二人でよく行った丘。
いつか見た空。
突き抜けるような青い空。
二人丘の上で寝転がり、二人一緒の空を見た。
お昼はいつもそこでお弁当を食べた。
丘の上の一本の大きな木の根元には二人の名前を彫った。
丘の上で泣き、笑い、怒り、抱き合い。
二人にとっては当たり前の日々。
ただそれだけが幸せだった。
いつしか青い空は見えなくなった。
この国で戦争が始まったのだ。
もちろん僕は徴兵された。
出発の日、いつもの丘でいつものように初めての別れ・・・。
ただただ泣いている彼女を抱きしめ生きて帰ると約束した。
空は灰色の雲で敷き詰められ辺り一面焼け野原。
あちらこちらに死体が転がり、花の香りもなく死臭のみがたちこめる。
「お国のため」
そんな精神は僕にはない。
ただ大切な人。あの人を守るために戦争に出た。
約束したんだ。
「突き抜けるような青い空をもう一度キミに・・・」
そして生きて帰ると約束したんだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
例えどんな罪を犯そうとも。
いつも二人で行ったあの丘でもう一度二人手を繋いであの空を・・・。
いつかのあの幸せな日々をもう一度・・・。
だが僕はもう随分この手を汚した。
戦争なんて意味がない。死にたくなんかない。
守るべきものがある。失いたくないものがある。
僕と同じ境遇のヤツだって敵にもいくらだっているんだ。
そういったヤツを僕は自分のために殺めたりもしたんだ。
戦争を起こした張本人のお偉いさん達は自らは何もせずに高みの見物。
彼らはそこまでしていったい何を守りたいのだろう?
なぜ僕らが・・・・なんのために僕らが・・・・。
血に塗れた僕を見てあの人は僕をどう思うのだろうか。
血に塗れたこの腕でもう一度あの人を抱きしめることができるのか。
もう一度あの日々を送ることができるのか。
いや、この心配はもう必要ない。
とにかく僕は・・・約束の一つを守れそうにない。
ゆっくりと薄れゆく意識の中、ただキミの幸せを祈る。
願わくばこの無意味な戦争が一刻も早く終わりますように。
僕のような境遇の人間が二度と出ませんように。
あの人の目にもう一度あの日の突き抜けるような青い空が広がりますように。
・・・・・キミが笑って過ごせますように。
せめてその空の上で、あの人を見守れますように・・・。
月日は流れ戦争も終わり花も咲き始めたある日の午後。
丘の上には一人の女性。
どこかに少女の面影を残しつつ毎日丘の上で人を待つ。
その丘は以前とは何も変わっていなかった。
花が咲き乱れ、大きな木が雄大とそびえている。
以前と変わっているのは・・・隣に誰かがいないこと。
彼女は不安と戦っていた。
「あの日々は夢だったのだろうか?」
いつものように丘にいると一陣の風が吹き花が揺れ彼女は目を閉じた。
彼女が再び目を開くとそこにはいつかの青い空。
“突き抜けるような青い空をキミに・・・”
風の音にまぎれてかすかに聞こえたなつかしき声。
彼女は再び目を閉じた。
その目には涙が溢れていた。
彼女はそっと一言だけつぶやいた。
「・・・ありがとう。」
ふと見上げた大きな木。
あることを思い出した彼女はすぐに木の根元を調べた。
そこには二人の名前が彫ってあった。薄くなっていたがたしかにあった。
遠い昔の夢物語。
夢ではなかった夢物語。
丘の上には二人がいた。
丘の上にはたしかに二人がいた。
天を仰ぐと彼女の目には吸い込まれそうな空。
いつか二人で見た
突き抜けるような青い空。