ。

「あ、そういえば幽霊会社の社内食堂ってけっこう美味しいもの出すみたいね」
ネコちゃんが思い出したように言う。

「え、どんなモノ?」と美味しいものに弱いわたしはつい尋ねてしまう。

「なんだ、聞こえているんじゃない」とネコちゃんが呆れる。

「・・・フンっ、だから、美味しいものって何なの?」バツの悪さを押しのけて、開き直る。

「そおねぇ、たとえばオムレツとか、春巻きとか、ロールキャベツとかね」

「へ〜」幽霊にもグルメが多いのだろうかと感心する。

でもなんだか、クルクルと包まれている形状のものばかり。

それって、特別なものが巻かれていたりして・・・。
幽霊になり損ねた生き物の死体とか・・・。

「かおるさん、さっさと鍋を洗っちゃってくださいな」ネコちゃんが催促する。

「ゆっくり洗ってもあなたに迷惑はかけないわ」

「既に迷惑してるんですけど」

「え?」

「もう迎えが来てるんです」

「は?・・・な、なに?」

にわかに良からぬ気配を感じ、スポンジを持ったままの状態で辺りをキョロキョロ。

するとその時、誰も居ないはずの風呂場から話し声が聞こえてきたではないか。


■2007/03/17 (土) 11:23:10 クモの巣の歌

「ひとりの幽霊がクモの巣に、かかって遊んでおりました〜」

「おぃちょっとまて。幽霊は物体を透過するものだから、どう考えてもクモの巣にはかからんぞ」

「いいんですょ。これは歌なんだから」

「それになぜに、わざわざクモの巣なのだ?」

「そんなこと知りませんよ。だからこれはただの歌なんです」

「フィールド・アスレチックとかでも良いじゃないの」

「それじゃ、まるっきり語数が合わないでしょ?」

「じゃ、光ファイバー・ケーブルとかは?」

「問題外です」

「てことは・・・やはりクモの巣かぁ。くもの巣てモノは意外なところで活躍してるんだなぁ」

 *****

(へっ??、何??、誰??)

わたしは耳を澄まして風呂場の扉を凝視する。

中の人物たち?は何やら歌についての論議を交わしているらしい。

(いったい誰が何時、なぜうちの風呂場なんかに入ったのかしら?)

ネコちゃんを見ると、相変わらず椅子の上でくつろいでいる。

いい気なもんだ。

(こういった場合って・・・世間では直ちに警察に電話よね!)

そう思ったとたん。

突然、風呂場の扉に二つの影が浮かぶ。

大きな影と小さな影。

扉は閉まったまま。

驚いたことにその影は、扉ごしではなく、扉のこちら側で見る見る濃くなっていくではないか!

(え、何が起こっているの?!)

唖然として見ていると、それらが徐々に人の形を結び出した!

まるでスイッチの切れたテレビのスクリーンの中に、突然電磁波でできた人影がチラチラと浮かびあがってくるようだ。

そしてとうとう最後には、風呂場に通じる扉の前に二人の人間?が姿を現したではないか。

わたしは無意識のうちに1歩、2歩と後ずさり。

一方、様子を見ていたネコちゃんは、椅子の上から二人を元気良く出迎える。

「お久しぶり!」


■2007/03/19 (月) 11:19:21 お願い

「おやおやネコさん、お元気そうで」背の高いほうが言う。

「やぁやぁネコさん、ごきげん宜しゅう」背の低いほうも言う。

とりあえず二人ともネコちゃんの顔見知りみたいなので、ちょっと安心する。

張り詰めていた緊張をほどき二人を観察。

あら〜ん!二人とも誰かに似ているわ。

・・・えっと、そう、爬虫類。

背の高いほうは、まさしくトカゲくんそっくり。
よく日焼けした顔に、時おり緑色の目がギョロっと光る。
見るとお尻で細長い尻尾が揺れている。

背の低いほうは・・・ん、そうだ。カエルくん。
以前、裏の湿原に放した口の尖ったカエルくんの従妹みたいによく似ている。
ウルウルと濡れたように光る目は、どちらかというとカワイイけど。

