AIR another story

夏のはなし

In the Summer―――"a Tale about the Wing" started!






このページは、来る10月24日『大田区産業プラザPio小展示ホール』に於いて開催予定のイベント
Key Tactics eXpo 3
にて、サークル『スラプスチックアングラー』が発行する予定の同人誌についての紹介ページです。








○頒布予定
AIR小説『夏のはなし』
A5版オフセット(表紙一色カラー・本文墨刷り。52ページ。頒価300円)。
水色の表紙が目印!



サークルスペース A-06 サークル名 スラプスチックアングラー

当同人誌製作に当たって、サークル『トナンの鳳翼』所属の
イタリアーノカナタ氏が美麗な挿絵を描いてくださいました。
忙しい中無理言ってごめんなさい。
この場を借りて御礼申し上げます。

感謝ッッ!





○委託品
サークル『エルイース製作工房』様より
シミュレーションゲーム『大祐一』体験版
*この商品は昨年の夏コミで配布されたディスクをお持ちいただければ無料にて頒布致します









○発行物について色々と
『夏のはなし』はAIRを題材にした二次創作小説ですが、
時代設定は、まだ観鈴たちの産まれていない、昭和五〇年代前半となります。
舞台はとある片田舎。
「もうひとつのAIR」を書けたらいいな――――――って。

下に予告編を掲載しております。

是非ぜひ、ご一読くださいっ!
































―――ある夏、片田舎。
今年もまた、暑い季節がやってきた。

じりじりと、照りつける陽射し。
ニイニイと、響く蝉の歌。
夏の日。
白い雲、青い空。

じりじりと、道は焼かれる。
茶色い路、土のみち。
透き通るような、夏の日差し。
突き刺さるような、蝉の歌声。

じりじりじりと、照りつける太陽。
うだるような、真夏の熱気。

その中をゆく、黒い影法師。
とことこ、とことこ、茶色い地面を踏みしめる。
今日はこんなに暑いのに。
なんだってそんな、真っ黒な服を―――










    夏のはなし


     一
二人の人間が、歩いていた。
前を行くのは、白い半袖のTシャツに、短パンという組み合わせの少年。
胸を張って、真っ直ぐに前方を見据えていた。
その後ろを少し離れて付いてゆくのは、ちょうど同年代と思われる少女。
膝下まである、真っ黒なワンピースを着ていた。
前を歩く少年とは対照的な格好だ。
よく見れば、対照的なのは各々の衣服だけではなかった。
少女は俯き、己の作り出す影を見つめながら歩いていた。
肌白な額に浮かんだ汗に、前髪をぴたりと張り付かせて。
堂々とした少年とは正反対の様子だ。
端から見た二人は、あたかも警官と泥棒のようだった。
捕り物を終えて得意げな警官と、手錠で繋がれ、落ち込んで引っ張られてゆく泥棒。
違うのは、両者を結ぶ戒めが無いという点のみだ。
何から何まで、二人はあべこべだった。


ともあれ。ふたりは、歩いてゆく。



     二
この道はどこまで続いているのだろうか。
あと一キロか。あと一〇キロか。それ以上なのか。
わたしは今まで、どれだけ歩いてきたのだろうか。
一里か。一〇里か。それとも、もっとか。
わからない。何も、わからない。
唯一つだけ痛いほど理解できるのは、現在のわたしが非常に理不尽な状況に置かれているという、この事実。
あぁ、お天道様、どうしてわたしにこのような責め苦を―――
「うるさいなや。何をぶつぶついってる」
どうやら、心中の不満が声に出てしまっていたようだ。
わたしは軽く舌打ちして、言い返した。
「あんたこそ、何が『バス停から歩いてちょっと』よ。
もう二時間は歩いてるのに、全然見えてこないじゃない、あんたの村。
『ちょっと』って言葉の意味知ってるの?」
「知ってらあ!大体二時間も歩いてねぇよ。多く見積もったって、せいぜい一時間半ってとこだべ」
その言葉に、わたしの精神は粉々に打ち砕かれた。
なるほど。彼にとって、炎天下で運動する一時間半は『ちょっと』で片付けられてしまう程度のものなのか。
わたしは思わず溜息を漏らしてしまった。
すると、彼はそれを耳ざとく聞きつけたらしく、再び怒鳴り声を響かせた。
「たるんでんじゃねぇ!とっとと歩けっ!」
レディに対してその言葉遣いはあんまりだと思ったが、だからといって、反論する気力も無い。
わたしは観念して、またとぼとぼと歩きはじめた。
ふと、風を感じて顔を上げれば、進行方向には山と見紛うばかりの巨大な丘がそびえ立っていた。
丘に対して『そびえる』という言い方は少し変かもしれないけれど、
自然とそんな言葉が思い浮かんでしまうくらい、その丘は大きく見えた。
「ねぇ、これ……登るの?」
当たり前だ。そもそも道が一本しか無いのだから、登るに決まっている。
でも、そうと分かっていても、聞かずにはいられなかった。
「あぁ。ここを越えたら、オラたちの村だべ」
彼は満面の笑顔を浮かべて、言った。
「あとちょっとだなや」
―――もうたくさんだ。


