| 『爆笑問題の日本史原論』 爆笑問題/メディアワークス/1000円/★★☆☆☆ |
| 「ダ・ヴィンチ」で現在も連載中の日本史原論。爆笑問題の太田さんの脈絡のないボケがさえる。 正直そんなに面白いとは思わないが、重い作品の後のお口直しにはこんな本がよく合う気がする。そして、歴史につかみ所をもたせるという意味ではとてもいい。 「薩長同盟の巻」、「信長・秀吉・家康の巻」、「忠臣蔵の巻」とおなじみの超有名どころでまとめている。私としては「信長・秀吉・家康の巻」が面白く読めた。 ところで太田さんは坂本龍馬のファンなんですね。 |
| 『不夜城』 馳星周/角川文庫/667円/★★★☆☆ |
| いままで、暴力や殺人や、そういう世界を扱った話しは、少し苦手だった。そういう世界には、人間の悲しさが描かれていることが多いからだ。楽しいことが一番の私にはちょっと重かった。当時結構好きだった金城武が主演した映画も結局見ることはなかった。 台湾人の父と、日本人の母を持つ劉健一。中国人社会では彼のような人間を「半々」という。異質なものを嫌う日本人にも、仲間意識の強い中国人にも、彼は所属することができない。健一は言う、「自分は日本人ではないと思った瞬間から孤独になるのだ」と。 歌舞伎町で生きていた彼の前に、厄介者の呉富春と夏見と名乗る謎の女が現れる。金と嘘と裏切りと暴力とがないまぜになった世界を今まで健一は慎重にわたっていたが、彼らのお陰でめちゃくちゃになってしまう。 私達は仲間からはずされたり、常識を飛び越える事で人から阻害されたりする事を嫌う。新しく入ってきた人間を仲間かどうか見極める事を、子供でも慎重にすることだろう。気がつかなければ仲間だが、気付いてしまうとそれで終わり。生き残りのサバイバル状態の中で彼が探し求めたものは孤独を癒す「仲間」だっただろう。 |
| 『推理小説』 秦建日子/河出文庫/620円/★★★☆☆ |
| 先日「アンフェア」の再放送してました。あんなに人間不信になるドラマはないですね。こちらはドラマの原作本。ノベライズじゃないんですよ。 さて、内容はというと、ドラマの筋と同じなのですがその一部なのですね。だから、あれ?と思わないこともない。けれど、雪平夏見のイメージは断然小説の方がわかりやすいし、好きでした。篠原涼子がダメってわけじゃないけれどね。 |
| 『しゃばけ』 畠中恵/新潮文庫/540円/★★★★☆ |
| 江戸でも有名な廻船問屋の跡取り息子、一太郎。彼は病弱で離れで寝付くことは多いけれど、つまらない毎日にかかせないのが妖怪たち。ある日、こっそり出かけた外出で、人殺しを目撃してしまう。それから、江戸を揺るがす猟奇的な連続殺人が続くことになる。もちろん、目撃者の一太郎も渦中の人間に。妖怪を従え事件解決へとのりだすのだが。 妖怪との見事なコラボ(笑)いや、共生。病弱だけど意外と頼りがいがあって聡明な一太郎と、身近で彼を助ける妖怪たちとの珍生活は、おもしろくて、あっという間に読み終えました。何で妖怪とそんなに親しいのか?と思うところですが、それには深い秘密がありました。 それにしても、人間が一番めんどくさい?でも、おもしろいと思える一冊です。 |
| 『龍の契り』 服部真澄/祥伝社ノン・ポシェット文庫/890円/★★★☆☆ |
| 1982年、英国情報部が機密外交文書を撮影中にスタジオが全焼。10年後、消失したと思われていた機密文書をめぐり、中、英、米、日の熾烈な争奪戦が開始された。 複数の登場人物、絡み合う思惑。先を読んだつもりが裏切られ、最後の最後まで読みきらないと事実が見えてこない。デビュー作でここまで!というすごいでき。香港返還問題にまつわる現代史の謎を骨子として、中国と英国の間の「もしも・・・」にせまったフィクション。圧倒されました。 とても読み応えがあって面白い作品ですが、その程度の説明で日中のわだかまりをすんなりクリアできるのか?と思ってあれれ?だったのが残念かも。それに登場人物が多すぎて、話が複雑になりすぎててごちゃごちゃした印象があった。 |
| 『笑う山崎』 花村萬月/祥伝社/1500円/★★★★☆ |
| 泣く子も黙る、みんなが恐れるヤクザ「山崎」が子連れのフィリピン人マリーと結婚した。 山崎はマリーと連れ子パトリシアの3人の「家族」を心底大切にする一方で、残酷なリンチを行い、身を守るためには若い組員も銃弾の盾にする。その相反する(メリハリのある?)行為には戸惑いを感じてしまう。私は暴力は絶対に嫌だ。だが、女に対してすべてをまかせきっている、子供に無二の愛情を注ごうとする男に愛情を感じない女はいないだろう。 マリーいわく 「この人、ほんとうに、なにを考えているかわからない。わからないよ。」 山崎はそういう男だ。 |
| 『ゴッド・ブレイス物語』 花村萬月/集英社文庫/420円/★★★☆☆ |
| 朝子と3人の男たちのバンド「ゴッド・ブレイス」。朝子の目を通して見える男たちは、子供で孤独だ。そして、彼女の前で本当の自分をさらけだしていまうのだ。 彼らとはセックスがあり、京都の元ヤクザとは愛があったが彼女も結局1人なのだ。 最後の野外コンサートで、雨の中朝子の歌う「ザ・スカイ・イズ・クライング」が聞こえたような気がした。恋愛があり、嫉妬があり、そして歌がある。切ないが、泣きはらした後の空のような話だと思う。 |
| 『ゲルマニウムの夜』 花村萬月/文芸春秋/1238円/★★★☆☆ |
| 「僕はこの修道院に附属する農場で、はじめて豚のペニスがくるくる丸まったドリル状であることを知った。」 冒頭から2ページ目で主人公の「僕」がうずくまってしっぽを丸めた犬を見ながら回想するシーンだ。そして、私がこの暴力と、セックスがあふれる本書で印象に残っている所。 日本にありながら、キリスト教の修道院ということで、もっと別の場所となった空間で、「僕」とその周りに人がだんだんむき出しになっていくところは、気持ち悪くもあり、かえって清々しくも感じる。 院長のモノを手で慰めることを強いられ、修道女となるべく女性と毎夜セックスをし、気に入らない仲間に暴力をふるう「僕」は、人殺しをしてこの場所に舞い戻ってきている。行動の激しさと心情の冷静さとのギャップが彼の魅力だ。激している人ほどそうなのかもしれない。 キリスト教という日本人になじみのない世界をえぐりだしている。神はいるがその中心にいるのは人であると、結局は人間であるという、理想と現実がほんの少しでも読み取れたらと思う。 第119回芥川賞受賞。 |
| 『守宮薄緑』 花村萬月/新潮文庫/438円/★★★☆☆ |
| やくざな人間と暴力とセックス・・・がてんこ盛りだ。やっぱり萬月さんだな〜と納得。あとがきを読んでみると、短編集を作るべくして書いた作品たちだそうだ。 私が萬月氏の作品を読むと必ず思うこと。 「イタタタタ・・・」。 そう、痛みを感じる。とにかく、強く感じるのだ。描写もそうだが、特にセリフが「生きている生々しさ」を持っていると思う。たぶん同じような怪我をした10人にその体験を話させても、聞く方に痛みを感じさせられる言葉をしゃべる人はそう多くないのではないだろうか。花村萬月氏のすごさはそこにあるような気がする。 ヒモ男と作家、作家志望の男、父親の死に立ち会った子供、暴力を振るわれるダメな親父。毒々しい色に光るダメ人間たちのショウ。短編は巧みな落ちがついてはいけないという意思のもとに書かれた作品集。 |
| 『閉鎖病棟』 帚木蓬生/新潮文庫/552円 |
| 2003年6月の本で紹介 |
| 『白い夏の墓標』 帚木蓬生/新潮文庫/500円/★★★☆☆ |
