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【か】

『怪談之怪之怪談』   怪談之怪編/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
「新耳袋」のコンビの木原氏と中山氏、そして作家京極夏彦、「幻想文学」の東氏が集いゲストをまじえつつ、怪談がなぜ怖いのか、妖怪とは?と語りながら怪談をする。そのところどころに織り込まれる「怪談」がぎょ!っとするほど怖かったりして・・・。ゲストに春風亭小朝師匠、山岸涼子、岩井志麻子、佐伯日菜子などなどといろとりどり。怪にかかわる方々とひざ突き合わせて語っている様は、まさに怪談をしているんだ!と感じられて面白い。それにしても、京極さんはぜんぜん怖がりません。かわいくないなぁ(笑)
トーク形式で「そういえば・・・」と語られる怪談が意外に怖いので、夜の一人読書にはくれぐれもご注意ください。
『ジーンワルツ』   海堂尊/新潮社/1575円/★★★★☆
不妊治療、顕微鏡下の人工授精のエキスパートである理恵と、彼女がかかわる5人の妊婦たちを通して、産婦人科医の苦悩と現状、生命の神秘について問題提起された小説。
海堂尊氏は、臨床医の立場から感じている、日本の医療の今を告発するような小説を多く書かれる方。「チーム・バチスタの栄光」はまだ読んでないが、エンターテイメントというわかりやすい説明の仕方で、われわれに自分の意見を主張する作家だと思う。そして、今のところそれは成功しているでしょう。
今回は少子化、不妊治療、代理母出産、産婦人科医の過酷な労働などの問題がみっしりと詰まった内容だった。そして、新たに生まれてくる生命を扱ったシリアスな内容。人の死もシリアスな問題なはずなのに、生命誕生の方が重く感じるのはなぜだろう。自分が今不妊治療を受けているので人ごとじゃないからかもしれない。
産科医療のことなど、実際に関わってないとわかりにくい世界。ちょっと難しくなっても説明くさい内容は、たくさんの人に知ってもらえるチャンスだからいいと思う。しかし、「顕微鏡下の人工授精」はほんとのところ「人工授精」ではなく「顕微授精」という別の治療だし、登場する5人の妊婦の事情が濃厚過ぎてフィクションとはいえちょっとありえない。どちらも、作者がわざとそうしているとは思うんだけどオイオイと突っ込みたくなった。
妊娠なんてセックスすりゃ簡単にできるなんてのはウソ(もちろんできるけど)。命が生まれるというのは、五体満足で生まれるというのは本当はものすごい奇跡なんですよということを嫌というほど教えてくれます。この本が、いつかお堅い官僚の心を動かして安心して子供を産める日本になってくれたらいいのですが。後半、出産へ向かう下りはぐっときます。
『チーム・バチスタの栄光(上下)』   海堂尊/宝島文庫/各500円/★★★★★
やっと読みました。第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作品で、ベストセラー。映画にもドラマにもなっちゃったこの本。しかし、本好きにとってどんどん読む機会をなくしてしまう状況。
・・・おもしろいです。すごく面白いじゃん。東城大学の万年愁訴外来田口公平と厚生労働省からやってきた変人役人白鳥敬輔が活躍する第一弾。キャラ立ちがすごくて、医療ミステリーとしてもすごい。まぁ、すごいすごいしか言えなくて悲しいですが、ひきこんで一気に読ませる力があります。これが初めての作品なんて信じられないと思いました。
他にどんな評価を受けてるのか気になって調べたら、おおむね好評。しかし、面白くない・へたくそという意見もちらほらあって驚きました。大成功した作品には、強く批判する意見もでるのが順当。エンターテイメント小説として成功している本は好みの差はでますね。
『京都おでかけ帖』   甲斐みのり/祥伝社/1365円/★★★☆☆
京都の穴場的情報を扱った本ってたくさんありますよね。こんなにたくさん穴場ばかり出てたら、京都は丸裸だよね〜。まぁ、同じようなところを紹介してたりということが多いですけど。
とはいえ、著者ごとに見える京都も違うだろうから、その人になった気分で楽しめるかもです。
『竜巻ガール』   垣谷美雨/双葉社/1680円/★★★★★
爽快で、驚きで久々に当たりと思えた本。
ガングロの義理の妹とめちゃめちゃHしちゃう、ダメ父・ダメ息子とずるい女・賢い女のやりとり、マザコン男と上司と不倫する30女の恋、年上女と中国人夫。組み合わせのありえなさがいい。目の付けどころにもギャフンと言わされました。軽快な文章も好き。読み終わったらわはははと笑いたくなる。気持ちよさがある。
「渦潮ウーマン」が一番好きかな。由布子・・・すげえ。
『ヨーロッパ青春文学紀行』   岳真也/廣済堂文庫/480円/★★☆☆☆
ずーと本棚に眠っていた積読本。ようやく消化しました。「人魚姫」、「アルプスの少女ハイジ」、「車輪の下」、「アンネの日記」、「嵐が丘」・・・全部で9つの話の舞台に旅した話。それほど面白くありません。
でも、「嵐が丘」と「ドンキ・ホーテ」のところはまあまあよかった。どちらも読んだことありますが、作者や物語の背景など、土地の人との触れ合いで発見する面もあるので、あらためて参考になりました。「アルプスの少女ハイジ」を求めてスイスを旅した話もいいです。「ハイジとペーターはスイス中にいる」っての。
よくよく考えてみると、文学作品は読んでも、作者や物語の背景まで探ろうとするのはまれな事。こういう他人の手ではありますが、作品の雰囲気を味わわせてもらえるのは手っ取り早くていいのかな〜。
『ボルネオ ホテル』   景山民夫/講談社/1325円/★★★☆☆
部屋のダブルブッキングで、宿泊日より早く来たため・・・それぞれの理由であてがわれたのはホテルの別棟、通称”ボルネオ ホテル”だった。古めかしいビクトリア朝の建物は不穏な空気を漂わせている・・・。
嵐、橋の崩落、殺人と”嵐の山荘”スタイルミステリ?ではなく、殺人犯は幽霊。宿泊者たちに次から次に怪現象が襲い掛かる。ドタバタの上に、少々B級ホラーのにおいがぷんぷんしますが、小説内で取りあげられている現象の中には景山氏自身が自ら体験したものも含まれているそうです。さて、それはどのシーンでしょう?プールでの怪?部屋でのポルターガイスト?まさか、憑依されたとかじゃないですよね?以前読んだ『ホワイトハウス』よりはホラーな作品でした。
『オール・アバウト・セックス』   鹿島茂/文芸春秋/1450円/★★★★☆
「赤いストッキング」の女性が印象的な装丁。タイトルから、アバンギャルドな恋愛小説だと想像してましたら、ずばりど真ん中のエロス関係本の書評集でした。文芸春秋にておよそ4年間連載されていたコラム。正直、すごく面白かった♪
「SMはセラピー」だとか、「コーンフレークは性欲を抑制するために開発されたもの」だとかいうマメ知識から、特定のものに性的興奮を得る男性は最終的にセックスへと結びつかないなど、生殖からはとんとかけ離れてしまった人間の性はどこまで果てしなく続いていくのだろう・・・と呆然としてしまう話ばかり。ありとあらゆるセックス本の多さから、男女の性の領域の広がりを感じました。とにかく、学術的なものから体験談もの、マニアックに小説マンガの紹介が多数。それもさることながら、女性がぐいぐいとこの世界へも進出しているということを痛感しました。
鹿島氏は言います。
「『神なき国』日本の性革命は驚くほどのスピードで進んでいる。中でも女性の性の垣根は低くなっている」
と。それが良いものか悪いものか、これからどう舵取りをしつつ進めればいいのか、今のところ私にはよくわかりません。
しかし、性の近代史と言う意味で、エロス関係本を広く集め検証するこのフィールドワークは、非常に貴重なことではないかと思います。消費という時代の変遷の波間に消えゆくであろう宿命の、貴重な証言たちは、一人の変人(あ、ごめんなさい)のおかげで世に残るものだから。時が変われど変わらない、セックスという丸裸な風俗を通して見える時代の軌跡を、その過激さだけで見逃してはいけないと思うのです。
・・・とまあ深読みして大義名分の旗を大きく振ってしまいましたが、単純下世話な目で見てももちろん楽しめます。
もしかしたら、若き日の、懐かしの・・・てのに再会される方もいるでしょうし。私も好奇心丸出しで読んで見たいと思う本もありました(笑)ずばりのエロ本をというよりも、AV女優や男優の体験談、ドキュメンタリーのようなものですよ。そこんとこ誤解されないように。
『世界の中心で愛をさけぶ』   片山恭一/小学館/1470円/★★★☆☆
読みました〜セカチュウ。青春っていいですね。手に入らないもの、失われてしまうものだからこそ美しい。だから、その喪失感は心に大きく傷を残すものなのかもしれません。でもやっぱり大泣きすることはありませんでした。というか泣くところがなかったような。あんなに有名にならなければ印象は変わったかもしれませんネ。って書いたけどう〜んどうだろ。
『イケ麺!』   勝谷誠彦/新潮社/1365円/★★★☆☆
気晴らしにちょちょっと読めそうな本として手にしたら・・・結構おもしろかった。
地元で愛されるご当地麺(さぬきうどんとか)にスポットをあてて、現地に赴いて書いた麺の案内書。いやいや、何より美味そうなのだ。そして、勝谷氏の書く文章、そのテンポ、どこかで見たことアルと思いました。そう、「恐るべきさぬきうどん」の田尾さんの文のリズムに似てるんです。なんで?と思ったら、勝谷氏は東京の麺通団員として田尾氏とも交流があり、また、うどん屋もやってるんですね。担当の筋鉄(筋金入りの鉄道マニアの意)のI氏に対する、甘えん坊みたいな不平不満な言葉は笑わせてくれます。
『にっぽん蔵々紀行』   勝谷雅彦/光文社文庫/680円/★★★☆☆
全国の蔵元を訪ねてお酒をいただくという単純なんだけど酒と旅気分をあおられます。酒好き、旅好きにはたまらない。蔵元の話、杜氏の話、土地の人の話、お酒はたくさんの人と時間をいっぺんに親密にするんですね。もう、魔法と言ってもいい。続編とあわせると全国制覇しちゃってます。「イケ麺!」の軽いノリを予測してたら、すごく詩的でロマンチックな文章にちょっと・・・だけれど。しかし、しかし、読むだけでは物足りない!これはいっぺん飲んでみなくてはという気分が高まってます。
『present book』   金子純子/大和書房/1680円/★★★☆☆
人に物をプレゼントすることは意外と楽しい。既製品でない手作り、いかがですか?という本。
ぬいぐるみに手作りノート、サンドイッチやいなり寿司、冬にはマフラーなど手作り心を刺激します。人にあげるのもいいけれど、自分のための手作りプレゼントというのもいいのでは?見ているだけで楽しい一冊。
『GO』   金城一紀/講談社文庫/448円/★★★★☆
自分は何者か?日本で生まれ育ちながら、「在日韓国人」と呼ばれる自分の立場に彼なりに戦う。ケンカが強くて、差別するために暴力を振るうやつにはビシッと力で打ち勝つ(もちろん戦うのは正義のためじゃないときもある)。深刻なテーマを扱いながら、軽快なテンポと、僕のさわやかさがすごくよかった。やってることは不良(なんか懐かしい言葉)だけど、僕はまれにみる真面目な好青年だ。腐らず、すねず、肩肘を張っていない。そして、父親に対する尊敬の念がある。友人に対する優しさがある。一匹狼なところもいい。
日本人がふたをしてきた事をわかりやすく書ききった金城氏に脱帽。これを読んで「国境線なんておれが消してやるよ」と僕のようにいえる若者が1人でも増えたらと思う。壁を設けてるのは人間の腐った心だもんね。
第123回直木賞受賞。
『映画編』   金城一紀/集英社/1470円/★★★★☆
映画それも、名作(「ローマの休日」「太陽がいっぱい」など)をからめて物語は進みます。映画がみたくなる小説。けれど、こういう、連作をたてつづけにみたあとなので、妙につくられた感が鼻について、☆1こ減。でもホントにいい話なのよ。
それぞれの話でからまっている、公民館での「ローマの休日」上映の顛末が好きです。
『ななつのこ』    加納朋子/東京創元社/1400円/★★★★☆
偶然返却コーナーで見つけた「ななつのこ」という本。はやてというちょっと弱虫でぶきっちょな男の子の郷愁漂う作品に入江駒子は惹かれる。作者と文通しながら駒子の日常の謎解きははじまった。

