あの日あの時
覚えていよう
恐怖、慄き、剣戟の響き!
国は敗れた!国は破れた!
     −プッチーニ『トゥーランドット』



Palazzo Imperatorio
−咸陽のトッカータ−

 炎が壮大な建築を嘗めていく。梁材の崩れ落ちる音、逃げ惑う人々の叫び声、怯えて暴走する牛に馬、逃げ出す家禽に家畜、踏みつけられ街路の泥と見分けもつかない体の数々が、街路に散乱している。兵士は狂気の赴くままに刀槍を振り回し、女子供の別もなく害を加えた。母を失った子供が遺体に取り綻り、取り綻った子供を馬が蹴り飛ばした。絶命した子供の体が、目の前に投げ出された。騎手は槍を構えてどこかへ駆け去った。行く手にまた、悲鳴が上がる。
 お前に、私を殺す権利があったのか。白目を剥いて口の端から血を流し、背骨の屈曲した遺体が、私を糾問した。
 私には、秦に遺恨を晴らす権利がある。それは確かだ。
 じゃあ、私が貴方に何をしたの?
 少女の遺体から、私は眼が放せなかった。
「秦人か!」
 繰り出された槍の穂先を、剣ではねのけるのが精一杯だった。
「味方だ!」
と怒鳴り返す。
「文官がうろうろするな、邪魔だ!」
 憤慨した騎兵の陰が遠ざかる。私の肩書など、最早何の役にも立たない。歩兵が切り倒された。斧で背中を割ったのは、眼を血走らせた貧しげな男で、奇声を上げて頭を抱えてのけぞった。その首筋に矢が突き立つ。背後で騎馬の集団が地をどよめかす。豪邸の中から、抱えられるだけの物品を持ち出す兵士の群れがいる。
 熱い。あの宏壮な阿房宮の棟々が、次々と延焼してゆく。痛いほどの煙が眼を刺激した。逃げ出そうとする馬車が徒歩の人々を容赦なく踏んで通る。その馬車もまた略奪に会い、引きずり出された富貴の男の腹に剣が突き刺さる。布の裂ける音、女の悲鳴、いぶし出された雄牛が突進し、馬車を押し倒し、踏みつける。
 群集に逆らい、或いは切り払い、私は咸陽へ入ろうとした。
 足下の死体が、睨みつけている。母親の死体は、最早踏み砕かれて原型を留めていない。
 私が、貴方に何をしたの!
 私は返す答えを持たない。私が命じたのではない。咸陽を焼き払え、咸陽を屠れと命じたのは項籍、項王だ。私ではない!
 しかし、貴方はそれを望んだ。楽しいのでしょう、司徒殿。本望なのでしょう。
 項籍に殺された秦子嬰が嘲笑いそうで、私にはそれを否定できなかった。そうだ、私は確かにこの光景を望んだ。咸陽を焼き払えと望み、しかしこの修羅場を描きはしなかった!
 市街のそこここで火を吹く家屋が、盛大な音を立てて倒壊する。焼けた梁の下敷きになった者の叫び声が耳を打つ。
「危ない!」
 それが自分に対する警告だと気付くのに時間が掛かった。身を動かす間もなしに、角のある黒牛が荷車を引いたまま突進するのに向き合った。逃げようとしても体が竦んだ上に、砂埃が眼に入って涙が出た。避け切れない、と諦めたとき、首を締められる感触と同時に体が激しく引きずられた。足許に一段とひどい砂埃が舞い、地震のような振動が通り過ぎた。止まった時に吊り下げられていた首が解放され、あおのけに倒れた。堅い地面ではなく、奇妙な柔らかさに受け止められ、眼を開けると飛び出した眼球と抉られた傷口が目の前にあった。悲鳴を上げることも出来ずに口を開けて飛び起き、死体−というよりも最早形を留めていない何物か−の上から震えながら這い出した。
「こちらへ!」
 声の主が誰でもよかった。私は無我夢中でその方角へ走り、片手で抱きとめた何者かに綻りついた。
「乗れ、早く!こんなところで立っていて、死にたいのか!」
 足がすくんだ。声の主は私を馬上へ抱き上げると、続いて自らも飛び乗った。煙と炎と恐慌状態で癇の立っている馬は制御しにくいことこの上ないものであるのに、騎手は片手で手綱を操り、片手で私を支えていた。
 阿房宮の高楼が焼け落ちた。そして私に達成感はどこにもなかった。