| パリで開かれた肝炎ウィルス国際会議に出席した佐伯。アメリカ陸軍微生物研究所のベルナールと名乗る老紳士から、かつて友人だった黒田が本当は自殺していたという事実を知る。佐伯はベルナールに教えられ、黒田の墓参りのため、フランスのウストという小さな田舎町へと向かう。 ウィルスとか医学面のことはとんと疎いので現在がこの小説を書かれた内容がその後どうかわったのかよくわからないしちょっと頭に入ってこない。しかし、専門的な話と平行して語られる一人の孤独な男の軌跡は暗く悲しい。そして、親友について何も知らなかったという事実、彼の心の叫びを受け取ることになる佐伯の心を思うと切なくなる。狂うことを恐れ、傷つくことを恐れ、人とのふれあいを拒絶した先に、人としての倫理に深く悩まされるという事実。しかし、最後に残される驚くべき事実にようやく心の重荷をとかされるようだった。 |
| 『東京名物』 早川光/新潮社文庫/629円/★★★☆☆ |
| 土産物でない本当の名物。写真付きで心そそられます。 |
| 『ダウンタウン・ヒーローズ』 早坂暁/新潮社文庫/★★★☆☆ |
| 自由奔放。今の同じ年頃の青年よりずっと大人ですね。 |
| 『女文士』 林真理子/新潮文庫/514円/★★★☆☆ |
| 真杉静枝。男も、名声も、安らぎも、愛も求めて求めてやまなかった。だが、女流作家として有名になるような作品を出すわけでもなく、男に愛されるように日々努力するでもなく、ただただ外に求める。 これでは、欲しいものも手に入らないのも納得できる。 だが、このスキャンダラスな女を突き放す事はできない。どこか愛らしく、ほっとく事ができない所がある。こけしちゃんも、大風呂敷を広げ、他人に平気で迷惑をかけるこの女の下をなかなか離れられなかったのは、彼女の中にあらがえない純粋と愛おしさをみたからだろう。それは、感情のままに行動できる事。一番嫌な部分だが、憧れもするところがあるからかもしれない。どこまでも子供。これが真杉静枝なのだろう。 |
| 『本を読む女』 林真理子/新潮文庫/400円/★★★☆☆ |
| 本を読むのが好きで優等生だった万亀(まき)は、人生の岐路に立たされるたびに母親に翻弄される。そんな時、読書が彼女を支えていく。主人公万亀のモデルは、林さんの母親だ。 一昔前は女性は両親に従い、家のために生きてきた。自分のためだけに生きるという道はいばらの道だった。どんな自由も手に入る現代の女が、彼女たちを見ていると本当にもどかしくなる。しかし、決まりごとのなかで生きていくことがただ単に不幸というわけではない。そういう幸せがあるというのも事実だ。 万亀は大学に進むとき、就職、結婚と選択を迫られるたびに母に反抗する。しかし、結局は母の思うようにすすむことになる。親友にはそこをバカにされるが、彼女の気持ちも充分わかる。まだ女の自我がすんなり通る時代ではなかったから。万亀は自分の決定や意思を踏みにじるような母親の行動にも腹立ちながらやがて受け入れていく。彼女を支えるものがあった。それは本。 逃げ道がある人間は強くなる。自分を追い込むだけでは人は潰れてしまうから。夫と子供、家だけが・・・という女にならなくてよかったねと言って上げたくなった。 それにしても、林さんのすばらしい才能が生まれる下地はこんなところにあったのか・・・とうらやましいばかりである。 |
| 『コスメティック』 林真理子/小学館文庫/600円/★★★★☆ |
| 女と化粧品は切っても切れないお友達。化粧品業界を舞台にくり広げられる女の闘いはすさまじい。業界内部は美とはかけ離れた女たち駆け引き。読み始めるとあっというまに引き込まれる。恋人との関係に悩みつつも、キャリアを追いかける女性、沙美のサクセスストーリーは痛快だ。仕事と恋に翻弄されつつも、自分は”仕事と寝る女”と自覚さえする彼女のパワーに圧倒される。夢を実現していくことは何と面白く、寂しいことか。 |
| 『ぼくと未来屋の夏』 はやみねかおる/講談社/2100円/★★★☆☆ |
| ミステリーランドに書き下ろされた作品。ジュヴナイル作家のはやみねかおるさんが「自分が読みたいと思う原稿」を書きました。お話は風太が1学期の終業式の前日に、「未来屋」と名乗る猫柳さんと出会うところからはじまります。両親と意気投合した猫柳さんは風太の家に居候することに。街の事件を2人が推理する・・・ことはできるのか?! 小学生のころワクワクしながら読んだ本を思い出しました。そして、夏休み。希望と夢と輝かしい日々!!毎日が夏休みとなってしまった今では味わえない、あの胸いっぱいになる夏が詰まってます。ちょっとの不思議と事件、神隠しに幽霊。ザリガニ釣りに花火大会。懐かしいあの夏が体験できる1冊。 |
| 『お湯のグランプリ100』 パラダイス山元/角川文庫/667円/★★★☆☆ |
| 市販されている入浴剤の評価本。あくまでもパラダイス氏の独断と偏見によるものだが、そのコメントの数々の真剣さとうんちくぶりには脱帽だ。さすが風呂ーリスト(笑)全国各地の入浴剤の評価、非温泉入浴剤の評価、子どもが喜ぶ入浴剤など細かい内容など参考になることうけあいた。 寒い季節、お風呂の友となる入浴剤選びの参考にしてみては?また、一つ一つのコメントも面白いので、本で選んだ入浴剤を入れたお風呂で、読書なんてのもおつかもしれない。 |
| 『レッド・ドラゴン 決定版(上)(下)』 T・ハリス/早川文庫/762円/★★★☆☆ |
| 『羊たちの沈黙』、『ハンニバル』でクラリスの手助けをした凶悪犯ハンニバル・レクター博士を逮捕したウィル・グレアムが、一家惨殺事件で全米を震撼させた犯人を追いつめていく。 あのレクター博士初登場の作品。彼の周到さと底の知れないところがジワジワ感じさせられる。そして、レクターを追いつめたグレアムの苦悩と犯人「赤き竜」の心模様も見逃せない。 映画は映画でとてもよくできていると思ったが、限られた時間ではどうしても1人1人の心情というのは割愛されてしまう。赤き竜であるダラハイドの心の中、そして、彼がなぜそういう人間になってしまったのか。是非読んでみたい作品だった。 読了して感じたこと。「子供を育てるのは難しい」親にも事情があるにしても、両親そろって、子供に愛情を注ぎこめる環境というのは一番大切なことなのだ。なにがなくても、家族関係をキチンと築けること、若しくはそういう環境の中に子供を置いてあげること、何よりも信頼完成を築ける人が1人でもいることが大切らしい。 |
| 『戦国自衛隊』 半村良/角川文庫/380円/★★★★☆ |
| 演習中の自衛隊が戦国時代へタイムスリップする。伊庭三尉を中心とする一団はいつしか、景虎という武将のために最新兵器を駆使して戦国日本の平定にとりかかる。 有名な歴史の瞬間にもし現代人が行くことができたら・・・。私なら現代に帰れないという恐怖や悲しみよりも、知っているという優越感と歴史が動く瞬間に立ち会えるというというワクワク感をまず感じると思う。とにかくまず興奮するだろう。それも、戦国時代、最新兵器を持参してである。日本統一を自分が率先してやれるかもしれないなんて、考えただけでもゾクゾクしてしまう。最終的には時代の異分子である自分の立場を発見してうろたえてしまうだろうけど。風俗もことばも習慣もちがうのだから。当たり前だけれど。 しかし、突然不明の事態に陥らされた自衛隊員たちは冷静だ。トップとなった伊庭のせいかもしれない。その組織の訓練のたまものかもしれない。どちらにしても、痛快にこの時代に馴染んでいく。そして最後に待ち受ける事実!!ああぁ・・・そうかと、愕然とし、”つじつまがあう”ということを痛いほど感じました。 今度「戦国自衛隊1549」として映画化されますね。1979年にも映画化されてますからこれはリメイクですか?だいぶ内容はいじってあるようです。福井晴敏氏が原作を書いているみたいですし。楽しみですね。 |
| 『旅涯ての地(上・下)』 坂東眞砂子/角川文庫/571円/★★★★☆ |