「かおるさん、初対面の人のことをジロジロ見るの、失礼よ」
と、ネコちゃんが言う。

「わわわかってるわよ」

「こちらは幽霊会社の正社員さんたち。背の高い方がジョーくんで、低い方がエルくん」

「は、初めまして。かおるです」そんなに大きな声で言わなくてもいいのに。

するとジョーくんがわたしの方に向き直った。

「先だってはひよこ豆たちがお世話になったようで」ジョーくんが言う。

「お忙しい中、ほんとにありがとうございました」エルくんが付け足す。

「は、はぁ」これまでの幽霊にまつわる出来事の中で、はじめて感謝された気がする。
なんだかドギマギ。

「ついでといってはなんですが、きょうはもう一つお願いがあって来たんです」とジョーくん。

「しかし、まぁ、なんだかお忙しそうで恐縮なんですが・・・」エルくんが流し台を見て言う。

「お、お願い、ですか?」


■2007/03/19 (月) 21:39:42 ティータイム

「かおるさん、お茶でもいれたら?」ネコちゃんが提案する。

「あ、そうね」
わたしは薬缶をコンロにかけ、お湯が沸くあいだに紅茶の準備をする。

「あの、どーぞ、お座りください」わたしは2人にダイニングの椅子をすすめる。

「はい。じゃ、お言葉に甘えて」そう言うとジョーくんとエルくんは2人並んで腰掛けた。

なんだか、ちょっと不思議な光景。

「あのぉ・・・、この際、失礼ですが、いろいろと質問したいことがあるんですけど・・・」
わたしは紅茶のカップを並べながら、2人に質問してみる。

「ハイハイ、なんなりと」2人は口をそろえて言う。

「まず第一にお伺いしたいのは、なぜわたしという人間があなた方のお仕事であるところの幽霊にまつわる諸事に逐一巻き込まれるんでしょか?」

「へ?そんなこともわからないの?」ネコちゃんがアングリと口を開けている。

「そ、そんなことって・・・わかるわけないでしょ!」ネコちゃんの態度にはそれこそ逐一腹が立つ。

まるでわたしだけが周知の事実を知らない能天気な人間みたいじゃないの。

「それはかおるさんがネコ的な人間だからです」ジョーくんが答える。

「ネコ的?というと?」

「まぁ一番わかりやすく言うと、普通の人間には見えないものが見え、聞こえない音が聞こえる。ということでしょかね」エルくんが目を閉じて言う。

「だいたいあなたがわたしとお喋りできることからして、普通じゃないんだってわかるでしょ?」ネコちゃんが言う。

「え、だって、そそれは、あなたが普通のネコじゃないんだとばかり思ってたわ」

「じゃ、ひよこ豆をはじめアルマジロくんやポーくん、それに目の前にいるこのお2人さんと接触できるってことはどう説明する?」

「そ、それは別にわたしじゃなくても、誰にだってできることでしょ・・・?」

「まったくかおるさんったら《わたすげ》丸出しよ!」

「まぁまぁ、お二人さん、急がば回れ。物事は順を追って話したほうが早いですぜ」ジョーくんが割って入る。

「そーよ、そーよ」わたしはすかさず相槌を打つ。


・・・ワープ・・・



■2007/04/22 (日) 06:59:22 ネコちゃんのつぶやき

かおるさん、
いったい何処へ行ってしまったのやら・・・。

そう、あの日、かおるさんがキッチンで紅茶を入れていたとき、
玄関に誰かがやってきたのよね。

そして取り次ぎに行ったまま、かおるさんは居なくなってしまったの。

あれからもう1ヶ月。


■2007/04/23 (月) 19:22:20 ゲラゲラゲラ!

「ただいまー」

(にゃん?!)