殺人事件もなにもない。ほのぼの〜とした作品。読了したらなんだか心が暖かくなった。佐伯綾乃という作者が書いた「ななつのこ」の話がちょっとした事件ごとに駒子によって語られ、1つで2倍おいしい感じがする。そして、駒子とその友達のせいか、まるで保母さんかお母さんのように彼女の謎解きをしてくれる佐伯綾乃氏のためか、作中には優しさがあふれている。こんなミステリーもいい。
第3回鮎川哲也賞受賞作。
『魔法飛行』   加納朋子/東京創元社/1400円/★★★☆☆
『ななつのこ』の続編。
短大生入江駒子が瀬尾さんに宛てて書いた小説というスタイルで話がすすんでいく。途中、瀬尾さんの感想の手紙、そして謎のファンからの手紙という仕立てになっていて、前作の雰囲気を大きく残している。
駒子が上手く書けるわけがないので、「自分の生活そのままを書いてみます」としているが、それにしては非常に上手だなと思わず突っ込んでしまう。クライマックスで「あれがこの流れになるのね」と読み返させられる。非常に純粋な人間なのですぐ騙されるんですよね。ま、何にも考えてない、または話を鵜呑みするだけなんですが(笑)
『おはよう寄生虫さん』   亀谷了/講談社+α文庫/★★★☆☆
寄生虫というのはたくさんいる。それも身近にですよ!うぎゃー。サナダ虫だけじゃないのだ!胃や腸に食いついて宿主に害するヤツもいる。動物によってつかれる種類も違ってくる。勉強になります。
内容自体は20〜30年前の話のようですが、今でも結構うつる可能性があること。例えば、豚肉をよく焼かなくちゃいけないというのは、豚肉には人間に寄生する(もしくは中間宿主にする)虫がたくさんいる可能性があるから。きもちわるいし怖い。身近でカワイイペットからも、うつされることが多いらしい。おかげで大好きな犬にもしばらくさわれないじゃないか!これは、ちゃんと手を洗えば大丈夫です。魚の生食もこわい。特に川魚。いや、生で食べることはほとんどないか。ということで、ルールさえ守れば大丈夫ということのようです。
『うわさの神仏 其ノ二』   加門七海/集英社文庫/495円/★★☆☆☆
以前加門さんの「うわさの神仏 日本闇世界めぐり」を読んで結構面白かったので、其ノ二も楽しみにして読んでみた。
内容的にははじめのほうがよかったかな。

今回も10箇所で神社・お寺をめぐり、それぞれで恐い体験もしている。とても珍しい人だ。
その中で私が特に気に入ったのは、「仰天動地!台湾占いツアー」だ。
加門さんの友達のいる台湾で占い師をめぐるものだが、行く先々で、聞いてないのに「お金に縁がない」「結婚してないでしょ」といわれ続ける。極め付けが「あなたの前世は・・。」である。どうやらどこでもこのセリフがはかれ、皆同じ内容であったらしい。詳しくは明かされてないのだが、是非その話も聞きたいものだ。
『しばわんこの和のこころ』   川浦良枝/白泉社/1400円/★★★☆☆
ちょっと前に話題になったこの本。図書館で見つけたので借りてみた。
まずしばわんこと自分しばイヌのHNと似てるし、背が低くて全体的に丸々しているところもどこか似てる気がする(笑)
お客さんのお迎えの仕方、季節ごとの風習。身近な事だけど、ちゃんと知らないこれらのことを楽しく見ることができる。月見のお団子やお供えを昔は子供たちが勝手に食べ、それを「神様が食べたこと」として縁起がいいと喜んだそうだ。もう今はない風習だ。
そして、お箸のこと。自慢でもなんでもないが、あまりお箸使いは得ではない。どうしても箸がクロスしてしまうのだ。そのことで、昔当時の彼氏と大喧嘩した事もあった(笑)今はずいぶん上手くなりましたが。
四季の移り変わりをうっかり忘れがちな毎日を見直してみたい。
『しばわんこの和のこころ2』   川浦良枝/白泉社/1400円/★★★☆☆
『しばわんこの和のこころ』第2弾。今回注目は「着物こと始め」、「歌舞伎、観ちゃった!」だ。アンティークの着物屋さんで着物を選ぼうという話は着物に興味津々のしばイヌには面白く読めました。そして、今までに2回歌舞伎を見た上で、歌舞伎の楽しみ方を実感しました。
ところで、しばわんこって女の子・男の子?女物の着物着てたから女の子なのかな?
『蛇を踏む』   川上弘美/文芸春秋/1000円/★★★☆☆
日常と同じようでちょっと違う世界。それが彼女の書く話の世界だ。普通に暮らしているところに、普通に変なことが起こって、誰もそれをおかしな事だと思っていない。
 
