すごい人って、どんな人?
疲れた。 少年の一団といえば聞こえは良いが、要するに騒々しい若造の集団である。口を酸くして一通りの作法を身に着けさせはしたものの(これでもまだ連れて来る面子を選別したのだ)、頭痛のするような騒々しさと(事実している)無駄に多い血の気と(これがなければ参戦できないのだから必要悪と諦めるしかない)に耐え続けるのも難儀なものだ。勢力としてはむしろ小勢に過ぎないし、率いる手兵の数が少ないほど軍閥の頭には侮られ軽微な地位しか与えられないのは知っているが、我慢できる限界がぎりぎりこの人数だったのだから仕方ない。そもそも私に統率力はないのだ。従者や家人を一丸とすることはできるが、多種多様な経歴や個性を呑み込むには、私という人間が狭量に過ぎる。私は人を取捨する性格だから、どんな材料でも使って覇権を狙う覇者としての才覚はない。 それに、そのようなことは教わってもいない。 張家は祖父の代から続く宰相の家だ。治世の補佐として在るのが当然であり、家訓はそのためにあったようなものだ。私の受けた教育も、更には黄石公から授かった兵書も、帝王学に資するものではなく、むしろ帝王の補佐として必要な知識だと認識している。 どうせ目立つのも嫌いだ。 下邳の町からこの一団を率いて歩いているが、何しろ疲れる。足は痛いし、体は悲鳴を上げているし。それよりも、何よりも。 自分を利口者だと信じている愚者の相手をするのが一番疲れた。 元来為になったことのほとんどない私の外見が今回ほど不利に働いたことはない。 倒秦の戦いに参画したい。麾下にお加え頂ければ、必勝の計をお授けしよう。 そのように何人に申し入れてきたことか。削り散らした木屑を眺め、手の内の簡を眺める。口の端が歪んだ。恐らく私は、微笑と呼ばれる表情になっているのだろう。嘲笑も笑いの一つではある。 誰に?自分の『知』にうぬぼれる賊徒の頭目にか?それとも彼らと連携を取ろうとする自分にか? 麾下に、という打診に彼らは喜色満面で応じ、私に捨て扶持を与えて取りこもうとする。求められているのは率いてきた頭数だけであって、私の能力などではない。場当り式にしか戦うことを知らない無能者が、という内心の罵声を、私は微笑で押し隠す。 兵法を?貴方が? たかが貴族の末裔というだけで、という含みはありありとうかがえる。世間知らずの若造と侮られるのは、顔の造りが細面の女顔というせいもあずかって大きい。迷惑なのだが、一方でこの容貌が清廉潔白の知性溢れる君子という仮面に資しているのも事実なので、損得相和しているというところだろう。私は別に清廉でも潔白でもないし、世間知らずでもない。率いているのは若輩ではあっても下邳の侠客達であり、彼らは私の指揮に盲目的な信頼を置いていた。侠客の頭目に『君子』など冗談の種でしかない。 しかし若者達の信頼は正しい。私はもう若いといわれる年でもなく、授けられた兵法は血気を持て余している個々人の数倍は武器となる。力を効率良くまとめて敵にぶつけない限り、勢力の伸張も目的の達成も労力と時間を空費するばかりだ。 私の言葉はそれだけの威力を秘めている。各地で衆を頼み、或いは驍勇を頼んで角逐する勢力が集合離散を繰り返している現在、淘汰されたくないのなら戦略は間違いなく必要になる。戦況が長期化し、集団が大きくなればなるほどに、兵の維持管理や内政と軍略の関係を説いた黄石公の兵法は重きを増す。 それが重要だと看破できる主がいるのであれば。 私はその男の下に帰属し、陰惨極まりない秦の法天を抹消してやる。韓非子だけが治世の要を知るわけでもあるまい。呂政の暴挙を一掃するのが、韓相の嗣子として育った私の使命だ。 誰か、私に耳を傾ける者がいるのであれば。 私は薄ら笑いを浮べる。 まずは聞いてみよう、という気乗り薄な返答があったので、一団に囲まれながら向かった。楚の名家と関係があるのかないのかわからない景駒という男に期待をかけたわけではない。