デパ地下
人だ。
人が吸い込まれるように入り口に入っていく。
けれども出口には見えない壁があるかのように、誰も出て行かない。
黒い頭や白髪頭、背の高いのから小さいのまでがどんどんとその勢力を増し、
彼らは空間という空間を食い尽くす。
人々はわずかな隙間に体をねじ込み、その先に見える魚のパックを掴み取り、
店員にこういうのだ。
「兄ちゃん、もうちょっとまけて!」
これぞ、デパ地下。
デパ地下は戦場でもあり、祭りの場でもある。
ここの祭りの囃し声と言えば…。
掛け声に、
「あーい、マグロ百グラム百円、一グラム一円、一円!」
呻き声に、
「うぅ、ちょっと押さないでよあんた」
「五月蝿いわね、あんたが水ぶくれしてるからでしょ!」
恋人の語らいあい?
「あっつぅ、人多すぎ」
「……しょーがないでしょ、セールなんだから」
従業員は自らの領地、両手を広げて二人並べばもうおしまいという陳列スペースに
目一杯の捧げ物を陳列する。
お客様は神様かどうかは知らない。やはり人は人だ。
彼らの内、ある者はは供え物を手に取ると横から上から眺めて質を調べ、
あるものはろくすっぽ調べもせず、金を投げて寄越す。
司祭たる店員も、これだけの客に対応するにはやはり流れ作業のノリでやるほかない。
流れ作業にはなるまいと、自分では心がけてはいるのだが……。
お客も、それで構わないと思っている。値段が安いからだ。
やはり客は人である。神のように厳しくはない。
しかし、客が神になる瞬間がある。
「ありがとよ!」
その一言は、神の祝福。
この台詞は従業員の疲れを癒し、重くなった腕を再び活気付かせる唯一の薬なのだ。
この祭りでは、神は司祭に何度も何度も祝福の言葉を投げかける。
いや、そもそも「神がいらっしゃられた」ことだけでも、店員には至福の喜び。
だからこそ大抵の従業員は祭りを喜ばしく思い、自らの力を振り絞って事業を成し遂げようとするのだ。
しかし、祭りは、永遠には続かない。
陳列棚に残るものは、せいぜいマグロやタイ、豆腐や揚げ物がまばらに置かれているようなだけの
状況となってしまった。
出口の見えない壁は取り外され、デパ地下からは徐々に人が吐き出されていく。
代わりに今度は入り口を、見えない壁が徐々に閉めようとする。
客は喧騒を生み出す主要因でもあり、活気のパロメーターでもある。
そのメーターは徐々に下がり、祭りの終焉が近いことを全ての従業員に教える。
「マグロ100グラム90円!出血大サービス!!」
しかし、流れは止まらない。
遂には出力が入力を上回り、入力は「営業は終了しました」の物理的な扉でキャンセルされる。
店内には蛍の光が流れている。
しかしまだ、まばらになった神様達、最後まで祭りに残って特価品という名の進物を物色する彼らはいた。
けれども……遂に。
最後の一人が、出口に向かった。
「ありがとうございます!」
祭りの締めくくりの祝詞は、従業員の合唱だった。