芥川賞をとった「蛇を踏む」もそんな無頓着(?)な人々が出てくる。蛇を踏んでから、蛇と暮らすようになるサナダさんや、祖母の蛇と暮らしている数珠屋の奥さんニシ子さん、そして蛇は早く追っ払ったほうがいいというニシ子さんの旦那さんがそうだ。
「消える」ではある日突然お兄さんが消えてしまうが、家族誰もそれほど気にしない。家族ごとにかなりかわった習慣があるという点でも。
川上さん曰く、この「うそばなし」は日常のふりをした、とんでもない不思議世界をわれわれに見せてくれるのだ。
『龍宮』   川上弘美/文芸春秋/1238円/★★★☆☆
川上さんの世界は不思議世界。ちょっと気を抜くとえらいことにつれてかれている。現実の中にちょこっとだけ虚構がまじっていて、うっかりすると気がつかない。そして、平穏なふりをした恐慌がまじっている。

「狐塚」と「荒神」が割と気に入っている。
「狐塚」では96歳の老人とヘルパーの女性の恋愛話。あぶらげが好きな正太がケーンと鳴いたり、何十年もまえの糞が気になったりと変わったじいさんが出ているが、ラストの火のシーンが印象的だ。
「荒神」は社宅に住むに新妻がイズミ。台所にいる荒神様もさることながら、ふつーに浮気をするイズミちゃんと浮気相手のセールスマンとのギャップにはらはらする。

うそ話であっても何かはっとするし、ドキッとさせられる。そこが川上ワールドの魅力かもしれない。
『古道具中野商店』   川上弘美/★★★★☆
古道具屋でバイトする「わたし」と、タケオ。だめ男の店主中野さんに、姉のマサヨさん。あやしげな常連客もあいまってまったりといい時間を感じられます。なんてことない日常だけど、なんかこの空間にはまりたい感じでした。ひっそりと進行する「わたし」とタケオの恋愛も好きね。
『古都』   川端康成/新潮文庫/400円/★★☆☆☆
川端康成の本今まで読んだことがなかった。かろうじて『伊豆の踊り子』の冒頭であるとか、『雪国』の冒頭であるとかぐらい。毎年京都へ遊びに行く私は、やっぱり読んどかんといかんな〜ということで挑戦。

幼い頃に捨てられた千重子が、双子の姉妹苗子と出会う・・・、というストーリです。これに、京都の観光名所や、年中行事なんかが入ってきて、着物なんかもでてくる。
しかし!話しはどこかふわふわして、わかりにくいな。どうやらあとがきをみると、川端康成先生が睡眠薬を飲みつつ書いたらしい。
うん、うんなるほど。納得。
『伊豆の踊り子』   川端康成/新潮文庫/320円/★★★☆☆
『雪国』、『伊豆の踊り子』は、いわずと知れた川端氏の名作だ。冒頭の部分はきっと知らない人もいないくらいだろう。こうしたすごく有名な作品は案外手にとって読むことって少ない。
さて、簡単なあらすじを紹介すると、旧制高校へかよう主人公は伊豆の温泉地でみかけた旅芸人一座の踊り子に魅せられる。彼女に心惹かれるあまり、その旅一座と一緒に行動する。お互い気になる存在だが、好意をいだいているという感情を交換するのみで最後は主人公の帰郷で幕をとじる。
というしごくあっさりした物語だ。淡い恋心がところどころで垣間見えること、旅芸人という職業に対する世間の差別、そして踊り子の初々しさが見物だ。
以前嵐山氏の『文人悪食』で「『伊豆の踊り子』は最後の海苔巻きすしが印象的だ」どういうことだ?と思ってましたが、なるほどと納得。

【き】

『真珠婦人』   菊池寛/文芸春秋/521円/★★★★☆
昼メロになって話題をさらった「真珠婦人」の原作。
周りの人間がこのドラマを見ていて、よく話すのでとても気になっていた。
さて物語だが、男爵の娘瑠璃子とその恋人直也は、荘田氏という成金のパーティに招かれる。しかし、迂闊にも本人がいると知らず彼の悪口をいってしまう。
それが発端となって彼らはひきさかれ、瑠璃子は荘田の妻に、直也は発砲事件を起こし海外へ。

彼らはプライドにこだわる。直也は貴族としてのプライドで原因をつくり、荘田は傷付けられたプライドの回復のため、金で操ろうとする。また、瑠璃子は引裂かれた処女のプライドを守る為、男たちを翻弄する妖婦となる。それぞれに決着をみるが、彼らに振り回されるまわりの人間が迷惑だ。
そして、時代が時代なので、今の私たちなら考えられないなぁという、こだわりが多い。「まぁいいじゃない。それも人生」と割り切らない、だから面白いのかも。
とにかくハラハラドキドキ?の展開は飽きません。
『黒い家』   貴志祐介/角川書店/680円/★★★☆☆
表紙のおどろおどろしい雰囲気にびびっていたが、最初の方は難なく話が進む。

保険金殺人をテーマに書かれたこの本には、得体の知れない人間が登場する。進化した人間であるらしい彼らは、いわゆる「心」を持たないらしい。 昔懐かしい「13日の金曜日」風に、安心した後のどんでん返し的恐怖は、恐さを倍増させる。こんな女がいたら嫌ですね。でも、最近の犯罪の多さを見ていると、感情のない人間いや、人の気持ちや痛みを理解できない人間が私たちの中にまぎれこんでいても不思議ではないような気がします。

しかし、期待していたほどでもなかったのが残念。映画は大竹しのぶの演技に脱帽。そして西村雅彦のコミカルさが怖さを引き立ててました。小説の映画化作品の中でよくできたものの1つだと思います。
『クリムゾンの迷宮』   貴志祐介/角川書店/1155円/★★★☆☆
目が覚めると、そこは雨にぬれ一面鮮やかな深紅色に染まった異様な世界だった。プレイヤーがおのおのゲーム機を持ち、チェックポイントをクリアしながら進む。R.P.Gのような世界が失業者の藤木の前に起こっていた。人数は9人。過酷なゲームの先に待つものは?

ゲームに見立てたサバイバルモノね〜と高をくくって読んでいたら、意外に面白いじゃないですか。普段ゲームには興味も縁もないけれど、10数年前に流行ったゲームブックというのも出てきてちょっと懐かしかった。選ぶ選択肢により運命が大きく変わっていく。まさに人生の縮小版。そのつど選びなおせることと何度でも繰り返せることが魅力・・・とわざわざいわなくても誰もが知っていることです。しかし、それを実践するとなると全然別問題。東西南北どの道を選ぶかで、運命それも、生死にかかわるなんて冗談にもならない。まして一線を越えてしまった人の怖いこと。人にとっての脅威は間違いなく人なんでしょうね。生きていくには思慮深さと直感という相対するものの必要のようです。
『新世界より』   貴志祐介/講談社/各1995円/★★★★★
貴志祐介の作品がいままでと違う!と思いました。本当は変わったわけではないのかもしれません。ジャンルとしたら近未来SF。でも、そこに漂う雰囲気、根底に流れているテーマが非常によくて、読中も読後も震えました。
日本と思しき国の神栖66町が舞台で、そこの住民は呪力という能力(いわゆる超能力)を持っている。そして、悪がなく善をもっとうとする清らかな世界に住んでいる。早季、真理亜、瞬、覚の4人を主人公として物語は進む。
彼らは、全人学級に通う健康で優秀な子供たちだったが、ある日、外の世界に興味を持ち始め、禁を犯したことで世界が変化し、神栖66町全体を脅かす恐ろしい事件を引き起こしてしまう。そして、そこに隠されていた人類の真実を知ってしまう。
バケネズミ、風船犬、業魔、ネコダマシ。変わった名前と奇妙な風体を持った生き物が登場し、SFよりもファンタジー臭が強い。けれど、真実に近づくにつれて、かわいらしい名前に潜む恐ろしさが暴かれていく。人の残虐さや、清らかな世界が保たれていた理由が浮き彫りになってくる。ありえそうもないようだが、現実にもありえそうな話だった。
非常に読み応えのある内容で、貴志祐介らしく、グロテスクな表現も多数ある。号泣するほどせつなさもある。
でも、ここで書かれているのは、「子どもたちに残したい明るい未来の作り方について」だと思う。ニュースからは毎日、非情でむごたらしい事件が流れてくる。想像力を持って、変わっていくことについて考えさせられる内容だ。
『楡家の人びと』   北杜夫/新潮文庫/629円/★★★★☆
以前「ダ・ビンチ」(もしかしたら「サライ」だったかも)で北杜夫さんのお兄さんがこの本を紹介していて、興味をひかれました。しかし、なぜか本屋ではなかなか見つからず (古い本だからか?でも最近また出ていたみたいだが)、やっと図書館の書庫で探し当てました。

