猫の交差点
〜談話室
「うぉいっ」
べしっ
声と同時に後ろ頭をはたかれて飲み掛けのジュースが気管に入りこみ思わずむせかえる。
ゲホゴホと咳きこんでいる俺に「大丈夫か?」と形だけ心配しながら俺の頭を叩いた人間―大森は俺の隣に腰を下ろし、ちょっとからかうように聞いてきた。
「猫、飼ったんだって?」
「ああ」
別に隠すような事ではないのであっさり認めた。
拾ってから三日目、アパートの管理人のおばさんぐらいしか知らないような事をドコから嗅ぎつけたのだろうか?
高校から付き合いがる大森は元々情報通でこいつから聞いた話の全てが事実あるいはそれに近いものだったりするので侮れない。
今のところ同じ学部の切っても切れない腐れ縁の友人と言ったところだ。
「どんな猫?」
「ん〜、模様は白黒の縞模様で子猫って言いきるにはでかいかな」
「へえ」
先に昼食を食い終えてしまったので、ごそごそと鞄からバインダーを取りだしそのうちの1枚を大森の頭の上に乗せる。
「先週の。後で絶対返せよ。ちなみに名前は水色」
「恩にきる。お前結構センスいいな」
ひょいと頭の上に乗せた紙を取りざっと中身を見てからそう返してきた。
「喧嘩売ってねぇ?」
「何を言う。俺は平和主義者なんだ、基本的に」
外人のような大げさな仕草で肩をすくめて見せる。「基本的に」って何だよ口に出しはしなかったが思わずジト目になった。
その視線のカケラすら気に止めず俺の隣でサンドイッチを噛り付いている
「大変じゃないか?」
飯が一段落ついたところで大森はそう俺に尋ねてきた。
「別に」
「よしよし。そのケナゲさに免じて缶詰を恵んであげよう」
と言って本当に鞄から缶詰を取り出す。
まさか本当に缶詰が出てくるとは思ってなかったので思わず引いたがよく見るとそれには「焼き鳥」と書いてある。
俺の反応を面白そうに眺めて、
「さすがに猫缶は持ち歩かねえよ。今日安売りしてたおれの非常食だ」
「酒のつまみに見えるな」
「兼用だ。後で俺んちに来るか?」
当たり前の様に言って大森は立ちあがった。次の時間、火曜の三限目はこいつと同じ授業だ。
「止めとく。エサ待ちしてるのが居るし」
そう言って俺も立ちあがり大森の横に並んで歩き出す。
「マメだねえ。大家に頼めばやってくれるだろ?」
「拾って早々飼育放棄しろってか」
「違いない」
そう言って笑った後、
「なあ、白黒縞模様の猫って言ったよな」
「?」
大森は植え込みの一角、ちょうどT字路の方を指差して、さきほどと全く変わらぬ調子で聞いてきた。
「水色?」
確かにアパートに置いてきたはずの猫であった。
俺がそれを口にする前に表情でわかったらしく、大森は面白そうなものを見つけたように猫を眺めている。
猫のほうは縁石の上にちょこんと座って、顔だけあさっての方向を向けていた。
アパートから自転車で大学まで十分、猫の足(?)でも来ることは難しくないかもしれない。
「…色々と聞いていいか?」
「猫を飼った経験は無いが、行動範囲を甘く見ないほうが良いんじゃないか?」
大森は俺の疑問をあっさり別の方向に逸らして言った。
しかし、その通りかもしれない。