| ほやあ、とあくびをした。 「ねむいの。」 むにゅ、と背中に張り付いてくる。この頃お気に入りのあざらし型抱き枕もお供に引きずってきている。余程眠いのか、そのまま背中をずるずるずるとずり落ちている。 「しぼちゃん…ちゃんとお布団で寝なきゃ駄目って言ったでしょ?」 「やあの!」 ぷん、と膨れて、あざらしで俺の頭をぽんぽん叩く。眠たいとぐずるという、典型的お子様モードに入っている。 「あのね、俺、お仕事してんの。おっきいしぼちゃんが明日までにやってって頼んだから、してあげないと駄目なの。だから、いいこして寝てなさいね。」 髪の毛を撫でてやるのだが、この頃なつききっているちっちゃいしぼちゃんはこんなことでは怯まない。むしろ、構ってやらないとおかんむりなのだ。 ぼよん、とまたあざらしではたかれた。かまえかまえ、とあざらしでつついてくる。嫌がらせをしているつもりなんだろーけど…なんか、頭から丸呑みしてやりたいくらい可愛いんですけど? えいっと捕まえてやったら、きゃあきゃあ言って暴れる。それもしばらくで、撫ぜていたら膝の上でころんと丸まって眠ってしまった。 「もう。風邪引くよ?」 上着を脱いで掛けてやると、正気のこの人が書いた書簡を手に取った。
ちっちゃいしぼちゃんの朝は意地悪で始まる。 なんだか顔にぼよぼよしたものが当たるな、と思ったら、ぺんぺん、と一生懸命あざらしで顔を叩いているしぼちゃんがいた。 「陳平おきたあ。」 無邪気な微笑み−邪笑ともいえるのだが−で、ぺたん、と上に乗ってくる。 「おはよ、しぼちゃん。起きるからどいてくんない?」 あざらしと一緒に寝台から飛び降りると、くいくいと手を引っ張る。つまり、世話を焼けということである。 一事が万事人の手を焼かせない強情者の張子房と違って、ちっちゃいしぼちゃんは何でも人にしてもらいたがる。顔を洗ってやって拭いてやると、あざらしを抱いておとなしく俺が顔を洗うのを待っている。じーっと見つめる視線は、何となく大人の子房殿を髣髴とさせる。もっともあの人は見てもくれないけれども。 陳平には甘えていいんだよ。わがまま言っても怒らないよ。 時々現れるちっちゃいしぼちゃんに約束してからというもの、すさまじい甘えっ子が漢軍に出現した。ある程度覚悟していた俺と違って、なまずの漢王は度肝を抜かれていた。蕭何はある程度の予感があったらしく、 『下手に甘やかすと子供というのは増長しますから、適度に手綱を締めてくださいね』 と関中からアドバイスを送って寄越した。んだが。 こんなに可愛いものをどうやって手綱を締めろというんだ! 「りょうね、たまごやきがたべたいの。」 「ん。じゃあ、なまずのおじさんとこに卵もらいに行こうね。」 「たまごーたまごー♪」 きゅーっ、かわいいよおーっ!!軍師殿―っ、貴方は俺を焦がれ死にさせるつもりですかーっ!! というわけで、恒例であるが俺はちっちゃいしぼちゃんのお手手を引いて、漢王の帷幄にお邪魔したんであった。 「なまずのおじさん、たまごくださいな♪」 とてとてと駆け寄るちっちゃいしぼちゃんに、にへら、と笑み崩れるなまず親父、元へ、漢王である。あ、顔をすりすりしようとしている……。 「おひげごしょごしょするのやだっ!」 べしっ☆思いっきり平手打ちを食らわせて、ぱたぱた戻ってきた。俺の後ろに隠れて、じーっと睨んでいる。 「だから言ったでしょ、しぼちゃんに下手に手を出さないでくださいって。嫌われちゃいますよ。」 「日頃毛嫌いされとるお前なんぞに言われたくないわい!」 うっ。むかつく。人が気にしていることをっ。 「いーんですー。ちっちゃいしぼちゃんは陳平と仲良しなんだもんねー?」 「うん♪」 「いかん!いかんよお、しぼちゃん、こんな危険な男になついちゃ、赤ずきんちゃんみたいに頭からぱっくり食べられるぞお!」 