楡脳病院という精神病院を営む一家、楡家の人たちのみならず、医者や医者の卵として勉強をしている人、お手伝い患者も巻き込んで話は進みます。
大正、昭和と楡家の歴史が描かれ、その人間模様には辟易することもあり、笑ってしまう事もあり、涙する事もあります。

中でも心に残っているのは、正月の家族職員総出の表彰式(?)一人一人に賞状や商品を渡していく様子が晴れがましくもあり、滑稽でもありました。
戦争をはさみながらも、昭和初期の少しゆったりとした時代を感じることのできる小説です。
『1リットルの涙』   木藤亜也/幻冬舎文庫/560円/★★★★★
脊髄小脳変性症という難病と闘った亜也さんが残した日記。14歳から21歳まで続く記録は、年齢からは想像できないような大人っぽい印象をうける。
徐々に奪われていく運動能力。身体のふらつきからはじまり、やがては言語障害が起こり、寝たきりとなる。受ける治療の甲斐もなく、リハビリの甲斐もなく思ったように動かなくなる身体を抱える不安はどれほどのことだったろう。とても心の優しい人だったようなので、母や家族にかける迷惑にどれほど心を痛めたことだろう。日記を読み進みそこに、彼女の希望、努力を見つければ見つけるほど涙はとまらなくなる。

養護学校へ移ってから、ある先生から筋ジストロフィー症の子どもの詩について、
「神様は自分に乗り越える力があるから障害を与えた」と書いていることを、「ここまでくるとヒットラーみたいだけどね」と言われる。
彼女は先生にこう言った。
ダケドネ、先生、わたしだって事実そう思ったことがあるのよ。自分を突然変異と考えたり、自分は多くの人びとの犠牲のうえに立って、今ここに存在しているなどと、とんでもないことを思ったりしたよ。そして、いろんな方法、いろんな考え方をして自分を慰めてきたんです

病は運動機能を狂わせたり、寿命を縮めるだけでなく、心の平穏を奪い、傷つけてもいく。苦しめていじめていく。まわりもすべて巻き込んで。
けれども、亜也さんの前向きな言葉を日記の中に見つけるとほんとうに救われる。運命にすべてを身をゆだねることなく最期まで生きつづけた彼女はすばらしい。本意ではなかったろうけれど、彼女を知るすべての人にこんなにも勇気を与え続けているのだから。そして、彼女が心を曲げることなく支え続けた家族たちの力も。
『いのちのハードル』   木藤潮香/幻冬舎文庫/560円/★★★★☆
「1リットルのハードル」の亜矢さんの母の手記。突然の発病で運動能力を奪われていく娘をしっかり支えた家族の姿がはっきりと見えてくる本です。涙でなかなか読み進めなかった「1リットル〜」とはまた違った、親からの視点は胸がそがれるような気持ちになります。
しかし、一日一日を大切に楽しく生き、看護を苦労と思われなかったというところがいい。亜矢さんが最後まであきらめず、生きる力を無くさなかったのは、この母親と家族の優しい愛情、気持ちの正しい持ち方があったからでしょうね。

