倉本碧は真剣な顔をして、漆黒の闇の中に佇んでいた。 黒い衣服に身を纏い、暗闇の中で輝く左耳につけたイヤリングと手首のブレスレットが、 彼女が動くたびに清浄な音を響かせる。 普段の彼女らしくない雰囲気を漂わせていた。 雲が月の明るさを掻き消し、風に木々の枝が音を立てて揺れる。 彼女は風をよむように空を見上げてから、ゆっくりと周囲を見渡した。 彼女の瞳は何も無い空間の一点で止まり、鋭い視線を放つ。 ザワッ・・・生暖かい風が、吹き始めた。 彼女の表情が変わる。 「媛様!」 彼女が素早くその名を口にした。 風が彼女を取り巻くように吹き始める。 邪気を含んだ気持ちが悪いほどの生暖かい風。 その中で彼女はその場に跪くと、固く瞳を閉じた。 右手を石畳の上に置き、何かを呟くような唇の動きを見せる。 風が彼女の髪を乱す、彼女の周囲にだけ強風が吹き付けているような感じだった。 アスファルトの上の砂が巻き上がり、その場だけ土煙が壁のように彼女の姿を隠す。 彼女はその中でゆっくりと瞼を開けた。 気のせいでなければ、彼女の瞳の色が青く光りを帯びているように見えた。 「失せなさい。」 静かな口調でその声が風に乗った。 「縛!」 その一言で風は瞬時に消え失せた。 『碧・・・』 姿無き声が、碧の耳に届く。 「媛様、奴を捕まえて!」 『畏まりました。』 優しき声はそう答えた。 「二葉、いる?」 碧はその場で微かに後方に顔を向けた。 「ここに」 さっきまで見当たらなかった人物の人影が闇の中に浮かび上がる。 彼女が二葉と呼んだ人物が背後に立った。 「結界は?」 そう聞く。 「まだ、大丈夫よ。」 落ち着いた声で答える。 彼女の名は須永二葉。 碧と行動を共にする少女である。 「今、媛様が追いかけたけど・・・。 この仕事は失敗?」 生暖かい風が残るその場所に佇む二葉に聞く。 「まだ、そう決める事は無いと・・・」 二葉はある種の確信を持ってそう言葉を区切った。 「しょうがない・・・媛様を待つとしましょう。」 溜息交じりに碧はそう言った。 向きを変え、拝観口の階段に腰を下ろして鳥居の方を眺める。 夜の神社も寺と同じように不気味さが漂う。 人気も無く、闇に閉ざされた空間には静寂と独特に雰囲気が漂うだけだった。 自分の傍に近づいてきた二葉に軽く視線を投げる。 「どう?」 「媛様が捕らえたわ。 この件は無事に任務終了、お疲れ様。」 二葉はそう告げた。 「そう・・・」 碧は伸ばしかけの髪を掻き揚げながら立ち上がった。 横に並ぶ二葉に視線を向ける。 「丁度、結界も切れたわ。」 空を見上げて二葉が呟いた。 禍々しい空気は消え、清浄の空気と月明かりが差し込む。 闇の中に二人の姿を浮き上がらせた。 「それでは、帰りましょうか?」 「そうしましょう。」 二葉の言葉に賛同するよう鳥居の向けて足をは運ぶ。 |