| 「私は心の安らぎを求めてきた。マッダレーナはそれは天の国にあると信じ、 私はこの世のどこかだと信じて東からさまよってきた。」 13世紀、クビライ・ハンに仕えていたマルコ・ポーロ一族とともに、西の果の地ヴェネチアで奴隷として生きる夏桂(かけい)。偶然手にした1枚のイコンで彼の運命は一転する。 現世で喜びを願い、享楽の中に生きる者。死んだ後での幸せを願い、快楽を否定して生きる者。西の世界と東の世界、ローマ派とカタリ派。この話では様々な相反するものがぶつかり合っている。何が正しいのか。それは、立場によって変化するが、ぶっちゃけて言えば、強いものが勝つのだ。 別々に見えているものも、実は見る角度が違うだけのことかもしれない。境界線上を歩かねばならなかった夏桂には、それが見えたことだろう。 しかし、何かを信じることは大切なことだ。なぜなら自分自身の居場所をしっかりとわからせてくれるから。 さまよいつづけた夏桂がたどりついたのはどこか。あなたも一緒に見届けてあげてください。 |
| 『桃色浄土』 坂東眞砂子/新潮文庫/781円/★★★★☆ |
| 高知の足摺岬の小さな漁村に、ある日異国の白い船が現れる。乱獲によって取り尽されたはずの珊瑚が、異国船の船長エンゾによって見つけられた事で、村の若者たちの暴走がはじまる。 人間の欲はきりがない。その気がなくても高価な物やお金なんか目の前にぶら下げられると刺激されるから。これは決して悪い事ではないと思うが、物や金に踊らされているだけで周りが見えなくなるとかなり問題だ。 この話の中の人たちは確実に踊っている(笑)笑い話ではないが、その様子がとても滑稽だ。浜の人々の間で伝わる、何十年か前の異国船の沈没船の話、これはまさに執着が具体的な形になったもの。溺れ死んでいった人々が今でも珊瑚にしがみついているという様子は執着し、取りすがらずにはいられない人間の心そのものだ。また、後ろめたい気持ちが呼び寄せる幻想なのかもしれない。 物語のはじまりは寄り物拾いのシーン。嵐の後浜辺に打ち上げられるものを村人たちが拾う。海の神様からの贈り物として受け取るのだ。そして最後もこのシーンで閉じられる。人間のわからない他の力、例えば海の中で死んでいった魂たちの力が嵐という形で村を襲い、悪い人間たちは一掃される。晴れ上がった朝がきたとき、また、海辺で寄りもの拾いがはじまる。そして村の人間たちの中にあった幻想は昔話となって消化されていくのだろう。 |
| 『道祖土家の猿嫁』 坂東眞砂子/講談社文庫/819円/★★★★★ |
| このタイトルなんてよむの? 実は道祖土家(さいどけ)が正解。読めました? 土佐の火振村の名家道祖土家に嫁いできた嫁蕗。狭い額に大きな口。その容姿が猿に似ていると揶揄されながらも、家や村の生活に馴染んでいく。明治大正昭和という時代を道祖土家の蕗の目を中心に語られ、久々に「面白い!」と思った作品です。 蕗に夫、小姑、姑、舅、子供や孫、それに村人たち。一人一人が生き生きとしていて、田舎の退屈で、10年前も50年前も一緒のような暮らしが伝わってくる。ただ村の風景が時代によって変わっていくようすが、役場や郵便局、学校で表されていて映画を見ているようだ。 夫が浮気をしても、姑舅にこき使われても、村人に揶揄されても、子を亡くしても、戦禍にあっても、決してあきらめない、忍耐強くしぶとい人間。それはまるで道祖土家の庭にある、何代も前からそこにある楠大木と同じように感じた。 |
| 『神祭』 坂東眞砂子/角川文庫/438円/★★★☆☆ |
| 坂東さんが描く土着の風俗世界は、おきざりにしていた記憶をむんずと掴んで引きずり出してくる。時に甘く懐かしい風景であったり、二度と思い出したくない恐怖であったりする。 両親の生まれが高知ということもあって、かつて盆暮れ正月とかならず祖父母の家ですごした。そこで交わされる土佐弁と郷土料理は私の休みの主たる思い出だ。坂東さんの作品から聞こえる土佐弁は親戚や親が話しているようで親しく感じる。そして、土佐の山間に囲まれた田舎屋で語られる話は、人工の光の少ない夜の暗闇に潜む恐怖と似ている。あると信じていた秘密でもあった。 神祭、火鳥、隠れ山、紙の町、祭りの記憶5話収録。 |
| 『13のエロチカ』 坂東眞砂子/角川文庫/514円/★★★☆☆ |
| 坂東眞砂子万歳!というほど女性中心のエロな世界が展開している(笑) 少女が初めて性の世界を知り、少年が初めて翻弄され、仕事相手の男性を犯したり、幼なじみの少年のペニスを道具のように扱い、初めて来たピンクドレスで大胆になる。素直に奔放に性と向かい合う女性の壮快さが感じられる。 私が好きだなと思ったのは、「コルトレーンと魔法の綿菓子」と「私、イタリアへ行くの」だ。 「コルトレーン〜」でダンナ以外のイタリア男性に犯される友人を見つめるレストランの風景、「私、〜」での何もかも捨ててイタリアへと旅立つ女が、ビジネスクラスの特別待合室のトイレでイタリア人男性と抱き合う様子は、その甘さにどちらも酔いが回りそうだ。 13の官能ワールドにあなたも酔ってみてください。 |
| 『ラ・ヴィタ・イタリアーナ』 坂東眞砂子/集英社文庫/495円/★★★☆☆ |
| 小説執筆の為に滞在したイタリア。歴史と景観、芸術と食べ物。魅力はいくらでもあるが、暮らすとなると一筋縄では行かない。滞在許可書を取るのにも何ヶ月もかかり、大学で講義を聞くにも教授のサインがいつまでもされない。運転免許をとるにもイタリア語の交通法規の勉強は一苦労、実地も上手くいかない。 しかし、坂東さんは「ラ・ヴィタ・エ・ベッラ(人生は美しい)」と信じて生活するイタリア人に大きな拍手を送っている、そんな気がするのだ。文化の違い、生活の違いの面白さやそこから生じるハプニングもさることながら、坂東さんの「生きていくこと」への前向きな姿勢が読み取れて面白い。 |
| 『葛橋』 坂東眞砂子/角川文庫/476円/★★★☆☆ |
| 3編の最初から最後まで、赤くなったり、青くなったりさせられた。妹に夫を寝取られる女、偶然手に入れた宝に翻弄される主婦、妻を亡くしたばかりの男の欲望と、人間の心の闇のドロドロを書かせたら天下一品。気がつけば、男女の欲と官能の闇がじっとりと自分の周りにせまっている感じが寒村、漁師町、過疎の町とあいまって気分を下げていく。後に何かを残していく怖さがあった。 |
| 『愛と心の迷宮ーイタリアと日本ー』 坂東眞砂子/岩波書店/1500円/★★☆☆☆ |
| 心の迷宮、女の迷宮、愛の迷宮と3章に分けて日本人の感情やルールの特異性やルーツについて言及している。もともとは1999年におこなった講演会の原稿を元にしているらしく、内容は単純だが、坂東さんの辛口コメントがより強く出ているエッセイだ。 女の迷宮の章で、日本女性の分類に「盆栽女」というのが出てくる。父や夫に形よく整えられるだけの、イニシアチブを持たせてもらえない女のことらしい。これに反しているのがアンチ盆栽女で、性に熱い女らしい。今や盆栽女は消え、剪定ばさみを持った女に整えられる「盆栽男」が増えてるらしい。 |
| 『曼荼羅道』 坂東眞砂子/文芸春秋/1950円/★★★☆☆ |
| 男と女というのはどこまで信じあえるんでしょうね。大東亜戦争中にマレーシアで出会った娘と肉体関係を持ち、現地に置いてきたはずの女が子どもを連れて自分を追っかけてきたら?夢の中から怪物が出てきたと感じるだろう。日本から来た男を信じ、しかし戦争中に日本兵たちにむちゃくちゃに犯され、傷つけられてしまったら?捨てていった男へ憎しみを抱くのもわからなくもない。そして、夫に別の女性と子どもがいるのを知ったら?なにも知りたくなかったと思うだろう。富山の薬売りとして、マレー半島まで行く精力的な蓮太郎、マレーの森の民サヤ。そして蓮太郎の妻庸子。彼らが織り成したどろどろにゆがみ震えるほどの苦しみをないものとする男女の葛藤ばかりか、先の戦争で日本がアジアでやってきた非道な行為を「ほら見てみろ!」と突きつけられ、体の底から冷えるようだった。男に従わなければ生きられなかった女性と正直に生きながらどこへも誠実でなかった男。その因縁が孫の代、麻史にまで影響している。麻史と妻静佳との関係も。 立山のふもとで薬師を求めてさまよい続ける異形のものの巡礼。真の地獄は災いとしてどこにでも転がっているのかもしれないと思った。 |
