猫の交差点
                〜拾い猫





―――目が合ってしまった。

いつものようにバイトを終えた帰り道、街灯がぽつぱつと道を照らしてはいるけれど空に浮かんでいる丸い月の方が幾分明るく感じる。そんな夜。
鼻歌なんぞを歌いながらバイト先のコンビニで手に入れた戦利品―賞味期限を3時間ほど過ぎた食料―を手にアパートへの道を慣れた調子で辿っている途中の事だった。
何気なく通り過ぎようとした家と家との隙間、人が一人通りぬけられる程度の幅にあった『それ』の存在に気が付いたのは幸か不幸かそれとも運命とでも言うものの存在か、とにかく偶然としか言いようが無かった。
普通なら見落とすような所にあったのだから。
オードソックスにも〔拾って下さい〕と側面にデカデカと書かれたダンボールの中の小動物と目が合ってしまったのである。
「う」
口から引きつった、しゃっくりが途中で止まってしまったような声がこぼれ落ちた。

元々俺はこういうものに弱かった。
小学校の頃こういうものを見つけるたび家に連れて帰るわけにも行かず、かといってそのまま放って置けずにこっそりと飼い、それがばれて怒られ里親探しをする事もしばしばだった。
三つ子の魂百まで。
目を離すことがどうしても出来ずに恐る恐る箱の中を覗きこんだ。
その中にいたのは猫だった。
暗がりにいるので毛皮の模様をはっきりと判別出来ないがそいつは水色がかった目で俺を見上げている。
端から見ていれば猫とにらめっこしている変なヤツに見えるだけだろうが、この時の俺の心の中はパニックになりかけいや、完全に陥っていると言っても過言ではなかったと思う。

暫く双方無言で見詰め合った後、先に目を逸らしたのは猫の方だった。ダンボールの隅に目を閉じて丸くなる。
その諦めたようなまだ子猫と言えるような小さな生き物の様子に胸がズキンと痛んだ。
ためらったのは一瞬だった。
一度手に持ったビニル袋をアスファルトの上に置き、ダンボールに手を伸ばす。
その気配に気づいてか猫は再び顔を上げてこちらを見つめる。
驚かせる事の無いように一度鼻先に手を差し出したままの状態で待つ。
視線を指先に移し、ひとしきり匂いを嗅ぎまわした後ぺロと一度だけ舐めて「了解」とでも言うような様子で僕の顔を見上げた。
その何とも言えないしぐさに苦笑を洩らしてからひょいと抱き上げた。
少し体を強張らせて、しかし暴れて俺の腕から逃げようとしないで大人しくしている。
月明かりに照らされて初めて縞模様をした毛皮の模様が見て取れた。
ビニル袋を猫を抱いているのとは反対の手に持ちなおしアパートに向かって歩き出す。


気ままな学生の一人暮し、バイトと仕送りを考えれば猫一匹飼う余裕ぐらいはある。
なんとかなるだろ。
割りと軽い気持ちで夜道を歩きだした





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