     三
「ただいまぁ!」
元気いっぱいの挨拶。軒先に姿を現した女性が、それを迎えた。
「お帰りなさい、留吉。ランちゃんはどうしたの?」
留吉と呼ばれた少年は、無言のまま背後を親指で指した。
指の先では、黒いワンピースを着た少女が、膝をついてぜぇぜぇと息を荒げていた。
女性―――菅原留吉(すがわら とめきち)の母親があわてて駆け寄ると、彼女は気丈に顔をあげた。
「どう…も……こん、にちは…お世話に……なり、ま」
どさり。体力の限界を迎え、言葉を最後まで紡げぬままに『ランちゃん』こと貫井蘭(ぬくい らん)はあえなく崩れ落ちた。


     四
蘭の家庭は、いわゆる母子家庭であった。
彼女が産まれてから数年の間に、母方、父方両方の祖父母が相次いで他界。
その後さらに一年して、父親も病死した。
それ以来、蘭は母親と二人きりで暮らしてきた。
蘭を養うため、専業主婦だった母は内職を始めた。
配られた大量の紙を糊付けし、紙袋にして加工賃を得る、というものだ。
だが、それだけでは到底親子二人の生活費を稼ぐことなどできず、彼女はさらにパートタイムのレジ係に就いた。
それにより、やっと収入は安定した。
蘭は小学校に入学し、すくすくと育っていった。
快活な人柄から、男女を問わずたくさんの友人もできた。
「お母さん、あのね、今日ね」
興奮して頬を赤らめながら、蘭は学校での出来事を語った。
毎晩の恒例行事である。
誰々くんと遊んだ。何々ちゃんとケンカした。でもすぐに仲直りして、また一緒に遊びまわった……母は話を聞きながらも手は休めない。
紙を折り、指定された箇所に糊を塗り、押し付け、均す。
紙袋作りという地味な仕事。
正直言って嫌気がさす。しかし―――
「ねぇ、お母さんちゃんと聞いてる?さっきから生返事ばっかりだよ」
蘭。十年前、お腹を痛めて産んだ我が子。
「はいはい。ちゃんと聞いてるから落ち着きなさいな」
そう言って鷹揚に微笑み、頭を撫でた。
手のひらの中でくすぐったそうに笑う娘。
―――なんて、笑顔。私はこの笑顔を護るためなら、悪魔にだって魂を売り渡せるだろう。
ちょっとばかり退屈なだけの仕事が、どうしたというのだ。
蘭の実母である貫井百合子は、まったくの本心からそう思った。

その日から、ちょうど一ヶ月後。
百合子は勤務中に突如倒れた。
病院に運ばれたが、救急車の中で息を引き取った。
医師の診断では、長期間に渡っての過剰な労働による疲労蓄積が原因とされた。
貫井蘭、一〇歳。この日をもって、天涯孤独の身となった。