| 『梟首の島(上下)』 坂東眞砂子/講談社/各1785円/★★★☆☆ |
| 明治維新から20年。ロンドンで割腹自殺をした日本人留学生。彼の心の闇を古物商光明は探り始める。同じく、明治初頭の土佐から始まる自由民権運動に身を投じたある家族の風景を描いている。 急速な西欧化が日本人を殺してしまった。今まで良しとされてきた日本の歴史をじっくりと考えさせられる。国や民権家が求めた輝かしい未来は、そこに住む民衆にはあまり関係なく、その綱引きは結局迷惑なことだったのかもしれない。小さな我らが求めるのは、穏やかでちゃんと食べられて変動のない毎日なのだから。自由に踊らされたのは単に祭りと同質の一時的な熱狂でしかなかったのだ。そして、本当の変革は急がずにゆっくりとやってくる。 坂東眞砂子の書く、時代に翻弄される人たちの熱狂と困惑がおもしろい。特に、土佐という地方で、寡婦のむめという女が、今まで持ってなかった言葉をつかんでいく様はなおさら。虐げられていた女という総体が、穏やかに男を殺していくという、すでに、男の権威が弱体化してる今を知っている我々の目から見たら、ゾッとする仕掛けにもなっている。 |
【ひ】
| 『秘密』 東野圭吾/文芸春秋/1905円/★★★☆☆ |
| バスの転落事故で娘の身体に妻の心が宿ってしまった。娘、藻奈美の身体に母直子の心が在る。妻の心と娘の身体が残った。杉田家の「秘密」だ。 このストーリーは切ない。せっかく助かった娘の身体に妻の心。瞬間救われそうな感じだが、もう一度、娘の肉体を得て人生のやり直しの機会を得た直子と、そのままの平介。そばにいても夫婦の関わりは持てない。この神のいたずらは、どっちも取ろうとして、どっちも取れなったような空しさをもたらすことになる。月日が経つごとに、与えられた幸運は二人を苦しめていく。 やがて平介は決心する。奈保美を娘として扱うと。そして奈保美の中の直美は消滅していく。 そして平介が知らされる最後の真実は涙を誘うのだ。 久しぶりに泣ける話だった。どんなつらい事でも、やがて薄れ、忘れられるようになる。だから、ほんの小さな情けはかけられないほうが幸せかもしれない。次の希望をつかみ損ねてしまうから。知らぬが仏なのかもしれない。 |
| 『怪笑小説』 東野圭吾/集英社/1631円/★★★★☆ |
| おもわぬ発想でつづられる笑い。それは決して快いすがすがしい笑いではないけれど・・・。満員電車でくり広げられる呟き合戦。けちけち婆が好きな男のために豹変。狸はUFO?などなど、忍び笑いを繰り返しつつ一気に読了しました。とっかかりも良いのですが、なんと言ってもオチが最高。ある時はパロディである時は逆転発想で攻めまくられ、オチでやられる。苦手な東野圭吾もクリアできそうでした。 |
| 『容疑者Xの献身』 東野圭吾/文芸春秋/1680円/★★★★★ |
| 真面目で面白味のない高校の数学教師石神。ある日、思いを寄せる女性が犯した殺人事件から彼らを守るために完全犯罪をもくろむ。 最後の最後に号泣でした。久々に泣かされたなぁ。わかりやすい展開で、わかりやすい結末だったけれど、最後に施されていたからくりは、あっといわされる。誰かを一途に想うこと、その純粋さは心動かされるけれど、罪から逃れるってのはやっぱりねぇ。石神の普段の態度はやっぱり暗くて、不明なところがあって気持ち悪いといえなくもない。印象ってのはとても大事だよ。 ただ、石神が「なぜ数学を勉強するか」と問う生徒への返答とかは好きだ。もともと頭が良くてスマートなんだ!というところを垣間見せてくれる。湯川みたいな友人がずっとそばにいてくれたらよかったんだろうけどね。切ない殺人事件でした。 |
| 『よるねこ』 姫野カオルコ/集英社/1600円/★★★☆☆ |
| コワイ。まさに現代の怪談だ。それはジワジワと効いてきて、気がついたときには隣でニタ〜と笑っているような怖さ。背筋がゾッとする種類のものだ。 ジェイソンチェーンソーや死体が甦るゾンビ、死者が襲ってくるというのはどうも「作り物」の臭さがぬぐえない。しかし、「友達の友達が・・・」、「隣もマンションのあの部屋は・・・」、「学校の音楽室で・・・」となるとどうだろう。自分自身に降りかかる確率が高くなるほど恐怖も高まってくるからだ。そこに都市伝説の怖さがある。 表題作「よるねこ」他全8編。「X博士」「通常潜伏期間7日」「獏」が中でもゾ〜とさせられた。 |
| 『たちのみ散歩』 平尾香/情報センター出版局/1575円/★★★☆☆ |
| 立ち飲みやはすごく好き。平尾さんのステキなイラストと思い入れを感じるお店紹介。ディープな世界がスタイリッシュなのです。あ〜、飲みたい!と思わせられる。 でも、紹介されてるのは東京周辺のお店。近くにないのが残念。 |
| 『京都ご案内手帖』 平澤まりこ/ソニーマガジンズ/1785円/★★★☆☆ |
| 京都を紹介する本ってこの手のタイプが多いですね。でも、ぼーっと写真を眺めてると行った気分になれるからお得じゃないでしょうか。 |
| 『世の中で一番おいしいのはつまみ食いである』 平松洋子/文春文庫/630円/★★★☆☆ |
| タイトルにうなずいて買ってみました。 中身は日常の料理、それも、ちぎったり裂いたり開いたりという、包丁を使わない手を使ったお料理の話。料理ってあまりきばらなくていいみたいよ。 |
【ふ】
| 『楢山節考』 深沢七郎/★★★☆☆ |
| センセーショナルな作家、ヒューマニズムについて考えさせられる作品。三島由紀夫に評価されている。天皇の首を切った(作品の中で)など、聞けば聞くほどいったいどんな人(作品)だろうかと、興味を持ってしまう。 さて、当の「楢山節考」。貧しい村の掟、70歳になると楢山参りにいく。それは年寄りは口減らしされるという習慣。おりんは、楢山参りに行く日を待ちわびている。掟を従順に守り通そうと思っているおりん、母親を行かせたくない息子と嫁、自分たちのために祖母はいなくなってもらいたい孫。それぞれの思いが淡々と素直に描かれていて胸が詰まる。 なかでも、年不相応にしっかりした歯を恥とし、おりんが自分でへし折るシーン、それも、息子に後添えやってきたうれしさの続きとして、臼に歯をぶつけるところは壮絶です。 けれど、最近ではもっともっとひどい話があふれていて、現実にも起こっていて、これがひどいといっていた時代が懐かしいような気もしました。 |
| 『亡国のイージス(上・下)』 福井晴敏/講談社文庫/各695円/★★★★☆ |
| 戦争物は小説もマンガも映画もほとんど興味がないが、唯一かわぐちかいじの「沈黙の艦隊」は好きだ。「亡国のイージス」も初めはそういう風にとらえていた。 主な登場人物は護衛艦いそかぜの乗員、先任伍長の仙石、兵長の国政、艦長の宮津、そして新人クルーの如月。あまりの人物多さに、ページの始めに書かれてある人物表の存在に納得。 護衛艦いそかぜを舞台に、日本は突然テロ行為という「戦争」を突きつけられる。 自衛隊について、明確な位置づけをしていないこと、「まさか日本が戦争に巻き込まれることなどあるはずない」という確約のない楽観ぶり、国を動かすべきトップの人間たちの「権力」への執着や「事を起こさない」いう日本人の気質。これらが「戦争」という事実を目の前にして、案の定の混乱をきたす。 平和に慣れきり、先の戦争の後、戦争はただ愚かなものだと(それは間違いないと思うが)遠ざけ、考えることをしなかったつけだ。経済成長とバブルのおかげで「金さえあれば」という価値観を子供まで植付け、日本という国を憂うことなく過ごしてきた当然の結果といえる。 |