「あら?ネコちゃん留守かしら?」わたしは玄関を上がりキッチンへ向かう。
 
そのとき。
「ぎゃ〜ああああああああ!!!」誰かのけたたましい叫び声がこだました。

「なななな何!!!」その声のあまりの大きさに驚いて一瞬心臓が止まりそうになる。

「何、じゃないわよ!!!」ネコちゃんがキッチンの入り口からアングリと口を開けてこちらを見ている。

「ふっ」ネコちゃんの間抜けな顔に思わず噴出しそうになる。

「いったい今の今までどこで何をしてたの?!」ネコちゃんがいつものキツイ目つきでキツク言う。

「えっと、それは、わたしにもよくわからにゃぃのですが・・・」

「よく分からないって・・・ふざけないで!」ネコちゃんの声がいよいよ険悪になる。
・・・ていうか、邪悪にさえ聞こえる。

「ぃいえ、別にふざけているわけではなく」

「お客様をほったらかしにして、家の主が突然居なくなるなんて、そんな無茶苦茶なことがあっちゃいけないのよ!!!」ネコちゃんすっかり説教口調。

「そんなこと言われたって、わたしにはまったくの不可抗力的あるいはミラクルな出来事で・・・」

「つべこべ言ってないでここに座りなさい!」ネコちゃんがダイニングの椅子の上から家の主に向かって命令する。

「はぁ・・・。でも、悪いんだけど、その前にお腹がすいてるので、何か食べさせてもらえませんかぃ?」

わたしがそう言ったとたん、ネコちゃんの顔が急に歪んだ。

「かおるさんったら相変わらずの能天気ね」ネコちゃんはそう言うと突然お腹を抱えて笑い出した。

とりあえずわたしも笑っておこう。

ゲラゲラゲラ


■2007/04/28 (土) 14:51:45 蕎麦

鍋に水をはりコンロで湯をわかす。
戸棚から乾麺をとり出す。
きょうは蕎麦にしよう。

冷蔵庫を開け、賞味期限のきれた食材をチェック。

牛乳とヨーグルトはアウト。
むむ無念だ。

念のため卵も生ごみの中へ放り込む。

干からびた野菜たちも卵と同じ運命をたどる。
(食べ物さんたち、本当にごめんなさい)

冷凍室から油揚げと鶏肉を出し一口大に切って、めんつゆを入れただし汁の中に入れ沸騰させる。

固めに茹でた蕎麦を水洗いし、熱い汁の中に入れて一煮立ち。

コトコトコトッ。

(なにか青味がほしいわね)

わたしは庭先から三つ葉の新芽を取ってきて麺の上に乗せた。

春のかほりプ〜ンとする。

どんぶりによそって七味唐辛子をふる。

「あ〜できれば半熟卵が欲しかったな〜。・・・あとネギも・・・」とわたしが呟くと、

「だしは鰹節のほうがよかったのに・・・」とネコちゃんも呟く。

わたしたちは顔を見合わせ、お互いニヤとする。

ぁあ、ようやく(帰ってきたのだ)。


■2007/04/28 (土) 15:10:43 始まりは玄米茶

蕎麦を食べ終わり、食後に熱い玄米茶をいれる。

ネコちゃんは安心したように毛づくろいを始めている。
手足の指もぐっと広げて肉球の隙間までペロペロ。
なんだかわたしもシャワーを浴びたくなってくる。

「さ、腹ごしらえもできたし、だんだん話して聞かせてちょうだい」ネコちゃんが尻尾の先を舐めながら言う。

「話をと言われても・・・」わたしは玄米茶をすする。

「まさか(すべて忘れました)なんて言わないでしょうね」ネコちゃんがチラッとこちらを見る。

「・・・まさかって、その、つまり、そうとも言わなくもなく・・・」

「何をワケの分からないことをぶつぶつ言ってるの!」ネコちゃんの声が厳しくなる。

「分かったわよ。ちゃんと話します。
でも言っておかなくちゃなのは、今度のことはあくまでも夢のような出来事で、つまり夢ってモノは醒めたとたんに急激に色あせて霧散してしまうでしょ。
・・・要するにここ1ヶ月の間に起きたことはわたしの脳みそにはきちんとした(記憶)としてはとどまっていないのょ」


■2007/04/30 (月) 18:57:08 トライ

「記憶としてじゃなかったら、いったいどんなモノとしてあなたの脳みそに残っているわけ?」ネコちゃんが訝しげに言う。

「う〜〜ん、えっと、断片的な映像とイメージとして、かな?」

「かな?じゃないわよ!」ネコちゃんが目を見開いて金切り声になる。

「まぁ落ち着きなさいょ。いくつかは意外に鮮明に残ってるから」

わたしは玄米茶を飲み干してから、最初から記憶をたどってみることにした


■2007/05/01 (火) 18:01:06 記憶をたどる旅

そう、あのときエルくんとジョーにお茶をだしてたのよね。

幽霊会社にまつわる出来事の説明をしてもらおうと思ったの。

ところがちょうどそのとき、玄関に誰かがやってきた。

「こんにちは〜〜〜」

「あら、お客さんだゎ。誰かしらね?」とりあえず皆さんにお茶を出して、わたしは玄関に取り次ぎに行った・・・。



なぜか玄関には誰も居ない。

(・・・今、こんにちは〜って聞こえたのに)

性質の悪いイタズラかしら?

そう思い、踵を返してキッチンへ戻ろうとしたその時だ。

ドガ−ン!バリバリ!グワワワングワン!!
いきなりわたしは世界が割れんばかりの落雷に襲われた。

「ちょっと待って。あの時、雷なんて鳴らなかったわ。確か外はとても良いお天気で、」ネコちゃんは疑い深い眼差しでわたしを見ている。

「まぁ黙って聞きなさいょ」

身体がバラバラになるほどの雷鳴に、わたしは思わず頭を抱えてその場に座りこんだ。
そして次に頭を上げたとき、目の前には予想だにしなかった光景が広がっていた。

「まさか三途の川とか言わないでょ」ネコちゃんがボソッと言う。

「まぁ、雰囲気はそんな感じね。でもあれは川じゃなかったわ」

目の前に広がっていたのは、何処までも続く平原。

息ができないほどの強風が吹いている。

そして気がつくと、なぜかわたしは空を飛んでいた。

風に逆らったり流されたりしながら時には高く時には低く、平原を飛んでいく。

下に広がる風景はどんどん後ろに流れては消えていく。

いったい自分はどこに向かっているのだろう?