 復讐とは、これだけのものだったのか。韓を廃した秦を廃してやると誓った私は、間違っていたのか。私は、義士と、壮士と仰がれる私は、ただの没義道の人殺しに過ぎないのではないか。
 貴方に、私を殺す権利があるの。
 無言で糾弾したのは、幼かった私、その人だ−。
 貴方に、生き続ける権利が、あるの。
 最早収拾のつけられない状態に陥った咸陽を前に、私は恐慌をきたしていた。逃げればよかったのに。沛公と共に陣に留まればよかったのに、しなかった自分を嘲った。
『貴方は咸陽を保全した。後は項王のなすがままに任せるがよいでしょう。どの道、貴方に項王に逆らって保てるだけの力はありませんし、項王が暴虐を働けば働くほど、人々は沛公、貴方を切望するようになります。さすれば、今はこの地を追われるとしても、戻ってくるのは容易になるでしょう。』
 非情な計算を、献策として沛公に捧げたのは、この私だ。誰からも、この策をたたえられた、この私だ。
 私は秦の本当の終焉をこの眼で見ようと、のこのこやって来た。そして見たのは、醜穢な結果だった。上げるべき凱歌など、とうに頭から吹き飛んでしまった。
 誰とも知らぬ騎兵に拾われて、今の私はその兵にしがみついて震えていた。悪寒がした。悲鳴と罵り声と奇声と動物の泣き声と金属音と火花の音、木材の焼け落ちる音が絶えず四方から襲いかかった。
 戦いではない。これはただの虐殺だ。
 お前に、私を責めるだけの理由があるのか。私は降伏した王を殺しはしなかった。理由もなしに都市を蹂躙したこともなかった。私が殺そうとした黒衣の皇帝が、秦始皇が、私を嘲けっている気がした。
 不意に馬が止まった。目の前に火の壁があった。背後からは逃げ惑う群集がこちらにまで溢れていた。騎手は舌打ちすると向きを変え、崩れた木材の山を飛び越え飛び越え、郊外へ向かった。それでも煙と殺戮の地帯からは抜けられなかった。何度も矢が隣を掠め、一度ならず暴走する家畜や馬車を避け、もしかしたら何人かを蹴り飛ばしてすらいただろう。騎手が度々、退け、と大声で叫んでいた。
「誰だ、城門に火を掛けた奴!」
 再び手綱が絞られて、馬が竿立ちになった。最早どの門か判別もつかなくなった咸陽の城門の一つが火に包まれており、活路を求めてやって来た人々が次々に焼かれていった。背後から押し迫る人波に、嫌が応でも流されかかった。
 歩けば脱出できるだろうか。降りようとした動きを察知したのか、騎手が初めて私に声を掛けた。
「お嬢さん、死にたくなかったら乗ってなさい。ちょいと乱暴なことをするから、落ちないように、両手で俺に捕まんなさい。そして眼を瞑んなさい。お嬢さんは見ない方がいい。絶対放すなよ。俺は、絶対貴方を助けます。信じなさい。」
「…はい。」
 お嬢さん、と呼ばれたことにも気付かずに、私は彼にしがみついた。私の背に回っていた男の手が離れて、次の瞬間には狂ったように馬が飛びあがった。私は悲鳴を上げて騎手にしがみつき、滅茶苦茶に暴れだした馬から振り落とされないようにするだけで必死だった。足下に複数の悲鳴を聞いた。間違いなく、誰かを踏んでいる。踏まなければ脱出など、出来ない。何か堅いものを踏んだ。騎兵の胸甲に顔を押し当てて、出来るだけ周囲の物音を聞かないようにするだけで手一杯だった。
 どこに向かっているのかわからない。煙の所為で喉が痛い。息苦しい。気が遠くなる。閉じた瞼の裏に、幼い子供の蹴り殺される映像が浮ぶ。
 嫌だ嫌だ嫌だ!
 蕭何殿、曹参殿は間違ってもこんな無謀をしないだろう。自殺でもするようなものだ。違う、私は項籍がここまでするとは読めなかった。いや、それも違う。私はこれを確かに望み、ただ悪評を厭うが故に、実行を項籍に譲っただけだ。そして事が予想より熾烈になったのに、呆然として今更後悔しているだけなのだ!だから、私は全ての結果を見届ける責任があった。
 貴方に、私を殺す権利があるの!私が貴方に何をしたの!