| 『Twelve Y.O.』 福井晴敏/講談社/1500円/★★★☆☆ |
| 地連の広報官として、日々幽霊のように生きていた平の前に、かつて同じ「海兵旅団」にいた東馬が現れた。彼と彼の娘理沙とであったことで、事件に巻き込まれていく。 戦後、米国の占領下で成長を止められた国日本に渇を入れよう!というそんな話だろうか。上の『亡国のイージス』同じで、読む人が読めば「熱く」なれそうだ。私自身は、このテは読むのは苦手なタイプ。映像になるならみてみたい。攻撃シーンなど爆薬がバンバンなって、しかも平と東馬、理沙と護の友情なんかがあいまって良く理解することができそうだ。 12歳の日本にちなんだタイトルに、きついお灸の末怪我の功名で成長を再開してくれたら・・・とやはり他人事に考えている自分は事なかれな日本人だと思ってしまった。 第44回江戸川乱歩賞受賞作。 |
| 『草の花』 福永武彦/新潮文庫/438円/★★★★☆ |
| 結核、サナトリウム、純愛。一昔前の青春小説の定番中の定番のテーマだ。実は佐藤江梨子さんの推薦帯にひかれて買った本である。「昨日また、この本をむさぼるように読んだ。」という彼女の一言につられた。純白の雪が降り積もる寒い冬の日、自殺行為じみた手術のすえ死んでしまった汐見茂思の残した手記を預かった私。2冊のノートに記された汐見の失った純愛が涙を誘う。 報われないというのはこういうことなんだろう。人の気持ちや本心はけっして他人が知る事はできないようだ。客観的な視点をもつ孤独な男は、夢見がちな孤独な男と誤解され、愛する相手から避けられてしまう。藤木忍という後輩への純愛を、そして、その妹への愛をも受け入れられない汐見の悲しみがヒシヒシと伝わってきた。肺摘出手術中、医師に対して、「かまわないからやってくれ」と元気に答えたという彼の本心はどこにあったのだろう。早死にしてしまった藤木の存在を胸に秘めて、千枝子へのかなわなかった愛情を抱えてこの世から自分の存在も悲しみも消そうと思ったのか?でも、彼の意思には無謀な死への切望は感じなかった。真っ白な雪と冬を感じる作品だ。 |
| 『どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役福本清三』 福本清三・小田豊二/集英社文庫/571円/★★★☆☆ |
| 斬られ役、脇役の大部屋俳優、福本清三。トム・クルーズ主演の「ラスト・サムライ」で寡黙な侍としてなんとハリウッドデビュー。あまりになにもしゃべらないのでトム役のオールグレンに「ボブ」と命名された侍は、しかしセリフがなくても存在感があった。やはりこの映画でも死んでしまう彼の死に様がかっこいい。 京都に出てきた15歳の少年が、食べていくために始めた撮影所での仕事は大部屋俳優。時代劇全盛期の波の中、当時は自分が出演した作品もわからないほどだったという。カメラに写らないような藪を足軽の格好で駆け抜けたり、先輩のかわりに死体として池にとびこんだり。映画の全盛期から衰退していくなか、43年間東映とともに歩んできた彼の役者人生。「しょうもない」、「なんのこっちゃ」、「アホらしい」、「そんなアホな」とテレ隠しのように語る福本氏の素顔がみられて、こんな人生もあるんだなと、一所懸命で生きるのも悪くないと勇気づけられた。 |
| 『イツロベ』 藤木稟/講談社/1800円/★★☆☆☆ |
| タイトルの「イツロべ」ってなんだ!まずここから入った。(作品中にあるので確認してみてください) ストーリーは、アフリカへボランティアの医師として行った間野が現地のラウツカ族のターパートゥニと出会うことで人生が狂っていく話だ。(狂っていた人生がわかるというほうがいいか?) 間野回想録はいいとして、途中幻想的な、現実か夢かわからない部分がでてくるので、正直パニックになる。(話がわからなくて)結末を見てははぁと納得はできるかもしれないが。 だが、結末と途中の崩壊劇との関連と、ターパートゥニとの絡みが難解だった。 しかし、浜崎が学会で発表する説にはどこか現実になりそうで薄ら寒くなる。 全体的に気持ち悪さがただよう作品だ |
| 『テロリストのパラソル』 藤原伊織/講談社/619円/★★★☆☆ |
| よくできてる。ハラハラ、どきどき!! |
| 『ダックスフントのフープ』 藤原伊織/文芸春秋/457円/★★☆☆☆ |
| 実はメルヘンじゃない。 |
| 『ひまわりの祝祭』 藤原伊織/講談社文庫/790円/★★★☆☆ |
| 妻が自殺してから、寝て食べて起きてというプレスチックの表面のような生活をしていた秋山。ある日、彼女にそっくりな女性とであってから周りが騒がしくなる。ハードボイルドミステリー。 喪失感を抱え、いや、それすらもなくしてしまったような男が巻き込まれる事件。しかし、巻き込まれながらも彼には隠された強い意志が存在する。「ひまわり」がキーワード。普通に拳銃がでてくるし、とにかくハードボイルド。麻里の存在の決着のつけかたが少々雑だったが、事件の中心にいるらしい仁科の秘書 原田の描写はよかった。ちとかっこよすぎぐらい。かつていた会社の社長、井上とのかかわりもとってつけたような感じがして、話の核心であるのに残念。 |
| 『恋する犯罪』 藤原智美/読売新聞社/1325円/★★★★☆ |
| ある日、小説家の私に花園敏という若者が会いたいという。彼は桜ヶ丘町の犯罪を綿密に記録していた。机いっぱいに広がる地図とその資料を元に本を書いてもらいたいという。私はその資料から花園の体験を追いかけていくが。 オウムの仕業では?という犯罪記録を読み続けるとぐいぐいとこの世界に飲み込まれていく気がする。また、花園の「町を守る」という情熱のように見えたものがどんどん変形していく。ノンフィクション?と思わせる書き出し、詳細な記録にどこまでが現実で、虚構かわからない。境界を越える怖さがある。怖い。でも面白い。 1998年に哀川翔が出演した「冷血の罠」というタイトルで映画化されている。 |
| 『ミッシングガールズ』 藤原智美/集英社/2000円/★★★☆☆ |
| 孤島で暮らすショーネン一家。観光といえば、イルカと山の頂上にあるピラミッド・ストーンくらい。この孤島で女子大生が行方不明になった。実は以前にも島外から来た一家の少女も行方不明になった過去が・・・。 藤原智美作品中では一番わかりやすいようでよくわからない。ショーネンの妹ノゾミと島の関係、一見怪しそうな父親の役割とその後とか。また、ノゾミと島にやってくるたくさんの女性たちとの関係とか。ただ、島民の心が奇妙にゆがんでくる後半は面白い。逃げ場のない場所、実際は開かれていない島民の心、連帯しているようでしていない家族や島民がB級のホラームービーやSFみたいだった。 |
| 『侯爵サド』 藤本ひとみ/文芸春秋/1810円/★★★☆☆ |
| 精神病院で侯爵サドは、演劇や討論外出はたまた恋愛も自由に暮らしていた.彼を憎むコラール院長は何とかして刑務所へ送るため裁判をおこなうが・・・。 藤本ひとみ先生の本は学生の頃、胸をドキドキしながら読んだものだが、何年か後にこんな本でもう一度出会うとは思わなかった。 まるで私の成長に合わせたかのように、これは大人向けの小説ですから。 裁判でサド侯爵が行なってきた愛の事件が暴露されていきます。人間の欲とは果てがないものだと、感嘆してしまいます。 少し刺激の強い感はありますが、この時代の倫理観では現代の人間は悪魔に魅入られた人々になる事でしょう。 |