「陳平、りょうたべてもおいしくないよお?」 じーっと見上げる黒い瞳。…いや、すさまじく『おいしそう』なんだが……。いかん、理性が…こういう時は大抵髪の毛をくしゃくしゃに撫ぜてやって誤魔化している。 「んで、卵あったら少し分けてもらえません?軍師殿が玉子焼き食べたいと言い張ってまして。」 「わしの手元にはないのう。どっかから徴発してこようかね。」 そいつはちょいと戦略上まずいんじゃないか? 「近所の皆さんに印象悪くするからよしてください。あんた、人徳以外の資本がほとんどないんだから、元手をするような真似して何になるんですか。しょうがないから俺、知り合いのところ回ってみます。」 「たまごないの?」 「ないみたいだから、他の人に聞いてみようね。しぼちゃん、どうする?お留守番してる?」 「ほれ、なまずのおじさんと一緒に遊ぼうや。のう、しぼちゃん?」 や。とまた後ろに隠れてしまった。あのひげすりすりが余程に嫌らしい。すると。 「軍師殿、おはようございます。あ、陳平さんが早起きしてる、珍しー。」 「おはよ。」 周勃と樊噲コンビが現れた。しぼちゃんはお気に入りの登場にご満悦である。 「樊噲、たかいたかいしてー☆」 「うん、いいよ。」 きゃあきゃあ言って喜んでるしぼちゃんに見とれていると、 「あ、またちっちゃくなってたんですか、軍師殿……。」 と周勃が呆れていた。 「軍師殿がちっちゃくなってる間、漢軍の常識がいなくなるから、私困るんですけどねえ。あんたたち二人してひじょーしきなんだし。」 「ひでえ、周勃!陳平とわしを一緒にすんなっ!」 俺だって一緒にされたかねーよ、あんな馬鹿と!ついでに俺のほうが若いし、ルックスだって俺のほうがいいもん!ちなみに、漢王本人としては自分のルックスに相当自信があるらしい。 「一緒ですもん。二人揃うとろくなことしませんもん。軍師殿の一睨みがないだけでこんなに壊れるなんて、蕭何さんに訴えちゃいたいくらいっ!」 「やめろーっ、しゅーぼつ!」 何を隠そう、あの馬鹿真面目な蕭何さんは俺と漢王の鬼門だったりする。 「そーいえばさ、周勃ちゃん、卵持ってない?しぼちゃんが卵食べたいって言ったんで貰いに来たんだけど。」 「卵ですか?樊噲、ありそう?」 「すーちゃんが鳥飼ってるから、聞いてみてあげようか?」 わーい、と喜ぶしぼちゃん。あれ?漢王の顔が引きつってるぞ。 「あんた、すーちゃんって知ってるんですか?」 「なんじゃ、お前知らんのかい。うちのおばさんの妹だよ。性格がそっくし…わしゃ行かんからなっ。」 ぷるぷるぷる。震えている。うーん、確かにちーちゃんこと呂夫人の妹さんなら、過激ではあろう……。 「樊噲、すーちゃんと仲いいの?」 「あれ、陳平さん知らなかったんですか。すーちゃんって、樊噲の婚約者なんです。」 樊噲…お前、人生踏み間違うんじゃーないのかい?と、ちーちゃんとはそこそこ仲のいい俺ですら思ってしまった。 というわけで、しぼちゃんを肩車したまま樊噲と俺はすーちゃんのところに行ったのである。 すーちゃんはちーちゃんより美人ではなかったが、もう少し女性らしいところが残っていた。うん。ちーちゃんは男勝りだからなあ。樊噲がぽそぽそと頼むと、快く卵を五つ持ってきてくれた。 「あら。お姉さまに聞いてはいたけど、陳平さんってほんと美男♪」 なーんて、いい人だ☆卵を持ってお礼申し上げる。すーちゃんが樊噲を引きとめたそうだったので、しぼちゃんを返してもらって置いて来た。 食べない寝ないの張子房だが、狂気の発作を起こしてお子様化しているときには実に扱いやすい。つまりおとなしく人の言うことを聞くのである。えらくわがままも言うのだが。 俺が作ったものは一応ちゃんと食べてくれるので、時々作る。