「いや…こわい……。」
 声にしてしまうと、震えが止まらなかった。
「退け!踏まれたくなかったら避けろ!」
 頭上で叫ぶ声がする。
 次第に煙が多くなった。暑くもなった。その代わり、人の声は少なくなった。恐ろしいことに、馬の速力が次第に落ちた。私は許されてもいないのに眼を開けた。
 愕然とした。燃え盛る阿房宮の外壁がすぐそばにあった。石の外壁は恐らく触れれば火傷をするほど熱くなっているだろう。人の声がしないも道理、回りに散乱しているのは死体と瓦礫とくすぶっている木材だったのだ。
 もう一度、騎手の片腕が背中に回った。甲の奥の表情は全く窺えなかった。腰間の剣を確かめようと片手を離すと、
「落ちるから、まだ捕まってなさい。」
と止められた。鞘だけ身に着けているのを知って再び恐慌状態に陥った。この先どうして身を守ればよいのだ、そういえば助け上げられた時に剣のことなど忘れていた、あの時手放したに違いない。
「私を…どうしようと?」
 声が上ずるのは、止められなかった。沛公の策士と知られたか。韓王の司徒と知られて、項籍の兵に狙われてでもいたのか。
 せめて、剣があれば自刎するくらい出来たものを。
「あらま、眼、開けるなって言ったでしょ。」
 拍子抜けするほどの軽さで、騎兵が口元を綻ばせた。よたよたと馬が動き、その後に血の滴りが線を作っているのに気がついた。
「怪我をなさったか。」
「俺は無事。さて、そろそろ降りましょう。高いので怖いかもしれませんが、ちょっとだけ一人で我慢して。」
 馬から飛び降りた騎兵は、両手で私を抱き下ろした。下ろされた時に馬の尻に短剣が突き刺さっているのを見た。
「お嬢さん、怖いでしょうが、もう少し我慢してください。必ずお救い致します。信じて下さいますね?」
「貴方の勝算は?」
「私は、策士ですよ。」
と、騎兵は嘯いた。がたがたという情けない震えが止まらない私の手を取った。
「歩けますか。無理のようなら、背負いますが。」
「…歩きます。」
 これ以上の醜態を晒すのが嫌さに、断言した。気丈な方だ、と彼は手を引いた。手を引いて、燃え盛る建造物が群れをなしている区画へと足を踏み出した。私は自分の衿持の全てを動員して、その後に従った。背後で馬が倒れる音を聞いた。
 足下の無事を何度も気遣いながら、騎兵はずんずんと奥へ進んだ。煙にむせて咳込む度に立ち止まり、私のことを気遣った。何度も背負おうか、と申し出たが、厄介を掛けるのが嫌さに断った。
 もう、炎の音しかしなかった。死ぬべき者は死んでいたし、逃げ出す者は逃げ出していた。熱風と煙の中を進むのは私達だけだったが、騎兵が時折位置を確かめているのを見ると、どことなく希望が湧いた。彼は脱出路を知っているかもしれない。
 果たして、彼は立ち止まった。
「あの建物がわかりますか。」
 指を差した小さな建築の様式は、見慣れていた。祖廟だ。秦の歴代を祀っているのだろう。既に屋根が延焼している。咳込みながら、辛うじて肯いた。
「あの中に入るつもりです。」
 燃えている祖廟に入ると言った。
「気丈なお嬢さん、私と共に来て下さい。必ず活路があるはずです。貴方には私を信ずるだけの度胸がありますか。」
「…はい。」
 袖を口に当てて、と忠告し、彼は駆け出した。煙で視界の効かない堂内に涙が出た。手を引かれるまま、闇雲に歩いた。しばらくして、手を引く男の動きが闇雲どころではないのを知った。
 冷静な彼は壁伝いに歩いていた。時折、慌てて手を引くほど熱くなった壁を手探りしながら、自分の位置を視界の効かない中で把握し、しばらくしてそろそろと堂の中央へ向かった。柱の数を数え、探しながら。
 策士を名乗ったこの騎兵は、ただの鼠ではない。
 しばらくして石碑の前まで辿りついた。熱さを堪えながら碑文のあちこちを触ろうとした。
「お止めなさい、火傷をします。」
「お嬢さん、止めたなら貴方と心中ですよ。まあ、悪くはありませんが、貴方は嫌でしょう?」
 お互い煙にむせながらの会話だった。私は、まだ触れる熱さだった剣鞘を外して差し出した。
「せめてこれで叩いては如何です。」
「ありがとう。もう少しですからね。ああ、出来れば私の腕でも掴んでいてください。もしかしたら両手を使わなければならないかもしれませんから。」
 おとなしく従うことにした。騎兵は数度石碑を叩いていたが、ある時点で突然地面が揺れた。
「離れないで!」
 抱えこまれた私は、床が開いて地下への階段が出現するのを唖然と見守っていた。次の瞬間には横抱きにされて階段を一息に駆け降りていた。それからようやく、冷えた石畳の上に下ろされた。
「率直な話、走れる?」
「あ……。」
「無理そうだな。時間がない、背中に!」
 大事な荷物のように扱われたのは、初めてだ。彼は必死に地下の通路をひた走り、遠くに聞こえる火事から少しでも遠ざかろうとしていた。
 地下の空気が冷たくて心地よい。
「重くなったら、下ろしてください!」
 返事はない。小さくなった入口を支える棟木に赤い光が点ったのに気付き、私は悲鳴を上げた。
「安心しなさい、地下の空気は湿気ているから、すぐに火が回ることはありえない!」
 その一言で、私も冷静さを取り戻した。
 何たる醜態。自分の不甲斐なさに涙が出る。何が沛公の軍師だ。ごしごしと眼を拭うと、
「眼は閉じていたほうがいい。まだ煙が入ってきているから、痛みます。」
という声が飛んできた。
「ここは、どこなのです。」
「もう少ししたら説明します。あと二つ曲がれば広いところに出ますから…さすがにそこまできたら燃えないでしょう。堀割もあるはずですし。ただ、堀に流れているのが水でないなら、いささか厄介になりますね。」
 私は、一体どこに連れられてきたのだ?
