◆ 記者 ◆ 私達は路地を曲がって、直ぐのカフェに入る事にした。 路地裏の小汚い外見とは裏腹に、店内はすっきりとしていて実に居心地が良かった。何しろ、外はあの寒さだ。暖かい場所こそ何よりなのだから。 席につくと、熱々のコーヒーとパンケーキを二つづつ。それに、Sサイズのミートローフを頼み、早速仕事に掛かることにした。 肩に掛けた10年来の相棒のバッグを掴み、中から小さなノートを一冊。それに、万年筆と小型のテープ・レコーダを取りだし、それらをテーブルに並べ、彼に聞いた。 「良いかな?リバー」 静かに頷くと、彼はまた、ポケットから煙草を取り出した。 <ワイルド・セブン>大東亜カタカナで書かれた珍しい煙草。ついさっき薦められた時は気づきもしなかったが、落ち付いて見るとソレは異様だ。あの国の煙草は輸出禁止され、あの国以外でソレを見る事は、極めて稀である。 わざわざ、危険を犯してまでその煙草を吸うのは「相当な阿呆」か「相当な天邪鬼」かのどちらかだ、多分彼は後者だろう。少なくとも阿呆とは思えない。 「知り合いが送ってくれるんだよ、不法入国者の船と一緒にな」 さらりと【不法入国】という言葉を用い、彼は煙草を一本取り出しソレを咥え、火を灯すと煙をくゆらせた。 すかさずテーブルの上のレコーダーに手を伸ばし、そしらぬ顔でスウィチを入れると、レコーダのテープがカチッと鳴るのを待ち、私は言った。 「と言うと、君は大東亜から逃げてきたのかね?」 ふう。と勢い良く煙を吐き出すと、彼は言った。 「なぜ、そうなる?たまたま。そう、偶然この煙草が気に入った物好きとは考えられないか」 彼はテーブルに身を乗り出し、続けた。 「けれど。それは鋭い推理だな、サム。では、俺があの国からの脱走者であると仮定して話を進めてみようか」 再び煙をくゆらせると、さあどう来る? と言わんばかりの表情で此方を見た。 オーケイ…乗ってやる。必ず本音を吐き出させてやるさ。 「OK。では、君はあの国からの脱走者。ココまではいいね?」 右手を挙げ【続きをどうぞ】の姿勢を見せた。 「何故逃げてきたのかな? 話によると豊かな国らしいじゃないか」 ふっと笑った気がした。が、構わぬ続けた。 「諸外国への工業製品や農作物の輸出も多い。ただ、人間その物が輸出される事は難しいらしいが……」 相槌どころか、顔色すら変えずに彼は此方を見やっている。 私はたまらず話を逸らした。 「まぁ、それはいい。では、いつこの国に逃げてきたんだね」 彼は、煙草を消し、言った。 「2000年…頃かな。良く覚えていない。いや、覚えちゃいないな」 ――2000年。丁度、大東亜テロリズムが沈静した頃―― 「テロの後か…?」 問いただす様に言うと、彼は小さく頷いた。 暫く沈黙が続いた。互いに何かを切り出す瞬間を待った。だが、カフェのウェイトレスがコーヒーとパンケーキを運び、暫く。沈黙は破られた。 「あの国の中学生の今一番ホットな話題は何か知ってるか?」 彼の問いに、私は「いや」と答える。 「まるで、入れたてのコーヒーのように…三年間話題になることがあるんだ」 「それはどう言った話題なんだ。リバー」 ……プログラム。そう言ったように聞こえた。熱々のコーヒーに砂糖を二つ入れ、私は問うた。 「プログラムと言うと。学園祭や何かか?・・・そうだ。あの国は【運動会】と言うのも有るらしいな。一年中、何かしらの【プログラム】を用意しているのかい?」 ずずっと、コーヒーを啜る音が止まり、彼が申し訳なさそうに笑った。 「サム。アンタ、子供は?見たところ、もう結婚して。子供が居てもいい歳に見えるが?」 確かに。私は今、48歳。今年で49に為るぐらいだから、彼がそう思ってもしょうがないか。ふっと鼻で笑い、私は言った。 「残念だが、子供は居ない。勿論、奥さんもだ。それがどうかしたか?」 彼はそうかと、言った顔で答えた。 「では。また仮定しよう。君に子供が居ると。」 私がオーケイと言う。 「そう…子供は今、中学三年生の……女の子にしようか?」 「反抗期為りたてだな。しかし、きっと可愛い子だろう。私の子だ」 ニヤリと笑い、彼の仮定した話に乗った。 「すくすくと育ったサムの子供の女の子。たいした病気も、怪我も無く…」 「なんだい。御伽噺か、リバー?」 …だと良いがな。と聞こえた気がした。彼の顔が一瞬にして鋭いハンターに変わる。 「可愛いサムの娘は、理不尽なプログラムに選ばれてしまいました」 「サムの娘はそれでも、頑張りました。一生懸命頑張りました」
言葉の端々が怒りに満ちている。そんな言い方で彼は続けた。
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