| 『侯爵サド夫人』 藤本ひとみ/文芸春秋/1143円/★★★☆☆ |
| 神を無視した放蕩ぶりで世間をにぎわすサド侯爵の奥方は、どういう生活をしていたのか? 普通、数々の夫の常軌を逸した行いに腹を立てない妻はいないだろう。だが、司祭フィリップが対面している侯爵夫人ルネは、ただ夫の身を案じているのだ。 現代でも母親と娘の友達のような依存関係が話題になったりもするが、巣立ちを許さない関係はお互いに「悪」でしかない。心まで母親に支配されているルネはフィリップの力を借りて解放される日は来るのか?そしてフィリップとルネの関係は? 「侯爵サド」に書かれた事件を別の角度で、違う立場で見てみることができる。それにしても、心の闇は深い。 |
| 『見知らぬ遊戯 鑑定医シャルル』 藤本ひとみ/集英社/1100円/★★★☆☆ |
| 中学生のころティーン小説にはまっていた。藤本ひとみさんの小説もそうだ。マリナシリーズは結構スキだった。 登場人物の中にフランス貴族の子孫で、プラチナブロンド、 IQ200、少女のような顔を持つ美少年が登場いた。それはシャルル・ドゥ・アルディ。見かけの美しさから想像できないような冷血人間だった。 そんな彼も知らない間に大人になっていました。それがこの本。 鑑定医となってやっぱり抜群の頭脳をもちながら、冷たーい人間でした。でも彼の計算されたセリフは、読んでいると含み笑いをさせるのです。ちょっとうっとりとも。 昔の彼をしっている人はぜひ読んでみてください。 |
| 『歓びの娘 鑑定医シャルル』 藤本ひとみ/集英社/1100円/★★★☆☆ |
| 鉱山に埋められたバラバラ死体は失踪したピエール・ラクロだった。父の失踪後、長男は暴れ、次男は拒食症、長女は家出、崩壊寸前のラクロ家にはなぞが隠されていた。 鑑定医シャルルが活躍するシリーズ2作目。 心の傷をもった家族の一番病んでいたのは母親だった。家庭をさせているのは母親だたいうことだ。自分自身もちょっと反省。 |
| 『愛は甘美なパラドックス』 藤本ひとみ/コバルト文庫//評価なし |
| 先日レビューで書いた「鑑定医シャルル」シリーズを読んだ事で、10年以上前のこの作品を急に読み返す事になった。はっきりいって、コバルト文庫なんで中高生向きの本ですが、はまりますね。夕べは興奮して3時から出社時間まで4・5冊読みきってしまいました。 寝不足ハイテンションのこともありますが、当時の事を思い出しています。こういう本で恋愛にあこがれて、好きな人とダブらせたりして、ちょっと可愛いとこもあったなと。実際の恋愛上では、男性から「愛してる」だのなんだのと言ってもらえる経験はほとんどないけど、外人のように(外人もでてきてますが)ストレートな愛情表現をされるのにはかなりあこがれますよね。今も当時と比べて自分が大人になってないので、恥ずかしいですが。 時々は小さい頃読んだ本を読み返してみるのも面白いですね。ちょっと違った見方ができるから。 |
| 『快楽の伏流 鑑定医シャルル』 藤本ひとみ/集英社文庫/495円/★★★☆☆ |
| 鑑定医シャルルシリーズの3作目。 シリーズ中、一番ハードな内容。老婆ばかりを狙った残虐な連続殺人事件は異常性欲を満たすために少年2人が行ったものだった。しかし、恐るべき真相が! 最後のどんでん返しはちょっと驚きです。それにしても、家庭は愛をはぐくんで、人格を形成して一人前の人間にする場所なんじゃないのか!そうだから、こういう事件が起こるのか。人間の中の紙一重の部分、暗い闇の中を覗き込んだ気がした。最近は少年犯罪がどんどん増えてきているが、これから親になっていく私は、自信がなくなる。自分の子供をきちんとした人間にできるか。 今回のシャルルもママ大好き!て感じで変でした。 |
| 『ブリジット・ジョーンズの日記きれそうなわたしの12か月春夏編・秋冬編』 ヘレン・フィールティング/ソニー・マガジン/各1050円/★★★★☆ |
| レニー・ゼルウィガーのブリジットは良いですね〜。映画の続編を前にムショーにまた読みたくなりました。 適齢期というプレッシャー、恋愛の悩み、仕事への不満、ダイエットに禁煙にお酒と年をとるごとについてまわるもろもろに悩み、はじけ、とびこみ、妥協する彼女ブリジットは非常に魅力的です。いわゆるバイタリティーに満ち満ちている(笑)どの世代の女性が読んでも共感できる1冊。 前回ハッピーエンドで終わったブリジットとマークのその後。お互いに好きで好きでたまらないのになんですれちがっちゃうんでしょうかね?不思議です。男と女ってホント不思議。今回はシングルトン・アーバン・ファミリー(都会派独身者の家族)のメンバーたちにも大きな変化が。30を越えたいわゆる”負け犬”ですか?とよばれる女性たちも落ち着くところへ落ち着いていきます。むふふふ。今回もマーク・ダーシーがいい男です(はあと) |
| 『侵入社員(上下)』 ジョゼフ・フィンダー/新潮文庫/各700円/★★★★★ |
| 読了してまず思ったのが、邦題のセンス。すばらしい、ダジャレセンス(笑)ストーリーも私好みで、ジェットコースターのような爽快感がありました。翻訳本ってあまり触手が伸びにくかったけれど、そういうのはさっさとやめなければなぁと実感しました。面白い本をいっぱい読み逃している気がするから。 さて、大まかなストーリーは、ダメ社員のアダムがなりゆきでライバル会社へ入社し、ある企業秘密を盗み出さなければならなくなる。仕事のプレッシャーをかわしつつ、なんとライバル会社で思わぬ出世街道へと導かれてしまうという内容。えぇ〜!と次々にページをめくってしまいました。ハラハラしたストーリーが好きな方にはだんぜんオススメ。 |
| 『ウンコな議論』 ハリー・G・フランクファート/筑摩書房/1365円/★☆☆☆☆ |
| ウンコ議論ってなんだと思います?その場しのぎのいいのがれ、ふかし、ごまかし、はぐらかし・・・のこと。フランクファート氏が書いた論文、原題は”On Bullshit”という、英語圏では公共の場での表記すらはばかられる言葉をタイトルにしてるショッキングな本。 でも、まぁ哲学書なので私にはいまいちわからなかったかな?定義づけと正体の解明だそうですぞ。とても短いものなので(半分以上が訳者の解説)何回か読んで熟考するのもおつです。 |
| 『東京タワー』 リリー・フランキー/扶桑社/1575円/★★★★☆ |
| ベストセラーになったこの本。流行ってるなーぐらいでそれほど興味なかったんですが、大泉洋がドラマに出演というのに思いっきり影響されて読んでみました。 両親の別居、度重なる引越し、何をやっているからない父親どん底まで落ちる貧乏生活。暗くなりそうな要素はあるのに、決して悲しい話ではない。時代と場所の影響もあるだろうけれど、一生懸命に生きてる普通の母子の話だ。リリーさんは母親の愛情を一身に受けた幸せな子供だと思う。自分の母親がこんなだったらいいのに…と思うけれど、実はどの母親も(父親も)リリーの母のように一生懸命子供のために生きていると思う。私の両親もたぶんまったく同じくなのだ。一生懸命な度合いが人によって満タンだったり八割だったりするかもしれないけれど、そういうことを改めて気がつきました。 オカンがリリーさんの大学卒業証書をひろげ 「これに貯金もなんも、全部使うてしもうた。これがあたしの全財産よ」 というシーンはがーんとなる。 息子のために全力投球で、弱音を吐かず、人をなごまし、人のために生きるということの尊さというのをしみじみと思いました。最後のほうは涙や鼻水でぐじゃぐじゃになって息苦しくなりました。苦労した人だからもっと楽に逝ってほしかった。 |
| 『ダ・ヴィンチ・コード』 ダン・ブラウン/角川文庫/各580円/★★★☆☆ |