赤土色をした平原にはポツポツと人影が見える。

どの人も手に手にスコップや鍬を握り、どうやら足元に穴を掘っている。

みんなとても恐い顔をしている。


■2007/05/03 (木) 18:01:06 アサガオの種

「へ〜、それで?」とネコちゃんが話を促す。

「・・・えっと、それでですねぇ・・・」

実はそのあたりから既に記憶が薄れている。

濃い霧に包まれたような、カルピスみたいな液体の中を泳いでいるような、そこからはとにかく気持ちが悪いほどの白いイメージしか残っていない。

「あのさ、少し休憩して裏の畑でアサガオの種を蒔いてくる」わたしは急にアサガオのことを思い出して言った。

「な何を唐突に言い出すわけ・・・?」さすがのネコちゃんも混乱。

「種って言うのは蒔くときを間違えると、花が咲かなかったり実をつけなかったりするの」

「だからって今じゃなくてもいいじゃないの」ネコちゃんはあからさまにムッとしている。

「・・・うまく思い出せないのよ」わたしは席を立つ。

「・・・ったく仕方ないわねぇ」ネコちゃんがしぶしぶ後をついてくる。


■2007/05/05 (土) 10:06:01 風鈴の音

ホームセンターにいくと種まき培土というものが売られている。

これに種を蒔くと発芽率が大変によく、適度の肥料が入っているため発育も良好。

10個の小さなプラスチックポットに土を詰め、去年からとっておいたアサガオの種を蒔く。

一粒一粒、丁寧に蒔いてあげる。
(不思議ね〜。この一粒から芽が出てきて大きくなって、花が咲くんだもの)

毎年のことなのに毎度毎度、感心してしまう。

「それで、白い空間を漂っていたあいだは、なにか音とか匂いとかしなかったの?」ネコちゃんが退屈そうに言う。

「音とか匂いねぇ・・・」わたしはジョロに水を汲んでくる。

「だいたいその空間にいて、あなたは何も感じなかったのかしら?」

「感じる?」

「そうよ。たとえば寒いとか暑いとか、恐いとか淋しいとか」

「あ、う〜ん、別になにも感じなかったわ」

「あっそ、」

「そういえば音がしたわね。僅かに、それも時々だけど、」

「あら?どんな音?」

「しいて言うなら、貝殻の風鈴の音」わたしは植え終わったポットを日向に並べ、水をたっぷりやった。

「貝殻の風鈴・・・?それって海岸近くのお土産やさんに売ってるやつ?」

「おやおや、よく知ってるわね」ネコちゃんのこの物知りには驚く。というかあきれる。

「実は海岸でノラをやってる従妹がいて、・・・て、そんなことどうでもいいのょ。じゃなくて、その音って何かを暗示してるのかしら?」

「・・・さぁ?」

あっというまにアサガオの種を蒔きおわった。


■2007/05/08 (火) 18:14:54 二人の思惑

「わたしが居なくなったあとなんだけどね、」ネコちゃんのほうに向き直って聞いてみる。
「あのお二人さんはどうしたの?」ずっと気になっていたのだ。

「ああ、エルくんとジョーくんなら、あのあと風呂場から二人があるべき場所へ戻っていったわょ」ネコちゃんが普通に言う。

「幽霊会社のことかしら?んで、わたしのこと心配してなかった?」

「・・・ていうか、(これでよし)みたいな事を言ってたような・・・」

「(これでよし)?」

「ぇぇ、そんで二人で顔を見合わせて、肯いていたような」

「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃ、まるでこれまでのことが二人の思惑通りに事が運んだみたいじゃないの」

「そいえばそうね・・・。でも何でまた?」

「何でって、こっちが聞きたいわよ!」


■2007/05/11 (金) 08:30:56 利用

なんだかね、
そう、なんだか知らないうちになにかの歯車に乗せられて、誰かの意思どおりに動かされていたのだ。

そ、それって利用されてるってこと?

・・・不安、というより、

腹が立つ。

無性に腹が立つ。

(クソ〜〜〜、)

ムカムカ。

そうでなくても、こっちはいつだって忙しいのよ。

家の中の事だって、仕事だって山ほどたまってる。

(冗談じゃない!)

わたしは傍に置いてあるトマト用のコンテナを思いきり蹴飛ばした。

コンテナは倉庫の天井に届くほど積み上げてある。

当然のことながら、蹴飛ばしたはずみでコンテナたちは勢いよく崩れ落ちる。

グワラン、ガラガレィ!