 二つの曲がり角を通過するまでが、ひどく長い時間に思えた。

 堀割の手前で下ろされた。地上の喧騒が嘘のような、死の静寂が支配するひんやりとした空間だった。手を引いて歩く騎兵の手だけが暖かかった。堀割を渡る船か、橋を探していた。しばらく歩き回ってもなさそうなので、彼は佩剣を外して堀に漬けてから引き上げた。しばらく眺めていたが、安心したような溜息をついた。
「良かった、ここは水だ。かなり深いけれど、泳げますか。」
 思わず顔が引きつった。暗がりで答えない私の顔など、どうせ見えはしないのだが。
「すみません、お嬢さんが泳ぐわけありませんね。距離は長くありませんから、少しお待ちなさい。ああ、これを離さないで。私が先に渡ってから、引っ張って差し上げます。」
 長いものを握らせた。
 衣ずれの音がやたらと響き、私は身を堅くした。暗闇に目が慣れてきたとはいえ、殆ど視界の効かない中でこの男は何をしようとしているのだろう。甲冑を解く音が、帯を解く音が、着物の滑り落ちる音が、私にはわかる。目を瞑ってひたすら身を縮めていると、握らされているものに手応えを感じた。
「あらま、まだ短いか。お嬢さん、大変失礼は承知ですから、上着でもそうでなくともいいですから、帯をもう一つ貸して下さい。堀割の向こうとこちらを結べる長さが欲しい。邪推しないで下さい。何もしませんから。」
 てきぱきと命じられて、私は反射的に従った。だらしなく広がった上着を、残った帯で一括りにしていると、持たされた綱がぴんと張られて、しばらくしてから金属音と水音が響いた。
「…大変言いにくいですが、もう一つ貸して下さい。それで確実に足ります。」
 甲を括りつけて対岸に投げてみたのだ、と言った。恐らくぎりぎりの所で対岸にぶつかってから水中に落ちたものらしい。私は黙って、内衣の帯も相手に渡した。
 今になって、私は自分を救ってくれたこの騎兵が怖かった。この状況で冷静に堀割の距離を計測しようという余裕を残している、得体の知れない男が怖かった。再び甲を放ったのか、今度は乾いた金属音だけが地下に響いた。
「よし!」
 その声は弾んですらいたのだが。
 何やらごそごそと音がした。
「乾いた物を先に向こうへ放ってやりましょう。濡れたまま長く歩くと風邪を引きます。濡らすものは最低限になさい。下手をすると沈みますから、いいですか、この暗闇の中で上品ぶると命に関わりますよ。」
「貴公を…信用して…よろしいのですか。」
 震え声も制御できない私の手を包みこんだ。
「信用なさい。私はちゃんとここまで貴方をお連れしたでしょう。勝算はあります。もう少しだけ我慢して。我々は驪山の麓に向かっています。地下から咸陽を脱出します。」
 具体的な地名を出されて、ようやく私の頭脳が動いた。
「まさか、ここは始皇の陵墓では?」
 相手が初めて身じろぎした。
「恐ろしいお嬢さんだな…何故それを?」
「貴方こそ、何故ここを?」
「知りたかったら、まずは助からなければならないというわけですね。」
 彼は綱を引いて甲をもう一度こちらへ手繰り寄せた。
「脱いだ物を畳んで渡してください。」
 仕方なく言われる通りにした。しばらく衣ずれの音だけが響き、ややあって遠くに金属音が聞こえた。がしゃん、と何かが割れる音も。びくりと身を縮こめると、呑気な声が、
「ああ、これで荷物の位置がわかりやすくなったな。では私が先に行きますからこの綱を離さないで、いいですね。呼ぶまで飛びこまないで下さい。足場を確保しますからね。…ごめん、こんな言い方をしてわかりますか、お嬢さん。」
「はい。」
 ばしゃん、と水音がして、手の中の綱が張られた。ぐいぐいと引かれるので、水に落ちないようにしているのがやっとだった。綱が、ぴんと伸びきってから大分経ったように思って、不安になりかけた時、水音がした。
「上がれましたか!」
と私は叫んでいた。
「ええ。さすがは秦皇、きっちりと土を固めているから崩れる心配はありません。その綱をしっかりと持って…いや、貴方の体に結んだ方がいい。用意が出来たら飛び込んで、出来れば力を抜いて手足を動かしてみてください。その方が引っ張りやすいと思いますから。綱を絡めないように気をつけて。」
 言われる通り、腰にしっかり結び付けてから飛びこんだ。息を詰めて、手足をばたつかせた。苦しい。苦しい。それでも、水の中で対岸に引かれているのが解って、私はもがき続けた。
 ふと、これを沛公や蕭何殿が知れば仰天するだろうなと思った。
 振り回していた手が壁を叩き、次の瞬間に手首を掴まれて、引きずり上げられた。ぜいぜいと息をしている私の頭に手が置かれた。
「良く頑張りましたね。今、乾いた物を探してきます。まだ、綱を取らないようにね。」
