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 父とテレビと

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中学の頃だったか、まだ家にはテレビが一台しかなく、
「テレビの部屋」と呼ばれていた居間で、
なぜか母と弟はそこにはいなく、
私と父という珍しいツーショットで、こたつを囲みながら、
何を話すわけでもなくただ映っているテレビを見ていた。

父は私にとってはものすごく恐い存在で、二人でいるのも少し緊張していたのだが、
会話もなく、ただそこにじーっとしていたら、時間がだんだん遅くなってきて、
当時やっていたちょっとエッチな番組が始まった。

「しまった」

と思ったが、もう後の祭り。


さっさと立ち上がって自分の部屋に行けばよかったのかもしれないが、
思春期を迎えた娘としてはあせってしまい、身動き一つ取ることができなくなってしまった。
「どうしよう。ここでチャンネル変えたら、すごく意識してるって思われるかもしれない」
なんとか打開策を考えなくては、と必死になったのだが、
何も思いつかず、手にはじっとりと汗がにじんできている。
父の顔も見ることができない。

そんなことをしているうちに番組は終了を迎えた。

ほっとしたものつかの間、ここでなにか喋らなくては、と思った私は
「お父さん、助平ってこんな字を書くんだねえ」
と、なんともまぬけなことを言い出し、はっとしたのだが、
父も
「うん、そうだ」
なぜか真面目に答えていた。


次の日、学校に行って友達に、
「昨日、お父さんとテレビ見てたら、エッチな番組始まっちゃって困ったよー」
と話したら、その友達は、はははと笑った後、
「うちはさあ」
と、自分の家のことを話してくれた。

その友達の家では、祖父母、両親、兄の6人皆でテレビを見るのが、毎日の習慣になっていて、
そこでそのようなシーンがでてくると、皆が我先に耳かきを探すのだそうだ。
そして、それが誰かに取られたことが分かると、次は爪きりを一斉に探し出す。
勝者はほっとしながら、ゆうゆう獲得したものを使いながら、目をそらすことができるのだが、
取り損なった人は、
「ちっ」
という顔をしながら、しかたなく照れくさい画面をじーっと見ているしかないのだという。

私はそれを聞いて
「耳かき? それは名案だ」
と妙な感心をしながらも大笑いしたのだが、
もしかしてあの時、
父もどうしていいかわからなくて、固まって脂汗をかいていたんじゃないかと思ったら、
普段が恐かっただけに、余計に可笑しくなってしまったのだった。


このことは、今でもたまに思い出すことがあるのだが、
そのとき見られなかった父の顔を想像すると、
今でもやっぱり、とても可笑しい。





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