『OPENING』

原作;四條 薫




 ――――― 1 ―――――




 雨の音に混じり、届く不快な機械音。
耳障りな警報のサイレンの雑音が鳴り響く・・・

 今では、誰も逃げる人影すら見えない。

崩壊寸前の建物の中で息を潜めるように静かだった。
誰もがこれから降り注がれるモノが止むのを待つだけ・・・。
 生きようとする意志も無く、死ぬ覚悟がある訳でも無い。
ただ・・・『今』と言う苦痛が終わることを祈るように待っているだけだった。

 ホンの少し前・・・まだ、治安が悪いだとか不況だと騒がれていた時期。
それでも平穏な生活が送れた時代。
 ある意味、それが一番・・・平和な時代だったのかも知れない。
少なくても、今よりは――――。

 歴史が物語る血で汚された世界は、それから逃れる事が出来ないかのように半世紀・・・
たったそれだけの時間で、全てを崩壊した。

 絡み合う縺れ、解決の糸口は見出せないまま・・・
戦慄の時代を幕開けた。
 亀裂は小さな、ささやかな事件。
それだけで、脆くも崩れ去る・・・
張りぼての世界。


 崩壊のサイレンが今夜もまた鳴り響く。
滅び逝く世界へのレクイエムのように――――。

 騒がしいサイレンの音に暗がりの中で目を覚ました。
かつてはカーテンだったボロ布の隙間から赤い爛々が警報を知らせる。
耳に届く警報に混じり雨が降っている事が分かる。
 カーテンの隙間から見えた街の仄かな明かりが、白々しいほど冷たく見えた。
少し前まではカラフルなネオンが夜を彩っていた。
"眠らない街"とまで言われていた面影をそこに見ることは出来ない。

雨が降っているからか、霧が掛かったようにボヤケて見える景色。
その効果もあるのか・・・寂しさを漂わしているようにさえ見えた。

「また・・・爆撃の雨か・・・」
窓辺に近寄り、微かに覗く黒い空を見上げた。
 雨雲に覆われた向こう側に、何処かの国の戦闘機が飛びまわっているのだろう。
また、建物が崩壊し、瓦礫の下には屍が転がる事になる。
 自分の身さえも次の瞬間にはどうなるか分からない今。
どうせ死ぬなら寝たまま気付かないうちに・・・そう願ってしまう。

 守るべきかけがえの無い者を空襲で亡くした。
残された自分には我が身がどうなろうと、どうでもいい事だった。
生きようとする目的も意志も無い。
 今はこの廃墟となったビルで無駄な生を費やしているだけ・・・
かつて、自分が築きあげた幸福の総称であった家。
 愛すべき者達と過ごした自分の城。
皮肉な事に、このビルはまだ爆撃の雨の被害が少なかった。
まるで取り残された自分と同じように・・・
主だけが帰り、他の住人は皆・・・
瓦礫の下で人間の形を留めない惨い姿をさらしたと言うのに・・・・

 今世紀、最初の大戦は一つの小さな国を滅ぼす。
ただその国の住人達は、正常な思考を持ってはいない。
 ただの生きた屍だけが存在する、生霊の国のように思えた。
爆撃の雨が降っても、それに対する恐怖という感情すら感じないように見えた。

 感情も感覚も思考も・・・
全てが、人間である前提と言えるモノが失われた生物だけが生きる街。

 それが、急成長しすぎた一つの国の末路だった。

 





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最終更新日:2003年8月22日(金)