 そんな気力もなしに、私はうつぶせになっていた。うろうろと行き廻る足音がどこかで破片を踏みつけ、ここだここだ、とまた戻ってきた。座らされ、頭に乾いた布を掛けられて、ごしごしと髪の毛を拭かれた。
「濡れたものを脱いで、体をお拭きなさい。着物はその甲の中に突っ込んでいますから、手さぐりで解るでしょう。適当に着て下さい。帯は一本だけ解いて使ってください。ちゃんと絞ってね。ここではぐれると保証できませんから、綱を離さないで下さいよ。」
「あの…貴方は…どこにいるかおわかりなのですか。」
「わかっているつもりですが、貴方のお顔は見えません。」
 見られなくて良かった。恐らく耳まで赤くなっていただろう。この鋭い男が妙な気を起こさないように、私はそそくさと指示に従った。手首に巻いた綱が時々張って、彼が辺りを歩いているのを知った。時折土器を弾くような音が聞こえた。がつん、という音に続いて、あいてっ、と声を上げていた。思わず、くすりと笑いがこぼれた。
「何かにぶつかったのですか。大丈夫ですか。」
「ええ、忌々しい人俑が相当並んでいましてね。正真正銘の石頭ですから、貴方も迂闊に動くとぶつかりますよ。着替え終わったなら、私の着物を持ってきて頂けませんか。周りに気をつけてね。甲は重いから捨ててきて構いません。」
 言われるがままに綱を辿ってゆくと、先方が伸ばしていた腕に触れた。抱えこもうとするのを制して、布の固まりを押しつけた。指が裸の胸に少しだけ触れた。慌てて手を引っ込めた。私達は並んで綱を解きに掛かり、見えないながら身支度を済ませた。
 再び手を繋いで人俑の間を歩きながら、彼は種明かしをしてくれた。驪山の囚徒だった兵と話をしたことがあったのだそうだ。驪山の陵墓を造営していた工匠は、完成後、囚徒が全員埋められると伝え聞き、数名の仲間と決死の脱走を計って、からくも成功したのだそうだ。地下墓所の間取りや配置の壮大さを、彼は戦陣の暇潰しに、騎兵に語ったのだそうだ。一行の中にいた工匠が、阿房宮の地下道の工事にも携わっていた関係で、彼はその話もしたことがあったのだという。戦乱で仕事もないから兵になったという技術者は、話の聞き手が出来たのを喜んで、騎兵に微に入り細に入り、墓所の設計を話したのだそうだ。掘割には水ではなく水銀が流れている場所もあると聞いて、最前の慎重な行動を納得した。
 良く覚えていたものだ。更には、この状況でよく思い出したものだ。
「策士殿、あの火事の中で火元に赴くという発想が良く出ましたね。貴方のお話を伺うと成程筋が通っていますが、私は手品を見ているようでした。貴方は、一体どなたなのです?」
「兵卒に毛が生えたものですよ。」
 私の探りは、ふい、とかわされた。
「貴方が、怖いと言ったから。俺だけなら一か八か、あの火の中を突っ込んでもいいんですが、焦げるのは願い下げですしね。貴方は動転していたから、なるべく落ちついてもらわないと助けられないと思ったんですよ。咸陽の通路という通路はあんな状態です。項王も范増老人も、一箇所くらい退路を空けておけば、秦人は彼に服したでしょうに。あれでは、沛公が上手だと言われても仕方ない…っと、こんな話はお嬢さん、興味ないですね。」
「いえ、卓見です……。」
「本当に恐ろしいほど頭のいいお嬢さんだな。貴方がどんな顔をなさっているのか拝見したいものですよ、始皇帝もどうせ華々しく造るなら灯りも置いてくれれば良かったのに。」
「貴方は咸陽の市街を通られたのですか。」
「大体ね。どこもあんなものです。全く、貴方も無茶が過ぎる。女の子が血相変えてあんな道の真中で刃物を振り回すものじゃありません。貴方は度胸のある女性だ。けれどもね、無秩序に混乱する群集というのは、恐ろしいものですよ。妹さんのご遺体を守りたかったのか知りませんが、貴方が亡くなっては元も子もありません。妹さんも悲しむでしょう。」
「何故、私が女性だと?」
「いくら華奢な文官だって、あんなに肩幅の細い男はいませんよ。まあ、あの状況だ、そんな変装をなさった貴方の判断は正しいが、全てが全て騙されると思うのはちょっと甘くはありませんかね。」
 甘い?まさか。この男の観察力が鋭すぎるのだ。誰もが同じものを見るだろう。しかし恐ろしいほど冷静な彼の判断力は、凡人のものではない。
 項籍の元には、これほどの人材が揃っているのか。末端の騎兵が、私は怖い。つい、手を放しかけた私の手首を、強い力で掴まれた。
「放さないで。一旦位置がわからなくなったら、貴方は出られなくなります。安心なさい、貴方をどうこうなどしませんから。口説くなら、貴方の顔を見てから口説きますよ。それでないと、怖いでしょう?」
 違う。何かが起きるのが怖いのではない。心底を見透かすような騎兵の口調が、戦慄を起こさせるほどに怖い。私はそれほどに、自分の正体を暴かれるような真似をしたか?
