ぐるぐる
私は、音楽を聴くのが好きだ。昔からそうだった。
子供のころ、好きな歌手がライブを行う度、会場の裏で一人耳を澄ませていたことを思い出す。
あの頃は家が貧乏で、当然コンサート代などもらえなかった。
今となっては考えられないほど、質素な毎日だった。
さて、世の中に「CD」なるものが登場し、私の音楽好きはますます昂じた。
それまでのレコードやカセットテープは、聞けば聞くほど再生機の針が駄目になったり音質が悪くなったり
してゆくので、どうにも好きになれなかったのだ。
だが、CDは何度聞こうと音質は変わらないし、プレーヤーも滅多なことでは壊れない。
私は給料のうちで趣味に割くことができた分の大半をCDの購入に費やした。
邦楽、洋楽、果ては民族音楽まで、ありとあらゆるCDを買い漁った。
本棚はいつしかCDでいっぱいになり、新しい本棚を購入した。
それも埋まると、三つ目の本棚を買った。
三つ目の本棚が半分ほど埋まったところで、流石に私も考えた。
このままのペースでCDが増えてゆけば、そのうち部屋全体がCDに占有されてしまう。
いや、私の部屋だけに留まらないだろう。
いつかは家全体がCDだらけになる。
私一人だけならそれでも構わなかったが、私には妻がいたし、その妻の腹には新たな生命が宿っていた。
何とかして、このCDの山を小さくしなくては。
最近聞いていない、古いCDを捨てようかとも考えたが、昔のものにもそれぞれ思い出が詰まっている。
捨てるにはあまりにも忍びない。
だからといって最近買ったばかりのものを捨てるわけにはいかないし、一体どうしたものだろうか。
しばらくの間そのことで悩んでいたが、やがて登場した「DVD」により、悩みは呆気なく解決した。
聞けば、DVDなるものはCDと同じ大きさで数倍以上の情報を記録できるとか。
ということは、私の持っているCDの内容を全てDVDに焼き写せば、一曲も
失うことなく保管スペースを数分の一に削減できるではないか。
私は鼻歌まじりにパソコンと大量のDVD−Rを購入し、CDをDVDに焼き写す作業に没頭した。

それから、数年ほど後のことだ。
私は再び悩んでいた。
あぁ、何てことだ。CDを購入し、中身をDVDに焼き写してオリジナルは売却、ということ
を繰り返していたら、私の三つの本棚はDVDで完全に埋まってしまったのだ。
このままDVDが増え続ければ、私の家全体がDVDの海になってしまうだろう。
私一人だけならそれでも一向に構わなかったが、前述したとおり
私には妻がいたし、さらに、二人目の子供が生まれたばかりだった。
どうしよう。最近聞いていないDVDから捨てていこうか。
いや、しかし惜しい、でも捨てなければ・・・などと悩んでいると、TVのコマーシャルが目に飛び込んできた。
『あなたの大切なもの、守ります!激安貸し倉庫の○○社、月々二万円より』。
これだ。
私も今ではそこそこ出世し、それなりの年収を保っている。
月々二万円くらい、安いものだ。
私は口笛を吹きつつ、○○社に電話をかけ、小さな倉庫を借りた。
そこに数枚を除いてほぼ全てのDVDを移すと、私の部屋は見違えるようにすっきりした。
良かった。これでもう安心だ。
これからは何の気兼ねも無く、好きな音楽を好きなだけ聴ける。

それから、さらに十年ほど後のこと。
私は三度、苦悩していた。
倉庫を借りたことで、DVDの保管場所には困らなくなった。
あんな薄っぺらいものがいくら増えたところで、倉庫を一杯になどできはしない。
では、何が問題なのか。
スピーカーだ。
私はあのあとスピーカーに凝りだし、より良い音質を求めて様々なスピーカーを買いまくった。
その結果、現在私の部屋は世界スピーカー博物館とでもいうべき様相を呈している。
このままスピーカーが増え続ければ、私の家全体が同じ状況になることは目に見えていた。
私が独り身ならばそれでも全然まったくもって無問題なのだが、体の弱い妻や高校生になる
長男、小学生の長女、飼い犬のオキナマロらのことを考えるとそういうわけにもいかない。
何か解決策は無いものだろうか。
例によって古いスピーカーにも様々な思い出が積もり積もっているので、捨てたくない。
深く深く悩みながら、何気なく手元にあった新聞を開くと、そこにはこんな広告が出ていた。
曰く、『建売住宅、土地五十坪、××駅から徒歩五分の好立地、コンビニ近し。五千万円也。□□不動産』。
これだ―――
××駅といえば、私の家から歩いて数分の距離である。
その近くに保管スペースを持てれば、今抱えている問題は完全に解決する。
幸運なことに、私は先日買った宝くじで一億円当てていた。
私は喜びのあまり踊り出しそうになるのを必死でこらえながら、□□不動産に手紙を送った。

二十年後。
ああ、ああ、神も仏もあったものか。
私はあの後本格的なオーディオ機材に凝りだし、


「ぐるぐる」了