貧乏時代、嫂さんに糠ばかりしこたま食わされたので、それじゃあ滋養が取れないから見つからないように時々自分で煮炊きしてたのがひょんなところで役立つものである。家で煮炊きすると薪が減ると怒られるので、友達の食事を作ってやると申し状自分の分もちゃっかり作っていたわけだ。 それで子房に粥だの何だの食わせられるわけだから、人生って分からない。 たまごやきー、たまごやきー♪と歌っているちっちゃいしぼちゃんは、日頃見せてくれない満面の笑みを湛えていたりする。甘くしたのがお好きなのだが、このところ蜂蜜が手に入らないのでそれはカット。 「はい、出来上がり☆」 鉄板(実は盾をひっくり返して使っている)から皿に移してやると、じーっと俺を見ている。 ちっちゃいしぼちゃんのくせで、自分で物を食べたがらない。食べさせて欲しいのだ。本当に頭から丸呑みしてやりたい…しぼちゃんの意地悪っ! ふーふー吹いて冷ましてやってから、 「はい、あーん。」 「あーん♪」 かぱっ、と開けた口の中に金色の玉子焼きを放り込んでやると、はふはふしながら幸せそうに食べている。 「おいしい?」 「うんっ♪」 この子をあんな強情者にした連中、まとめて穴埋めにしてやりたいーっ!ほんとなら、このまんま、素直に可愛く育つはずだった韓のお姫様。 それだったら、会うこともなかったのだろうけど。 つんつん、と袖を引かれた。 「どうしたの?」 「あげるの。」 手に持った卵をふうふう吹いて、はい、と差し出してくる。幼い仕草で。 「おくちあけて?」 「うん。」 正気なら絶対してくれないよなあ…と思いつつ、しぼちゃんがねじこんでくれた極甘の玉子焼きをほおばった。 「おいしーい?」 「うん。しぼちゃんがくれたから一段とおいしい。」 ふふ、と笑って背中に張り付いた。ぷにぷにしたほっぺ、すべすべしたお手手。正気の時は冷徹な反面、誘惑の権化でもあるこの体が、こうなると欲望の対象から微妙に外れるのに気付いたのはいつだったろう。触れていたい。でも何かしたいわけじゃない。 だから、俺は時々自分がわからなくなる。俺はあの人を本当に欲しいのか?例えば今なら、無理押しすればひとたまりもないのだろうに。よく、わからない。 「ほんとにおいしい?」 気が付けば、あの黒い瞳に覗き込まれている。げ、ご機嫌斜め。 「うん、とってもおいしいよ?」 べしっ☆ 「うそつき!うそついちゃいけないんだ、とうさまにおしりぺんぺんされちゃうんだ!」 あちゃー……☆ぷんすか怒っちゃった……。ぺんぺんとはたいてくる。 「う、嘘じゃないってば!」 「うそだもん!おいしそうなかおしてなかったもん!」 …この人の変な敏感さは、ちっちゃいときにも残っているらしい。全く、貴方は少し鈍感になった方が幸せですよ、子房殿。 「ごめん。別のこと考えてただけだって!ね、折角だからちゃんと玉子焼き食べちゃおうね?」 なだめすかして、何とか最後まで食べさせたが。斜めのご機嫌は戻らないまま、不貞寝してしまった。 眠って目が覚めた時には、大抵ちっちゃいしぼちゃんはさよならしている。そしてあの強情者の軍師張子房が目を覚ますのだ。 だから、仲直りしてからさよならして欲しかったな。可愛いしぼちゃん。 貴方が無心に笑っていられるのは、ちっちゃくなっている間だけなんですから。 不貞寝したしぼちゃんを膝に乗せたまま人の本を読んでいると、夕方になってから億劫そうに瞼が開いた。俺を見て露骨に嫌な顔をした。 やっぱりいなくなった、ちっちゃなしぼちゃん。 あざらしが、かまってもらえなくて寂しそうに転がっていた。 さっさと俺から離れた子房は時間だけを手短に聞いた。自分の弱味を見せたがらない人だから、あの状態で狂気の自分が出ていたということは察しているのだろうと思う。その間のことを聞かれたことは一切ない。あの一途さで自分を厭っているのだと思う。そういう人だ。 