| TGの入学式 後編 |
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落ち着きなく保護者席の前の方に腰掛けているとあちこちから母親たちが小さな声で談笑しているのが耳に入ってきました。その声のせいで何故か緊張が高まりました。前の舞台上では先生がマイクのチェックを入念にやっていました。 先生たちが舞台の斜め前、向かって左側に次々と腰掛け、全員の先生方が揃ったところで司会の先生が開会の挨拶を始めました。なんだか本当に場違いなところに座っている気がして、違和感を通り越して面白くさえ感じ始め、自分が小学生の時を思い出そうとしたのだけど、その頃の記憶は全く無いので妙な新鮮さもありました。 舞台の脇で司会をしている先生はよく見るとさっきの教頭先生で、その教頭先生の言葉が掛かると後ろのドアから先生に導かれて2人並んで手を繋いだ新一年生が入ってきました。その途端に僕の隣に座っていた母親がガタッと立ち上がり、思いっきりフラッシュを炸裂させながら連続して3枚写真を撮り、急いで座りました。座ると静かに両隣りに対して「どうもすいません。」と言いましたが目が笑っていました。その母親は新一年生が退場する時も自分の子供が来るところに狙いを定めていきなり立ち上がりました。その他にも後ろの方で写真を撮っている人は結構居ました。 TGのいる3組が体育館の真ん中に出来た道を歩くころになると僕もそちら側を見てTGが来るのを待ちました。TGは前から4番目で男の子と手を繋ぎながら歩いてきていました。TGと手を繋ぐ男の子はニコニコしながら手を振っていました。TGは無表情でまっすぐ前を見ていました。 教頭先生の合図にしたがって壇上に上がった女性の校長先生がジ〜ッと見上げたり喋ったりしてる新一年生を見下ろし、にこやかに話し始めました。優しそうな物腰の話し方をする年輩の女性でその声を聞くうちに気づいたら眠っていました。目が覚めた時、校長先生の話は終わっていて教頭先生の号令と共に僕以外の母親たちは全員立ち上がっていました。右隣に座っていた母親に不思議そうな顔で見下ろされてるのにびっくりして慌てて立ち上がりました。 入学式が一通り終わり、1年生が退場した後で保護者は簡単な説明を受けて教室の方へ案内されることになりました。TGのいる3組の教室に他の母親たちに混じって移動しました。 ビックリしました。何故か最近の小学校は教室にテレビが置いてある。 その教室は前後に黒板があり、前の黒板は色とりどりのチョークで入学を祝うメッセージが書かれていたり、紙で作った花が飾られていたりしました。木の低い机についている一年生たちは隣の子とペチャクチャ話したり、机の中に入った引き出しをガチャガチャ出し入れしたりしていました。TGは、というと例に漏れず隣の男の子と結構楽しそうに話していました。 教室の前のドアがガラッと開く音に生徒達も保護者も前を見ました。ドアの向こうに細いネクタイと胸が見えました。 「イタッ!!」 「.....」 腰を屈めるようにしても頭を打ちながら、ゆっくり入ってきたその先生は座っている一年生からはまさに巨人のような大きさで2メートル近くは軽くあるように思われました。保護者一同唖然としているのに対し、その先生は頭をさすりながらニコニコしていて、一番前に座ってる子供はなんだか泣きそうな顔をしてるように見えました。 優しそうな笑顔が空回りしているその子供達にとってはやや威圧的な身長のA先生はまだ若く、3年目でこの一年生を担当することになった、ということを精一杯優しげで豪快な声で話し、挨拶していました。 始めビックリしていた保護者達はすぐに慣れてA先生の話に笑顔で耳を傾けていましたが、子供達は少し緊張気味にジ〜ッと先生の顔を見上げながら真剣そうに聞いていました。机の下では足をぶらぶら振っている生徒もいたり欠伸したりする子供もいました。TGは先生に興味が湧いたのか、なんだか初対面の人にはあまりしない穏やかな顔をして先生を見上げていました。 A先生は名簿を見ながら出席をとり、生徒達は大声で返事をする子もいれば少し怯えながら返事をする子もいました。これからの日程や、授業のこと、給食のことなどの連絡事項が説明されて子供達には初めてのプリントが色々配布され、学校から入学記念の鉛筆なんかも貰っていました。 あらかたの説明等を終えて昼前頃にTGの小学校初日は終わりました。教室からは日に照らされる運動場の砂が眩しく輝いていました。TGは教科書の詰まったランドセルを背負い、ニコニコしながら前を歩き、僕はその後ろで背中に陽射しを浴びながら貰ったプリントに記載された嵐のような出費に目眩を覚えながらTGの背中を遠い目で眺めました。 |