落涙卯月 後編 ある床屋さんの話




「あ〜、だめだね。Dと話してると自分の矛盾がボロボロ出てくる。やっぱり最低だ。死んだら笑ってくれる人がまた一人増えた。」

「あははは。結局矛盾を受け入れられるかどうかも優しさの問題だよ。向こうもさ、矛盾を受け入れたからもう無理だと思ったんだよ。とりあえず気づかないよりは分かってた方がいいと思うのだけど。」

「...なんかよくわかんない。でもなぁ。とりあえずそうやって何か言われても嬉しかったりもするのだけど全部終わった後だしなぁ。」

「はぁ...切ない。」

「いや、そんな苦笑混じりに言わなくても...また取り返しつかないことしたなぁ。僕の記憶の中こんな罪作りなんばっかり。毎度のことだけど疲れた。こういうことの度に矛盾が出てくるんだろうね。頭悪いから償う方法すら分からない。取り返しつかないから聞くことすらできない。」

「まぁ、好かれるより好きでいる方が幸せだって言うし。嫌いにはなれないんだったら引きずるだけ引きずってりゃ良いさ。」

「...それは突き放してるのか慰めてるのかどっち?」

「いや、気休め。」

「...」

「...人って何か対人でも物でも好きになるよりも嫌いになることで自分の位置というかスタイルみたいなのが決まってくるらしいよ。」

「え?」

「スタイルっていうか...基本的な物事に対する姿勢というか。」

「...嫌だよ。嫌いになんかなりたくない。」

「ほら。嫌いになるっていうことを嫌ってる。」

「え〜。それはなんかうまいこと言い包められてるだけやないの?」

「そんなもんだって。全部を好きでいることは無理だよ。必ず何か1つは最初にあるものだよ。それがあるから好きなものもでてくるし。好きだったものでも嫌いになることもあるよ。」

「でもなぁ。ある期間を経て嫌ったり嫌われたりってのは辛い。もうたぶん生きてる間は無視されっぱなしなのは分かってるだけに余計に。なんでこうなるんだろう...」

「.....」

「...やりきれないね。好意を持つと不幸になるのは。大好きなのに結果として傷つけて遠ざける。分かってたことなのに。」

「幸せになりにくい主義だよね。好きと嫌いで精神的に生きるか死ぬかが絡んでるしね。幸薄い。せめてもうちょっと何かきっかけがあればね。遠距離だったのもあるんだろうけど。どこまでいってもすれ違いだよ。」

「ははは。うん。全部自分が悪いのは分かってるよ。自分責めて何がどうなるわけでもないけど事実は事実なので。でも今更ここから変われないから。何と言われても一度好きになったのを嫌いにもなれないし。こうやって不幸が積み重なっていくのかねぇ。ホント切ない...どれだけ頑張っても幸せになれない人ってどういうんだと思う?どうなるんだろうね?」

「さぁ...とりあえず幸せにしてくれそうな人を探すんじゃないの?」

「そういう人がいなかったら?そんな余裕すらないかもしれないよ。」

「そういうのを鬱病って言うんだろうけど...どうなるんだろうね?...床屋さんの話したっけ?」

「いや。何、それ?」

「あの広い公園の手前の交差点にあった床屋さん。今もあるんだけどそこで前にやってた床屋さんが今のLと少し似たような状況だったよ。」

「え?何それ?行ったことあるよ、あそこの床屋さん。何年も前だけど。」

「そうなの?髪切ってもらった後紅茶入れてくれるんだよね。」

「そう。葉っぱとかいっぱいあったんだよ、なんか。覚えてるよ。」

「その床屋さんもLと同じような状況だったんだよ。物静かな感じだったよね。背高くて。柔らかそうな感じだったけど色々抱えてたんだろうなぁ。」

「何それ、状況って?どうしたん?」

「突然お店を閉めて遠くの実家近くの林で首を吊ってたんだって。」

「.....なんで?」

「だからLと同じような状況だったんだよ。夫婦でやってたんだけどね。」

「.....なんで?そんな風な記憶ないよ?なんでそれを知ってるの?」

「床屋さんの奥さんに話を聞いたから。」

「いや、なんで話を聞くの?」

「なんでって言われても...」

「.....」

「一度付き合ってた時期があるのなら余程のことがない限り死んで笑われるっていうことはないと思うよ。ホントもうあんな床屋さんのようなのは見たくない...脅すつもりじゃないんだけど。」

「.....なんていうか...でも余程のことしちゃってるよ。どうしようもない。床屋さんのことはわかんないけど電話した時はなんとなく自己矛盾に首括りたくなってたよ。今もそうだけど。でもなんだかね。好きであることを放棄できないからさ。これも矛盾だね。この世の全てに嫌われてるようなところの自己憐憫とか。でもここからあの人が好きになってるのは嘘でもなんでもなくて。あ〜、わけわかんねぇ。矛盾だらけで整理できなくて結局そのまま思ったことぶつけることしか出来なくてそこが嫌われて...自分が嫌いになってでも相手は好きで。あ〜、わけわかんねぇ。阿呆だ僕は。」

「結局矛盾て解決するようなものでもないし。」

「う〜ん...先がない。幸もない。自分がさっき言ったみたいな人になる予感がするよ。」

「考えすぎだよ。」

「でも考えない方法なんて考えられないよ。」

「ああ、それも矛盾だね。」

「あ〜、絶対そのうち気が狂うよ、僕。」




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