からからと軍務の書簡を広げ、俺など思考の外に叩き出している。何か書いたり、別の書簡を開いたり。一切は無言。 なんだか、あざらしが友達に思えてきた。つい、と引き寄せる。抱きしめたら、甘いしぼちゃんの残り香が香った。同じ人なんだが、ちっちゃくなっているときのしぼちゃんは、乳離れしてない子供の甘い匂いがする。大人の子房殿に戻ると、甘さが影を潜めてしまう。何故かは知らない。あざらしの大きな黒い瞳が、何か訴えかけてくるようだった。 さみしいね。 あざらしがそう訴えているようで、そっと大人の子房を振り返る。 奇妙なものを見る目つきで、あの黒い瞳を向けていた。 「お前、ぬいぐるみなんて抱きしめて、何をしているのだ?」 う……。 「そのあざらし、お前の私物ならちゃんと持って帰れ。どうしてここに転がっているのか、しばらく不思議だったんだ。」 あざらしの大きな瞳が泣きそうで、可哀想だった。 ちっちゃいしぼちゃん、どこ?あざらしを可愛がってあげてた優しいしぼちゃん、どこ?あざらしのお友達はどこ? 「見るたびになんだか黒ずんでいるしな。お前、それを枕代わりにしているのか知らないが、少し洗ったらどうだ。」 普段は大事に大事に箱の中に寝かせておくちっちゃいしぼちゃん。不貞寝して、自分のあざらしを大きな子房殿がよそにやろうとしてるって知ったら、泣くんじゃないだろうか。 ずるずる一緒に引き回してるから、灰色になってひれももげかけてるあざらしさん。それでも。 りょうね、こういうのずっとほしかったの。とうさまもははさまも、りょうにはくださらなかったの。あざらしさん、これからりょうのおともだちね。 ぎゅっと抱きしめたちっちゃいしぼちゃん。 ありがとね、陳平。 「…あざらしさんは貴方の傍がいいって言ってますけど?」 俺は子房を見ない。あざらしの泣きそうな目だけを見る。 「あざらしさんの味方は、今は遠くに行っちゃってますから。俺が預かってもいいですけど、あざらしさんは俺なんかやだって言いたそうですけどね。」 大きな子房殿がまたからからと書簡を広げる音がした。 私には何も関係ない。それが大きな子房殿だ。 今度は俺があざらしと不貞寝する番だった。 気が付くと上掛けをかけられて床に転がっていた。寝台を見上げれば、子房殿は枕元に巻物と右手を投げ出してうつ伏せになっていた。頭の天辺近くまで布団に包まっている。少し出してやった。 あれ?あざらしがいない! 俺が枕にしていたあざらしの代わりに、古い書簡が頭にあてがってある。あの人のことだから捨てたんだろうか。ちっちゃいしぼちゃんが号泣しそう……。 と。 机の上に乗っていた、白いあざらし。俺は目を瞬いた。…白くなってる! 触ると湿っている。それから机上の針と糸に気が付いた。ってことは、ひれ!やっぱり、ちゃんとついている。 子房って、縫い物できたのか……?明かりをつけてまじまじと見た。揃っている、几帳面で綺麗な針目だ。ひええ、ほんとに何でもできる人だな、あの人……。 優しいしぼちゃん、ちゃんといるよ。あざらしのお友達はいなくなってないよ。 あざらしが微笑んでいるように見えた。 洗ってくれたよ、しぼちゃんが。繕ってくれたよ、しぼちゃんが。嬉しいよ、あざらしは。 うん、俺も、嬉しい。 「おやすみなさい、子房殿。」 今ならあの人は絶対に気付かないから。そっと頬に口付けして、俺は子房の幕舎を出た。 今日はあざらしに譲ってあげる。俺は、どこに行こうかな。 ちっちゃいしぼちゃんとまた会ったのは、一週間後だった。明らかに白くなっているあざらしに、嬉しそうに目を見張る。あざらしさんきれいね、とぱふぱふ叩いて喜んでいる。白いあざらしの首には水色のリボン。 「それね、大きいしぼちゃんが洗って、リボンつけてくれたんだよ。」 「りょうもおりぼんすきなの。