『OPENING』

原作;四條 薫




 ――――― 2 ―――――




     生きる意志も無く――――
    ただ死を待つだけの私に・・・
 
 もう一度生気を取り戻させたのは一人の軍人の青年だった。

 彼が訪ねて来た時、私は身柄を拘束されると思った。

『安全』と称した政府の管轄で過ごす、監視―――出来れば・・・
このまま見殺しにしてくれることを願った。
彼を見た時、それは無理だったようだと観念したような絶望が漂った。

 彼は私に向け最敬礼をし、軍帽を脱いだ。
まだ少年の面影が残る青年は真っ直ぐに私を見て口を開いた。
「国や軍の為では無く、世界の人間を救う為にお力をお借りしたい。」
その言葉に私は疑問を持った。
「人を・・・救う為?」
「博士は世界的にも名医と呼ばれる外科医だとお聞きしました。
どうか、戦場で傷付いた無関係の者を一人でも多く、助けて頂きたい。」
医者としての私を必要とするとは考えもしなかった。
「私に、軍医として戦場へ行けと言うことかな?」
「博士の力を必要な者が世界には大勢いるのです。」
「今更・・・」
呟くように漏れた言葉は、私の本音だった。
「自分に出来ることは、一刻も早くこの戦いを終える事です。
一日でも早く。
この戦いを終え、平穏な日常に戻すことが軍人である自分の務めだと思っています。
自分には、傷付いた者を助ける力はありません。
博士なら、助けられるはずです!!」
彼の真摯の眼差しに私は沈黙した。

 ハッキリと自分の意見を述べた彼を見詰めた。

 私は、確かに医者として外科医を務め、ある程度の業績は称えられていた。
それはかなり前のことであり、今は『博士』と呼ばれるように医者とは一線を置いた
場所に立っていた。
 『博士』と呼ばれるだけの権威はある。
それが、何になるだろう?
 医者であった経緯はあっても、己の家族すら助けられなかった者に・・・
どうして他の者が助けられるのか?

「君は、私の何を聞いてここまで来たのかね?」
「博士なら、本来の医師の役目を果たしてくれる。
そう言っていた少尉の言葉を信じてここまで参りました。」
「本来の医師?」
聞き返した私の言葉に彼は俯いた。
「戦場では、敵味方の差別・・・
無関係な地元の住民の身分などから平等な治療を受けられずに死んで逝く者が大勢いるのです。
軍医は自分の味方しか治療せず、戦争の犠牲者であり被害者である地元の住民は・・・
満足に治療さえさせて貰えません。
政治家や財界の大物が医者を独占し、住民に高額の医療費を請求するのです。
このままでは、例え、戦争を終えても世界の住民の大半は亡くなるでしょう。
博士なら差別をせずに助けてくれる本来の医師であるとお聞きしました。」
「それを言った少尉の名前を聞いてもいいかね?」
「弾城少尉であります。」
彼はその名を告げるとき、背筋を伸ばしてハッキリと告げた。
「彼が・・・軍人に・・・?」
私は陽気な笑顔で医者としての最前線で戦っていた彼を思い浮かべた。
「はい。」
私は返答に迷った。
固く目を閉じて・・・しばし沈黙を落とした。
「場所は、何処かね?」
しばらくして私は彼に向けてそう聞いた。
「それでは!」
彼の声が喜んでいるのを感じ、私は頷いた。


 簡単に身の回り品を鞄に詰め込んで、私は家を出た。

 次に帰ってくるとき・・・
この家は空爆の餌食になっているかも知れない。
 帰ってくる者がいない家なら、
壊れてしまった方が幸せなのかも知れない。


 彼が用意した車に乗り、私は彼に尋ねた。
「君の名前はなんと言うのかね?」
「泰良です。
本当なら博士と同じ研究所で働ける予定だったんです。」
「そうか・・・
なら、早くこの戦いを終わらせて研究所で会いたいもんだね。」
私はそう言って見慣れた街を後にした。

 戻ることは叶わない願いと思って・・・






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最終更新日:2003年8月22日(金)