そしてなんといちばん上のコンテナが容赦なくわたしの頭に命中!

ゴン!

「痛い!!」

と、その途端、わたした突如としてある人に出遭っていたことを思い出した。

「あ・・・思い出した」


■2007/05/12 (土) 10:52:56 再来

崩れ落ちたコンテナの向こうでネコちゃんがヒョッコと顔をだした。

「思い出した・・・て何を?」

「わたし、ある人に逢ったの」

「ある人?」

「そう、ある女の人ょ・・・」

そのときだ、ふと家の中に誰かの気配を感じて、わたしは台所の窓のほうを見た。
するとなんとあの二人がコンロの前で何やらやっているではないか!

あの二人。
そう、幽霊会社の正社員、エルくんとジョーくんだ。

「ちょっとーぉ、人の家に黙ってあがりこんで何やってんのよ、もー!」

頭に血が上ったわたしは台所に駆け込みながら叫んでいた。

「ざけんじゃないわよ〜〜〜!!!」

「あ、かおるさん、失礼して台所を使わせてもらってますょ」とエルくんが普通に言う。

「このお茶がメチャクチャ美味しいんですょー」とジョーくん。
全く動じていない。

(なんなの、この二人・・・)あきれてモノが言えない。

「さ、美味しいお茶も入ったことだし、お話の続きを聞かせていただきましょか」

エルくんとジョーくんはお行儀よくキッチンのテーブルにつく。

青いサカナのイラストの入ったお気に入りのマグカップからイイ匂いのする湯気が立ち上っている。

話しが終らなければ、この二人は永遠にここに居続けるのじゃあるまいか?


■2007/05/15 (火) 09:08:46 領域

わたしはテーブルにつくと目の前におかれたマグカップを両手で包んだ。

「これ、何のお茶なんですか?」だれに聞くともなく聞いてみる。

「幽霊会社直営のハーブ園で採れるどくだみ茶です」黒く大きな瞳を輝かせてエルくんが答える。

「あ・・・どくだみね」

どくだみ茶はいつも飲んでいる。
それも自家製。

立ち上る湯気を胸いっぱいに吸いこんでから、お茶をくちに含んだ。

自分で作ったのとまぁだいたい似てる。
でも色と香りが少し強い。

何よりもどくだみ茶の香りはこころが落ちつく。

「さて、かおるさん、お話を聞かせてもらいましょか」ジョーくんが口元から赤い舌先を覗かせて言う。

「つまりあなた方は何かの情報が欲しいわけね」わたしは二人の顔をかわるがわる見つめて言った。

「つまりはそういうことです」エルくんが答える。

「じゃ、何故あなた達自身が自分で情報を得に行かないんですか?」

「領域の問題なんです」

「は?」


■2007/05/15 (火) 09:09:22 物事の順序

「つまりかおるさんが行ってらした領域に我々は直には踏み込めないてことです」

「・・・よくわかりません」

「人間が生身の身体では宇宙を探索できないのに似ています。あるいは水の中、あるいは身体の中も同じです。何かの媒介を通さなければそこにあるモノについて知ることができない」

「つまりあなた方は1ヶ月ものあいだ何かを探索するためにわたしを利用していたってことですよね」

「はやい話しそいうことですな。じゃ、お話を聞かせてください」
ジョーくんが話しを急かす。

「ちょちょちょっと待ちなさいよ。
 いくらなんでも利用するだけ利用しておいて、安易に情報だけ入手しようなんて虫がよすぎませんかぃ?」

「おやおや、かおるさん、何かお望みのものでもあるのでしょぅか?」エルくんが困ったように首を傾げる。

「何か欲しいとかそういう問題じゃないの」

「かおるさんは順序としてまず謝ってほしいのよ」それまで黙っていたネコちゃんが口を挟む。

(あら〜、珍しくわかってるじゃないの)

「あぁ、なるほど」二人は顔を見合わせると肯いた。

「かおるさん、人間界でいう1ヶ月ものあいだ、何かとご迷惑をおかけいたしました」エルくんが言う。

「まぁ無事に戻れたから、もういいわ」

「つきましては何らかの形でお礼をさせていただきますので」ジョーくんが付け足す。

「だからお礼なんて良いんだってば」なんか気恥しい。

「まぁそう言わず貰っておきなさいよ」ネコちゃんが言う。

「はぁ、まぁ、そうね」


■2007/05/16 (水) 17:50:08 神様?

