◆ I・D ◆ ほんの少しの間、二人とも他の物には目もくれず、目の前のパンケーキを食らった。パンケーキを八分目ほど平らげた頃に、遅れて出てきた熱々のミートローフも一口食べ、北部育ちの私には合わない味だったから、彼に食べてもらうと、ほんの数分でテーブルに並んだ皿は綺麗に片付けられた。もう温くなってしまったコーヒーを一口啜り、ふう。と息を吐くと彼との会話を続けることにした。 ジッポライター特有の金属音が鳴り響き、あのオイルの匂いが鼻にツンと来る。 「食後の一服って奴かい。リバー」 彼は、ゆったりと煙をくゆらせると言った。 「食事。排泄。性交。共通する事が分かるか、サム?」 「全て、煙草が美味い瞬間だろ?吸わない人間でも分かるさ」 自身満々に私は言った。昔、付き合っていた女から聞いた事。もう、10年以上前かな。 「ご名答。けれど、他にも有るんだよ。サム。」 「他に…も?」さっぱり、分からないと私は言う。 「オーケイ。いいだろう。例え煙草を吸わない人間でも、食事と排泄。それにSEXは本能が求める、最高の快楽だろ?」 「そうだな。真っ当な人間なら誰もが望む。それが?」 肺に詰められた煙を、おもいっきり吐き出し、彼は言う。 「世の中って奴はよく出来てる。ろくに学校に行っていない俺でも、それは感じるよ。世の中ってのは、必ず裏と表が存在する。」 ああ、と私が頷き、彼は続けた。 「例えばそう。殺し屋ってのはターゲットのどんな状況を狙うと思う?」 「…寝込み…かな。そう、私が殺し屋なら寝込みを襲うよ、リバー」 彼は、ノン。とはっきり告げた。 「本物の殺し屋ってのは、一服している最中を襲うんだ。人間ってのは、目の前の欲望を貪ってる最中は全くの隙だらけだと思うだろ?」 「けれど、それは違うんだ。その時こそ、本能的に危険を察し易い時間。身体が、勝手に警戒するんだ」 「つまり、どう言う事だ?リバー」 彼は、ニヤリと笑い言った。 「アンタは長生きするって事だ。サム」 それはそれは。嬉しい限りだ。素直にそう思った。きっと、私の人生では殺し屋に狙われる事も無いと思うが、やはりイヤな気はしないものだ。 「そろそろ、本題に入るかい。サム」 そう言うと、再びテープレコーダーのスゥイッチを押した。今度は、私では無く彼が。 「本音を聞きたい。あの国の、そして君の本音を」 今度は真っ直ぐ、直球勝負だ。さぁどう出る、ミスターリバー。 「良いだろう。どうせ話すつもりだった」 彼は煙草を消し、あの【プログラム】の話をした時と同じ真剣な表情に戻った。 「だったら、あの国の社会的な部分を語るよりも、さっき言ったファッキン・プログラムの話をした方が良さそうだ。少し長くなるが、良いかいサム?」 ああ。元よりそのつもりだ、短いインタヴューで帰ろうとは思っていなかったからな。私は小さく頷き、彼は続けた。 「プログラムってのは、アンタが考えてる幸せお遊戯とは違う」 本当に一瞬俯き。それからまた彼は続けた。 「あの国が馬鹿みたいに統制のとれた国家なのはちゃんと、理由が有るんだ」 彼はそれから、怒涛の勢いで喋り続ける。それを逃さず私は聞く。 信じがたい話。プログラム…の… 彼と分かれた後、一掃強くなった雨を受けながら、私は岐路についた。去り際に彼から一つのIDを渡された、彼の住んでいた国の学生証。当然、私には大東亜文字は読めないが其処にはこう記されている。
「白岩中学校
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