「亜矢は好きな人ができて、
電話もない手紙も届かない、
遠いところへお嫁に行ったんだよね。」

亜矢さんが亡くなるとき、死ではなく、嫁に出すという気持ちにすりかえているところが切ない。生きているということをちゃんと考えさせられます。
『悪夢の観覧車』   木下半太/幻冬舎文庫/680円/★★★★☆
「悪夢の〜」シリーズ第3弾。
GWの行楽地の大観覧車が何者かによってジャックされ、観覧車のお客すべてが人質となる。そーきたか!という極限のシチュエーション、サスペンス&トリックとにかくおもしろい。でも、何よりも注目なのが、巻き込まれたわけありの人々そして、犯人の心理描写。笑ったり感心したり。絡まっていく関係性と結末までの(観覧車が舞台だけど)ジェットコースターみたいな読み応えに、夜中にちょっとだけ・・・と読み始めたら2時間で読み終わってました。エンターテイメントあふれる作品。犯行理由のせつなさ、結末はもっとハッピーなのがよかったのだけど。
前作の『悪夢のエレベーター』、『悪夢のドライブ』も今すぐ読んでみたい。
『新耳袋 第一夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★★☆
百物語。それは夜、怪談を1話づつ語り終えたら1本ろうそくを消していく作法で、一夜のうちで怪異を百語り終えると必ず怪異が起こるという。これはそんな昔の怪談でない。現代の怪異を木原氏、中山氏が取材によって集めたものである。それを1冊の本にまとめたものだ。以前「新・耳・袋」として扶桑社から出した時は、百話という体裁だったが、どうやら”一晩で読みつくすと必ず怪異がおこった”らしい。そういう訳で99話で話は終わっている。
血みどろでも、うらめしや〜でもない、なんか変な話不思議な話ばかり。だから、ちょっと読んでみてもすぐに怖いという印象はない。しかし、読んでる間中、ちょっとした音や気配が妙に気になる。何度も本から顔を上げて周りを確認してしまう。この世のものでないものがどこか隙間からのぞいているようなそんな感じに襲われる。
一応怖い思いをするのは嫌だったので、昼間に読みました。お話形式なのでもちろん2〜3時間で読了。でも夕方近かったので、2冊目には手を出せませんでした。ほら、2冊目の第1話を読んじゃうと”百話”になるでしょ?
『新耳袋 第二夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
もうこうなると一晩で一気に読みきることに怖さを感じなくなりました。慣れというのはすごいものですね。二夜目でいうのはおかしいのですが、順番をバラバラで読んでいるのでこういう話になるんですね。今通算6冊目です。といってもやはり、90話くらいになるとその後を読むのをためらっちゃいます。だって、『新耳袋』を読んでいるときに限って”ビシッ””バキッ”と家鳴りがはじまりますから。
さて、二夜で印象的なのは、最後のくくり、関西のTV局で放送した百物語の番組の怪談。電波に乗ってちゃう得体の知れないもの。こわいですね〜。しかし、お盆近くのある日、露店で売る盆のおかしにむらがる霊たちというのがゾクゾクしました。
『新耳袋 第三夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
新耳袋を読むと怪異に遭遇する。というか、実際になんらかの怪異に遭遇した話が三夜目にして登場です。そんなこと、今まではへぇ〜そうなの?くらいに思っていたのですが・・・とうとう遭っちゃいましたよ私も!!深夜、ひとりでベッドにはいって「新耳袋」を読んでると、足元から「×××」とだれかのつぶやきが聞こえました。空耳でしょうか?別室にいたダンナの声でしょうか?そのあたりなんとも言いようがないのですが。しかしその時私は「きたー」と思いました。一夜で読みきろうと思っていたこの本を即閉じて、布団かぶって寝ました。
『新耳袋 第四夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
前作同様、99話で完結する怪談たち。
1作目ではじいていたような話が盛り込まれている。一つはUFOの話。これは著者が体験し、ずっと封印していた奇妙な体験を公開するに当たっての前ふりとして紹介されている。正直・・・こわすぎる。自分が見たはずの事実を塗りこめていくように起こる後の話。何か別の生命体の意思を感じる。その上生命の危機まで感じちゃうのだ。これなら誰にもしゃべれないのはわかる。もう一つは絶対にテープに録音できない話。これも怖い。質問する著者の声は入っているのに、情報提供者の声はハイッテナイナンテ・・・。どんどんパワーアップしてます。ゾッとしますよ。
『新耳袋 第五夜』  木原浩勝/中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
ちょうど中間5巻目ということで、原点回帰がテーマ。原因も因縁も追わない、ただの不思議な現象を集めた怪談をいつもより意識して集めていました。
私が怖いと思ったのは著者のお二人が読者との交流会として行った怪談のイベントにまつわる怪談。涙がこぼれたのは絆を感じる十四の話の「グラジオラス」と「梅の花」。とくに「グラジオラス」を読むと涙がとまりませんでした。それはどんなものかというと、長年飼っていた飼い犬が死に、その犬小屋のあった辺りに誰も植えた覚えのないオレンジ色のグラジオラスが毎年咲く・・・をそういう話です。らんまるのことが頭をよぎりました。うちにはまだグラジオラスの花は咲かせてくれてませんが。そういう怪異なら起きてくれていいと思いました。
『新耳袋 第六夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
第六夜で印象深く、恐ろしいのは「居にまつわる話」でした。くわしくは読んでいただいたらわかりますが、京都の、あるマンションの怪異が紹介されています。正直、かなりきます。ここでそのことをかいているのもちょっとコワイ。さっきから背後が気になってしかたがありませ〜ん(汗)
しかし、コワイだけではありません。あなたは”何かに守られている”と思ったことありませんか?九死に一生を得るような不思議な奇跡体験。何かの力によって生かされている・・・もっと敬虔に、感謝しつつ生きることの大切さを感じました。
『新耳袋 第七夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★★☆
巻が進むごとに怖さ倍増です。得体の知れないもの、こんなことがあるのか!と、1話読むごとについつい本を閉じて気分転換してしまいました。だって、あまり根をつめると怖いじゃないですか(笑)第七夜の目玉は、エツコさんとノブヒロさんの話。時空を越えた想いを感じました。愛する想いが、いつしか怨念のごとく変質していくのかというところが恐ろしい。
そして、第57話の残煙がかなりきますよ。
いわゆる”神隠し話”なのですが、これを読むと中学時代に学校のA先生が体験したという話を思い出しました。大学時代、”出る”といわれる場所へ友人とでかけたA先生。そのトンネルへ友人一人を先に行かせると、いつまでも帰ってこない。心配になって自分たちも行ってみると、途中でジープに乗ったアメリカ人?(記憶がさだかでないのでこのあたりはあやふや)とすれ違った。結局はじめに入った友達はそのまま行方不明になったそうです。本当の話なのか、創作なのかはわかりません。しかし、”ある日忽然といなくなる恐怖”はゾッとさせられますね。
『新耳袋 第八夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円/★★★☆☆
そろそろお取り寄せしようかな〜と図書館で所定の棚に近づくと、こういうときは必ず読んでない巻が置いてあるんです。もちろんこの『新耳袋』シリーズのことですよ。不思議です。
この巻はぞわぞわするような怖さは少ない。今回もやっぱり怪異はこないみたいですが、ある話を読み終わったと同時に部屋がガタガタ揺れだして、そのときはさすがにキターーーーーと思いました。まぁきたのは地震というのがホントのところですがね。
『新耳袋 第十夜』   木原浩勝・中山市朗/メディアファクトリー/1260円
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『新耳袋 第九夜』   木原浩勝・中山市朗/角川文庫/620円/★★★★☆
ようやく、このシリーズ完読です。背筋が凍るような怖さは少なかったけれど、程よい怖さを楽しめました。やっぱり怪談は夏の必需品ですなぁ。
犬に関する話が印象的。腐りかけのシェパードの霊を連れ帰ったはいいが、彼をなだめられず、結局はおいしいところを観音様に持ってかれるとことか、昔飼っていた犬が狛犬と一緒に出没し、あまりのうるささに注意したら、神さまらしき人物がすごーく嫌そうな顔をして去って行ったなんてね・・・。変な話。
この仕事をしていると”不思議な縁”に
『九十九怪談第一夜』   木原浩勝/角川書店/1260円/★★★★☆
「新耳袋」シリーズの木原氏の新しい怪談集。前作のスタイルをまるまるひきつぐ形でした。おやおや・・・?
でも、いいんです。「新耳袋」好きでしたから。また読めて光栄です。
全体的に身も凍るというよりも、あれ?と感じるちょっとした怖さを追及しているようです。粗雑でない怪談を楽しめると思います。
『京都のこころAtoZ』   木村衣有子/ポプラ社/1575円/★★★☆☆
京都の見どころお土産をAからZで紹介。重ね重ね思うのだが、この手の本は多い。そして、私もたくさん読みました。著者ごとに違う京都が見えてくるのでお気に入りのをみつけるといいと思う。
『赤線跡を歩く』   木村聡/自由国民社/1785円/★★★☆☆
仲良くしてもらっているフウさんのサイト「虎が雨。」にて取れ上げられていた本。花街とそこにいた女性たちへ目をむけ、何かを汲み取ろうとしている姿をみていると、なぜか私も引き込まれるところがありました。影響されやすいんですね・・・とか言われそうですが、いくつか紹介されている本のなかで、今の私がすぐに理解しやすいであろうこの本をまず手にとって見ることにしました。
まず赤線とはなんぞや?という人のために簡単に説明すると、戦後、妓楼や遊郭などがある盛り場地域を所轄の警察署が地図に赤線を引いたことからそうよばれるようになったそう。その後1958年、売春防止法により、赤線の火が消えることとなりました。
戦後すぐに一時流行し、建てられた、入り口にホールを持つ独特の建物。それらが風化し、消え去ろうとしている・・・戦後都市空間を彩ったそれらの建築物と町並みを記録しておきたい」という著者の気持ちがストレートに現れている本。写真と解説で紹介される古びた建物の写真にゆっくり耳を傾けてみると、そこに息づくなにものかの静かな声が聞こえてきそう。印象に残ったのは色鮮やかなタイル!それに曲線です。そこであった事実は置いておいて、とても美しい建物たちに驚かされました。
主に関東周辺の赤線地帯を扱った本でありますが、一部関西地区の紹介もあり、京都伏見の中書島の紹介がありましす。その簡略地図の中に「長建寺」というお寺の表示を見つけハッとしました。そこは、かつて京都旅行に行った際、なにかに引かれるように立ち寄ったお寺。私の中ですごく印象的な場所だったからです。真っ赤な壁と、門が生々しくて、「ここはかつて中書島の遊郭で・・・遊女たちに信仰を集め・・・」と書いた建て看板がひっそりとかけられていました。
話はそれてしまいましたが、なにかの縁というのかもしれませんね。
『続赤線跡を歩く』   木村聡/自由国民社/1785円/★★★☆☆
前作に続き、地方の赤線跡を紹介。こちらは、中四国、九州が中心。タイルの彩りの美しさにハッとさせられる。
しかし、そこで行われたことを思うとその気持ちも複雑にしぼんでいく。
『消えた赤線放浪記』   木村聡/ミリオン出版/1785円/★★★☆☆
前作、『赤線跡を歩く』、『続赤線跡を歩く』は、過去をさぐる旅でしたが、こちらはどちらかというと、現代の性風俗事情を紹介するもの。売防法後、女性たちが虐げられるということは少なくなっただろうけれど、身を売る仕事をする女がそして、それを買う男が存在するというのはまったく変わっていないということがよくわかる。取材のために、ソープランド、ピンサロ、ヘルスなどで著者がお試しする部分はいただけなかった。
それにしても、性風俗の種類のなんと多く多岐にわたっていることだろう。こういう現代の風俗をていねいにまとめられているということは今後のためには有益だとは思う。
『OUT』   桐野夏生/講談社/2000円/★★★★☆
弁当工場の夜勤パート主婦、雅子は同僚の殺人事件に加担することに。主婦たちが犯罪のへとすすんでいく様子が恐怖させる。
人間、どうとでも生きていけるもんだ。特に女性の適応能力高し。この作品にはどつぼにはまっていく恐怖と快感がある。
『玉蘭』   桐野夏生/朝日新聞社/1800円/★★★☆☆
東京を捨て上海へと留学した有子。その思いが70年前の大叔父の幽霊を呼び寄せる。過去と現在が交錯するドラマ。
わかったような、わからんような。少々無理を感じました。でも時を越えた思いがドラマチックな話。
『柔らかな頬』   桐野夏生/講談社/1800円/★★★★☆
幼児の行方と、子供を失った親の苦悩が痛々しい。犯罪の理不尽さが腹立たしい。作者も執筆中に母親の死、友人の娘の自殺と悲劇に見舞われている。子供の不在というテーマが深く書かれていて、非常に考えさせられます。この作品には必ずしも重要でないけれども、犯人が分かりにくいという点はすっきりしません。第121回直木賞受賞。
『ファイアーボール・ブルース』   桐野夏生/文春文庫/476円/★★★☆☆
女子プロレスの世界って厳しいですね。弱小団体というのもあるかもしれませんが、そもそも女子プロレスの団体は弱小なのかな?詳しくないのでなんともいえませんが。プロレスといったら、昔読んだマンガ『一二の三四郎』のイメージが強くて・・・。孤独で誇り高い火渡抄子がかっこいいです。しかし、実力の世界。残れるのは才能のある人間のみという厳しさが身にしみます。
『ファイアーボール・ブルース2』   桐野夏生/文春文庫/448円/★★★☆☆
『ファイアーボール・ブルース』の続編。
タイトルのファイアーボールというのは薔薇の品種だそうです。また、小説に出てくる火渡抄子は神取忍選手からイメージしたそう。そういわれてみれば納得。
『ローズガーデン』   桐野夏生/講談社文庫/540円/★★★☆☆
『顔にふりかかる雨』、『天使に見捨てられた夜』、『水の眠り灰の夢』と女探偵(この言い方は古いね)村野ミロシリーズ3作目。前作を読んだのがずいぶん前で感想も書評も残してなくて、はて?どんな話だったかしらと心もとない状態で読み始め、でも読めば思い出すもの。あのミロが私の中でよみがえってきました。
前評判で、義理の父親との淫らな関係はミロのイメージがくずれてしまう!と言われてましたが、私としてはかえって腑に落ちる内容でした。女とはいろんな顔をもってるからね(笑)実家の誰も手を入れなくなった庭を覆いつくす薔薇。誰の手も借りず伸びて咲いて枯れて。人を魅了し、近寄れば傷つける。惑わすためでなく生きるために。そこにミロを見出そうとするのはキザすぎかしら(^ ^;)
義父は母の面影の幻影を求め、夫は官能の才能を持つ少女を探し求める。男は幻を追いかけ、理想を投影することに専念し、女は正体を暴こうとしてるだけかもしれない。だから、高校時代のミロを「自分の快楽を喚起することに手を抜かない」と博夫がいうのはちょっと違うと思う。単なる「エッチな女」でもない。いつまでも幻とおっかけっこしてる男には分からないだろうけど。
『グロテスク』   桐野夏生
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『魂萌え!』   桐野夏生
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『アンボス・ムンドス』   桐野夏生/文芸春秋/1365円/★★★☆☆
アンボス・ムンドスとは新旧二つの世界の意。二重の意味、対になるもの。世の中は一方向から成り立っているわけでない・・・そういう世界の短編集。
桐野夏生らしい、暗部の陰湿でどろどろな世界。短い物語の中にギュッとつまってて、それが閉じこもってなくてにじみ出ている。日常の裂け目につぎつぎと落ちていった人たちの話だ。ちょっと怖い。
そんな中でもちょっと面白いと思ったのは「愛ランド」。ダジャレの入ったタイトルで、会社でも煙たがられているような中年の独身女鶴子と、同期の佳枝、後輩の菜穂子の三人の旅先で語られる赤裸々な性体験の話。人は見た目で判断できない。うっかり正体を見たような驚きと、思わず前のめりになっちゃいそうな話。
『I'm sorry,mama.』   桐野夏生/集英社/1470円/★★★★☆
悪い女を書かせたら夏生以外にないね。星の子学園にまつわる人たち、アイ子に関わる人たちの、ちょっと都市伝説みたいな感じがするディープな話。アイ子の野生にゾクゾクするよ。
不気味で狡猾で恐ろしい女。だけど、どこか純なところも?まるで野生児なんです。ある年齢までに社会性を身につけないとこんな人間が出来上がり!なんですね。境遇は悲惨で哀れだけれど、関わりたくない。けれど、実は似たような人は現代にいっぱいいるかもしれない。と思うとまた怖い。
アイ子の強烈さには劣るけれど、ちょこちょこ出てくる小者(笑)のワルも見逃せません。ホント桐野夏生ってスゴイ。
『恋は夜つくられるー世界史のLOVE&SEX』   桐生操/角川書店/★★★☆☆
古今東西、男女がいればおのずとついてくるもの。エロチックなことですね。歴史からは見えない、身近なエロスの世界を紹介してくれています。
桐生操は「本当は恐ろしいグリム童話」で当時異才を放ったという印象があり、この後、類似の本がたくさんでました。多くの史料から紹介されること、いままであまり扱われていなかったエロス的なことに日の目を当てたことなど、目の付け所が独特でいいなと思ってました。
ところで、この名前、上田加代子、堤幸子の共著のペンネームなんですね。初めて知りました。そして、堤幸子さんが2003年に亡くなられていたことも。お一人になられてだされた「世界情死大全」もおもしろそう。「世界性愛大全」「世界悪女大全」も含めて読んでみたい本です。
『切断ーブラック・ダリア殺人事件の真実』   ジョン・ギルモア/翔泳社/3500円/★★★☆☆
世界で一番有名な死体ブラック・ダリア。映画化もされるということで、この事件はどんなものだか興味がありました。
実はこの本の口絵に当時の現場写真が載っていて、そうとも知らずに見ることになったエリザベス・ショートの切断死体はすごかった・・・。キレイに血は洗い流されていて、まるでマネキンが放置されていると思ったという目撃者談も信じられます。彼女が悲劇的な死をむかえるまでの彼女の足取りを時間を追ってつづっているだけで退屈ではありますが、男性の間を行き来する(しかし、肉体的な関係はいっさいなく)ベスの地に足が着いてない不安定さが印象的でした。
結局いまだ犯人はつかまらず、事件は未解決。しかし、どうしても彼女の事件には人をひきつけるものがあります。解けない謎が解かれることがいつかあるのでしょうか。
『心臓を貫かれて』   マイケル・ギルモア/文芸春秋/2900円/★★★☆☆
モルモン教の若い男性2人を射殺した、ゲイリー・ギルモアの実弟、マイケル・ギルモアによって書かれた、兄ゲイリーと家族の歴史。そこには逃げる事の出来ない不幸の連鎖、血の呪いが本当にあるのでは?と信じてしまうほどの衝撃の事実が並んでいた。600ページ近い分厚さと、「ここまでひどいことが起こるのか?」と、読み進むたびに読者を暗くしていく。心を重くしていく。そこには、家庭内の暴力が子供に影響を及ぼすという事実が歴然と示しているからだ。訳者である村上春樹も、あとがきに
「ある種の精神の傷は、一定のポイントを越えてしまえば、人間にとって治癒不可能なものになる。それはもはや傷として完結するしかないのだ」
という。私もその意味がこの本を読むことで理解できたと思う。
殺人犯の家族の1人として、家族内のプライベートな話を全てぶちまけてしまおうと決心したマイケルと長兄フランクに対して敬意を表したい。自分自身のためといってもその勇気ははかりしれないものがあると思うから。
そして、加害者を人間の手では裁ききれないのではと痛烈に感じる。もちろん、罪のもないのに突然人生を断ち切られた被害者とその家族の悲しみにはかける言葉もない。だからといって、加害者がぞんざいに扱われたり、ましてやその家族がひどい目にあわなければならない理由はないと思うから。

