1
ドサァァッッ・・・
身長2メートルはあろうかという巨漢が、地面に倒れ伏した。
傍らに立つのは年端も行かぬ少女。
少女は無邪気にピース・サインなどをとり
周囲のギャラリーに愛嬌を振りまいている。
そこへ惜しみなく歓声が浴びせられ、紙にくるまれた小銭が投げ込まれる。
少女は満面の笑みを浮かべながら、一礼した。
「ありがとうございます〜」
小銭を拾い終わると、少女は懐から出したロープで巨漢を後ろ手に縛った。
「それじゃ、つき出して来ますね。まぁこの人じゃ大した収入にもならないですけど」
未だ白目を剥いている巨漢を肩に担ぎ上げ、少女は去っていった。
その少女は、賞金稼ぎであった。
2
ボクは、そのタタカイを最初っから最後まで見ていたんだ。
なんだか人だかりができてたから、覗いてみたら。
キレイなお姉さんが、自分よりずーっと大きな男の人と向き合ってた。
男の人はなんだか顔を真っ赤にして怒ってて。お姉さんはニコニコしてた。
「その素敵な体を生かして、芸の道を歩んでみませんか?」
みたいなこと、言ってた。それで男の人がキレて、お姉さんに掴みかかったんだ。
あっという間だった。お姉さんがポッケから取り出したヨーヨーが
男の人の体中に打ち付けられて。よろけたところを、みぞおちにもの凄い蹴り。
それで終わっちゃった。
ボクの胸が、バクバクいってた。
「ヒュー!すげぇぜ!!」
「最高っ!」
ボクの周りでタタカイを見ていた人たちが、いっせいにおひねりを投げた。
お姉さんは可愛らしいポーズをとり、深々とおじぎをした。
そして顔を上げたとき―――ボクと目があった。
お姉さんはボクに微笑みかけた。
ボクの顔は真っ赤に染まって、心臓は暴走機関車みたいに跳ね回った。
初恋だった。
3
「・・・はい。それではお受け取りください」
所員から報酬を受け取った。大した額でもないけど
これで2週間くらいは十分に食いつなげる。
「はぁー・・・」
でも、目指す賞金首は一向に捕まえられない。消息すら知れない。
こんなんじゃ、いつまでたっても故郷に戻れないよ・・・・・・。
ウチは溜息をつきながら役所を出た。
ちょっと疲れたし、宿に戻って眠ろうかな。
そんなことをつらつらと考えながら役所のドアをくぐって
数歩歩いたところで立ち止まった。
目の前に、男の子が立っていた。まだ7、8歳かな?
彼は胸の前で手を合わせ、モジモジした様子で上目遣いにウチを見上げてきた。
とりあえず、声をかけてみることにした。中腰になって、彼と顔の高さをあわせた。
「どうしたの、ボク?ウチに何か用かな」
彼はびくんっ、と体を震わせた。リンゴ色の頬をますます赤くして縮こまった。
ウチは彼が落ち着きを取り戻すまで待つことにした。今日は特に予定も無いしね。
彼はしばらく手をすり合わせたり、ウチの方をチラチラ見上げたりしてたけど
やがて口を開いた。
「あ、あの・・・・ボク、さっきの見て・・・それで・・」
「え・・・あぁ、あの子!」
そういえば、ギャラリーの中にいたっけ。
「それで、えっと・・その、かっこいいなぁ・・・って、思って、あの」
クス。ウチの頬に、自然と笑みが浮かんだ。ちょっと嬉しかった。
こんな風に、純粋に憧れてくれるヒトなんてほとんどいなかったから。
ウチのファイトを観てくれるヒトはいっぱいいるけど
あの人たちの視線にはなんだかヤらしいモノが含まれてるような・・・
「ありがと」
頭を撫でると、彼は再び縮こまってしまった。なんだか可愛い。
「ふぁ・・・あ・・」
なでなで。彼は声こそあげるものの、抵抗しようとはしなかった。
ということは、嬉しいんだよね。ウチは彼の頭を撫で続けた。
「あぅ・・あ、あの」
「なぁに?(なでなで)」
「その・・・お、お名前とか、教えてもらえませんか」
「名前?ウチはブリジット。ヨロシクね(なでなで)」
「あ・・ありがとうございます・・あの、ボクは」
ぐぅ。
「あ・・」
間の抜けた音は、彼のお腹から出たものだった。
なんとまぁありがちなタイミング。
「お腹、へってるんだ?」
「少しだけ・・です」
「それじゃ」
もう少し、この子と一緒にいたい気もするし。
「ご飯にしよっか。近くに美味しい店があるから」
4
二人は、ブリジットの馴染みの料理屋に入った。
少年は恐縮したが、ブリジットは笑って取り合わなかった。
「ウチが奢りたいの。だから遠慮しないで」
少年は最初のうちこそ恐縮するのと恥かしいのとで口数も少なかったが、
ブリジットのフレンドリーな態度に安心したのか
次第に彼本来の明るさで喋るようになった。
ブリジットは彼を愛でた。彼も、ブリジットと過ごす時間を幸せに思った。
そして食事が済むと、ブリジットは2人分のミルク・ティーを追加注文した。
5
「ふぅ・・・おいしかった?」
ブリジットさんは、ティースプーンで紅茶をかき混ぜながら、聞いた。
「はい!・・・あの、今日は本当にありがとうございました」
「いいんだって。何度も言うけどウチが奢りたいんだから。それに」
ボクの髪に手を伸ばしながら、続けた。
「ウチ、キミといるととっても楽しいから」
そしてブリジットさんは、とんでもない行動にでた。
ボクの髪を撫でていた手を、頭の後ろに回して、引き寄せて・・・