| 映画先行で見ていた「ダ・ヴィンチ・コード」。原作を読んで、いろいろ納得するところがありました。おろそかになっていた説明が追いついたという感じ。だいたい2日くらいの出来事なので、その辺のリズムは映画のほうが優秀でした。でも、ソフィー・ヌブーをやったオドレイ・トトゥは原作のイメージとはかけ離れていたこと(原作のソフィーの方が好き)、ロバート・ラングドンの謎の解法シーンがすばやすぎてわかりにくいなどの点から考えても、映画だけで楽しむのでなく、本も読むことを薦めます。うんちくも多いし、なじみのある絵画や場所もでてきて、スリルと適度な謎もある。純粋にエンターテイメントとして楽しめるお話。 実はこの本シリーズもので、ロバート・ラングドンの第二の活躍談だったというのはちょっと驚いたこと。 |
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| 『幽霊のような子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/1900円/★★★★★ |
| いちごさんに勧めていただいた本です。 著者の処女作は有名な『シーラという子』ですが、それから5作目の著書。私立のクリニックを辞め、特殊学級の教師として赴任したトリイ。待っていたのは4人の子供たち。中でも印象的なのは、身体を前に倒し、一言もしゃべらない少女ジェイディ。少しずつ心を開く彼女はトリイに衝撃的な告白をする。 まず、トリイの教育者としての姿勢に拍手。子供の一人一人に全力投球していて、彼らのために一番いいことを探そうと努力を継続してできるなんてすごい。私自身一時期、仕事で子供を教えていた事があるが、すぐに挫折したから。向き合う事、話を聞いてあがる事は意外と難しい。 それはさておき、ジェイディの事件は事実だったのか。正直?だ。カルト的なことが本当に起こっていたのか?性的な暴力についてはあったかも、とは思う。子供が小さい頃に受ける傷のために心が変形していく様子は、日を求めて無理に茎を伸ばしていく植物のようなんだなと感じた。 |
| 『シーラという子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/1748円/★★★★★ |
| いちごさん、フウさんが大絶賛していたノンフィクション。とうとう手に入れました。障害児学級での思い出をどんどんと書き綴っていくトリイ・ヘイデンの処女作です。 もう、何と言っていいんでしょうね。読了したらすぐアップを基本にしてますが、書きたい事が多すぎて少々時間をとりました。 とりあえずは神様にありがとう!トリイのような人をこの世に送ってくれて。少々オーバーですね。でも心からそう言いたかった。こんなに子供のことを愛せる人がいてうれしかったんです。子供たちに一所懸命になってあげる、共感してあげる、自分ができることをしてあげる。彼女は全然聖女とかじゃないです。また、施しをしているのでも、同情をしているのでもない。ただ、目の前にいる子供に最善を尽くしてあげたいと努力できる人。シーラにとっては、あなたを愛している人はいるのよ!と言葉でも態度でもしめしつづけたこと、それ以上に、心から彼女を愛していることが行間からばんばん伝わってきました。 彼女の職業柄、障害児を扱った内容になってます。まず、最初そこに興味を惹かれました。しかし、教室の様子を読みすすむうち普通学級の子供とそんなに違うとは思えなかった。(もちろん、普通学級では起こりえない混乱はほとんど毎日起きています)全てが最善でないけれど、何回も考えなおす、時には感情的になるそういう人間トリイ・ヘイデンに、そして、野生の動物のような”本能”のみのシーラが、どんどんと子供らしくなっていくところをみてワクワクしました。1人の子供が救われる瞬間だったからです。そして、トリイ自身にも大きな転機だったようです。 愛情と感動あふれる話に終始しましたが、なかにはショッキングなシーンもあります、正直失神しそうになりました(>_<)でも、1人でも多くの人に、この話は読んでもらいたい。事実を知ってもらいたいと思いました。 親の虐待。最近そんなニュースを聞かない日が少なくなっています。きっと加害者である親にもそれなりの理由があるのでしょう。もしかしたら、彼らも、子供の頃にうけた傷があるのかもしれない。でも、小さいうちに負ってしまう傷で、子供たちの未来がめちゃくちゃになるのは見たくないです。それ以前に、虐待という事件自体も聞きたくない。私たちにできることはなんでしょうね? |
| 『タイガーと呼ばれた子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/1845円/★★★★☆ |
| あの小さかったシーラはその後どうなったのか?『シーラという子』の衝撃を引きずったまま続編を手に取りました。トリイが自分でも言うように、「上昇型の小説」である前作のその後に期待してしまうのは人の常。しかし、世の中そうは上手くいかない・・・。 どうして弱い人間不幸な人間をあざ笑うように不幸な出来事が彼らに集中するのでしょう。そういう不公平に腹立たしくて悲しくなります。7年後再会したシーラには、輝かしい未来はまってません。彼女を襲ったひどい仕打ちに心がえぐられます。しかし、もう一度シーラとトリイは出会えてよかった。そう思いました。シーラにいっぱいの幸せを! |
| 『よその子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/1900円/★★★☆☆ |
| 7歳の自閉症のブー、読字障害のロリ、10歳の粗暴少年トマソ、12歳で妊娠したクローディア。前作までの1人の子にスポットがあたった作品でなく、4人の生徒それぞれを描いたこの本は、彼女の教室の混沌さ、彼女の力ではなんともならないという無力さ、おびえや自信のなさ、恋人との隔たり、職場での鬱屈など「私はこんなに無力です」というトリイの叫び声が聞こえてきた。アメリカで出版されたのは、大当たりした「シーラという子」の次ということもあって、よけいそういう部分を際立たせたかったのかな?と思った。(どうやら忙しい中で書いた作品のため、手が入れられなかったよう。その後、彼女にとって再読したくない作品となっているらしい。) しかし、これまでと同様、子供たちへそそぐ愛情の深さには恐れ入る。そして、その場しのぎという、彼女の全力投球ぶりと、どうにもならなくてももがいてみるところに感動する。彼女の本にはしおりを挟むまもない。一気に読みきってしまう。 |
| 『檻のなかの子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/2000円/★★★☆☆ |
| 机の下に隠れ、椅子のあしを檻がわりにする、誰とも口をきかない15歳の少年ケヴィン。トリイはセラピストとして彼とセッションを繰り返すが、180センチの長身の子供ともいえないケヴィンに今までの子供たちへの接し方ができずに戸惑う。 トリイの自分の力がおよんでいない、気持ちがわからない、そして、ケヴィンに対しての恐怖と、戸惑いばかりだが、それでも彼を見捨てず信頼関係を築こうとする密着した愛情を感じられた。 特に印象に残ったセリフがある。 終盤、トリイが他の患者のために遅刻してきた時、 「トリイはほかの人にさく時間をぼくのために使ってくれたんだよね?ちょうど今みたいに。ぼくよりもその子が、トリイの事を必要としているから」 と、患者の子供に対する思いやりを見せる場面だ。ケヴィンの心がようやく満たされ、余裕を持てるようになってきたこの言葉に涙がこぼれた。 |