途中40枚近い写真が挿入されている。
全てを読み終わったあと、じっくりとギルモア一家の写真を眺めてみた。ゲイリーの写真も。彼らにとりついた霊が見えるのではないかと思いながら。
『子どもとの暮らしと会話』   銀色夏生/角川文庫/620円/★★★☆☆
わたしには詩人という印象が強いんですが、「つれずれ」シリーズで結構エッセイを書かれているんですね。いまや2人の子持ちで2度の離婚越え。すごい。中学生のお嬢さんと小学生の息子さんとの生活がつづられています。
前置きをまったく知らないので驚いたのですが、読んでると上の子が嫌いなのか?と思ってしまうほど距離を感じ、下の子との蜜月の印象が強いです。そして、うまくいってないときのくさくさした気分がもろ文字に表れてて、ちょっときつかった。とにかく、それぐらい、親子といっても性格が違って人格が別なんですね。子育てって本当に大変。自分が産んだといっても子どもは別物。小さいころは預かってて大きくなったら社会に放すってことなのかもしれません。離れてみてこそのいい関係とか。まあいろいろ勉強になりました。
『痩せゆく男』   スティーヴン・キング/文春文庫/580円/★★★☆☆
リチャード・バックマン。これがこの本を書いた人物の名前だ。しかし、ここで著者に書いてあるように、実はスティーヴン・キングが作者である。年1作という出版社側の要請に我慢できず、バックマン名義で5冊書いたところで、本書がベスト・セラーとなり、追及をかわしきれず認めることとなったそうだ。
ということで、「痩せゆく」とは年中ダイエットについて頭を悩ませなければならない私には非常に魅力的な言葉だが、決してダイエット本ではない。ジプシーの呪いによってどんどん目方が減っていく男の話だ。痩せてまさにガリガリとなっていく、主人公ビリーも怖いことは怖いが、呪いで顔中にきびが噴出した男の描写が恐ろしい。じっとりと濡れ、プシューと音を立ててつぶれる吹き出物のシーンは生理的に受け入れがたい気持ち悪さ満点だ。
それにしても、ビリーは現状を素直に受け入れない。呪いを解こうとする姿は、「やれるだけはやってみよう」という前向きな態度で気持ちいい。だが、柔軟さのない頑ななさにぐったりもさせられる。さて、彼の未来はどうなるのか?興味のある方はぜひ味わってみてほしい。
『ランゴリアーズ』   スティーヴン・キング/文芸春秋/2854円/★★★☆☆
機内から乗客が消えた。貴重品の入ったバッグ、指輪、それに入れ歯や手術で体内に埋め込まれたビスを残して。表題の「ランゴリアーズ」と映画「シークレット・ウィンドウ」の原作となった「秘密の窓 秘密の庭」2つを収録。
キングの映画はいくつか見ているが、彼の小説を読むのはこれで2冊目。だんぜん小説の方が面白いですね。
突然飛行機から消えてしまう乗客、光の1つも見えない地上。そして人気のない空港。なぜ?なんで?ここはどこ?と理解しがたい恐怖が、いつの間にか乗客の一人の妄想と合致した時の怖さといったら!そして、「秘密の窓〜」の狂気にとりつかれていく男の微妙な描写と映画とは違うラスト。映画版もJ・デップのすばらしい演技で面白かったが、こちらの方が好みかな?

