「わかりますよね?」
やけに人懐こい口調に聞き覚えがあった。


A Wisper
-離別の後のガイヤルド−


 孝恵帝が死んだ。崩御したと人前では言っていたのだが、所詮は同じことだし、別段あの男に敬意など持っていない。強いていえば背後にいる母后が物騒だから立てておくというだけだ。要するに劉氏であって、特に支障がないなら皇帝など別段誰だっていい。
 俺にはもう、それより他にすること、ないものな。
 半年ほど前に手ひどく開けられた風穴はちっとも塞がっていなかった。むしろ、段々と俺を食い荒らして行くような気さえ、する。
 半年前に留侯張子房がみまかった。俺にとっては相当の衝撃で、それからどうやって朝廷を回していたのかあまり記憶にない。今から一年弱前に俺は丞相になっていたんだが、言いかえれば部下に何でも押しつけられる地位にいなければ何を仕出かしたやら、自分でも自信がない。昔から俺があの人を尊敬していたと知っている周勃が、心配して時々顔を見に来たのも納得だ。もっとも、かなりな数の兵員を握っている周勃が俺と親しくしただけでどんな難癖をつけられるかは大体読めるので、あまり来るなとは言ってやった。
 行かないでって、あれだけ言ったのに。泣いてまで頼んだのに。
 あの人は忘れがたみを自分だと言い張って、人をぺてんにかけたようなものだ。絶対に人を騙せないと多寡を括っていた俺に、手加減していただけだといわんばかりな大嘘をついて、逃げた。
 死なれて、嘘までつかれて、踏んだり蹴ったりで茫然自失したいというのに、俺にはその時間すら貰えなかった。俺には喪に服す正統な理由がなかったから、おおっぴらに悲しむこともできなかった。
 妻が死んだら三ヶ月。その期間ですら足りないのに。
 奥さんに、なんて言えなかった。あのお姫様が好きだったのは韓非子だけ。張家に正嫡が必要だし堕ろすと危険だった、というだけの理由で俺の子供を生んではくれたのだけど、教えてくれたのは自分がいなくなった後だ。遺言で、間接的に二人の後見を頼んできた。
 それだけ。それだけしか、ない。
 本当は、好きになって欲しかった。俺が自分の本音に気付いたのは、不疑殿が俺の子供だと知ったあの晩だ。もう哀願する相手もいなくなった時だった。
 朝廷なんか、仕事なんか、くそくらえだ。
 それなのにあのモヤシ息子野郎、おっと皇帝陛下、はどんどん病状悪化して、哀れぽっくりお亡くなりというわけだ。まだ若いんだから父親だったなまず親父…っと、高祖皇帝くらい頑丈でいて欲しかったね。宰相が面倒だから。ああ、仕切ったともさ、葬式!こういうの仕切るの、実は昔から得意。周勃が笛吹いてやろうかと言ってきたんだが、いくらなんでも丞相の片割れが笛吹きじゃあ様にならないからやめてくれと必死で止めたんだ。あいつ、なまず親父が死んだ時も本気で泣いちゃって、自分の笛で送ってやると言い張ったもんなあ。
 お陰で俺、肩がばきばき。あー…家帰ったらかわいいおねーさんに揉んで貰おう。それから一風呂浴びて、酒飲んで、寝ちゃおうかな。どのおねーさんに付き合ってもらおっかな。あくびを噛み殺しながら葬式の終わるのをひたすら待つ。どーせ、誰もあの帝を悼んじゃいない。お気の毒。
 しょーがないんだ。元はといえば、あの母親に殺されたようなもんだからな。俺は派手に声を上げて泣き叫んでいる呂后を眺めた。
 なまず親父が死んで、その側妾達を片端から嬲り殺しにした呂后だ。とりわけ寵愛されていた戚夫人のことは手足を切り離して厠に転がしたとか聞いたな。その息子だった趙王のことは帝の前で毒殺したとか。あぶねーあぶねー。