 誰にも内心を読まれたことなどなかった。張子房は他人の内実を測るが、決して他人に感情を読まれたことはない。それなのに、誰とも知らぬこの男は、私の恐怖を読み取った。
 どこかで、似たような恐怖を感じた。それほど昔のことではなかったはずだ。
「あらあら、すっかり怖がらせてしまいましたかね。この人俑の話でもしましょうか。何しろ、専属の工人が焼いたそうですよ。大きいから、触ってご覧なさい。折角来たんですから。秦兵の顔を実写したそうなのですが、見えないのが残念ですね。俺より背が高いなんて、許せない奴もいるし。」
 そうして立ち止まり、手で触れさせた。私の目線よりやや高いところにある目鼻立ちを手でなぞる。目許、鼻筋、頬、空いた手で自分の顔を触ると、石の彫刻が相当念入りに凹凸を復元しているのを知った。布のひだ、鎧の継ぎ目に触れる。そして再び歩きだす。
「馬もあるって言ってたんだけど、触った限りじゃこの辺にはなさそうですね。とにかく、色々あるらしい。無論、お宝もね。気になりますか?」
「貴方は?」
「あるに越したことはありませんが、あんなもの食えませんからね。」
と笑った。
「それに財宝などに頼るのは嫌な性分でね。できれば、実力で他人に認められたい…まあ、野心家ではありますね。ああ、お嬢さん相手にこれも不向きか……。」
「貴方の野心とは何ですか。」
「…貴方も本当に恐ろしいお嬢さんだな。自分のことは何一つ言わないくせに、まるで戦略家のような探りを入れてくる。あ、気を悪くしないで下さいね、誉めているつもりなんですから。」
「ええ…それよりも、貴方の野心のことを伺いたいと。」
「騎兵脱出、ですかね。この天下を、好きに切り分けてやりたいという、ささやかな野心ですよ、お嬢さん。」
「そして、貴方の策とは?」
「お嬢さん。策というものは固定などしないものです。仕えるのが誰であるか、置かれた条件が何か、それで絶えず変化する。そうですね…俺が范増老人なら、咸陽は焼かなかったなあ。いくら秦が楚の仇敵だとしても、そんなものにこだわっては天下が逃げる。必然的に焼けないわけですよ。黥布か劉邦に焼かせれば、目的は達成できる上に汚名は被らないわけですから、一石二鳥なんですけどね。沛公は残念ながら咸陽を保全した。彼の策士も馬鹿じゃない。馬鹿をやったのは残念ながら亜父だ。だからよせと言ったのに、あの野郎、人の言うこと馬鹿にしやがるから…っと。まあ、そんな風に色々と変るわけですよ。」
 この男が項籍の幕営にいなくて、本当に良かった……!
 その発想は、出発点こそ違い、私と全く同じだった。
「ごめん、また怖がらせてしまいましたね。」
 別に、と取り繕うと、手が震えていますよ、と切り返された。
「どうして項王は貴方を登用しなかったのでしょう。」
「そう思います?やっぱりそう思います?そうなんですよね、誰に説いても、身分が下だからって黙殺ですよ。ったく、人のこと、ここに並んだ人俑みたいにお飾りだと思ってやがる。ねえ、賢いお嬢さん、人は才能で評価されるというのは嘘ですよ。嘘で固めた虚飾の評判と、高い身分があれば、それなりに評価してもらえるものだ。たとえ中身が、この人俑のように空洞であったとしても。」
「鍍金など、戦場では何の役にも立ちますまい。門地や名声が命を救うのではない、救ったのは貴方の冷静な判断力と、常識の盲点を突いた柔軟な思考だ。あの火の中で、火元に駆け戻るという発想は誰でも浮ぶわけではないし、怯える馬を進めるために剣で突き刺して暴走させるというのも常識の逆だ。それでも、貴方の冷静さと判断力に私は救われた。感謝します。」
 いきなり彼が立ち止まったので、ぶつかりかけた。ぶつかったのかもしれない。気がつくと胸元に抱えこまれていた。すぐ近くに吐息が掛かる。
「貴方は、どんな顔をなさっているのですか。お嬢さん、貴方は女性にはもったいないほどの思考力を持っている。男ですら気付かないことが、どうして貴方にはわかるのですか。貴方のお名前を、教えてください。貴方は誰なのです。気丈で賢い貴方は、一体どこのお嬢さんなのです!」
「…娘の名を、夫以外に名乗ることが許されないのはご存知でしょう。」
 私は下手な逃げを打った。
「ということは、貴方は自由な身でいらっしゃるのですね。」
「…早く外へ出してください。怖くなってきました。」
 回されていた腕から、力が抜けた。そしてまた歩きだした。そっと握られた手から、何だか力が抜けているようで、声を掛けた。
「あの、失礼なことを申したのならお許し下さい。このような場合に、何と申し上げたらよいのか弁えませんもので。」
「…貴方はね、あの修羅場で一度、怖いと呟いただけだった。」
 聞かれていた。私は暗がりで口を噛む。
「泣き叫ぶ女性は多いだろう。でも、貴方は全身で震えながら、弱音を吐かなかった。私はね、お嬢さん、貴方に安心して欲しかったのですよ。安心して、怖がって欲しかった。それが、ここまで来て怖がられてしまっては、どうしようもない。私がついていても、不安ですか?それとも、私がそれほど恐ろしいですか?」
「…貴方がただの騎兵でいらしたのであれば、私はもっと気を楽にしていたかもしれません。けれども、貴方は一流の兵法家でいらっしゃる。英雄と接して、身が竦まない者がおりましょうか。」
「俺は野心家ですが、英雄のつもりはありませんよ。よしんば英雄だったとしても、貴方が怖がるのなら凡人のほうがまだましだ。それにお嬢さん、貴方だって相当な家のお方ではありませんか。貴方の言葉遣いは農婦のものではない。おうちの方々はどこに行ったのです。貴方と小さい方を放り出すなんて、ひどい家だ。」
「あの、誤解です。あの子は馬に蹴られて私の前に飛んできただけで……。」
 貴方に、私が何をしたの。
 白眼を剥いたあの恐ろしい姿が、鮮明に甦った。
 私のお母さんをどうしてぐちゃぐちゃにしたの。私のこの曲がった背中を元に戻して。
 貴方に、私を殺す権利があったというの。
 そんなつもりは、なかったの……!
