拉致




 
女の方は上手くいったよ。オールバックの小奇麗な男はそう言った。
ルート66号線を大型トラックが直走る。砂煙を上げ、だだっ広い荒野にトラックが一台。
良くある事…良くある車だ。ただ、それは積荷が人間じゃあ無ければだが。  
「しかし、トムの事は残念だったよ」
ホウキのような頭の死体をさすりながら、別の男が言った。
―まさか、実弾が入っていたとは思わなかった―
どうやら、何かトラブルがあって、仲間が死んでしまったらしい…ただ、それ以上は聞く気も無いし、【運転手】として雇われた私が、聞ける身分でもないので止めておいた。
そう、今の私は【ペーパードライバー】為らぬ【ペーペードライバ…】余りにも下らないジョークを想像していると、また話し声が耳に入る。
 「ビリーは予定どうり殺したし、後はこの黄色の猿の番(つがい)を乗せるだけだな…そしたら、海岸に向かって車を置けば任務終了だ。やっと美味い酒に有り付けるぜ」
 後部座席の会話を聞き、物騒とは思ったが怖くは無かった。この国では当たり前に起こる事だし、最近じゃあ企業同士の誘拐事件だってある。
 ただ、今回のケースは実に珍しい…亜細亜系の少年等の誘拐。特に、良いトコのお坊ちゃまにも見えないし、金も持って無さそうだ。それなのに、今回の仕事はかなりの額が私の懐に飛びこむ。不可解で為らない。
 丁度一週間前の月曜…斡旋屋のマイクに話を持ちかけられた…話はこうだ。 運転手。場所は66。報酬は1万$。
 私は、思わず口に含んでいたコーフィーを吐き出しかけ、二度同じ事を聞きなおした。それは本当か? と。
 彼の返事はコクリと頷くだけ…次の瞬間に俺も彼を真似るかのようにコクリと頷き、仕事の約束はそれで終わった。
 「しかし、これだけで10万$とは…笑いが止まらねぇな」
下品な笑いと共に、後ろの男共も金の話を始める。後ろの男達は10万…まぁ実行部隊だ、それは良い。しかし、こんな子供達にそんな価値が何故あるのか? 私は目の前の金よりも興味という褒美に飛びつきたい衝動に駆られた。  
しかし、このような仕事で理由を聞くのは一番してはいけないタブー…。自分の好奇心を何処まで留められるか…少々不安に為りながらも、待ち合わせ場所…つまり【亜細亜の番】を乗せる場所につき、車をストップさせる。
 後部座席に二人の男女が乗り込むと、直ぐに行けと合図を出され、私は再び車を発進させた。
まだ幼さの残る顔立ちをした、亜細亜系の可愛らしい女が、やはりメキシコ系の大男に担がれていた。同じように薬か何らかの方法で昏倒させられたのだろう。それもやはり、私には関係無いことだが…。
 「イヤッホー。成功だぜ!」
メキシコ系の男が加わると、車内は更に熱気に満ちた。
皆一様にいやらしい笑みを浮かべ、目の前の小さな欲望を大声で叫ぶ、叫び散らす。
こいつらは本当に同じだ。犯罪者ってヤツはみんな同じ…汚い。見た目も中身もだ。
いやいや、自分も同じじゃないかと思うと、口元が自然とにやけた。同じか…。
 「オイ! さっさと行かねぇか! ちんたら走りやがって!」
例のメキシコのガキが俺に向かって叫び散らした。俺は例によってソレを無視することにした。
「クソっ…胸糞悪い野郎だ」
全くだ。だとか、アイツを殺して俺等の分け前を増やそう。だとか【例】によって陳腐な言葉を連ねている、全く同じだな。こいつら犯罪者は…【全く同じ事を考えてる】
 足元に丁寧に隠して有るイングラムM10サブマシンガンを見やると、思った。
「金を受け取った瞬間…あるいは、依頼者ごと…」
 ふと気がつくと、何故かアクセルを踏む力が強まるのが分かった。 
グンと体ごと引っ張られるように加速し、ただでさえ砂埃の激しいルート66を砂まみれにする。
残り、数十キロ…考える時間はまだ有る。答えを焦るな、、、。
 そう自分に言い聞かせると、初恋のような胸の鼓動を必死で押さえ、ハンドルを握りなおした。
  



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