 呂后の気がわからんでもないが。戚夫人だって、呂后を殺して自分が皇后になろう程度のことは考えていたろうからな。ちーちゃんにしてみれば、自分は一生貧乏籤を引かされ続けるのか、とたまりにたまったものもあるんだろう。しかし、強烈な母親についていけるだけの神経も体力もなかった帝は、酒浸りになって早死にした。陰気な酒は体に悪いが、それしかなかったんだろう。
 側近の誰か止めてやるならまだしも。
 なんて考えていたら、とことこと寄ってくる綺麗な子供がいる。帝の侍従、張辟彊殿だ。綺麗な顔をしているのに愛嬌の方が勝っている彼を見て、ここにいない嘘吐きさんを思い出した。それにしても侍従が来たってことは、何かあったのか?すみません、丞相ちょっと、と言われ、俺は孫の友達と一緒に歩く。葬儀の場から一歩出ると、たまに巡羅の兵がいる程度だ。
「見ました?」
と彼は囁く。
「何を?」
「太后陛下。」
 じっと覗き込む、誰かに良く似た黒い瞳。
「大層お悲しみで。」
 殊勝を装うのもわざとらしいので、軽く言った。意外なことに、辟彊殿は軽く返してきた。
「すごい叫び方ですよね。」
 そうして、上目使いに俺を見る。
「わかりますよね?」
と、また囁いた。
 この子は何か言いたいのだ。俺はもう一度、侍従の言葉の始まりから考えてみた。
 見ました?太后陛下。すごい叫び方ですよね。
 泣き方、とは言わなかった。そして、確かに太后の目に涙がなかったと俺は気付く。ちーちゃんは強気で残酷ですらあるが、情のない人ではない。むしろ情がないというのは、配偶だった高祖皇帝、あのなまず親父だ。ちーちゃんは、自分の味方には寛大で優しいのだ。そのちーちゃんが息子の死を嘆いていないのには、理由が必要になる。
 呂后は復讐が怖い。彼女は賢い人だ。自分の人望のなさは良く知っている。自分のやりたい放題が通ったのも、母后だったからだということを知り抜いている。
 死んだ息子は彼女の絶大な庇護を受ける存在であると同時に、絶大な権力の裏付けでもあった。それがなくなった。
 そういうことか。怖いのだ、あの人は。
「さすがは留侯のお子だ。」
 俺は、そういう言い方をした。辟彊殿は既視感のある笑いを浮べて、
「親の七光でも残ってないと、ぐれちゃいますよ。」
という言い方をした。
「あの人に追いつけなくてぐれるなら、朝廷は不良子弟続出だよ。うちの恢なんか首でも括らなきゃ追いつかないさ。」
「あ、行かないで!」
 慌てて袖を掴んで引きとめる辟彊殿に、戻ろうとした俺は足を止める。同じあの人の子といっても、長男の不疑殿はあの人に良く似た生真面目な子なのだが…辟彊殿はやけに人懐こい。そういえば、この子は兄上よりも始終うちに現れている。
 誰に似たんだ、一体。
「僕、対策があるんですけど。もっと言うなら、多分父上ならこうしたんじゃないかっていうのが。」
「…聞きたいね。」
「兵権、あげちゃえばいいんですよ。呂産に。そしたら暴れる理由、ないでしょう?」
 誰に似たんだ、一体!それは俺が思いついたのと一緒だぞ!
 怖いなら、宥めればいい。兵権くらい渡してやる。取り返す仕掛けだけ埋めておけば、誰にやってもいい。肝心なときに周勃に戻ってきさえするのなら。
 だから戻ろうとしたのに。この子……。
 私は、いなくはならない。
 ふっと、その嘘を思い出した。その時だった。辟彊殿は大きな黒い瞳でじっと俺を見つめ、囁いたのだ。
「丞相、同じこと、考えてくれました?」