りょうはぴんくのおりぼんがすきなの。かわいいね。おおきいしぼちゃんにありがとねってゆっといてね。」 うん、と言いながら笑ってしまうのを抑えられなかった。 実は子房が最初につけようとしたのは幅広のピンクのリボンなのだ。一度結んで満足そうに飾っていたのだが、しばらくして水色に変わっていた。 『あれ、リボン変えたの?』 『お前の昼寝枕にピンクもあんまりだ。気味が悪い。』 俺のじゃないんだけど……。でも、そのままにしておいて、いーか。と、勘違いしている子房は更に妙なものを放って寄越した。 『何これ?』 『まめに洗わないならカバーくらいかけて置け。汚いぬいぐるみは嫌いだ!』 「ねえ、陳平、どーしてあざらしさんがはらまきしてるの?」 ちっちゃいしぼちゃんが首を捻っている。確かに珍妙ではある。 「あざらしさんを枕にしても黒くならないように、大きいしぼちゃんが着せてくれたの。」 「なんかへんだよお?とってもいい?」 「じゃ、俺にちょうだい。しまう時にまた着せてあげるから。」 うん、と細い手が『はらまき』を差し出した。 ほんとは俺の昼寝枕カバーだと思ってたんですけどね、あの人は。だから、これは俺の。俺に、大きなしぼちゃんが作ってくれた贈物。 だから、時々あざらしを借りてもいいよね?ちっちゃいしぼちゃん。 じーっと見上げる、黒い瞳が一揃い。 「な、何かな、しぼちゃん……。」 「りょうね、おはなみにいきたいの。」 この辺に花の名所があると思うんですかーっ!!うう…『期待のまなざし』が重い…おまけに今は初冬だぞ、しぼちゃん、わかってる?大きな子房殿は良く分かっているけど。だからこの頃頻繁にちっちゃいしぼちゃんが現れるんだけど。 初冬で、食料がやばくなってきて、項王が退却を考えている。うちの前線はもうぼろぼろで、一時休戦の話が持ち上がっている。恐らく休戦になるだろうけれど、軍師殿は何かを企んでいるのか、具体的な話をまだ口にしない。俺の出番はまだなさそうだけれども、あの人が仕事に追い詰められているのだけは良く分かった。 ぽよぽよとあざらしで俺をつつくちっちゃいしぼちゃん。 「おはな!」 うるうると瞳が潤む。 貴方だって、お花に囲まれて笑っていたいのに。そうだから、狂った幼い貴方は、全ての自儘を私にぶつけるのでしょう?だから、安心して。ちっちゃいしぼちゃんのわがままは、俺がかなえてあげるから。 「寒いからお花はみんな寝てるの。その代わり、どんぐり拾いに行こうか?あれならまだ残ってるかもしれないよ?」 「おはなさんねてるの?」 「春になったら、しぼちゃんにきれいねって言ってもらえるように、土の中できれいなお花を作ってるの。だからぐずらないで待ったげようね?」 「やくそくね?はるになったら、陳平、おはなみにつれてってくれるのね?」 「うん、約束ね。」 じゃあ、どんぐりさんひろうの、と手をつないで、どんぐりー、どんぐりー♪と歌いだした。片手には白くなったあざらし。 約束ね。春になっても、傍にいてね。お願い、何もかも終わったなんて言わないで。春になってもいなくならないで。一緒に、満開の花を探しに行きましょうね。 意地悪しても、わがまま言っても、怒らないから。ずっと、傍にいてね。 大きな子房殿が和議を破約にしようと考えていることを、俺はまだ知らない。
お題シリーズ『離れない』。いや、単にあざらし引きずるわがまましぼちゃんを書きたかっただけ。のはずなのに、正気に戻った子房が出てきたせいで、後半えらく重くなってきたという代物。今回しぼがあざらしの修繕してますが、子房は高松キャラクターでも異色の裁縫上手。お貴族のくせに自活できます。というより侠客のほうに馴染みきってます。ほぼ一年前書いていた代物ですが、やっぱり可愛げのない子房より狂気のちびしぼのほうが書いてて楽しかったりします。 |