『嵯峨神社の怪』

序章

原作;四條 薫




 ――――― 第一話 ―――――





 重厚な日本家屋の門前に一台の車が止まった。
門に掲げられている表札にはその家の主の名が書き記されている。
『西遠寺』そう書かれている。

運転席のドアが開き、白いパンプスを履いたキレイな脚美線が覗く。
Vネックの黒いシャツにオフホワイトのタイトスカートを着た女性が降り立つ。
サングラスを取りながら重圧感漂う門を潜る。
 長い黒髪を一つに束ね、幼さが残る童顔の輪郭が彼女の本当の年齢を隠す。
少女のような顔で微笑めば天使の笑顔と言っても過言ではない。
 ただ、今の彼女にそんな雰囲気は感じられない。

 須永二葉は人待ち顔で、広い洋風の応接間のソファに腰を下ろしていた。
 見渡せば、立派な調度品が待ち人の目を楽しませるかのように置かれている。
アンティーク調のサイドボード。
その中には綺麗な細工を施された実用的ではない硝子食器が並べられている。
本皮のソファに硝子細工のテーブルの応接セット。
どれをとっても慣れない人間には落ち着かない空間であることは確かだ。
「お待たせ。」
そう言って入って来たのはこの家の主であり、二葉が会いに来た人物だった。
 長い髪を掻き揚げ、白いシャツに黒いスラックスと言うシンプルな着こなしがそう見えない
雰囲気を漂わす。
 西遠寺湫、西遠寺家の後継者であり、二葉達の直属の上司と言う言い方もある。
二葉の前に腰を下ろし、長い足を組む。
美しい女性にも見える持ち前の美貌と全てを見透かすような切れ長の双眼が二葉を見つめた。
 二葉は悠長にコーヒーカップを口元に運んでから軽く目の前の麗人に視線を投げた。
ゆっくりとした動作でカップをソーサーに戻し、湫に向き直った。
「で?」
湫は二葉の様子を見てからそう口を開いた。
「今回の件につき、無事に任務を終了した報告に上がりました。」
幾分、重々しい口調でそう告げる。
「それは良かった。」
湫は微かな微笑を見せた。
「ただ・・・次回の件ですが・・・」
二葉は慎重な態度を崩さずに言葉を続けた。
「原因となるモノを特定できない上に、異常らしきものは見当たらないのです。
碧は、まだ何も言ってはいませんが・・・
おそらくは気が付いていると思います。」
一旦、言葉を区切り二葉はサイドカップを口元へ運ぶ。
「憶測ですが・・・」
カップを戻しながら口を開いた。
「境内で、少々奇怪な風の動きを感じました。」
「風?」
湫は怪訝そうな顔を見せた。
「はい。
もし、風に属する者・・・あるいは、風を操る者の場合のことを考え、最低限の処置を」
「それは、碧には荷が重いかもしれないね・・・」
二葉の言葉に続けるように告げる。
神妙な顔を見せる湫を軽く見つめてから二葉は口を開いた。
「そうですね。
最悪の場合を想定して、貴方が動けないのであれば、彼を動かして下さい。
それを承諾して頂きたく、お願いに来ましたの。
碧の力では限界があります。
彼を動かせるように手配してください。」
冷静な口調で告げ、湫に視線を添えた。
 湫はその美しい顔を俯かせ、切れ長の瞳を閉じた。
何かを考えるように黙り、それからゆっくりと瞼を開け、二葉に眼差しを向けた。
「分かった・・・手配しておこう。
概要については自分で伝えてくれよ?」
「了解。
それでは何かありましたら報告に参ります。」
そう言って二葉は立ち上がった。
湫が声を掛けて動きを止めさせた。
「碧に・・・
彼女に何かあったらすぐに連絡をくれ。」
「心得ております。」
「彼女が無茶をしないように・・・これからも頼むよ。」
「解っております。
そんなにご心配なら、貴方が傍に居れば宜しいのに。」
二葉は軽く口元の端を歪ませて、意味深な微笑を零した。
「結構、意地悪だな?」
二葉を見上げる美しい顔が歪む。
「今更。」
言い捨てるように告げ、二葉は強気な微笑を湫に向けた。
「まぁ・・・気を付けて」
「任務遂行の成功を祈っていて下さい。」
そう言うと彼女は応接室を後にした。
 その後姿を見送ってから湫は静かに窓際に近寄った。
窓の下に見る彼女の愛車を眺め、彼女が出て来るのを待つ。
 彼女が愛車の乗り、立ち去るのを見守るように車が見えなくなるまで見送ってから
湫も応接室を後にした。








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最終更新日:2003年8月23日(土)