 多分、父上なら。
 この子、知ってる……?!

「奇しくもね。」
「奇しくも、ですか。悔しいなあ。」
 にこりと笑ったつもりなのだろうが、どうとも寂しそうな顔になった。じゃあ、と礼をして行きかけるのを今度止めたのは俺だ。
「侍従殿はご両親のどちらに似ておられる?」
 俺はそういう言い方をした。
「父に似ていると留侯は言っておりました。」
 やっぱり知っているのだ。その上…何故にあの人に似なかったかなあ。
「僕、親孝行なつもりなんですけど。覚えておいてくださると嬉しいです。」
 そりゃあ孝行だろう。何しろ葬式の最中堂々と、危ないから次の手を打てと忠告しに来るんだから。それにしても、端から聞けばあの人の遺言でも持ってきたとしか取れないような言い回しを、よくぞまあぽんぽんと思いつくものだ。
「ありがとう、辟彊殿。」
 名前を呼ぶと、ぱっと顔を明るくした。
「不疑殿は御存知か?」
「僕だけの秘密です。兄上がこんなこと知ったら、あまりの衝撃でしばらくひきこもってそう。」
「なあ…余計なお世話だが、どうして侍従殿は知っている?」
「僕、見ちゃったんですもん。」
 にやりと、既視感のある幼い微笑みを浮べた。

 僕が宿直の晩だった日に、丞相が留侯と話してるの、たまたま聞いちゃって、それで。だって、通りかかったらいきなり留侯と抱き合ってたんですもん。腰が抜けて動けなかったんですから。泣きそうになったし。それで聞いちゃった。でも、丞相、気付いてなかったでしょ。僕、すぐ気がついたのに。
 うちに来たことあるの、勅使の方以外は、丞相だけなんですよ。
 で、留侯が亡くなる前に確認したくて、問い詰めて、やっぱりそうなんだって聞きました。兄上に絶対言うなって、きつく叱られましたけど。危ないですもんね。
 でも、兄上はもう大人だからいいけど。僕は、まだ誰かいて欲しかったから、丞相にお会いできるの、楽しいんです。
 それにしても、あの留侯なら荷車に押しこめて連れてっても良かったのに。僕、貴方の味方だったつもりなんですよ。そしたら恢とも毎日遊べるし。
 よかったら、覚えておいてください。僕、親孝行なつもりですから。

「侍従殿、俺、わがままな甘ったれが好みでね。あの人には頭上がらなかったのさ。」
 そうじゃないのかもしれないけれど。そんな言い方をした。
 辟彊殿はそうなんだか、という面持ちで俺を見ていた。
「留侯はわがままでしたか?」
「強情者で、天才だったよ。」
「留侯は、貴方のことを天才だと言っていましたよ。」
「買いかぶりさ。」
 漢と、劉氏を頼む。その遺言を思い出す。
 貴方の頼み、俺が断れないの、知ってるくせに。
「辟彊殿、また知恵でも貸しにきてくれよ。感謝する。」
「また遊びに伺いますね。」
 そうして、そっと囁いた。
 父上。

 私はいなくはならない。私はこの子の中にずっといる。
 天漢の向こうの星の姫が、星屑を放ってくれたような気がした。
 だから、陳平、泣かないで。私は、ずっと側にいる。
 嘘吐き。いないくせに。
 辟彊殿は俺の味方。貴方じゃない。貴方のことを地上から、戻って来い、と一緒に呼びかける同志。
 だからお願い、戻ってきて。年に一度の逢瀬でも構わないから。貴方の言うことは、何でも聞きますから。
 ねえ、子房殿。

 遠ざかる小柄な背中は誰かの後姿によく似ていて、そしてちょっとだけ既視感があった。俺、あんな歩き方、したかな。
 さて、すごい叫び方をしている人を宥めてやらないと。宥めるならお手のものだ。何しろあの強情者を何年も相手にしてきたんだから。
 棺から引き剥がせずに辟易していた審食箕が、俺を見て喜色を浮べる。困っていたらしい周勃も、手伝いますよ、と近付いてきた。俺は二人に微笑みかける。美人を口説く時の笑顔で。
「万事、俺にお任せ下さい。」
 周勃、わかってくれよ。頼むから暴れるんじゃないぞ。
 任せてくれ。必ず、俺は。
 漢と劉氏を助けてやる。
「お悲しみはわかります。しかし、天下の為にお心を強く保たれますよう。」
 俺は逆上しきっている呂后の背をさすった。
 あの人はよく、咳こんだ時に背中をさすってもらうと落ち着いたものだ。
 そうして耳元に囁いた。
「天下の兵馬を束ねるのは貴方様なのですよ。しっかりして頂かなくては。」
 乾いた瞳が驚きに見開かれて俺を見た。

