「ボーリング」
「オーケー、お願いします!」
天に向かって高く高く伸びる、全旋回式ボーリング・マシン。
車体には「四矢地下技術研究所」とある。
マシンに付き添うように給水車がいる。岩盤掘削の際の冷却水だ。
その機械は唸り声を上げると、その姿に見合わぬほど細い己の怒張を
地へと向かって突き出す。
その棒はゆっくりと地に向かい、地に触れ、自らを奥へ奥へと押し込んだ。
それを見届けると、彼は笑みを浮かべて額の汗をぬぐうと、機械の御者に手を振った。
その彼の胸には「第四課開発主任:森田三郎」と書かれた名札が見える。
「戻りますので、何かあったら呼びにきてください!」
森田はマシンの騒音に負けじとせんがばかりの大声を張り上げると、北に二台見える
トレーラーに向かって歩き始めた。
この辺りは、そのコンテナ積みトレーラーとボーリングマシンに給水車、枯れた木がちらほら見えると
言った具合だった。
空には地の生物を焼き尽くさんと燃える光の球がある。それに従い、土は水気も何もなく砂同然である。
つまりは、ここ死の土地なのだ。
森田は手前のトレーラーには目もくれず、後ろのトレーラーに向かう。
車の後ろに回ると、コンテナの取っ手が見える。そのノブを掴むと、下に廻して鉄の扉を引いた。
扉の隙間から漏れ出す冷気。
中には「第四課研究部:佐々木士郎」の名札をつけた髭面の男性が、机の上のモニターに向かいって
キーボードを叩いていた。
入り口から見える佐々木の左側の顔は、目を吊り上げて口元を引き締めていた。姿勢も全く崩していない。
コンテナの中は佐々木を取り囲むように棚が配置されており、棚の上には赤や黄色の瞬きを繰り返す
機械が並べられていた。壁にはエアコンが付けられている。
佐々木は手を止め、椅子を回転させて体を彼に向けた。
「どうだった?」
森田に向け、鋭い目つきで尋ねる佐々木。
「まったく問題なし、ですね」
「まぁ、そりゃそうだろうよ」
佐々木は机の上のペットボトルを掴むと、ほらよと言いながら森田に投げて寄越した。
ラベルは「アルプス天然水」。
「あ、どうも」
森田は封を切ってその先を口に付けると、顔とボトルを天に向けた。
水はあっという間に彼の喉に押し込まれてボトルは空になってしまった。
森田は口元を拭うとペットボトルをほうり返した。
「いやぁこれで任務完了、ですかね」
「おい」
髭面は、主任を刺すような目で見ながら言った。
「出るまでが仕事。初めてじゃない奴なら、体に教えてるところだ」
「……済みません」
一瞬体を震わせると、か細い声でそう答えた森田。
「これじゃ、どっちが主任かわからねえな。しっかりしろよ」
「……はい、以後気をつけます」
その返事に佐々木はため息をつくと、再び椅子を机に向けて回した。
「ところで、佐々木さん」
「掘らなきゃわからん、何度も言ったろうが?」
佐々木は右手で頬杖を付き、顔だけを森田に向けて言った。
「――え?」
「毎日何度も聞いてこりゃわかるよ」
「……すみません」
「まぁ、恐らくは当たりだ。暫く待ってりゃ上がってくる」
「そう……ですか」
「ただ」
佐々木は左の手で、彼から見て左奥、森田から見れば左手前の棚に置かれた
モニターを指差した。
それの縦軸には「Depth」、横軸は「Range」と書かれている。
縦軸の刻みは十メートル単位で十本、つまり深度百メートルまで。
横軸は中心部を0として、左右三百メートル。
因みに、通常の地下用レーダーは深度二、三メートルまで。
その画面には上から何層も折り重なるように線が映し出されている。
が、その下層部には、何も描かれない小さな穴が十個ほど見えた。
「ちょっと空洞がありすぎるのは気になるが、な」
「空洞?」
「あぁ。地下水系の類ならこうなるかも知れないが、小さすぎる。
だから、水じゃないだろうとは思う」
「はぁ……」
「まぁ、新型が嘘つきってこともある。航空写真もCASMTも反射法も
屈折法も全部、何かあるって証明してるじゃないか」
――数日後。
「畜生!」
トレーラーの助手席で、そう吼える森田。
彼は目を固く瞑り、両手を頭に置いて自分に悪態を付き続けていた。
上がってきた報告は、ネガティブ。
燃える水では有りません、ただの水です。
失敗です。
「畜生!!」
全部無駄、出なかった。
「畜生!!!」
「いーや、こりゃ成功」
運転席の髭面は、先日とうって変わって笑顔で青年に言った。
訝しげに佐々木を見つめる森田。
「お前さんの初陣はつつがなく終わった。だから、まず一つ成功だ」
「はぁ?」
「もう一つは、あの新型は結構正直だってわかった事だ。
これだけ有れば、大成功じゃないか」
「……はぁ」
「はぁはぁ言ってるんじゃねえ!次だ次!」
「……え?」
「お前は誰も掘ってない場所を見つけて、お偉いさんの説得。
俺は調べて、俺達で掘って、ドカン!」
彼の、精一杯の慰めなのだろう。
森田の顔に笑顔が浮かぶ。
「……そう、ですね」
「お前は上に絞られて無罪放免、出るまでその繰り返し。
どうせやるまでわからないんだ、誰だってわかる話だぞ?」
アクセルを踏みこむ佐々木。二人の体がシートに押し付けられる。
「よっしゃあ、さっさと帰るか!」