取りあえず聞くという前向きな反応があっただけ少しはましというだけだ。 農民も賊もほとんど区別のつかない物騒な道を、侠客だらけという更に物騒な一団が行く。荒くれ男共に囲まれて、しかし私は言葉もほとんど交わさず車上で書簡を読んでいた。妨害は入らない。そのような不届きをなす者を許容しない忠実が私の部下には要求される。恐らく私のためなら死ぬだろう。 私が主君を選んだとしても彼らが忠誠を尽くすのは私のためだ。主君のためではない。 父が亡くなった時、食客の無益を悟った。権勢に応じて寄生先を転々とする者は不必要だ。私はあえて客など集めない。しかし撒き餌は撒く。 仙人より軍略を授かった男。『始皇帝』を暗殺しようとした男。 そして私は詳細に関して口を噤む。 これ見よがしに吹聴しない事実は、しかし他人の口の端に上り、静かに広がる。沈黙したままの私は出自ともあいまって、いつしか信仰に似た敬仰の対象となっていた。結果として私は祖父や父が地位をもってしてもかち得なかった敬愛を捧げられることとなった。 「張公、付近に沛公と申す者が兵を率いているそうですが、お会いになられますか。」 常に自分の先を行かせる斥候が報告した。些細な規模や無名の集団であっても(実際かつての私のように偽名で潜伏する名将がいることも事実だ)探るよう言いつけているので、時折このような情報を拾ってくる。 「どのような人か?」 穏やかに尋ね、探らせる。沛公など、どうせ勝手に名乗った称号だろう。聞いた例がない。 誰でも良いのだ。私が秦を滅ぼす為の強力な手駒となるのであれば。 彼はもう初老に届く年齢で、側近もそのくらいの者が多いこと。沛の出の布衣で無頼の徒にはかなり信用が厚いこと。上部集団の結束がかなり堅いが、率いる兵はかき集めたという表現が一番正しい、有象無象の寄食の徒であること。軍師というのは郷の吏だった男であること。 種々入った情報の中で耳に留まったのは、沛公が人の話を素直に聞くという一事だった。 おおよそ将とか君という人種の性質というのは誇大なまでに美化されるのが常だ。沛公の噂には『龍の子息だ』などという吹き出すようなものもあったが、(そんなものが土民の中にいてたまるか)ほとんどは常識の枠内に収まるもので、作為的な捏造の跡は少ない。むしろ安心できる人物のようではある。下手に旧六国の復活という大義を掲げていないだけ、人は集まりやすいのかもしれない。散りやすいとも言えるが。 先方も私のことを探ったらしいが、収穫らしい収穫は手にしなかったらしい。ただ、『妙に綺麗な若い男』の率いている集団が近くにあると兵達の噂になったらしく、物見から知らされた私本人は再び笑ってしまった。 勢力規模や目的や自軍の繁栄より先に、『妙に綺麗』とは。長閑というか、素朴というか。見たいなあ、という者もいるらしく、呆れたことに沛公本人が兵士と共に無駄話をしながらそう言っているようなのだ。 その頓狂な男に興味が湧いた。 景駒に合流するために進んでいる私と、景駒と一緒に戦場へ向かおうとしている沛公は、方向が同じだ。挨拶に出向いてもいい。何しろ百聞は一見にしかずだ。私の目は沛公をどう捉えるか。 私は沛公に、ご挨拶に伺うと申し送り、好奇心を満たす機会を与えることにした。 やる気があるのかないのか知らないが、だれきった百姓が三々五々武器を手にして屯している。兵と呼ぶほどの代物ではないが、暴民の恐ろしさは陳勝の一派が証明済みだ。そもそもこれから会いに行く劉邦とて、県令を殺した上で頭目として押された下層民だ。 従者を引き連れて歩く私は明らかに異質だった。従者といえども元は下邳の侠客でしかないのだが、規律があるのとないのでは差異が歴然だ。別段私は従者を怒鳴ったり厳正に処罰したわけではない。役に立たない者は側に置かないというだけであり、それだけで自然と人は淘汰された。