     五
「はぁぁ、生き返るぅ……」
氷の浮かべられた麦茶を飲み干し、蘭は目を細めた。
軒先で倒れてから一時間。
彼女は順調に回復しつつあった。
ここは、菅原家の隅に位置する四畳半。
部屋の中央に敷かれている布団は、つい先ほどまで蘭が寝かされていたものだ。
「ったく、世話の焼けるオナゴだなや。これだから東京モンはいけねェ」
留吉の無礼な発言を軽く聞き流し、うーん、と思い切り伸びをした。
気分は良好だ。
介抱してくれたおばさんに感謝。
「さて、と」
蘭は立ち上がった。
そして、そのまま部屋を出て行ってしまう。
留吉は慌てて後を追った。
「おい、どこさ行くんだ」
「どこって、おばさんに会いに行くのよ。まだ挨拶も済ませてないし、お礼も言ってない」
返事をしている最中、自分がこの家の間取りを知らないことに気がついた。
そういえば、おばさんが何処にいるのかも聞いていない。
蘭は立ち止まって、回れ右、とばかりに振り返った。
すぐ後ろを歩いていた留吉は、顔面から正面衝突しそうになった。
「い、いきなり止まるんじゃねぇよ!」
「あらまぁ、ごめんなさいね」
ケラケラと笑う蘭。その様子に、憮然とする留吉。
「それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……おばさんは今どこにいるの?」
「母ちゃんなら、今頃は台所で晩飯作ってる頃だ」
そう言われても、台所への行き方が分からないのだから仕方無い。
菅原家は田舎の農家ならではの大きな平屋で、かなりの面積と部屋数があるのだ。
「へぇ、そうなの。じゃあそこまで案内なさい」
「『案内なさい』って、何様のつもりだテメェ……」
ぶつぶつと不満を漏らしながらも、留吉は蘭の先に立って歩きはじめた。
彼が足を踏み出すたびに、板張りの床はキィキィと音を立てた。
「ほら、ここだべ」
程なくして台所に到着すると、無心に大根をおろしている留吉の母の姿があった。
蘭の存在に気づくと、彼女はオロシガネから視線を上げて、くすり、と微笑んだ。
「あら、ランちゃんはもう大丈夫なの?」
「はい、お陰さまで助かりました」
蘭はぺこりと頭を下げた。
「気にしないでいいわよ。あなたはこれからウチの子になるんだから、このくらい当然」
と、言い終えて。留吉の母は自らの失言に気づき、口元に手をやった。
「……はい。お世話になります」
沈んだ声音。
何気ない一言で、簡単に蘭の心は傷ついてしまう。
周りの人間を心配させないため。己の心を鼓舞するため。
母を亡くしてから、彼女は常に明るく振舞うように努めてきた。
しかし、どんなに外面を繕おうとも、心の中まで変えることはできない。
一〇歳の少女たる蘭は、やはりその年相応の脆さを備えているのだ。
「…………」
蘭は、おばさんに悪気がなかったことは理解している。
それでも、彼女の発言によって、改めて実感された母の死という事実は、どうしようもなく蘭の心を苛んだ。
留吉の母も、蘭にかける言葉を持たなかった。
ふたりの間に、重苦しい沈黙が流れた。
その空気を打ち破ったのは、他ならぬ留吉であった。
「あぁもう、辛気臭ぇなや!特に蘭、甘ったれてんじゃねぇよこのアマ!」
「なっ……」
蘭の頬が朱色に染まった。
「何よ、わたしのコトなんて一つも知らないくせに!」
ヒステリックに叫んで、留吉の頬に思い切り平手を張った。
ぱあん、という音が鳴り響いた。
「痛っ……」
鳴ったのは留吉の頬ではない。
彼は蘭の平手打ちを首を捻ってかわし、逆に彼女の頬にビンタを打ちこんだのだ。
してやったり、とばかりに笑う留吉。
「こ、この暴力男っ!」
「うおっ」
だが、蘭も負けてはいない。
涙目になりながらも、思い切り留吉の股間を蹴飛ばした。
留吉はそれで呆気なくうずくまってしまう。
すかさず追い討ちのゲンコツを振り下ろそうとする蘭を、留吉の母が抑えた。
「はいはい、喧嘩はそこまで」
「で、でも先に手を出したのは留吉くんの方……」
あれ。確かに、先に殴られたのはわたしだけど。
「……じゃ、ないですね」
「ええ」
自らを一人前のレディと自認する蘭は、今まで怒りに染まっていた頬に、恥かしさで再度朱を差した。
失敗した。
居候に来た初日にこれじゃあ、わたしのイメージがおてんば娘で固まってしまう。
それは絶対に避けたい事態。
なんとか言い訳をしなきゃいけないけれど、こんな時は何て言ったらいいんだろう?
大体原因を作ったのは留吉だし……
「あ、あのう、えっと……」
留吉は未だに股間を押さえて膝を付き、苦痛を訴え続けていた。
蘭が口篭っている間に、おばさんはそんな息子の腕を掴んで引き起こした。
「ほら、男のくせにいつまで痛がってるのよ。とっとと起きなさい」
「うぅぅ……」
よろよろと立ち上がる留吉の姿を見ていると、流石の蘭にも罪悪感と同情心が湧きあがって来た。
留吉の顔を下から覗き込みながら、声をかけた。
「あの……大丈夫?」
「大丈夫なワケねぇべこの……」
即座に返された言葉は、予想通り刺々しいものだった。だが、
「留吉」
「……いや、大丈夫だ。殴って悪かったな」
鶴の一声。
母親が名を呼んだだけで、留吉の抗議は打ち切られた。
留吉は憮然としつつも謝罪し、そして、蘭に向かって無造作に右手を差し出した。
「あ……」
思わず留吉の顔を見る。
すると、照れくさいのか、彼はそっぽを向いてしまった。
その幼げな仕草が、なんだかとても可愛らしくて。
蘭はふうわりと笑って、留吉の手を握り返した。

貫井蘭。菅原留吉。
―――ふたりは、ここから始まった。




〜同人誌『夏のはなし』に続く〜


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