序章


薄い雲が空一面を覆っている日
冷たい風が吹き始め、冬の足音も聞こえ始めた
自販機で缶コーヒーを買って家に帰るまでのほっかいろ代わりにしていた俺は、おかしなものを見つけた


真っ白な、雪のような色の服を纏った少女
コートを着る人間が増えてきたこの時期に、明らかに場違いな薄いワンピース姿
そんな少女が、公園のベンチで横になって目を閉じている
胸の上で手を組み
祈るような姿勢で
彼女はそこに、横たわっていた


普段なら、無視していたはずだ
現に今俺は、この少女に関わるべきではないと思考している
なのに
何故
俺は彼女に歩み寄っているのだろう……?


フワ…


一陣の北風が、彼女の前髪を揺らした
髪は長くはない
せいぜい肩まであるかどうかだろう


彼女のいるベンチまであと3歩のところで、俺は立ち止まる
―――吸い込まれていた
都会と田舎の中間のような街の
寂れた公園で横たわる少女
そのあまりにも場違いで
そしてあまりにも神聖な彼女の姿に

俺は吸い込まれていた

そして
唐突に
きっかけもなく
彼女が目を開いた


目が合った
数秒間、双方黙したまま見つめあう
ふと、先ほど彼女から感じた、一種異様なまでの清廉さや神聖さ、荘厳さが消えていることに俺は気付いた


「………」
「………」


彼女は口を開かない
まだ横になったままで、茫洋とした表情でこちらを見上げている
俺もまた、自分が何故今こうしているのかわからず、動けなかった


「……誰?」


透き通るような、ともすれば聞き逃してしまいそうな声で
表情を変えずに彼女が問いを発した


「……君は誰だ?」


問いに答えず俺は質問を返した
妙な確信があった
この娘と俺は、出会うべくして出会った
そんな確信が


「私は……」


そこで言葉を切り、目を閉じる
1瞬何かを悔やむような表情を見せた後
元の表情で彼女は言った


「あなたを殺す者です」
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