 私は安心しても、いいの?
 その面影が、誰かと重なる。
 いいんだよ。お願い、私を信じて。
「貴方様がお心強くしてくださらねば、朝廷はどうなりますか。」
 信じて、子房殿。安心して。 貴方の遺言は、必ず守るから。

 ぽろり、と涙が頬を伝った。そうして、呂后は、不肖の息子の棺に取り綻って号泣した。
 私は全てをかけてお前をここまでにしたのに死んでしまった。
 涙の切れ切れに、囁きに似た悲鳴が聞こえてきて、俺はその様子を至近距離からただ眺めていた。群臣のほとんどが空涙を浮べて、惜しんでもいない皇帝を送っていたけれど。
 辟彊殿は呂后の背を撫でる俺の姿をじっと見つめていた。

「御用ですか?」
 夜中にこの人が呼び出して来るとは珍しい。
 まさか皇帝の葬儀の晩に綺麗なおねーさんを引っ掛けるわけにもいかなかった俺は、養生の書と称してきわどい本を寝そべって読んでいた。使いが字の読めない奴だったので、大仰に感心するものだから笑えた。呂后から呼び出されて、至急の用でないなら好きにさせてくれてもいいのに、と思ったりもした。
「醜態を見せましたね。」
「仕方のないことですよ。」
 太后は思いつめたような顔をしていた。
「貴方、仕事をしていましたか。」
「それは嫌味でいらっしゃいますか?」
 さすがに苦笑した俺だが、袖を掴まれてたじろいだ。何かに綻りつくような瞳の太后が、細い手に力をこめて袖を捕えていた。
 そういうわけか。
 どえらいものを引っ掛けることになったな。予感がなかったといえば嘘になるが。何度も何度も繰り返し背をさすっていた俺に、この人は段々肩の力を抜いていた。そもそもが気丈なだけに、一度気を抜いた途端、がっくりと力が尽きてしまったのだろう。
「期待しますよ?」
 口の端だけで微笑むと、そっともたれてきた。腕を回す。
「私は、ここにいますよ。」
「私を留侯とお思いなさい。そうしてもらいたいのです。」
 取引成立。遠慮会釈なく、漢の太后を抱きしめた。
 ちーちゃんは、俺がしぼちゃんに向けた気遣いが欲しい。俺は、しぼちゃんの身代わりが欲しい。忘れたいんだ、もういい加減、本当は!

 ぽろぽろと泣いたのは誰。
 いなくならないって、いったくせに。うそつき。うそつきさんなんて、きらい。
 だあれ?
 ぽかぽかと叩かれて、泣きじゃくる顔を見た。
 陳平のうそつき。きらい!
 どっちが嘘吐きだって?置いてったのはそっちだろう!
 うそつきなんだ、きらいなんだ、りょうのことなんてどうでもいいんだ。
 すねないの!
 きらい!
 ぽろぽろ。ぽろぽろ。
 もう…泣かないの。いい子だから、ね?
 きらいなんだもん!やあの!あっちいくの!
 こら、ぶんむくれるんじゃない!布団に丸まらないの!また布団蒸しになってしんどくなるから、ちゃんと出る!
 あーあ、久し振りに顔を見たと思ったらちっちゃくなってるし。おまけにご機嫌は最悪。ぐずって泣き喚いてる。ちっちゃい時は結構聞き分けがいいんだけどなあ。
 …もしかしてしぼちゃん。妬いてる?

 ぱち。
 夜中に目が開いた。今の今まで腕の中で散々暴れて泣きじゃくっていた感触だけが妙に鮮明だった。
 太后陛下はよく寝てる。
 いなくなってから初めて、あの人の夢を見た。出てきたと思ったら、わがまま全開だ。もう少し俺を哀れんでやろうという慈悲心はないのか、あの人には。…ないなあ。
 昼間の辟彊殿を思い出す。
−わかりますよね?
 あの声。まるであの人だった。もう少ししたら低くなって変わってしまうのだろうけれど。
 言ったろう、いなくならないと。
 でも違う。俺はあの人の口からじかに、甘い囁きを聞きたかった。あの声は親子の密談に使うようなものじゃない。大体親子で密談などしなければならないってのが根底から間違っている。
 朝廷なんか、どうでもいいはずだった。天下を好きに組み変えて、納得したら得意満面で隠居するつもりだったんだ、俺は。そのための高位、そのための高収入。
 そのとき側にいてくれたはずの貴方がいないだけで、この始末。今更、何のための丞相だよ。間違ってもちーちゃんの色男になるためなんかじゃないぞ。
 せめてあの声で囁いて、俺を引きとめて。
 私だけのものに、と。