ボクのおでこに、唇をつけた。
「わ、わわっ・・・・」
「ふふふ。気持ちよかった?」
ブリジットさんは悪戯っぽく笑ってた。けど、ボクはもうパニック状態だった。
体温まで上がったんじゃないかと思った。
キスされた。ブリジットさんに。すっごく嬉しい。でもすっごく恥かしい。
他のお客さんもいっぱいいるのに、こんなところで・・・
でもでも、嬉しい・・・・・・天まで舞い上がるようなキモチ。
なんだか、頭の中までぽーっとしてきた・・・
「ブリジットさぁん・・・」
「え?ちょ、ちょっと!」
ボクは何にも考えられなくなって、そして・・・。
6
「ん・・・」
目を覚ましたみたい・・・それにしても照れ屋さんだなぁ。
キスしたくらいでいきなり気を失うなんて。
「目、覚めた?」
「は、はい・・・って、え?えぇ!?」
「どうしたのそんなにあわてて」
「だ・・だって・・・」
彼はまた赤くなっていた。何度見ても、可愛い。
もう一度キスしちゃおうかな。今度は唇に、少し長めに・・・
「ここ、ブリジットさんの家ですよね?」
「えと・・ちょっと違うけど、まぁそんなようなもの」
本当の家は故郷の村にある。大富豪の大きな家だったりする。
今暮らしているのは、賞金稼ぎの為の臨時の宿だ。
「だってキミいきなり倒れちゃうんだもん。とりあえず寝かしておかなきゃと思って」
抱いて帰って、ベッドに寝かせた。
「そ、それはありがたいんですけど・・・」
「けど?」
「なんでブリジットさんが隣で寝てるんですかっ!」
「イヤかな。ウチはあったかくていいと思うんだけど・・・ほら、あったか〜い」
彼に抱きついて、頬擦りしてみた。すべすべの柔らかい肌が気持ちいい。
「わ、わぁ・・イヤ・・じゃないですけど・・・でも」
「いいじゃない。ヤじゃないならさ。誰も見てないし、こうしていようよ〜」
彼の頭を胸に抱え込んで、きゅ〜っ、と押し付けた。
胸板に彼の顔があたる感触、こそばゆい。
「んむぅ・・く、苦しいです」
「でも、気持ちいいでしょ?」
「う・・・は、はい・・・少し」
その言葉を聞いて、邪な感情が首をもたげてきた。
「少し?・・・・・それじゃ、もっと気持ちよくしてあげるね」
「え・・・わ、わぁっ!?」
首筋に軽く舌を這わせると、彼はとても可愛らしい声を上げた。
7
ブリジットは愛撫を止めない。少年の頭を撫で、頬を寄せ、耳たぶを甘噛みした。
少年は抗うことができず、ただ体を硬直させていた。ブリジットは最初のうちこそ
一方的な愛撫を楽しんでいたが、次第にそれでは満足できなくなってきて、
少年を催促した。
「ねぇ、キミもウチに何かして」
「な、何かってなんですか」
「もう、とぼけないでよ〜。ウチに抱きついたりキスしたり、してよ」
首筋に息を吹きかけながら、甘い声を出すブリジット。
少年は硬直したままだ。今の状況は、彼には刺激が強すぎるのだ。
ブリジットの愛撫は幼い子供が両親から受けるスキンシップとはまったく異質の
若い男女が行うそれだった。まだ7、8歳、幼児といって差し支えない年齢の
彼には、声を上げること以外何もできなかった。
「や・・めて・・くだ・・さ・・」
「ん・・・」
少年の口を、ブリジットの唇が塞いだ。舌を挿しいれ、少年の口腔内の味を愉しむ。
ブリジットの舌が少年の舌をつつくと、少年はびくん、と体をのけぞらせた。
だがブリジットは構わず舌をより深く絡めてゆく。
少年の体は絶えず小刻みに震え、ときおり大きく痙攣した。
ブリジットは少年の敏感な反応にますます興奮してゆき、夢中で求めた。
口だけでなく、両手で少年の体を抱きしめ、服の上から撫でさすった。
だんだん少年の抵抗も弱々しくなってきた。
「ブ・・リ・・・・ジット、さんっ・・お願い・・お願いです・・ぅ・・」
「何言ってるの、キミが可愛すぎるからいけないんだよ?」
結局、ブリジットが愛撫を終えるまで優に2時間以上が経過した。
8
「ふぅ・・・・・・気持ちよかったねぇ」
ブリジットさんがボクに声をかけてきたけど、答えられなかった。
ボクの体はストーブみたいに熱くなってて
とても返事なんてできる状態じゃなかったんだ。ボクが黙っていると、ブリジットさん
は少しボクの方に身を乗り出してきた。その顔はちょっぴり心配しているように見えた。
「あー・・・と、その、大丈夫?ちょっとやりすぎちゃったかな」
「大丈夫です・・・」
なんとか無理やり返事をしたけど、とてもダイジョブそうな声は出なかった。
「ホント、ごめんね」
ブリジットさんは眼前で手をあわせて、拝むような仕草をしながら言った。
それにしても、ブリジットさんはボクのどこが気に入ったんだろう。
ブリジットさんくらい綺麗なお姉さんなら、いくらでも相手は見つかるのに。
不思議に思ったので、まだ声を出すのがだるかったけど聞いてみた。
「あの・・・どうしてブリジットさんはボクなんかを・・・」
「?」
「お昼前ごろ、いきなり話しかけた話しかけたボクに構ってくれて・・・」
「それから、その、いろいろ可愛がってくれて・・・」
「あ、で、でもさっきみたいなのはボクがもっと大きくなってからにして下さいね」
って、何言ってるんだよボク!