気を取り直して、どくだみ茶をもう一口すする。

(ふむふむ、なるほどこれは美味しい)スーパーで売られているどくだみ茶とはワケが違う。

「かおるさん、もったいぶらないで早く話してあげなさいよ」ネコちゃんが言う。

「あ、そうね。でもたいしたことじゃないし。皆さんのご期待に添えるかどうか・・・」

「どんなことでも構いません。入手したデータの解析はこちらで行います」ジョーくんが言う。

「あ、そっですよね。 えっとですね、 えっと・・・」

「だから、さっさと話しなさいよ」ネコちゃんがじれて言う。

「わかってるわよ、ウルサイなぁ、も〜」

エルくんとジョーくんは大きな潤んだ目でこちらを見ている。

(なんか緊張するなぁ)

「えっと、実は一人の女性に出会ったの」

「フムフム、それはどんな方で?」エルくんが言う。

「えっと、見た目は極普通の中年のオバさんなんだけど・・・」

「なんだけど・・・?」ジョーくんが繰り返す。

「その、彼女のたたずまいというか雰囲気が、こう、とてもナチュラルというか、汚染されていないというか、人があるべき姿そのものというか・・・」

「あなたねぇ、いったい何が言いたいの?」

「だからー、その、彼女のオーラがね・・・、つまり神様みたいなの」


■2007/05/17 (木) 08:49:07 ある女性のこと

「・・・もちょい具体的にお願いできませんか?」エルくんが控えめに言う。

「そぉねぇ。
 まずなぜ彼女が神様みたいかっていうと、彼女からは削るべきとこも加えるべきとこもないなって思ったの。つまりとても安定した存在」

「ふん。それで?」

「その雰囲気は、宇宙が静かに膨張しながら収縮もしてるって感じなのね。別な言い方をすると満ち潮と引き潮が同時に起こっているような」

「??はぁ・・・」3人とも首をひねる。

「そしてそれらはありとあらゆる音と色に満ちているのに常に静謐の中にあるの」

「かおるさん、なんかお腹がいっぱいになってきたわ・・・」ネコちゃんが漏らす。

「わかりました。それで彼女はかおるさんに何か言ってましたか?」ジョーくんが訊ねる。

「いぇ、わたしたちはあまり言葉を交わさなかったの。知り合いでもないし、当たりさわりのないことを一言ふた言しゃべっただけ」

「あら、いつものようにもっと積極的にいけばいいのに」ネコちゃんが口を挟む。

「ただちょっと気になったのは、彼女が常にわたしから顔を背けていたことかしら?」

「ほ〜、」エルくんが口を丸くする。

「お喋りしてるときも自分の足元を見てたり、隣りの部屋のほうに気をとられたり」

「そぉんなの絶対神様じゃないゎよ!」ネコちゃんが自信たっぷりにチャチャを入れる。

「わかってるわよ!いちいちウルサイなぁ!」


■2007/05/17 (木) 09:03:39

「あ、そうそう、もうひとつ彼女から感じた特別なものがあるわ」

「いったいそれは何ですか?!」ジョーくんが目をみはる。

「これもうまくは言えないんだけど、彼女のオーラの中には電気的なものを含む化学や科学のエネルギーみたいなものが全く感じとれないの」

「なんじゃそりゃ?」ネコちゃんは呆れている。

「これって少なくとも現代人の中にはイヤでも存在してしまうものでしょ。たとえば電化製品なんかを四六時中使っているし、着ているモノや食べ物だって科学を利用したモノばかり」

「あ、幽霊的な食べ物を食べてるかどうかってことね」キャットフードのことを思い出したネコちゃん。

「そうそう、そういったモノが彼女にはつゆとも感じられない」

「なるほど」エルくんとジョーくんが同時に頷く。

「さっきも言ったんだけど、やっぱ人間ってああ言う風にあるべきなんじゃないかしら?」

「というと?」

「わたし達があるべき正当な姿が、彼女の中に映し出されている気がするの。
 でも実際は、人間の内面は全く逆の方向に押し流されているような気がする」

「逆、ですか・・・」エルくんが考えこむ。

「そう、行ってはいけない方向へ、どんどん進んでいる」


■2007/05/17 (木) 17:22:00 組織の存在

「どこかで道を誤ってしまったということかしらね?」ネコちゃんが小首を傾げる。

「う〜ん、ていうかそもそもの最初から間違ってる気がする」

「はぁ〜?」ネコちゃん更に首を傾げる。

「人間の存在そのもののことよ。
 その辺りから、全能なる神とか不完全な人間とか、ちまたで言う宗教的な発想が出てきたのかもね〜」

「実はかおるさん、ここ数年で我々は、ある組織の存在を察知したんです」エルくんが突然へんてこなことを言い出した。

「そ組織?」

「ハイ。どうやら彼らは人間の不完全さを利用し、宇宙ごと混沌に導こうとしています」テーブルの上で細長い指を組んだエルくんが神妙に言う。

「あら、なんでまた?」

「理由は定かではありません。ですが今や彼らは強大な力をつけ、人間のこころも含む現代社会の中にかなりのスピードで侵入してきているようです」ジョーくんも顔色を曇らせて神妙に言う。