私が声を掛けるのは有能の証明だと取り沙汰されている、と項伯がよく言っていたものだが、そんなつもりだったわけでもない。ともあれ私の側にいることは下邳の侠客としては名誉だったらしく、私はその虚名を利用して今に至るというだけだ。 まあましだという幕舎には申し訳程度に警護らしい者がいて、やたらに大きな男が槍のような物を磨いていた。棒の先に拾ったような安物の短剣を括りつけただけにしか見えないのだが。 「我が主がこちらのご主君にお会いしたく、お取次ぎを。先に御挨拶申し上げた張公でございます。」 仕込み過ぎたか、私の従者は、目を丸くしている巨漢に馬鹿丁寧な口上を告げる。大きな丸い顔の中で、小さな瞳が面食らったようにニ三度瞬きをした。気後れを取り除いてやらねばいつまでも座っていそうなので、微笑みかけてやる。巨漢が人好きのする笑顔になった。 「劉邦さんはちょっと出てるんだよ。中で待ってなよ。今呼んで来るよ。」 見掛けよりは数段素早い身ごなしで立ち上がり、走って行った。僅かに眉を寄せるのは私の従者だ。私はといえば、あれは良い武官になる資質がある、などと品定めをしていた。何よりあの体格が物を言う場面もあるだろう。 乱雑な上に酒臭い幕舎に入ってしばらく待たされる。武器らしき物でも並んでいれば見栄えがするが、皺だらけの寝具に洗っていない器、そこいらに散らかるぼろ布(後で脱ぎ散らした着物と判明)という生活用品ばかりでは、一軍の将に会いに来たはずなのだがと不安にもなった。 将というよりは無頼のねぐらだ。兵の生活水準に合わせているだけであるなら、もう少したたずまいに品格がある。書の一冊も転がってはいない。字は読めるのか?期待しない方が良さそうだ。読めなくとも構わないのだし。 慌てて走ってきたとおぼしい、どたばたする足音が幕舎の外で聞こえる。どうやら呼んできたようだ。巨漢に礼でも言おうかと(こう見えても社交で無礼をするのは嫌いだ。後々利用できるはずの係累を自ら切り捨てることになる)入口にぶら下がっている泥まみれの布を少し掲げた。 巨漢ではなく、中肉中背の初老の男が口を開けて立っていた。威厳を添えているつもりか知らないが、頓狂な長い髭が目についた。あれは大官が正装して朝議に列したり、甲冑をまとった将が大柄である場合にしか映えないのだが。おまけに口の両脇で二筋に別れて垂れ下がっているから、鯰のようにしか見えないのだ。 髭男はくるりと身を返し、とんでもないことを口走った。 「樊噲、女連れてきたのと勘違いしちゃいかんだろうよ!張良さんたあ、どこ行ったね。教えろや。」 私は顔を引きつらせて固まり(事実は心臓に悪い)、従者は頭に血を上らせて剣に手を掛けた。(やはり血は争えない) 「すまん、すまんなあ…子房さん、いやあ、本当にすまんかったです。」 平身低頭という風情で陳謝する髭男が劉邦というのは、樊噲というらしい巨漢が急いで戻ってきたので判明した。いえお気になさらず(どうせいつものことだ)、いやいや本当にすまんかったです、という応酬がしばらく続き、困ったようにして後ろをうろうろしている樊噲の愛嬌も手伝ってか場が和んだ。 「しかし、張良さんがまさかこんなに綺麗なお人だとは知りませんでなあ。お貴族というのはやはり品ちゅうもんがあるんですなあ。なあ、あんた、どちらに行きなさるね。わしらと一緒方向っちゅうことは、あんたも討秦の軍に入るんじゃろ?」 「そのつもりでおります。」 景駒の下へ行くつもりだとは言わないことにした。劉邦はといえば、 「いやあ、しかし秦ちゅうのはえらい嫌われとったんですなあ。あんたみたいな、こういっちゃなんだが、戦向きでなさそうな人まで起つとはねえ。わしなんぞ、ほれ、徒役があるじゃろ、あいつに間に合わんで首刎ねられそうになったから逃げ出したってなもんでさ。そしたらなんか、秦をぶっつぶして天下取れって、まあ蕭何だの嬰だの樊噲だのがおだてるもんだから、つい乗っちまってねえ。