あわてて言い直そうとしたけど、適当な言葉が見つからなかった。
ボクがしどろもどろになってブリジットさんの方を見ると
ブリジットさんは何か考え込んでいるようだった。
「あの・・・どうしたんですか?」
「ん・・何だか、自分でもよく分らないんだ」
そこから、ブリジットさんの話が始まった。
「ウチがキミと初めて会ったのって、今日の昼間なんだよね・・・」
「とても信じられないよ。もうキミと何年間も付き合ってきたみたいに思える」
「キミは可愛いよ。とっても可愛い」
「それでもここまで狂おしいなんて・・・自分でも理由が分らないんだよ」
「人を好きになるのに、理由なんてないのかもしれないけど」
ブリジットさんはまた、ボクを抱き寄せた。今度はボクも抵抗しなかった。
女の人らしい、薄い胸板に顔を押し付けた。
「ウチ、キミのこと大好き」
「今まで出会った人の中で一番大好き」
その言葉はボクの中を、なんともいえない柔らかなもので満たしていった。
ブリジットさんの―――告白。
夢じゃないかって思ったけど、ボクに触れるブリジットさんの感触は現実のものだった。
「それで・・・本題に入るけど」
コホン、軽く咳払いをするブリジットさん。
「ウチは、キミの恋人になりたい」
「キミに、ウチを好きになって欲しい。キミの一番になりたい」
真剣な顔でボクの目を見つめるブリジットさんに、心臓が早鐘を打った。
ブリジットさんの、恋人・・・・・・
「図々しい質問だけど、キミは・・・ウチのこと好き?」
「はい。・・・ボクを、ブリジットさんの恋人にしてください」
頭で考える前に、口が動いていた。
「・・・ありがとう。でもね、ウチひとつだけキミに隠し事してるんだ」
「それで・・・今からそれが何か話すけど」
「お願いだから、お願いだからウチを嫌いにならないでね・・・」
「もう、キミのこと離せないから・・・大好きだから、キミが・・」
ブリジットさんは泣いていた。ボクはどうして泣いているのか分らなかったけど、
そこまでボクを愛してもらえるなんて幸せだと思った。
「何を聞いても、ボクはブリジットさんのこと大好きですよ。ずっと」
「・・・ホントに?」
街中で闘っていたときのブリジットさんからは、想像できないくらいかぼそい声。
「ホントですよ。・・・ボクだって、もうブリジットさん無しじゃ生きていけません」
「ん・・・じゃ、言うね」
ブリジットさんは一度ボクにキスをしてから、言った。
「ウチ・・・・・・・・男なんだ」
「へ?」
「女じゃないんだ。ウチはキミと同じ、れっきとした・・・男」
何を言われているのか、まったくわからなかった。ボクが呆けた顔をしていると
ブリジットさんは行動で示してくれた。
「だから、こういうことっ!」
腰に手を回して、ボクをぎゅっと抱き寄せた。互いの腰が密着した。
それでやっと、ブリジットさんの言いたいことを理解した。
「・・・・・詳しい事情は後から説明するけど、こういうこと」
「わぁ・・・全然気づきませんでした」
本当にびっくりした。ブリジットさん、声は高いし、髪はさらさらだし・・・
「・・・まだ、ウチのこと好きだよね?」
「はい、大好きです」
もちろんだ。大体男だって女だって同じ人間、大差はないじゃないか。
「・・・じゃあ、詳しい事情はあとから説明するから、その・・」
「はい?」
「ウチのこと好きなら・・・我慢してくれる?」
「我慢・・・って何をですか」
ブリジットさんは、ボクの目を深く深く見つめて・・・
そして、ボクの着ているシャツに手を掛けた。
「証が、欲しい。キミがウチを愛してるっていう、証が」
ひとことひとこと、はっきりとした声音でブリジットさんは言った。
ボクは・・・
「・・・・・・はい」
全てを愛しい人にまかせて、目を閉じた。
「ラブリー・ベアハッグ」完