「はぁ・・・」

「かおるさん、気付きませんか?
 組織は幽霊にまつわる出来事の他に、緑の事件のことにも絡んでいるんです」

「緑の事件・・・」
そ言えばそんなこともあった。http://www.geocities.co.jp/Bookend-Ango/6014/midori.htm
あのときも我ながら結構すり減らしたよなー。

「あのことと、今回のわたしの周りで起きている出来事が、その組織で繋がっているわけ?」

エルくんとジョーくんは頷くかわりに、不気味に目を細める。

今まで起きた出来事を振りかえりながら、得たいの知れない(組織)なるものの存在を知らされた今、あらためて背中がぞゎゎゎ〜〜〜とする


■2007/05/20 (日) 09:45:19 トマト

いかんいかん、
気分を変えなくちゃ。

キッチンの隣りの居間に行き、窓を大きくあける。
雨が降っている。
森の中では沢山の鳥たちが幾重にも重なる声でさえずっている。

山桜はもう散ったのかしら?

今の時期、裏山では数本の山桜がひっそり花開く。
村の公園で大奥の女たちのようにきらびやかに咲く見事なサクラも好きだけど、どちらかというと控えめにほんのりと花開く山桜のほうが好きだ。

見上げるとどうやらサクラたちは散りかけて、徐々に葉桜に・・・。
・・・山桜が散る?

エッ、チョット待って!
ト、トマトの苗は?
幽霊騒動に巻き込まれてて仕事のことをすっかり忘れていた。

(ど、どーすんの?!)
このままじゃ今年の収入ゼロってことじゃないの?

未払いの支払いのことを思うと、違う意味でゾゾゾ〜としてくる。

「あら、かおるさん、顔色悪いわよ」愕然とした面持ちでキッチンへ戻ると、ネコちゃんが声をかける。

「ト、トマトのこと、忘れてた・・・」

「あぁ、確か今年は2200本ほどの栽培予定だったわね」

いとも簡単に言ってくれるのね・・・。

「今年はたぶんもう手遅れ・・・。ポットの土も詰めてないし、ハウスも準備してないもの」

もはや涙も出てこない。

「まぁどこかで放浪してたんだから仕方ないわよ」ネコちゃん、まるで人事。

「・・・また蒸発したい気分」わたしは呟く。

「あらあら、かおるさん(撃沈)」プ〜っ。ネコちゃんが小さく吹きだす。

「この薄情モノ」(もう二度とあなたに煮干を与えるものか)と心に誓う。

「かおるさん、そんなに落ちこまないでください」エルくんが言う。

「そー言われても、先立つものが無ければ生活していけないの」わたしは途方に暮れる。

「あのぉ、実は差し出がましいとは思いましたが、トマトの準備は済ませてありますので」ジョーくんがさりげなく言う。

「は?」

「幽霊会社にも直営の農場がありまして、今もそちらの社員が24時間態勢でかおるさんのトマトの管理をやっております」とエルくんが言う。

「ただし倉庫にある資材は適当に使わせてもらいました」とジョーくんが付け足す。

「ほハあぁ、そーなんですか、・・・・」なにやら急に明るい展望。

「かおるさん(浮上)・・・」ネコちゃんが厭味っぽく言う。

「では、お話の続きをお願いできますか?」四つの黒い目が、わたしの顔をじっと覗きこんでいる。


■2007/05/22 (火) 21:36:29 気がつくと

「・・・やっぱ、だめ、集中できない」記憶というものは、期待がかかるほど地中深く埋もれていく。

「たいした集中力もないくせに、何が集中ょ!」とネコちゃんは軽蔑の眼差し。

なんと言われようが、人並み以上の集中力もないし、自慢できるほどの記憶力もないので仕方がないじゃないの。

「まぁいいでしょう」エルくんが言う。

「きょうはこれくらいにしてわれわれは退散します」と言いながらジョーくんが立ち上がる。

「夕飯でも食べていけばいいのに」と、とりあえず社交事例的なセリフを言ってみる。

「冷蔵庫の中、なにも無いわよ」とネコちゃんが冷たく言う。

「あ、ありがとうございます。ご相伴に預かりたいのは山々ですが残念ながらわれわれは社に戻って、一仕事ありますので」エルくんが言う。

「それでは、きょうはこれにて」

そう言い残し、2人は風呂場のドアのほうに向かったかと思うと、その前でスッと消えてしまった。

気がつくと家の中には、やけに不気味な沈黙が広がっている。


■2007/05/23 (水) 08:56:56 沈黙というもの

ひよこ豆とアルマジロくんが去り、
ポーくんが去り、
エルくん、ジョーくんの二人が去った。

あとに残るのはいつも深い沈黙。
そして何故かその密度が徐々に濃くなっていく。

もし、その濃度が留まることなく濃ゆくなりつづければ、透明な気体のように密やかに存在していた沈黙が、やがてトロトロの液体に変わり、やがてそれが光をも通さない重苦しい固まりとなってしまいそうだ。

