パリに着いた最初の日、私が食べた物といえば、サンドイッチだった。ホテルに着くまでのすったもんだが影響して、何も食べる気になれなかったからだ。
その次の日に買い物に出た私は、まず昨日降り立ったパールデゥー駅まで戻り、その前にあるでかい「ソントル・コメルシアル」日本語で言えば、ショッピングモールのことだが、に入り、これまたサンドイッチを買って食べていた。
しかし、こんな生活には限界がある。学校が始まるまで、わずか五日間とは言え、何かしら見つける必要があった。
そんなことを考えながら歩いていると、偶然個人経営の小さな食料品店に出くわした。私は、その店に飛び込むと、何がなんでも食生活を変えることにした。
さて、決意硬く店に入ったのは良いが、やはり異国である。なじみの物など何もないに決まっている。そんな時、あれを見つけた。そう、あれよ。「ぷりん」よ。こればかりは万国共通のようね。見てすぐそれとわかったわ。
それで、すぐさまそれを購入すると、あと、チョコレート・デザートの類と、パン、果物類を買い込んだ私は、いそいそと滞在中の宿に戻っていた。ナイフとフォークの類ぐらいは、はるばる日本から持って来ていた。それで、早速、プリンから食してみることにした。
まず最初の一口〜〜〜で、私は口にしたものを吐き出していた。なんでだと思う???そう、中にはお米が入っていたのよ。今では、この日本でもお米を使ったデザートの料理本くらい出ているけど、あの頃は珍しかったのではないだろうか。まして、プリンにお米を入れるとは・・・・・。私は、スプーンを置くと、ため息まじりにプリンを捨てようとした。ところが、なんとなくもったいないような気がしたので、一応とっておくことにした。そして、チョコレート・デザートの方を手にしていた。ところが、これはまずまずの味がしたが、なんとクリーム状でどろどろときている。後でわかった事だが、フランスではこのクリーム状デザートが主流となっていた。それでも、これは何とか食べることが出来た。
さて、やがて夜になった。テーブルの上には、以前としてあのプリンが置いてある。それをじっと眺めていた私は、自分の中で、ある変化が起きていることに気がついた。なんと、そのプリンを手にして食べているではないか。やがて、プリンは空になっていた。
さて、いよいよ学校がスタートした。これ以降は、学食が主流となるが、学食と言えば給食と同じで、大人数をまかなうために味はそっちのけが定番である。いかに美食の町リヨンと言えども、これに例外はなかった。が、少しばかり違っていたのは、やはりフランスとあって、例えその当時で13フランの食事とは言え、前菜のサラダやピザに始まり、メインは野菜と肉、そしてチーズにデザートと、ボリュームだけは満点を取れた。
かくして、不味い食事での学生生活が始まったわけだが、別に食事を残していたわけではない。それどころか、出される物全てを、足りんとばかりに平らげている自分がいた。
学生生活は、非常に単調に出来ていた。広いキャンパスをひたすら歩き、買い物や洗濯もある程度の距離をこなさなければならない。それに加えて、勉強はアジア系にはハードの一言に尽きる。寮にいるのは外国人で、私の場合、付き合うのは運良くフランス人ばかりとあって、日本語を話す機会など皆無に等しい。恐らく、そんな閉鎖的な環境におかれてストレスがたまっていたのだろう。あの頃の自分は、全てを平らげても足りないような、いわゆる過食状態に陥っていた。
それでは、さぞかし太ったかと思われるだろうが、連日のウオーキングで、体重はむしろ落ちたほうで、体の調子も良いように思われた。ただし、精神的には、大変なストレスを受けていたことは言うまでもない。
さて、その集中講座も最終日を迎えるとあって、私達は、その夜、旧市街に食事に出掛けた。そして、割合手頃なレストランを見つけて入った私達は、メニューを見て首を傾げていた。
「何、これ???」
イタリア人のブルーナは、首を傾げるばかりである。皆、何を注文したら良いのかわからず途方に暮れた。それで、セットになった「ムニュー」から選ぶことにした。彼らは、皆、牛モツのイカ墨煮込みライス添えを選んだが、当時肉断ちをしていた私は、理由を話して、その店のウエイターに選択をまかせた。
果たして、私の行為は裏目に出たようだ。ウエイターが運んで来たのは、リヨン名物の「豚の血のソーセージ」だった。それでも私は、最初は何かわからず、ただその奇妙な物体をつっついていた。
「何だろう???ソーセージだろうけど、変な味がする。それに、やけにねちゃねちゃしてるわね。」
その時、私はそう思っていた。そんな私を、ブルーナは不思議に思ったらしい。彼女は、私に聞いてきた。
「それ、何なの??? チョコレート???」
彼女の言葉には一理あった。(本当にチョコレートかと思うほど粘ってたのよ。)
不思議に思った私は、仲間の一人に説明を求めた。
「ああ、それ???豚の血で作ったソーセージだよ。ここの名物だよ。」
さあ、泣いても笑っても後の祭りである。
結局、私は、それをほとんど残していた。
ブルーナは、隣にいた日本人のヨシヒコに呟いた。
「学食の方がまだましよ。」
そう、美食とは、奇抜な物を食べることではないと思う。