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 父からの贈り物

**************************** 桃戸 千




12月のある日、朝早く宅配便が届いた。
一抱えもある大きな荷物だった。
サインを促され、はんこを押すと、横浜に住む父からだった。

もう長い間父の顔を見ていなかった。
ずっとパパっ子の良い娘だった私は、諸事情から一人暮らしをするようになって、
急に箍(たが)が外れたように不良娘になった。
いい大人になってからの不良化なので、たちが悪い。
好き勝手し放題の悪い癖は、結婚しても収まらなかった。

おかげでローンに追われ、転勤族の父が横浜に移り住んでからは、
新幹線代を捻出することもできず、もう5年も孫の顔を見せていなかった。
そんな情けない娘を厳しく叱り、また心配してくれていた父からの荷物だった。
「なんだろう」
箱を開けると、

大きなシクラメンの花だった。

何かの賞をとった花のようだった。
花好きの父らしい贈り物だ。



父が帰宅する夜をまって、早速実家にお礼の電話を入れることにする。
今年はようやくローンの返済も済み、仕事も軌道に乗ったので、
帰省できそうだということも伝えなければ、と思う。
電話のボタンを押す指がなんとなく重い。
父は帰省を喜んでくれるだろうか。
いやそれどころか、今までの親不孝を叱られるかもしれない。
まるでいたずらを告白する前の小さな子供に戻ったようだった。

最初に電話に出たのは母だった。
「おかあさん? お父さんから荷物届いた」
なんという子供っぽいセリフだろう。我ながら情けない。
「いいお花でしょう。今、お父さんに代わるわね」
思わず咳払いをして父を待構える、

「もしもし。ああ、届いたか」
「うん、ありがとう」
「いい、シクラメンだろう」
「うん、すごいりっぱなシクラメンだった」
「まあ、大事にしてやってよ」
「うん。 あ、今度のお正月は帰ろうと思って」

会話のついでに、勢いつけて本題を切り出してみた。
「あぁ、帰れるの」と父。
電話の向こうで母が
「車はダメよって言ってあげて」と叫んでいるのが聞こえたので
「うん、新幹線で帰ろうと思う」と言った。
すると父は、
「それがいい・・・それがいいよ」
と言った。

暖かかった。なんとも暖かな言葉だった。
鼻骨のあたりがツーんとした。
散々迷惑をかけた娘の帰省を、父は本当に、待ちわびてくれているのだ。

父とはこんなに暖かかっただろうかと思う。
帰省を決めてよかった。
電話を切った後、すがすがしい気持ちでいっぱいだった。


改めてシクラメンを眺めると、大きく葉が茂って、たくましい父のようだと思った。




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