蕭何なんぞ、わしが赤帝の息子っちゅう出任せまで吹いて、笑ったよ、わし。見えるかね。見えんじゃろ?あ、こりゃあ失敬、わし、あんたが聞いてくれるんでついべらべら喋っちまったよ。まま、大したもんもないんじゃが、肉と酒くらいあるからやっていきなさらんかね。折角わしんところに来てくださったんじゃからなあ。わし、あんたみたいに育ちのいい人とお話できて嬉しいんじゃよ。」 と、初対面の私に向かってやけに親しく話しかけてきた。軍略を説くも何もあったものではない。 だが他の諸将が持っていた軽侮は一切なかった。むしろ私個人と話をしようと申し出た(無駄話であってもだ)のは彼が初めてといっていい。それに。 −秦をぶっつぶして天下を取れっていうんで、乗っちまってさ。− 取りあえず秦を倒すことしか考えていない諸将の中にあって、この弱小勢力の頭目には一応の目的意識がある。観察だけして情報を入れるつもりだったが、彼ともう少し話をしてみたいのは私も同じだった。彼は兵法に興味があるだろうか?天下を狙うのに必須の軍略は、今彼の目の前にある。 誘われるままに酒食を共にした。給仕に来る者が時折沛公を『大哥』と呼んでいた。 「沛公は侠ですか。」 「ん?ああ、そうだあね。かっこいいじゃないかね。」 成程、侠の頭目と取り巻きが中核となって起こした兵か。内部の結束はある程度信用が置けるだろう。 「子房さんのような方は、侠は馴染みがないかね?」 「私も下邳では侠でしたが?」 沛公は驚くほど相好を崩した。(ついでに足まで崩した。汚い足が見えるからやめて欲しい) 「何じゃ、お仲間かい。いやあ、嬉しいよ。また意外なもんだねえ。けど、人ってやつは見かけによらんなあ。」 私の両手を取ってきたので驚いて身を引こうとしたのだが、先方に他意は全くなく、単に嬉しかっただけらしい。いささか顔をしかめたので何かと思ったら、 「何だい、細っこい手じゃのう。あんた、もっと食わにゃあならんよ、食わにゃあ。それじゃあ具合悪くしちまうよ。戦ってもんは体力が勝負じゃよ、ほれ、あいつみたいにならなきゃさあ。」 と説教された。格好の糸口を捕まえて、私は微笑と共に口にしていた。 「私の戦はこちらでするのですよ。お聞かせいたしましょうか?」 頭を差した私に、沛公は急に真顔になった。毒気を抜かれた私に対し、足を直して丁重に頭を下げた。 「なあ、わしは頭悪いが、是非教えていただけんでしょうかなあ。うち、頭いい奴が全然おらんで、あ、蕭何ってのはちっとばかりましなんじゃが、あんたみたいな人に何でもいいから教えてもらえると、わし、ありがたいんじゃが。」 別段、この弱小勢力の長など眼中に入れてはいなかったのだが。 景駒に説く約束を既にしてしまっていたのだが。 なあ、と神妙に私の言葉を待っている男の表情は真剣で、十分すぎるほどの誘惑だった。 よろしい。私のことを侮らず、私の言葉を求めるというのであればお聞かせしよう。この『優男』が如何に激烈な策を弄しているのかを。 一通り現在の状況を分析して見せ、沛公の集団が成り上がるべき筋道を教えてやってから、息をついた。熱弁を振るってしまったらしい。柄にもなく、というところだが、私には何かを始めると周りが見えなくなる厄介な習性がある。恐らくまともな話をする機会に恵まれて、見境をなくしたとみえる。 乾いた口を湿そうと少し酒を含んだ。盛大な溜息が聞こえる。 「すごいもんじゃなあ……。」 素直な感心で報いられて、頬が緩んだ。できれば土民の頭より同じ階級の将にそう言ってもらいたかったものだが、こればかりは出自でどうなるものでもない以上仕方がない。 むしろ、下手な自我がない分彼は成功するのではないか、という思いが脳裏をかすめた。 沛公は、がば、と大杯を呷ってから、身を乗り出して私を見つめた。 「あんた、討秦の軍に加わると言ったね。誰かのとこにおるのかい?」 ゆるりと首を振っていた。