 そうして呂后は見事に復活した。元気すぎるというのも考えものだ。呂氏から幼児を拾ってきては皇帝の座に据えたがるので、みんな辟易している。俺はどうでも良かったので放っておいた。
 劉氏を軽んじすぎる。そりゃそうだろう。あのなまず親父に未練だの恩義だのというもののかけらも持っていないちーちゃんにしてみれば、『これは私の王朝』であり、だから身内が出世してもおかしくないのだ。劉氏を重んじろ、なんて余計なことを言った連中がひどい目にあったのは、まあ当然かもしれない。大体劉氏がどれだけ偉い玉なんだよ。うちといい勝負じゃないか。
 みんな、そんな昔のことは忘れちまったのかな。
 放任主義を決めこんで酒盛りと恋愛遊戯に没頭する俺を、ちーちゃんは側に近付ける。時折昔の話がしたくなると、俺を呼ぶ。
 こんなこと続けても、貴方のためにはなりませんよ。
 いつかそう言った俺にちーちゃんは言った。
 あたしだってね、年下に甘えてみたいことはあるのよ。
 辟陽侯だけで足りないんですか。
 あの人、あたしより年よ。審食箕は信用は置けるけど、退屈なの。貴方は知能犯だから、あたしを上手に騙してくれるでしょう?騙して、優しくしてくれるでしょう。
 そうして俺は仕事をしない丞相を続ける。弾劾される俺をちーちゃんが庇う。何か言いたそうな周勃とすれ違う。でもお互い、天気の話しかしない。
 それで、いいのだ。周勃のために。下手に一声上げれば抹殺されかねないだけの兵力を持たされてしまった周勃をそっとしておいてやるために。
 わかってるよな。
 俺にそう囁いてやる術など、なかったけれど。要らなかったのかもしれない。ほら、視線の先に、走っていく侍従殿がいる。
 ぱたぱたと、誰かに似た軽い足取り。
 にやっと、誰に似たのやら食えない微笑み。
 ちょっとだけ背伸びをして、何やら亜夫殿に吹き込んでいる。亜夫殿は兄貴のように張家の二人を可愛がってやっている。だから、周勃はきっと大丈夫。
 鼻の頭を軽くかいて歩き出す。
「丞相!」
 後ろから元気な侍従殿の声がする。
「今日、お邪魔しますから!丞相にもお会いできると嬉しかったりしますけど、帰ってきます?」

 私は、いなくはならない。見抜いた時に、私は必ずお前の近くにいる。
 それは囁きにも似た、遠い日の約束だった。

「いい酒を期待してるぜ、辟彊殿。」
「約束ですよ!誰かに捕まるのはなしですからね!」
 全く、誰に似たんだか。端から聞けばどうと言うこともない牽制をかけてくる。
 呂后に捕まらない内に、今日は退散するか。
 孝行息子をいじめたら、あの人はぶんむくれて夢の中にも出てこなくなるだろうから。




×××××××××××


段々難しくなってきましたお題シリーズ(笑)。『ささやき』。辟彊君とおとーさまのこの密談は絶対書くつもりだったのですが、どれと絡めようかネタが出ませんでした。私、この次男坊が結構好きです。頑張れ、次男坊。(笑)パパ似の辟彊君、バランス感覚があるのでみなさまとのパイプ役をしてくれています。ちらちら出てきてるんだよなあ、この子…「Ella giammai m'amo」とか「Der Abenteuer」にも顔を出し、自分の一人称もあるという。札付き親父と孝行息子(?)のこの漫才コンビも気に入っています。



いんでっくすへ