滞米○年がそんなに偉いか

今年から,近所の州立カレッジに転校した。今の学校は何たって授業料が安い。それに,郊外の丘の上にあって,静かで広々している。眺めも良い。エレベーターもちゃんとついている。
ESLのクラスメートの出身地は様々だ。韓国人と日本人が一番多いが,それでも,全部で30名程のESL受講者の内,3名ずつしか居ない。半数以上が,働いているか,あるいは配偶者の仕事の都合で米国に来た人達だ。

クラスメート達の米国に対する思い入れは,概して「まあ住みやすいんじゃない」といった程度の,至って穏やかなものなのだが,一人,米国に熱い思い入れを持って滞在を続けている日本人女性がいる。
彼女は,カレッジ留学から数えて,既に8年を米国で過ごしている。大学ではカウンセリングを学び,卒業後も米国に残って働いていた。滞米期間が長い事や,米国での就労経験が,彼女の自信になっているようだ。彼女がそのように明言している訳ではないが,言葉の端々に,彼女のプライドの拠り所が見え隠れしている。旦那さんについてこちらに来ている女性陣に対しては,「私は一人でやってきたのだ」という優越感があるように見うけられる。時々,「あなたは旦那さんが居るから寂しくないでしょ」とか,「旦那さん居ると楽だよね」とか言ってるし。

既に8年も米国に居る彼女がESLクラスをとっている理由は,ビザの事情によるらしい。
数年前,労働ビザの更新時にスポンサーが見つからず,一旦帰国したとの事。日本で就職しようとしたが,望む職が見つからなかった。米国でカウンセリングを学んだからといって,日本で引く手あまたという訳にも行かないらしい。求人数が絶対的に少ないし,何より,自治体等でそのような仕事に就くには,国家資格が必要なのだそうだ。そんなこんなで,日本での就職は諦め,今度はインターンシップのビザで米国に舞い戻ってきた。
今は,インターンシップ先で働きつつ,大学院の夜学クラスを受けている。いずれインターンシップのビザも切れるので,学生ビザに切り替えるために,フルタイムで安いESL授業を受けている。大学院を卒業すれば,労働ビザも下り易くなるはず。修士取得を目指し,米国になんとか食らいついている。

彼女は滞米体験の先輩らしい態度で,いろいろ教えてくれる。「自己主張しないと誰も面倒みてくれないよ」の類のアドバイスだ。私は「そうだよねー」と言いながら,時々,うーんと疑問に思う事もある。
彼女は確かに米国生活は長いだろうが,私も日本で一人でやってきたのである。労働経験なら私の方が長い。大学院だって,親に頼らずに行ったんだぞー。自己主張しまくって,転職先を掴んだ事もあるんだぞー。日本だって,食らいつかないと何も手に入らない事はあるんだぞー。彼女は自分の滞米体験をひけらかしているわけでもないし,親切でアドバイスをしてくれるのだろうが,時々「滞米ン年がそんなに偉いかー」と思うこともある。

彼女が日本で就職活動をした時に,派遣会社に行ってみたんだそうだ。そこでの面接で,「日本語は大丈夫ですか?」と言われたそうだ。彼女はそれが非常に腹立たしく不愉快だったらしいが,職種によっては日本語能力は確かに重要だ。大学入学時の日本語から,全く成長していないのであれば,問題がある可能性はある。カウンセリング分野なら尚更だろう。コミュニケーションが大切な分野なのだろうし。それを「失礼な!」と怒る感覚がよく分からない。分からないといえば,日本では国家資格が必要である事を知らなかったというのも,よく分からない。将来,日本に戻って働く事を想定していなかったのだろうか。

彼女は今,シチズンシップを保有している男性と付き合っているが,彼の方は,まだ結婚は考えていないらしい。彼女は,「結婚してくれれば,こっちでずっと働けるんだけど。。。」と,ちらっと不満を述べていた。
一人でやってきたことが自慢のはずなのだが,最後は結婚頼みなのかなあ。ちょっと気弱になっているのかもしれない。彼女はいつも明るくて,話し方もハキハキしていて,しっかり者のような印象を受けるのだが,いろいろ話を聞いていると,あちこちに詰めの甘さを感じる。米国で一人でやってきた事は,そりゃ偉い事だとは思うけれど,それに気を取られて,彼女は自分や他人の位相を見誤っているんじゃないだろーか,と思ったりもする。

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