| TGの入学式 前編 |
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近所の公園に立ち寄り、水道の水で濡らしたタオルで砂や傷のついたランドセルを拭きました。所々に少しだけ白い傷が残ったけれどまだまだ真新しいランドセルの艶が戻り、TGにそれを見せると安心してなんとか泣き止んでくれました。 濡らしたハンカチで泣き崩れたTGの顔を拭いて公園を出て、改めて小学校を目指すと道中徐々にキチンとした格好の親子連れを見かけるようになり、小学校に近づくに連れて手を繋いで登校する2人連れがぞろぞろいて、たまに「宜しくお願いします」などと自己紹介等をされたりもして、横にTGがいるのになんで自分がここにいるのか分からない、訳の分からない違和感と緊張感に吐き気がしてきました。 小学校が見えてくると校門のところに巨大な「入学式」と書かれた看板があり、門の周りは花で飾られていました。ぞろぞろと母親連れの新一年生が中に入っていっていました。父親連れで登校してきている人はほとんどと言っていい程おらず、なんだかただでさえ親でもないのにここに来てしまった自分に嫌悪感さえ覚え始めました。 門をくぐり、校舎に沿って体育館の方へ子連れの母親たちに混じって、別に見られてもいないのになんだか視線を受けてるような神経過敏な状態でビクビクしながらゆっくりと歩いていくと、長いテーブルのところに教師らしき人が2人が座っていて、周りにも教師っぽい人たちが立って子連れの母親たちを体育館内へ案内していました。 「.....」 「ねぇ、行こう行こう!」 「うん...」 自分一人だけが親ではないという変なプレッシャーに押し潰されそうになって、足が震えそうになるのを必死で押さえ付けようとじっとしていると、すっかり機嫌が良くなって入学というものにワクワクしているTGに急かされてもうすっかり困惑してしまいました。 「おはようございます。御入学おめでとうございます。」 「!」 いきなり後ろから声を掛けられてビックリして慌てて振り返ると、50歳くらいの男性がにこやかに立っていました。 「うあ、ああ。ああ。おめめ、う、いや...ありがとうございます!」 「...?新一年生の保護者の方ですよね?私、教頭をしております、Hと申します。この度は御入学おめでとうございます。御名前は?」 「きょ、教頭!...先生ですか.....あ、ほら。TGも自己紹介して下さい。」 TGはじ〜っと教頭先生を見つめながら深々とおじぎをして自己紹介をしていました。今までなんとなく心配だったのだけどこういうことのちゃんと出来る子供で一安心しました。僕とは大違いだ...TGのしっかりした自己紹介を聞き、自分の妙な緊張がものすごく恥ずかしく、バカバカしくなりました。6歳の子供に完全に負けた気がしました。 教頭先生に教えられて体育館横に掲げられたボードに新一年生のクラス分けが書かれていることを聞きました。さっき見たテーブルのところでは入学式の受付が行われていて、そこでTGの名前を告げて、確認を終えてボードの方へ行こうとTGの方を見ると同じく新一年生の子と思わしきグレーのスーツを着た男の子がTGに話しかけていました。 「7丁目に住んでんの?あそこの坂のところ?」 「...うん。」 「へぇ〜...あんまり近くないね。僕は5丁目に住んでるよ!」 TGはいきなり話しかけられたことに驚きながら、人見知り気味ながらも徐々に笑顔で何やらテレビとかアニメの話とかしていました。しばらくその様子を眺めているとその男の子の後ろからその子の母親らしき人が来て挨拶を交わしました。 「TGは3組だってよ。あの子は何組なの?」 「...さぁ...知らない。U君っていう人。」 「ふ〜ん...でも3クラスしかないから一緒のクラスじゃなくても会えるかもよ?」 「うん。」 体育館に入ると後ろの方の椅子には保護者の母親たちがズラッと座っていて、本当に父親連れで来ている人は居ませんでした。幾分気が重くなりながらどこにどう座っていいかも分からず、どうしたものかととりあえず赤いランドセル片手に立ち尽くしていると先生と思しき人にまた声を掛けられました。 「あの...とりあえず新一年生の子達は一度教室に御案内して後から入場という形になりますので、保護者席の方へ宜しかったらどうぞ.....とりあえずランドセルの方、教室に置くところありますので...」 「あ...はい。すいません。」 腰を屈めながらその優しそうな女性の先生はTGに微笑みかけ、TGはそれをいつもの無表情な目で受けて肩に手を置かれ、「教室へ行こうね」と声を掛けられていました。それを遠い目で見ていたら、また先生が僕の方に上目遣いで視線を向け、ジ〜ッと僕を眺めだしました。突然のことに驚いて、その笑顔の先生を硬い作り笑いで眺めました。 「.....」 「.....あの...」 「はい?」 「ランドセルをお預かりして宜しいですか?」 「うあ!すいません...ああ!すいません!」 慌てて肩から下げていたランドセルを取り、TGの方へ差し出そうとすると止め具が甘くなっていたのか、何故か振り回されたランドセルの中からTGの上履きや筆箱が飛び出して先生の頭にバシバシと降り注ぎました。 |