◆ 再びアメリカの何処か ◆
少年と呼ぶのは遅すぎる。
青年と言うには早すぎる。
中学三年生とは、未熟でいて、成熟された人間達なのだから。
丁度、大東亜テロリズムの直後、俗に言う、世紀末問題の後。私は彼に出会った。仕事に煮詰まり、何か面白い事は無いかと、情報屋のビリーに連絡をすると「だったら、彼が一押しだ!」と。
霧雨の降る10月頃だったと思う。なぜか、待ち合わせは、郊外の下町の路地。下町と言っても、ここを大東亜のソレと同一に捉えて貰っては困る。
何しろ、あの国ほど日常生活が平和な国は無いのだから。あくまでも日常生活に限ってだが。
まぁ、ソレはともかく。ここはアメリカなのだ。下町と言えば、ギャング見習や流れ者の所謂、大東亜風に言えば【ヤクザ】と言う人種がうろうろしていた。私自身、この手の場所で記事作りの為に走り周り、大怪我をした事も有る。それも今は、良い勉強って奴だが。
それにしても、その日はえらく冷えた。細かい雨がジワジワと気温を下げ、私の安物のコートではその寒さを堪えるのは一苦労だと感じた。震える手を掲げ、時計を見ると。午後4:30。待ち合わせ時間ぴったり。
時計から視線を戻すと、たむろしている少年の群の中を掻き分け、真っ直ぐ此方に向かって来る影が視界に入った。
チャイナ系の大男。イヤ、身長はそれ程でもない。何か、強烈なオーラと言うのか? その手のモノを彼から感じた私は、コートに忍ばせた、護身用のスミス&ウェスンを構える。
3m。「まだだ、まだ抜くな」自分に言い聞かせ、スミス&ウェスンのハンマーを下げた。
2m。手に汗が滲んだ。まさかこの距離、抜けば正確に奴の身体にヒットするだろう。
けれど抜けなかった。何処で抜いても、返り討ちに遭う自分しか見えない。
1m。もう、どうやっても私は死ぬ。ソレしか考えられ無い。
自慢ではないが、私は数々の修羅場を潜ってきたつもりだ。しかし、今回は違う。身体の全細胞が悲鳴を上げ軋む。死にたくないと。
けれども彼は其処で止まり、両手を掲げた。完全降伏のあのサインをして、ニヤリと笑うと手のひらを返した。
「おいおい。俺は何も持っちゃいないぜ」と身体で示す。
私の緊張は解け、彼が何をしに来たのかも其処で理解できた。
「君が……ミスター……」
寒さと緊張で、上手く口が開かない、しかし、彼が私の代弁をする。
「リバーだ」
酒と煙草でしゃがれた声のような低音に狼の遠吠えの様に腹に響く声。聞いた通りだ。どうやら、私はとんでもない人物の取材をするらしい。
鷹のような鋭い眼光と、顔中には無数の傷。決して、真っ直ぐ平坦な道を通ってきたとは思えない。幾つか、命のやり取りをした風貌。そんな男が、私の前に立っている。
彼は、開口一番こう言った。
「本業は医者かい?」
驚いた。私は三流ゴッシプ記者を生業しているのだが、裏では、非合法の開業医をやっているのだ。彼は私の驚いた顔を目にし、続けてこう言った。
「右手の指に丸い痣。それとアンタの身体は少しばかり匂う。薬品の匂いだ」
慌てて、右手をちらりと見やり、くんくんと身体の匂いを嗅いだ。続けて彼は言った。
「少しばかり、その道を経験したんだ。俺は。」
そう言うと彼は手元に持った煙草を差し出した。
「すまないが、私は煙草は吸わないんだ。ミスター・リバー」
彼はおどけて口笛吹き、自分の煙草に火をつけた。
「私は、サム・ガディスだ。サムで良い」
片手を差し出し握手を求める。大きく力強い手が私の手を掴む。
「サム。握手も良いが……」
そう言うともう一方の手を掲げ、親指を立てた。
「熱い、コーヒとパンケーキでもどうだい?」
「それは、良い。大賛成だ。ミスター……」
彼は私の口を抑え言った。
「リバー・・・で良い」
また、おどけた表情を浮かべ、彼が咥えた煙草を「っぺ」と吐き出すと
私達は、路地裏のカフェに向かった。
<<前へ戻る♀次へ進む>>
祖国TOPへ
|