 両手で顔を覆った。身が竦んで、一歩も動けなくなった。手を離してしゃがみこんだ私に、慌てて後戻りした男の足がぶつかった。
 私だって、貴方と同じ、小さな女の子だったのに。私だって、こんな姿になりたくなかったのに。あんなことになるのなら、咸陽なんか、焼けと願わなかったのに。焼かなければならないという判断を下せないほど、下す必要もないほど無知な娘でいたかったのに……!
「ごめん、思い出させた……。」
「こわい…こわかった…こわくてこわくて、うごけなかったの……!」
 そうして、私は私の救出者に抱きついて号泣した。私が誰であるかを知らない人、賢くて強い、名も知らない人は、優しく私をなだめてくれた。だから、涙が止まらなくなった。
 墓場には誰もいない。人俑に囲まれて、私はひたすら泣いた。泣いて、訳のわからないことを叫び散らした。何を言ってもなだめてくれる、騎兵の存在に安心しきって、ひたすら泣いた。

 昼と夜の区別がつかない上に、どこを通っているのかも判然としない地下墓所を、休み休み歩いた。騎兵は同じところだけは決して通らなかった。少し眠って歩き、疲れたらまた眠った。地図くらい書いて欲しいよなあ、という軽口に笑えるほどは、落ち着いてきた。
 騎兵は無駄話をする。時折相槌を打つと、楽しそうにまた話し始める。つないだ手に安心して、私は秦の皇帝の陵墓を散策する。
 お嬢さん。そう呼ばれるのは嫌いではなかった。
 どれだけ歩いたか解らなくなった頃、複数の人の話し声が聞こえるようになった。墓暴きがいる、と騎兵がそちらへ進路を取った。もう、出口だ。皇帝の地下宮殿は、もうすぐ終わる。
 『お嬢さん』であった時間もまた。
 私は足を止めた。騎兵も足を止めた。暗がりで顔の見えない騎兵の頭があるだろう空間を、それでも私は見つめた。
「お嬢さん、出来れば名を教えては頂けませんか。」
 教えられない。沛公の軍師、張良などと名乗るわけに行くものか。それでも、偽名など使えば見透かされそうで、答えられなかった。
 もしも私が韓の淑女であっただけであれば、名乗ったのかもしれない。軍略など背負いこまなければ、心おきなくこの人の慧眼を誉めたのかもしれない。
「いつか私の野心が叶ったら、またお目に掛かりたいのです。」
 私は、二度と会いたくなかった。この人の野心が叶ったら、間違いなく私は厄介な敵と対決することになる。私には常識の盲点はつけない。あれほど柔らかい思考を持つことは出来ない。だから、私の前に出てきて欲しくなかった。
 恩人にこんなことを考える私は、やはり没義道だ。
 つないだ手に、ぽたりと滴が落ちた。
「それが運命であるのなら、またお会いできるでしょう。」
 それしか言えなかった。
「私は運命など信じない。」
「はい。」
「言ったでしょう。策というものは状況に応じて変化する。不可能に見えることでも、時と場合によっては上手く行くと私は信じます。」
「それは貴方が賢いから。」
「お嬢さん、私を馬鹿になさるのはよしなさい。貴方はね、俺を乗せて色々と話させた。けれども、自分の手の内は一度も明かさなかったのですよ。全く、怖いほど賢いお嬢さんだ。解りました。そこまでおっしゃるのなら、私は貴方の運命になります。必ず、もう一度。」
 いけない。それは嫌だ。それでも、この才能は止まらないだろう。恐らく、いつかは私の敵として戦場で立ちはだかる。
それが運命なのだ。
 決して名乗ってはならない。
「地上へ出たら、お別れ致します。帰るべき場所が、私にはあります。」
 沛公の陣営が、私を呼んでいた。
「送ります。」
「いいえ、ついてこないで下さい。貴方を信頼して、申し上げます。後をつけてはなりません。」
「…貴方は、私の才能を信じてくださいますか。」
「はい。」
「解りました、つけません。その代わり、いつか必ず探し出してみせます。私の記念にこれを。」
 指に輪をはめた。同僚が阿房宮から持ち出した物を貰ったのだが、自分が持っていても使えない、とくれた。
「今度は変装していない貴方がその指輪をはめているところを見たいものです。」