| 『愛されない子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/2300円/★★★★☆ |
| 寄せ集めのトリイのクラスに、生徒の母親ラドブルックが助手として参加した。美人で学歴があり、裕福な彼女だが、飲酒と不倫、そして高慢な態度に町中からひんしゅくを買っていた。そんなラドブルックに何かしら憎めなかったトリイは親身になって彼女を支えていく。 障害のある子供たちだけでなく、大人の女性まで彼女は癒せるのか!と興奮した。本当にすごく。でも、ほんとのところ、彼女にそんな魔法があるのではなくて、相手のために何かできることはないかと一生懸命考えてあげること、行動してあげること、そして、ラドブルック自身が現状を変えようと必死に努力したからだ。トリイの子供たちだけでなく、大人になっても大なり小なり、みんな何かを抱えていると思う。この本を読んで「私もがんばれるかもしれない」という勇気を得られた。 一番バラバラに見えた彼ら、レスリー、ダーキー、マリアナ、ジェラルディン、シェモーナ、シェイミー。そして、ラドブルック。学年最後の日のピクニックで撮った集合写真の平和で無邪気な一場面を想像して、心が満たされる気がした。 |
| 『ヴィーナスという子』 トリイ・ヘイデン/早川書房/2000円/★★★☆☆ |
| トリイが小学校の障害児教室へむかった初日に、塀の上でハリウッド女優のようにたたずむ少女がいた。周りの言葉に一切反応せず一言もしゃべらない少女ヴィーナスは、時に自分の領域を侵すものに対して猛獣のように襲いかかり大暴れする。彼女の抱える問題がわからないまま、教室内の秩序もなかなか取れず、助手のジュリーとはアプローチの仕方にお互い相容れぬものがあり溝も広がっていく。 今までの作品のなかで一番トリイが苦労しているな〜とハラハラした。もうストレスも結構たまりました。 すぐにケンカするビリーとジェシー。はしゃぎまくる双子のシェーンとゼーン。選択性無言症なのか、先天的に疾患があるのかもわからないヴィーナス。無秩序の教室に、無反応の子供。と、こういう大変さは今までにみた事のある状況だが、その上に、援護射撃をしてくれるはずの助手が「あなたのやりかたについていけない」では、非常につらかっただろうと思う。それも、相手が悪いのじゃなく、不幸なくらい相性が悪いということで。 しかし、後半でなんとか収拾がついてよかったよかった。 |
| 『最悪なことリスト』 トリイ・ヘイデン/早川書房/1365円/★★★☆☆ |
| トリイによる初の児童書。小さい頃から里親の家を転々としているデイヴィッド。最悪のことのランク付けの1位が”気にかけてくれる人が誰もいないこと”と考える彼は、11歳の時にひきとられた先はおばあさんのいる家だった。上手くしゃべれず、勉強にも問題のある彼は、転校早々クラスメイトにいじめられることに。ある日、見つけたフクロウの卵のおかげで、飛び級の天才少女マブと友情を結ぶ。キング・アーサーと名づけたフクロウを大切に育てるが、あるひ最悪なことが起こる。 トリイの世界がギュッと詰まった物語。天才少女マブや、生みの母親を見つけようとするデイヴィッドの姉リリーなど、シーラや彼女が見てきたたくさんの子どもたちを彷彿とさせます。それよりも、じっくりと子どもの気持ちを汲んであげようとするデイヴィッドの里親のおばあさんがなんとなくトリイっぽい。 |
【ほ】
| 『生きる歓び』 保坂和志/新潮文庫/362円/★★☆☆☆ |
| 表題の「生きる歓び」では、墓参りの途中で拾って帰った子猫。鼻風邪を引いて瀕死の状態ながらやがて生きることに目覚めていく姿を見つめている。「小実昌さんのこと」では、作家田中小実昌さんへの追悼小説として、保坂氏と小実昌さんのかかわりを書いている。 どちらの話からも、「生」をじっとみつめ、生きていくことはそれだけで「善」だと言っている。だが、保坂氏は生きるこに大層な意味があるとは決して言わない。「死にたくない」から生きるんだ、それが喜びであって、いいことだと言っている。当たり前だがちょっと忘れてしまいそうなことを書いている。先日読んだ、アン・ライスのヴァンパイアクロニクルズシリーズでも感じたのだが、「生きることはすばらしい!」、「きっといいいい経験ができて満足した一生をおくれる」なんて言葉を鵜呑みにして、お題目を唱えながら日々生活するのではなくて、目の前の出来事をきちっとみつめ、毎日を地に足つけて生きることが大切なんだなと思った。 文庫の表紙になっているのは墓で拾った花ちゃんが写っている。左目が未発達でないが、見るからにやんちゃそうな女の子だ。 |
| 『どんぐり民話館』 星新一/新潮文庫/400円/★★★☆☆ |
| 昔話、童話は以外と恐いことを書いていたりする。小さい頃はそれはそれで気がつかないが、大人になるとそうは行かない。 この「どんぐり民話館」はそんな「よく考えるとこわい」話もある。かえってそういうものがずっと忘れずに心の中に残る。 昔々から現代、国や時代不確かな国の話を通して人間の喜怒哀楽が語られている。ほのぼのする話よりも読後「ぞっとさせられる」話の方がずっと気になる。お化け屋敷や怪談に惹かれてしまうのと同じですね。 どんぐり民話館におさめられているのは、そんな不思議な話にまつわる品ばかり。都会から来た青年も興味を惹かれた1人です。さて、彼はどうなったのか。。。 31編のショートショート。あなたはどれがお好きですか? でも、あまりのめりこむと帰れなくなるかもしれませんよ |
| 『おのぞみの結末』 星新一/新潮文庫/420円/★★★☆☆ |
| 11編の短編。家事をしてくれるロボット、男がかかった病気、夢が現実になる話、悪魔の提案、ものすごくあたる占い師などなど。どれにもあっと驚く結末が待っている。星氏の作品の魅力は、「短い」、「今までにない発想」、「予想を裏切る(まさかの)結末」だ。そのなかの今までにない発想はどうもたらされているか?解説で星新一さんのアイデア捻出仕方が紹介されている。 「異質なものどうしを結びつけよ、〜中略〜 時代の最先端はなんだろう。宇宙船だ。時代遅れなものはなんだろう。キツネツキがある。では、キツネツキの男をロケットに乗り込ませよう・・・といった方式で私はSFの発想を得ているわかだが、これは私ばかりでなく他の作家もそうだろうし、また小説に限ったことでもあるまい(「進化した猿たち」1より)」 確かに、これなら今までにない新しいものが書けそうだ。 |
| 『ショートショートの広場1』 星新一編/講談社文庫/580円/★★★☆☆ |
| 星新一ショートショートコンテスト(1979年〜1983年)に応募された中から、星さんが選んだ最優秀作、優秀作の58編を収録。以前今月の本で紹介した江坂遊さんの『仕掛け花火』を読んでから、この賞について興味を惹かれていた。 短い小説という意味のショートショートだが、こんなに数が多いと読むのがつら〜い(笑)巻末の選評で星氏も同じことをおっしゃってました。 おもわずおお!とうならされるアイデアの数々。星新一による1作づつの評とあわせて読むとよりおもしろい。 |
| 『MISSING』 本多孝好/双葉文庫/600円/★★★★☆ |
| この人の作品は面白い。実は本屋で並ぶ本多氏のこの本を少々見くびっていた。「今風のかっこいい言葉をならべた中身の薄い作品だろう」と。しかし、私の読みは裏切られた。 5編の短編が収められている。私は「瑠璃」が好きだ。奔放でわがままないとこルコ。年を重ねて、平凡になってしまう自分に狼狽してしまう彼女。そして、「蝉の証」の祖母さんの「偲んでくれることさえ、わたしらは期待しちゃいけないのかねえ」と言った言葉。さらっとしているのに、そのまま流れていってしまわない言葉と登場人物たちに好感をもてた。 「眠りの海」 第16回小説推理新人賞受賞。 |