以下はネタバレ
人気作家であるモートの人格分裂が、妻の浮気ではなく過去の盗作騒動に由来しているあたりにハッとさせられた。弱さを認められない性格、追い詰めて追い詰めていくのは結局自分自身というのは悲しい。
映画のラストは元妻とその男を殺し、人格をシューターに乗っ取られる(=モートの死)恐怖。こちらではモートが殺され、でもシューターは死んでない?という怖さ。そして、モートと一緒にいたシューターを第三者が見てる?という事実。人形に魂が宿ったようで悪寒が走った。腑に落ちない納得できないホラー・・・。苦手だけれど面白いんだよね。
『新耳袋 殴り込み』   ギンティ小林/洋泉社/1365円/★★★☆☆
「新耳袋」のタイトルに惹かれて・・・。こちらは、元祖「新耳袋」で紹介されている大ネタ、山の牧場、京都の幽霊ホテル、関西の胆だめしスポットのホテル、人が消える神社を実際に見に行ってしまうという企画物。正直、期待してました。
新耳袋の作者二人から話を伺って、場所も特定して行ってみる。そこまではよかったんですが、毎回の結び方が悪ふざけがすぎるようで、最後にはがっかりしてしまいました。
ちゃんとその場所にいけてるし、それなりの恐怖体験もあるので残念です。
でも、怖いことは怖いです。関西にあるというホテルお話なんか特に。その点では評価できますね。

