◆ 始まりと終わり ◆ 悲鳴も怒号も何処かに消え失せ、其処に居た人間達さえも消えうせ、其処に自分が居ると言う事さえ、消え失せた。 自分と言う、七原秋也と言う一個の人間が其処に存在するという事を少しづつ思い出しながら、今自分自身がやるべき事を考えたが、もはや祈る事が最善なのだ。もう、得体の知れない何かの力でも借りなければ、今の状況を打破する事は出来ないのだ。そう考える事しか出来なかった。 それでも数秒だか、数分だかの時間がたつと、自然と心は落ち付きを取り戻し、SMGの弾丸など軽く突き抜けるほどの、薄っぺらい命の壁とも言えるテーブルの隅から秋也は少しだけ顔を出し、奴等の存在を確認した。 裏口のドアの前の男は、ピクリとも動かずに、壁にもたれ掛かっている。カウンター前の男二人は、互いに正座の姿勢で神でも仰いでいるかのように倒れており、ドアの男と同じようにピクリとも動いては居なかった。 ――OH! 土下座ナラヌ ″土下寝″ド・ゲ・ネ! ダイトーアデハ″最良″ノアヤマリカタネ。オケーイ、ボブ? テストニデマスヨ〜―― そうして、ようやく。本当の意味での心の落ち付きを取り戻し、ふぅ。と長いため息を吐くと、目の前に転がっている、トカレフTT33に言った。 「お前と言う存在は心底消えて欲しいと思うが、取りあえずは、また助けられたな」 もう一度だけため息を吐くと、すっと立ち上がり、店内を軽く一瞥した。 奴等のほかに倒れているのが、二人。ジュークBOX脇の壁にもたれ掛かっているのがシャック。(どうやら、無事だったみたいだ)そして、ビリー。 ―オーケイ。上手くいった。天才ショート七原秋也の新たな夜明け、今日からはクリントイーストウッドも顔負けの西部のガンマンってか?― シャックに手を差し伸べると彼は言った。クソッタレ野郎! と。 それから、鋭いボディブローが一発とそのまま左でのアッパーを顎に食らい、止めと言わんばかりの打ち下ろす右。いわゆる、チョッピングライトを左こめかみに食らうと、意識が薄れそうに為った。 けれど、それでもニコリと笑顔を見せ、シャックに言った。 「…これで…おあい……こだよなぁ…」 「足りねぇよ。こんなぁものじゃ」 そう言うと、シャックはガハハと笑い飛ばし、崩れ落ちた秋也に手を貸すと、ビリーのもとへと向かい、言った。 「こいつでお終いだな。俺の人生も…ジーザス。神よ、我に救いを」 祈るようなポーズで天を仰ぐシャックが溜まらなく可笑しかったが、それはまぁどうでも良かった。とりあえずは、狂い掛けたビリーが気がかりでしかたなかった。 バーの片隅の一角。ビリヤードのキューの置いてある隅にちょこんと座り込むビリーが見えた。 それは、まるでこのバーの置物のひとつかのように、本当に申し訳なさそうに『ちょこん』と‘置いて‘ あり、たまらなくおかしかったが、彼の表情は誰が見ても 常人のソレとは違っていたのが分かった。 「どうした。ビリー坊や…ママの悪口でも言われたのかい?」 シャックが聞く。だが、返事は無かった。 「さては、一物の事を貶されたか、もしくは…」 やはり、返事は無かった。中空の一点を見据え、まるで霊能力者のソレのように何か得たいの知れないものを見つめてるかのごとく彼は目を動かさなかった。 ふうと、諦めたようにシャックが一息ため息をつくと、家の便座に座るように腰を下ろし、ビリーを担ぎ言った。 「とにかくは、ココを出よう」 オーケイと言い、腰を上げると出口へと向き…。 本当に一瞬。何か得体の知れない音が耳を叩き、言いようの無い不安が胸の奥で蠢いた。 昔…本当に大昔の話だ。まだ、恐竜が世界を支配していた時ぐらい気の遠くなるくらい昔に聞いた音。 とにかく、七原秋也は後ろを振り返ったのだ。明日しか見ない男だが、後ろを見た。 やはりと言うか、いやはや…その音は人間の命を絶った音。肉を切り裂き、骨にぶつかりソレを削る。 まさか、シャックさん…そんな所からナイフを出せるなんて、俺は聞いちゃいない。 どうして、額からナイフが出せるんですか? えっ、タネは教えないって? そりゃあ、永遠に聞けないでしょうね。死んでいるんだもの。
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