RAIZYUUROU War (仮) ver 0.32




<序章>


男は追われていた。

息は乱れ、手にした長剣は血に濡れ、
鍛えられた長身を包む外套は
敵の返り血と男自身の血で赤く染め上げられていた。
男の体力はすでに尽きかけていた。

空に浮かぶ月が夜の森を照らす中、
木々を避けながら進む男の後方に黒い影が踊る。
その数 3つ。

影に気付いた男は強烈な舌打ちをした。
土地勘がある自分ですらこの闇の中を進むのは困難だというのに
奴らはまるで昼間であるかのように闇の中を駆けて来る。
男にとって悪夢のような光景だった。

追っ手は3人、普通の相手なら逃げ出す程の数ではない。
事実、男にはそれだけの技量がある。
しかしこの追っ手は普通どころの話ではない。
追っ手は皆、目を除く全てを黒い布で包むという奇妙な格好をし、
その膂力は十人力、動きの速さも尋常ではない
さらには、斬られても怯むどころか声すらあげず、
ただ黙々と斬り返してくる。
そしてなにより目…意思を、殺意すら感じさせない
あの目が恐ろしい。

騎士となり、すでに5年。
男は数々の戦場を斬り抜けてきたが、
これほど尋常でない相手と戦った事は無かった。

ふと、男の足が止まる。
前方からも黒い布で身を包んだ追っ手が現れたからだ。
追っ手よりもかなり先行していた筈なのだが、
どうやら追っ手は走る速度も男をうわまっていたようだ。
後ろも敵、前も敵。
進退極まった男はすぐさま覚悟を決めた。


(後ろは三人、前は一人…ならば少ない方を倒すのみ)
剣を抜き正眼に構え、呼気を整える。
追っ手も殺気に気付いたか短剣を抜く。
視線と視線がぶつかる。
そして、まず男が動いた。

一瞬で剣の間合いに踏み入り、
前を塞ぐ敵を斬りふせようと剣を振る。

ガキン

しかし敵も易々とは斬られはしない。
短剣で男の斬撃を弾き、そのまま腕を掴もうと腕を伸ばす。
掴まれたら最後、地面に叩き付けられ、それで終わりだ。
何人もの部下がそうして倒された。
男はとっさに剣を弾かれた勢いを利用し、後方へ跳んだ。

残ッ!

風きり音を立てて敵の手は空を切る。
辛うじて腕をかわした男はすぐさま態勢を整え
その隙を逃さず再び踏み込む。
しかし、そこまでだった。

「ぐっ…!」
後方の追っ手が投げたナイフが男の横腹を切り裂いた。

男の動きが一瞬止まった。
その隙を目の前の敵が逃すはずが無かった。
すかさず腕を掴まれ、凄まじい力で地面に叩きつけられた。

「ご…ッ…!!」

口から血が吹き出る。
全身を地面に強く叩きつけられ、男の身体はぴくりとも動かない。


(ま…だだ)
ほとんど動かない身体に鞭打って懐に手をやる。
(まだ…ある。ならば)
男の懐には卵…いや卵のようなものがあった。
不思議な金属で出来ている、その卵のような物が男が戦う理由だ。
その卵は男の家・グレン伯爵家に伝わる家宝、
古より受け継がれてきた魔石だ。

(奴等にこれを渡すわけにはいかない。)

魔石を強く握り締めて男は心の中で叫んだ。
追っ手が狙っているのはこの魔石なのだ、
これが奪われていないのなら、まだ戦わねばならない。

命に代えても守れといい、凶刃に倒れた父
父と男を守る為に死んでいった家臣たち

仇を討つと誓った。
だからこそ、こんな所で果てるわけにはいかなかった。
男の意志はどうにか体を動かそうと必死にあらがった。

しかし、体はピクリとしか動かない。
すでに目は見えない、耳も聞こえなくなっている。
死という昏い奔流に包まれるのを感じながらも、
それでも 男は立とうとした。
そして…

「やっと追いついた」

声が聞こえた

「あらら、死にかけだね。
大人しくソレを渡してくれれば僕も紳士的に行動したのに、残念だよ」


---声が聞こえた----


「じゃあ悪いけど、ソレ返してもらうね。
それはキミ達が持っていても何にもならないからね---」


------- 声 が 聞 こ え た --------


「あれ、ちょっと手を離してくれないかな。 仕方ないな…腕を斬るけど恨まないでね。」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

叫びと共に瀕死の男が立ちあがった。

 ドクン・・・
立ちあがれる筈が無い男が立ち上がった。

 ドクン・・・
左手に持つ”魔石”が。

 ドクン・・・
震えていた。


                             漸ッ・・・!


それは緩やかに。
男の振るう剣が骨を絶つ。

血が、舞う。
熱い血を浴びながら男の意識もまた沈む。

左手に伝わる鼓動に気付かずに・・・

確かな手応えに其れなりに満足しながら。
死へ浸かっていく男の意識は、最後に自分の身を包み込む黒い何かを感じて沈んだ。



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