白刃の下りた後に

−『アンドレア・シェニエ』−


「げーじゅつの秋企画第二弾」…では全くなく。
前々から行ってみたかった『アンドレア・シェニエ』を初めて生舞台で見てまいりました。

『アンドレア・シェニエ』はこっちに出てきてからはまったオペラなのですが、滅多にかからないんだなあ…これが。はまった直後くらいにやってたんだが、何にせよ今よりも更に薄給のボエーム状態だった時期なのでお値段に涙を飲んだと言う(笑)。
『アンドレア・シェニエ』とはとことん巡り合わせが悪いのか、その後予算内でやってるのをなんと明島氏が見つけてくれましていざ行くぞ!と意気込んだその日、別の用事で帰る途中見事に渋滞に巻き込まれた(笑)。車内で、
「オペラの開演に間に合わないーっ!!!」
と叫んでいたら、
「『蝶々夫人』でも行くの?」
「ううん、『アンドレア・シェニエ』。」
「…………なにそれ。」
という会話をした記憶があります。滑り込めたのは第四幕!うぎゃあああ。日暮里でやってたんだが、あれは良かったなあ。
その次にかかったときには、こっちにいなかったのですよ。病院の壁の中にいたか、その後の療養中だったかどっちかで。
この曲に関しては明島氏に色々お世話になりました。マルトンの歌ってるビデオを調達してきてくれたのも明島氏です。この場を借りて多謝。

そんでもって。

行ってまいりました、新国立劇場。身を乗り出して鑑賞するせいで思いっきり私の視界を遮ってくれる前の席のおじさんに閉口しながら。(ちなみに皆さん、劇場ではちゃんと背もたれにリラックスしてもたれて舞台を見ましょうね。身を乗り出すと後ろの人たちが大層迷惑します。頭のせいでステージが半分見えなくなってりするのですよ、ほんとに。)

…フランス革命をネタにした大恋愛絵巻だったんじゃないのか??
いや、フランス革命はびしばし伝わってきたんだ…ギロチン大活躍で、封神演義並みにばたばた人が死んでたぞ…幕切れで。一幕と二幕のつなぎなんて、ギロチン設計図が投影されてたと思ったら、組み立てられてたギロチンがぐるぐる回りながら次第に増殖するとゆーCGがでてきたし。フィナーレにいたっては、死なないはずのジェラール君までが出てきて、というより出演者総出で舞台に乗って、歌が終わると同時に全滅したし。その死体の間を駆け抜ける子供四名が舞台奥で三色旗を掲げて幕。
革命の悲惨さと言う一面も持つドラマだったんだよなあ、そういえば。と再確認した演出だったんだけどさ。
…ラブストーリーはどこに行ったんだろう……(笑)。あまりにシェニエ君もマッダレーナちゃんも男前なんで、甘さが、かぽっと抜け落ちてしまったよーな。ま、いいんだけどさ。