そうなればもはや沈黙というものが、圧倒的な存在感をもって辺りを支配しそうだ。

音の無い世界。

隔離された世界。

動くこともできず、声をだすこともできない。
沈黙に束縛された意識だけが音のある世界への出口を求めて彷徨う。

沈黙というものは生き物のように形を変えたり成長したり、力を持ったりするものなのだろうか?

よくわからないけど・・・、
何かが起きている気がする。

何か、良からぬ事が・・・。


■2007/05/23 (水) 13:24:30 音の行方

そういえば空を飛んでいた時、音がしなかった。

風の音も、自分の着ているものが風になびく音も、鳥の声もなにもしない。

彼女に出会ったときもそうだ。

彼女は確かにしゃべってはいた。

でもそれは声ではなく、声に似た意識が直接こころに反響してくるだけ。

あのときも、辺りには音というものがなかった。

どうしたんだろう?

何が起きているんだろう?


■2007/05/24 (木) 08:58:12 まずは、

そういえばあの時・・・。

あの冬の昼下がり。
確かにお勝手の蛇口からは水が滴っていた。
あのときも何故か音がしなかったのだ。

水は黙って蛇口から滴り、シンクを冷たく濡らしていた。
おそらくどこかのパッキンがバカになっていたのだろう。
水は、何日も何日もステンレスのシンクに向かって規則正しく滴り続けた。

一切の音をたてずに。

あのときの音たちも・・・いったいどこへ行ってしまったんだろう?

「かおるさん」

「・・・」

「かおるさんったら!」

「ん!?」

「なにをぼんやりしてるの?」気がつくとネコちゃんが足元にきてスリスリしている。

「ぁ、音のことを考えてたの」

「あのさー、どうでもいいけど、お腹空いたんだけど」ネコちゃんが戸だなのほうを見ている。

「あ、幽霊的缶詰が欲しいのね」

「幽霊だろうがなんだろうが、食べれればいいわ」

そういえばわたしもお腹が空いた。

音のことはさておいて、食べ物の買出しに行こう。
まずは腹ごしらえだ。

玉子と、牛乳を買ってパンケーキを焼こう。
よもぎとチーズを入れなくちゃな。


■2007/05/25 (金) 09:20:10 音タイム

銀行を回り、村の小さなスーパーで食材を調達。
玉子と牛乳の他にグレープフルーツを買う。
ずっしりと重いやつ。
蜂蜜をかけて食べよう。

黄色い大きなグレープフルーツを見ていると、ちょっと元気になる。

帰り道、車をまわしてトマトのハウスを覗いてみた。

(おおぉ〜〜〜!)
トマトたちはいつにも増してハウスの中でスクスクと育っている。

(幽霊会社の直営農場スタッフのみなさんたち、なかなかやりますね)

というか、わたしより数段上手いようだ。

(エルくんとジョーくんに感謝せねばな)

などと思いつつ、畑の周りでよもぎを摘み、家へ戻ってパンケーキを焼く。

さてさて、紅茶を入れてっと。
音楽が欲しいところだが、CDプレーヤーが故障しているので音楽は諦める。

でも、まぁ、パンケーキと紅茶とグレープフルーツがあれば言うこと無しだ。

こんなゆったりした時間を過ごすのはとんでもなく久しぶりの気がする。

フライパンの中でパンケーキが焼きあがる甘い匂いと、芳ばしい紅茶の湯気。
幽霊騒動があったことなどまるでウソのように平和。

あら、そういえばネコちゃんが居ない。

(静かなわけね)

モグラ狩りにでも行ってるのかしら?

まぁいい。

だって今は音があるもの。

フライパンの下の小さなガスの炎の音や、時計の秒針がコツコツと時と刻む音。

わたしの身体の中でこわばった筋肉が軋んだり、血管で脈が乱れたりする僅かな音。

狭いお勝手の中で、それらが微妙に混ざり合っている。

そこんとこが大事なの。

世の中はいろいろな音で繋がれてるってとこ。


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