その二 雑誌

 私が、フランスに来て最初に週刊誌なるものを買ったのは、まだリヨンにいる頃だった。着いて一月、ゼロからの出発では日々の授業についていくのがやっとだったが、それでも先生が必要に応じてプリントしてくれる、教材の抜粋に退屈するだけの勇気だけは持ち合わせていたのだから、この女は理解できない。
 というわけで、ある日歩いて20分もかかるスーパーマーケット(スウペル・マルシェ)に買い物に出掛けた私は、店舗の奥に設置されてあった雑誌コーナーに足を止めた。余談になるが、フランスでは雑誌はキオスクをはじめ、町のそこいらにある、個人の本屋さんで買えるようになっており、わずかばかりだが書籍の類も置いてある店が多い。ところが、「フナック」などの大規模本屋では、雑誌の類は一切扱われていないのが、日本との違とも言える。
 雑誌コーナーに入った私が、すぐ手にしたのは、日本でも買えるフランスの週刊誌の代名詞「パリ・マッチ」だった。何故、これを選んだかというと、別に予備知識があったからではなく、面だしされて置かれていたこの週刊誌の表紙に、今は故人となったあのダイアナ妃が載っていたからだ。当時、彼女はまだ人気の絶頂にいて、皇太子との不仲を取り上げた記事を書けば雑誌の売れ行きも伸びたに違いない。その手の週刊誌が、彼女を取り上げない週などなかったのではないだろうか。私は、反射的に隣にならんでいた「ジュール・ド・フランス」も手にとっていた。そして、購入した二冊の週刊誌を寮に持ち帰るなり、辞書を片手に読みあさりだしていた。まだ、たいした文法も習得していなかった頃のことなので、文法などそっちのけで読んでいたのを覚えている。
 そして、こういう無鉄砲な一面のお陰で、私の語学力も次第に伸びていくこととなる。

 私は、それ以来毎週のようにこの二冊の週刊誌を買い続けた。
 ある日、テニスのボリス・ベッカーが妻のバーバラと、生まれたばかりの息子を公開した記事が載せられたいた。独占記事と題されたその記事の中で、彼はすやすやと眠る最愛の息子の上にかがみ込み、その彼の背中をバーバラが愛しげに抱きしめるポーズをとることで、見事なまでの家族愛を見せていた。彼の写真はこれだけにとどまらない。フレンチ・オープンの際には、二人仲良く肩を並べて、サン・ジェルマン界隈を散歩していたが、日頃コートの中でしか彼を知らないファンにとっては、新鮮に映る記事といえた。
 今や世界的俳優として知られるジャン・レノは、恋人のモデルと厩舎で馬と戯れる姿を独占取材させている。彼は、後ろ足で立つ黒馬にまたがり、勇敢な一面を見せていた。
 ハリウッド俳優もしかり。俳優のジョン・トラボルタは、大変な飛行機マニアらしい。自ら操縦する自家用飛行機の内部でインタビューを受けた。それも、この取材には家族同伴というオマケまでついた。これのどこが良いかと言うと、彼の息子や娘が見れるということもあるが、実は、家族揃って、飛行機まで出前させてあった寿司をつっつく姿がほほえましいの一言に尽きた。
 クリストファー・ランベールは、前妻ダイアン・レーンとの離婚の際、マリブの海に面したビーチで独占インタビューに応じたが、服のまま海に腰までつかり、「僕の離婚は、まさに大成功」とこの上なく明るく笑っていた。(勿論、これは演技ではないから間違えないで。本音よ。本音。)ついでに、ベッドの上に座ると、ピンクのテディー・ベアーを抱いてサービスしてくれた。ほんと、微笑ましいこと・・・・・。
 まだまだありますぞ。ジョニー・デップとバネッサ・パラディーは、妻の実家であるフランスによく来ている。その時、パーティー会場に現れた二人を載せた記事がどの週刊誌にも載ったが、どの写真も素顔の二人を十二分に捕らえ、この上なく新鮮に映った。ジョニー・デップは、映画の中だけでなく、素顔を見ても実に完璧なまでのハンサムと言える。

 このように、ハリウッドスター達は、揃いも揃ってフランスに良く来るようだ。実際、かのジョージ・クルー二ーも、前の彼女、フランス人セリーヌ・バリトランとの成り染めは、シャンゼリゼにある、とある有名レストランでの出会いがきっかけだったようだ。
 そして、フランスの雑誌になら、よくよく姿をさらけ出し、独占取材に応じることも珍しくない。
 それから考えると、日本て、なんか馬鹿にされてるような・・・・。