いい加減にあらすじをかいつまみますと、こんな話。
一幕。コワニー伯爵家のパーティー。扱き使われているジェラール君は、ちくしょー今に見てやがれ貴族階級め、いつまでもでかい面すんじゃねえ、と沸々たるものを抱えている第三身分、もとい召し使い君。なんだが、伯爵令嬢マッダレーナちゃんを密かに想っていたりもする。で、典型的箱入りぽやぽやお嬢様マッダレーナは、その夜会に顔を出した革命詩人アンドレア・シェニエ君の自由・平等・博愛精神に満ちた(?)詩に感銘を受けます。おまけにその詩に触発されたかのごとくジェラール君は第三身分の人々を引き連れ、啖呵を切って伯爵家を出て行きます。
二幕になると革命万歳ムード。どうやら当局に睨まれているらしいシェニエ君に国外脱出を勧めるお友達なのですが、匿名の手紙をくれる女性に恋してしまったご当人は動く気なし。現れた差出人は、今や天涯孤独の身となったマッダレーナで、彼に庇護を求めます。そこで二人はお互い愛し合っていることを知るわけですが、いまや革命の中枢にいて偉くなっているジェラール君もマッダレーナを追跡していたもんで、折悪しく鉢合わせ。シェニエ君と決闘になり、刺されたところでお互いがお互いを認め、ジェラールはシェニエを逃がすんですが。
三幕でシェニエ君が当局の告発を受けたことを知るジェラールは、彼がいなくなればマッダレーナが手に入るという誘惑に駆られて自分も告発文を書きます。助命嘆願にやってきたマッダレーナにもそのことを告げるわけなのですが。
「母は私を庇って私の部屋のドアの前で殺された、家は焼かれた、そんな私に生きろと言ったのは愛だった」
と言い放つマッダレーナに心を打たれてシェニエ君を救うべく革命裁判所で一席ぶつのです。しかしシェニエ君の外国生まれで外人部隊にいたという経歴が完璧に裏目に出て(フランス革命の時、外人部隊が貴族の手先になって農民を襲撃するなんていうデマも飛んだらしい)判決は処刑。シェニエ君、
「殺すと?しかし名誉は残せ!」
なんて言っちゃいけません。
んで四幕でシェニエ君は時世の詩を詠み、死刑囚と入れ替わったマッダレーナが彼の元に飛び込んできて二人は愛を讃えながら堂々とギロチンへ…で幕。なのですよ。
なんだか、三幕目を書いている途中から、
「このパターンはどっかの詩人と一緒のような……。」
と思いつつあったりしました。どっかの状元宰相とだぶったなあ…だから好きなのか、このオペラ?!

とは申し状、私がこの中で一番好きなのは苦悩するバリトン・ジェラール君が三幕で歌う逡巡のアリア、『祖国の敵』なのですね。シェニエ君をいんちき告発する自分に悩みながら歌うこのアリア、今日のバリトンさんもしっかりと聞かせてくださいました☆この次に好きなのがシェニエの一幕のアリア『ある日藍色の空を』なのですが、これもまずまずで。

しかし、CDをしこたま聞いていたせいか、二幕の終わり辺りでシェニエとマッダレーナちゃんが歌うデュエットが…さくさくさくっとすっ飛ばされてしまったような……。あそこ好きなのに…ティバルディが、
「お願い、私を守って……!貴方だけが一縷の望み−。」
と歌うときのあの甘さが…その後に入ってくるデル・モナコの砂糖たっぷりぶち込みました式二重唱が、もうインプリンティングされているんだもの!!今回のマッダレーナちゃんは、
「お守りくださいますか?!そう望んでおりますの!」
という感じの、ぱきぱきした歌い方をしてました。テンポもちょいと速めでしたしね。
とにかく優しい可愛い路線ではなく、颯爽としたマッダレーナだったんで、三幕でジェラール君に啖呵切るときなんか格好良かったですねえ。『母は死に』というマッダレーナのアリアは特に印象なかったんだが、今回聞いて、改めて聞いてみようと思った歌だったりしました。

今回の舞台では幕(というか可動式の壁)が、どーもギロチンをイメージしてたらしく、斜めの刃型にすぱんと切れていて、それはそういう解釈なんだな、と思って観てたんだけど、一つだけ気になった。

幕閉じるときに、「しゃきーん!☆」っていう電子効果音入れるのやめようよ!!!

…ええ、オーケストラの音と完全に浮いちゃってました……。あれじゃお笑い……。
今回の演出家さんは電子効果音が好きならしく、結構ぽこぽこと入ってたんですが…時々浮きまくってんのがあったような。舞台の作り方自体は、こんな切り口もあるよな、確かに(暗いけど)と、ふむふむと面白く観てたんですけどね。
しゃきーん☆はちょっと…十分演技と音楽だけで凄みを出してたからさ…しゃきーん☆は……。

フランス革命世界史でやったけどさ…やっぱあの時代はシュールだよな…ってよりフランスってやっぱ怖い…と再認識してしまった『アンドレア・シェニエ』でした。うーむ。
家帰ってからドミンゴのCD引っ張り出して聞いてたのは余談。あの時代お好きなら、どうぞ。オペラにしては理性的な主役が揃っております(笑)。

それにしても全滅させちゃって…あの幕切れは結構切なかったのだが。
その後に出てくるのがナポレオンじゃあやりきれないというか何というかだなあ、なんて思った高松なのでした。


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