落涙卯月 前編 歌わされたのは涙歌




4月のある日。Dに歌を歌わされた。そういう拷問でした。


「恋しく〜て〜、泣き出し〜た〜、日々な〜ど〜もう、忘〜れ〜たの〜。」

「まぁ...1、2ヶ月でどうにかなるもんじゃないんじゃないの?わからないけど。」

「今さら〜は〜、もどれな〜い〜。傷つけ〜あった日々が〜長〜すぎたの〜。戻る気〜は〜、ないなん〜て〜、」

「電話もらった時のあの取り乱し方は尋常じゃなかったしね。」

「嘘を〜ついて〜、笑って〜ても〜、信じて〜た〜...もういち〜ど〜.....」

「あれはもう、ああ、壊れたな、って感じだったから...歌、止まったよ。」

「ワークブーツに履きかえ、赤いジャンパー引っかけ、夜明け前の湾岸道路を...」

「ははは。長渕だ。」

「Oh,my JEEP 悲しくてやりきれなかった。Oh,my JEEP 愛されていなかったのかも。Oh,my JEEP 不安ばかりの夜だった。Oh,my JEEP 俺は今海を見に行くところだ。Driving with my JEEP...」

「不安ばっかり?」

「そうかも。」

「なんで?」

「さぁ...ただ初めから別れることになる、ていう予感はあったから。」

「そんなこと考えて付き合ってたの?」

「いや、考えてたんじゃなくて予感だから。」

「予感...ネガティブだなぁ...はは。」

「終わりの瞬間の画っていうのが浮かんでしまうんだよ。なんでだろうね?」

「あはは。知らない。ネガティブだからじゃないの?すごいネガティブ。」

「それでもこうはならない、こうはならない、と思ってやってたのだけど。」

「いや、それがすでにネガティブ、っていうか...あははは。そこまでいくと面白いね、なんか。歌は?」

「...忘れて〜しまいたい〜ことや〜、どうしようもない寂しさに〜、包まれた〜とき男は〜、酒を〜飲むの〜でしょ〜う...」

「あははは!!古いな。」

「いいんだよ。こういう時だから飲むっていう歌なんだから。また一つ〜、女の方が偉く思えてきた...」

「男のずるさが見えてきた?」

「うん。見えた。っていうか僕が。」

「ははは。劣等感強いな。どうせなんかプレッシャー感じてたんじゃないの?」

「う〜ん...今にして思えばそうかもしれんね。どうやっても僕とでは勿体無い相手なのではないかと考えてしまうのですよ。」

「なんで?はははは...ちょっとごめん。笑っていい?」

「.....」

「あはは...はぁ...いや、そこまで面白いと。申し訳ない。でもそれってそんなふうに考えてたらどうしようも...」

「うん。実際にどうしようもないと言われた。」

「...言われた?あははは。じゃあ、そのプレッシャーはそのまま向こうに伝わっとるではないですか。」

「だろうね。それが原因なのも分かってるからもうそれはいいよ。後悔だらけだけど。後悔はもう趣味だから。」

「あははは。ははは。」

「面白いですか?そうですか。」

「うん。だって勿体無いって言ったって...その上で好きだったんでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、相応しい人ってのはどういう人のことなのさ?」

「さぁ、わかんないね。」

「当たり前だよ。普通そんなこと考えないもん。考えても普通は感情の方が勝つはずだと思うのだけど。」

「う〜ん。なんかそれでもやっぱり向こうはすごい。もうなんか、なにがなんだか訳がわかんなくなってたね。途中から。とにかく必死だったんだけど...」

「好きなのは好きだと自分で分かっていながら付き合ってる自分に疑問を感じるの?はははは。すごい矛盾の仕方だよ、それ...歌止まってるよ?」

「...好きです、好きです、心から、愛していますよと〜、甘い〜こと〜ばの裏〜には〜一人暮らしの〜寂しさがあった〜。」

「また長渕。」

「寂しさゆ〜えに愛が芽生え、お互いを知って愛が終わる...」

「なかなかいい詞やね。」

「はぁ〜...もうなんか、泣きたくなってきたよ。自分が嫌になる。気が滅入る。」

「うん...ダメ。でも歌え。」

「え〜...風に戸惑う弱気な僕、通り過がるあの日の影、本当は...」

「あははは。時期が違うね。」

「...あんなに好きな女性に出会う夏は二度とない。人は誰も愛求めて、闇をさまよう運命...」

「.....」

「めぐり逢えた瞬間から死ぬまで好きと言って、鏡のような夢の中で微笑をくれたのは誰?好きなのに泣いたのは何故?思い出はいつの日も...雨」

「.....少しは気が晴れた?」

「全然晴れない。」

「だろうね。」

「なんだよ、それ。」




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