『まだ』景駒の下に帰参したわけでもないし、彼とて私の率いる僅かな頭数に期待しているだけだ。『私が』彼の下にいるわけではない。 予感に、小さく息を呑んだ。もしや、この男は。 「子房さん、あんた、うちにいてくれんかね。わし、あんたの言うことはほとんどわかってないと思うのね。けどさ、あんたの言うことは辻褄があっとるよ。詳しいことはわからんが、あんたの言う通りにすれば万事上手く行くような気がするよ。わしら、沛の田舎にいたから、天下ってーのがどんなかようわからんのね。けど、あんたが説明してくれて、すこうしわかったような気がするよ。このままじゃ、わしらもただの賊みたいになっちまうさ。あの黥布みたいになあ。それじゃあ取得がないじゃないかね。奴は怖さで売ってるが、わしらなんか強い将もおらんしね。だからさ、あんたに色々教えて欲しいのね、わし。」 予感が現実になる。私は黙って眼前の男を見据える。彼は私の瞳の奥を覗き込む。 時流に乗って蜂起しただけの無名の男であり、名すら聞こえない小勢力であり、それでもそこから私は求められる。 既成の権威に何の意義がある。あれば、私がこのようなところで埃にまみれて歩き回っているはずがないではないか。なれば、私は私の意見を徴する者に力を与えればよい。 そして彼らを自在な手兵として率い、秦の法天を壊滅させるという所期の目的を達しさえすればよいのだ。 「貴方がそうおっしゃるのであれば。」 私はそう答える。破顔した沛公は、私の両手を取って滅多矢鱈と振り回した。 「さすがにあんたは侠だよ!いい度胸だよ!仲間同士じゃ、上手くいくさ。なあ、来なよ、うちの面子に引き合わせるよ。」 手を引っ張って連れ出そうとする。いい大人が。 「お待ちを。一度戻りまして、皆を連れて参ります。」 「うんにゃ、そんなのいい、いい。あんたの連れをやって呼べばすむじゃないかね。兵もそりゃ欲しいが、何よりはあんたさ。あんたみたいな頭のいい人は見たことがないよ。それに頭がいい奴はけちな根性してるってのが相場だが、あんたは肝が据わっていて痛快だよ。わし、あんたがここに来てくれて本当に嬉しいよ。おい、嬰!宴会の支度しろや、子房さんの歓迎会だ!」 馬に櫛を掛けていた男に怒鳴り、沛公は問答無用で私を引き回す。誰ですかい、子房さんって。見えないのかね、わしと一緒の綺麗なお方だよ。何だ、またあんたが女でも無理矢理に引き込んだのかと思ったよ。失敬な奴だね、お前軍師さんに何てこと言うんじゃい。すいませんすいませんと頭を下げる嬰さんとやら(後に沛公の古馴染みで馬きちがいと判明)を後にして、次々と人に引き合わされる。地代帳を片手に唸っていた(さりげなく持っていたが、よく考えるとすごい物を持っている。どこから略奪したのだろう)真面目そうな男やあの巨漢と一緒に何かしていた男、地代帳の男と仲の良い男(沛公の話による)等等。結局内輪の仲間同士が語らって兵を上げたという私の観察は正しく、だからこそできることとできないことの輪郭もおのずから見えてくる。 やれる。この男が私の代わりに秦の残滓を撲滅する。彼が私の献じる方策を受け入れる限り。この男が人の話を聞き、受け入れる能力は天賦のものだ。余計な自我を差し挟まないだけ、この男は他人の能力を思う存分生かすことが可能になり、結果として限界を持たないことになる。だとすれば、私はやはり主君たる器を選んだことにもなるだろうか。 望むなら、貴方に天下を。
書き始めはやっつけ仕事だったんだが、途中から結構乗って書いてたお題シリーズ『優れた』。しぼが劉邦と会う場面ですが、案外しぼちゃんも理性的に話しているので今回は暴走なしです。その代わりかっこで毒はいてます(笑)。かっこは最初なしだったんだが、あれがないとどうも書きづらくて挿入。載せるときに削ろうと思っていたのだがそのまま残しました。かっこがあってこそのうちのしぼという気もしまして。 |