「そんな…私にはお礼すら出来ないのですよ。」
「一度だけ、無礼をお許し下さい。」
 そう言って、騎兵はつないだままだった手を取った。手の甲に静かに唇を押し当てた。
 貴方が私の運命であるのならば。微かに願った私がいる。
 私達は再び歩きだした。道はほの明るくなり、明るさを増し、人の声はますます騒々しくなった。そしてついに盗掘の現場に出た。慣れない日の光のまぶしさに、片手で目を覆った。
「子羽!」
 恐る恐る開いた視界に、仰天してつっ立っている項伯がいた。突嗟に手を離して項伯に駆け寄った。無論先方も同じ事をしている。
「どこから出てきたんだ、何をしていた?」
「お前のように墓暴きをしているわけではない。咸陽から、そこの方の案内で脱出してきたばかりだ。」
「相変わらず無茶な奴だな、咸陽なんかにいたのか!と、とにかく俺の所へ…それじゃ沛公も心配しているだろう。」
 礼も言わずに腕を引きかける項伯に、さすがに腹が立った。私は恩人の顔を白昼、初めてまともに見た。見て、凍りついた。
「貴方は項将軍のお身内だったのですか……?」
 運命、なのだ。
 狼狽した顔に、鮮明な見覚えがあった。私の恐怖は根拠のないものではなかった。鴻門で私の正体を見破った男、沛公の逃亡を察知した男、察知して見逃した危険な男が、目の前に立っていた。
 彼も思い出したのかも知れない。
「どこかで…お目に掛かっていますか?」
 私は鴻門では、始終緊張していたはずだ。突嗟に私は、満面の笑みを捻り出して顔に張りつけた。張家の令嬢として相応しく、沛公の軍師には不似合いな笑みを張りつけて、
「いいえ、全然。」
と答えた。項伯はぞんざいに彼を労ってから、そそくさと私を連れていった。
 間違いない。私はあの男と必ずまたまみえる羽目になる。その時が、既に私は恐ろしかった。

 一年の後、韓王の許から戻った私は、帰陣の挨拶に沛公−漢王の幕舎を訪れた。幕舎には先客がいた。振り返った顔は、払いのけようとして出来なかった、悪夢の面影だった。
 運命、だったのだ。
「こちら陳平先生、この度漢軍に参画して頂くこととなった。先生、こちらは張子房、私の軍師だ。」
 漢王の紹介は、刑の宣告にも等しかった。私は指輪を外していた右手を握りしめた。
 あの男は私の前で立ち止まり、慇懃にして不敵な笑いを浮べた。丁寧に拱手して、深々と身を折った。意味ありげな視線を投げて寄越した。背筋がぞっと粟立った。
 恐ろしい敵は、私に宣戦布告を突き付けた。
「子房殿、お手柔らかに。」





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お題シリーズ『運命』。これは解りやすかったですね。咸陽炎上、しぼちゃんサイド。繊細なしぼちゃんを颯爽と助けた人物が大笑い。韓信にしようかと思ったんだが、『First Impresion』書いちゃったし。兵馬俑まで出せて、書き手としては二度おいしかったです。こんなこと、韓信なら知りゃあせんな…まともだから。陳平の雑知識にしぼちゃん戦慄という。…これじゃあしぼちゃんが陥落寸前なんだが、その後で陳平の旧悪だの新悪だのがぼろぼろ湧いて出、挙句しぼちゃんに手を出すという展開を経てああ言う事に。しかし最後の陳平、二枚目だなあ(笑)。「私が貴方の運命になります」なんて、韓信殿でも吐かなかった、いや宋瑞でさえ吐かなかった台詞を吐いてくれました。確かにしぼちゃんの宿命にはなったんですが、結果として。半分、自動車学校で書いてました。これで気が散って学科忘れたら洒落にならないや。狭路の通行、S字カーブ、やだよう。
という後書きつきで、去年の八月に書いていた代物です。自動車学校に通い始めた頃でした。(ちなみに楽しかったんだけどなあ、すごく。みんな、『あれはそんなに楽しいところか?!』と言うのだ)。咸陽炎上は秦帝国サイドでも書いてみたいのだが、いつになるやら。
そういえば『うんめい』で書いてしまったが本来のお題では『さだめ』ってルビが(笑)。まあ、いいことにしてください。


いんでっくすへ