【く】

『随筆 本が崩れる』   草森紳一/文芸春秋新書/924円/★★☆☆☆
読書家の最大の悩み、蔵書の保管。それが職業に必要となれば現実はもっと悲惨だろう・・・と思う。
著者の自宅も本の山・山、本の海・海。あちこちでなだれと倒壊がおこり、住人は隅に追いやられ肩身の狭い思い。それも、今や上手に積むことができる、くずさず生活ができると豪語する。
涙ぐましい努力だが、ちょっとまて。たった一つ、「本をかたづける」ことをすれば解消される問題だよね?
著者は、いいわけしつつその核心をうまく回避しつづける。それがだらだらと続くのだが、甘えというかテレというか、現実逃避は、いつしか達観とまで達している。こいつバカだねと、あきれもするしかわいげもある。
『おぬしの体からワインが出て来るが良かろう』   宮藤官九郎/学研/1365円/★★★☆☆
クドカンです。クドカンこと宮藤官九郎さんが「TV LIFE」にて連載していたコラムが本になりました。これで2冊目。
「木更津キャッツアイ」、「池袋ウエストゲートパーク」、「ゼブラーマン」、最近では「真夜中のやじさんきたさん」やドラマ「タイガー&ドラゴン」が有名な、脚本家で構成作家で監督、そしてパンクコントバンド「グループ魂」のギターも担当中である。すごくパワフルでアクティブでおもしろい。私のツボを押しまくる彼・・・。
彼の放出する言葉は読むものをフニャーとやわらかくします。きっと書いてる宮藤さんが力抜けてるんでしょうね。それにしても、どの話のなかにも忙しそうな毎日がうかがえます。クドカン好きはもちろん、クドカンって何よ!という方にもどうぞお一つとオススメしたいですね。近いうちに1冊目を読んでみたいと思います。
『邂逅の森』   熊谷達也/文芸春秋/2100円/★★★☆☆
マタギとして山に入り、クマとアオシシを獲って生活していた富治。村の名士の娘を孕ませたため村を追われ、彼の翻弄される人生が始まる。
はじめはマタギの技術の話しがしばらく続いてこれははずれかな?と思ったが、文枝と出会い、逢引が始まったあたりからぐいぐいひきこまれた。彼の人生はなんと博打じみていることだろう。そして、クマとの命と命のやりとりの手に汗握る感覚といったら。そこまで波乱万丈でいいの?と最後の最後まで気を抜かさない面白さがあった。ご当地言葉でより味わい深く、夫婦、村、マタギ仲間とそれぞれの関係を取りこぼしなく、そして薄くなく書いている。
第17回山本周五郎賞。第131回直木賞受賞。
『田舎の事件』   倉阪鬼一郎/幻冬舎/1575円/★★★☆☆
田舎。それは自然があふれ素直で心温かな人たちが住む場所・・・だけではない。好奇の目と見栄、連帯意識に悪口とウワサ、下手したら村八分が待つという恐ろしい面も隠し持っているところなのだ。それは、たくさんの人たちが絶えず入れ替わり立ち代りする都会とは違い、下手したら、村人全員が親戚という濃厚な血の集団が持つ宿命なのだ。家だけの話がひとつの村単位であるのだから。
「田舎の事件」に登場する村々は、こういっては申し訳ないけれども、人語を絶するど田舎。今の常識を知らない純朴な人たちが多数生息しているところ。1人の変人と彼らの的外れなやり取りはは我々の笑いを誘います。さて、そんな田舎でどんな事件が起こったのでしょうか?そこら辺は皆様でご確認ください。
『学校の事件』   倉阪鬼一郎/幻冬舎/1575円/★★★☆☆
上の「田舎の事件」同様、学校に関する短編を集めた1冊。と思ってましたら、すべて青山県の吹上市という小さな町の学校で起こった事件。そうこの小さな盆地の怨念?と思われるほど猟奇的な事件が起こるお話。すべての話は連鎖しています。私は確信しました。倉坂鬼一郎は面白い・・・と。
『活字狂想曲』   倉阪鬼一郎/時事通信社/1680円/★★★☆☆
怪奇作家倉阪鬼一郎が10年間おくった校正者としてのサラリーマン生活。慢文という形で発散発布される日常は辛らつで手厳しく、笑える。あくまでも暗く・・・。途中で投げ出しちゃうかと思ったこの本も、最後まで読んでみれば、残ったのは面白かったかなという感想でした。何事も最後まで行ってみるもの。
まず驚いたのが、印刷にかかわる人たちの過酷な現実。営業は1年間に1人は死者がでるということ。時間と正確さを求められる現場、不況で仕事をとるのが難しい営業、無理難題を言ってくる上司や得意先。ときどきブツリという不気味な音を立てて切れる筆者の暴れっぷりは怖い。耐えに耐えていた氏がささいなケンカですべてを投げ出してしまう。一度は言ってみたい「こんな会社やめてやる!」の言葉。ストレスにあえぐサラリーマンにとっては爽快なのでは?まぁその後の生活の保障はないですけれど。
『どこかにいってしまったものたち』クラフト・エヴィング商会/筑摩書房/2400円/★★★☆☆
クラフト・エヴィング商会が明治・大正・昭和と続いてきた歴史の中で扱ってきた商品は「不思議なもの」。そして、その商品たちも長い年月の間にどこかへ行ってしまった。そうした「どこかへいってしまったものたち」を紹介している。
「硝子蝙蝠」、「アストロ燈」、「全記憶再生装置」・・・。なんだそれは?とは言ってはいけない。商品紹介の前に「よくお読み下さい」とある。ちょっとその文章を抜き出してみると、
『本書に登場する「どこかにいってしまったものたち」は、現在この世に「ない」ものたちであり、残念ながらその実在が確認されておりません。故に、本書を最良のかたちでお楽しみ頂くためには、その「真偽」を問わないことをおすすめ致します。ただし「現実離れ」等の副作用にはくれぐれも御注意下さい。』
だそうだ。ということで、夢膨らむ商品の断片をじっくり素直に楽しんでもらいたい。
『すぐそこの遠い場所』   クラフト・エヴィング商会/晶文社/1800円/★★★☆☆
アゾット辞典。クラフト・エヴィング商会の三代目が祖父 吉田傅次郎の残したこの辞典を翻訳することにした。21エリアにわかれた不思議世界のことをおさめた辞典。「動き続けるこの世界」の永遠に未完の辞典。あなたはどんな世界を創造しますか?
『らくだこぶ書房/21世紀古書目録』クラフト・エヴィング商会/筑摩書房/2000円/★★★★☆
クラフト・エヴィング商会に届いた1つの小包。<SAND MAIL>とスタンプされたそれには、未来からの古書目録が入っていました。
SAND MAILを介しての未来との交信?ですか、とにかく未来の本を手に入れて紹介している本。将来読んでみたい!と思う本、ありました。まさに、彼ららしいです。時間差であらわれるインクで印刷された本、7:3分けについて書いた本、渋谷でゲリラ的に販売していた漫画、黒板に書かれた文字を集めた物、何回も繰り返される話。「本」を芸術的な価値まで持ち上げる意欲的な仕事ではないでしょうか。夢のカタログ、いや、本の未来のカタログです。最後にはあっとおどろく仕掛けが。1冊づつ面白さがましていますよ。クラフト・エヴィング商会の本は。
『じつは、わたくしこういうものです』クラフト・エヴィング商会/平凡社/1900円/★★★☆☆
18人の「自分はこういうものです」というインタヴュー記事。もちろんぜーんぶフィクションなんですね。クラフト・エヴィング商会ですから。雑誌『太陽』に連載当時は本当のこと信じた人たちの問い合わせも多かったようです。でてくる職業がすべて「それはないでしょう」というような匂いをぷんぷんさせてますが、まじめに紹介されたら、うっかりその手にのっちゃいます。でも、実在したらいいなというものもあって、特に好きなのは「シチュー当番」の羽深月子さん。冬眠図書館(冬だけ開館する図書館で夜8時から朝の8時まで夜通し開いている)で出す、コーヒーとパン、そしてシチューを当番制で作るそうです。冬におもいっきり本を読むために春と夏一生懸命働いて、読みたい本をためこんで、この図書館へ行く。なんだかすてきじゃないですか。もちろん冬眠図書館は存在しません。でもゆったりとソファーに腰掛けて、ブランケットをひざに置き、本を読みながらうとうとする・・・想像するだけでも楽しくてしかたがありません。
『クラウド・コレクター 雲をつかむような話』クラフト・エヴィング商会/筑摩書房/2500円/★★★★☆
クラフト・エヴィング商会の2代目吉田傳次郎が残した日記と「雲、売ります」のチラシ。そして、倉庫から出てきた祖父のかばん。そこには見たことのないお酒のビンがつまっていた。つづられた日記と、3代目、とゴンベン先生との解説を織り交ぜながら、不思議な国アゾットへの旅が始まります。
『すごそこの遠い場所』で記されているアゾットが一つの物語となって登場です。空想の産物ですが、エリアごとに登場するお酒と物語に繰るページも進みがちです。
『ないもの、あります』   クラフト・エヴィング商会/筑摩書房/1400円/★★★☆☆
よく耳にするけれど一度として見たことのないもの。
例えば、堪忍袋の緒、転ばぬ先の杖、左うちわ、針千本。そういうありそでなかったものがあるんです。人気商品各種取り揃えられています。ただ、ことわざ通りの効果があるかは・・・?
私は助け舟とか自分を上げる棚とかほしいですね。
『猫』   クラフト・エヴィング商会/中央公論新社/1680円/★★★☆☆
文豪達が書いた猫の話。(”犬”版はこちら。)
猫好きたちの愛を感じます。犬好きよりは、その姿かたちに対する評価がどうしても多いよう。時にはふらっと居なくなる猫の行動への寂しさもあるようです。井伏鱒二、谷崎潤一郎、柳田国男の猫話も収録。
『狼の帝国』   ジャン・クリストフ・グランジェ/創元推理文庫/1050円/★★★★☆
バラバラだった事件が調べていくと繋がっている・・・というのはまぁ良くある展開なんですが、これはずいぶんと面白いんです。女性三人の惨殺死体、記憶に奇妙な障害がある女性、トルコの秘密組織。著者の博識ぶりがうかがえます。上っ面だけじゃない。けれど、スピード感があって映画を見ているような作品。実際映画化されてます。ジャン・レノでてます。映画でもぜひ見てみたい!
『葬儀を終えて』   アガサ・クリスティー/ハヤカワ文庫/★★★☆☆
大富豪リチャード・アバネシーの葬儀を終えたとき、リチャードの妹コーラが無邪気な顔で口走った。「あら、彼は殺されたんじゃなかったの?」その翌日コーラは惨殺したいとして発見される。容疑者が特定されないまま、一族に疑心暗鬼の審理葛藤が生まれる。彼らの遺言執行人エントウイッスル氏は名探偵ポアロに解決を求めるが・・・。
ポアロの独特な姿格好とフランス人といわれると「私はベルギー人ですが」とのいつもの問答を思い出す。読み始めたのが身近に葬式を終えたばかりの時で、なんだか他人事にも思われない臨場感。もちろん、家には大騒ぎするような遺産はないですけどね。ひさしぶりのアガサ・クリスティーはやっぱり期待を裏切りませんでした。
『杉の柩』   アガサ・クリスティー/ハヤカワ文庫/714円/★★★☆☆
叔母の死により多額のお金を相続したエリノア。しかし、彼女はずっと愛していたロディーを失い、ロディーが恋した娘メアリィ・ゲラードを殺害した嫌疑がかけられる。
小説の中ではみんなにいい娘と呼ばれる人は非常に影が薄くなる。それよりは、理知的で冷静だけれど実は内に秘めた激しい情熱の持ち主エリノアや、繊細さと神経質さをもつロディーは女性には魅力的(男性には嫌われるけれど)。しかし、抜群なのは主役の私立探偵ポアロ。ものすごい自信家で個性的(外見も内面も)だから。
「嘘でも本当でもしゃべらせておけば、真実がわかる」というのがいい。
『オテル モル』   栗田有起/集英社/1575円/★★★★★
細い路地をぬけて地中建てられたホテル、「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」もう、それだけで胸をくすぐる。ワクワクしてきます。そこは眠りを求める人が集う会員制ホテル。
希里は双子の妹沙衣に恋人を寝取られます。そして、今は療養中の沙衣と両親とは別に、沙衣の子供美亜と美亜の父西村さんと沙衣の回復を待ちながら暮らす毎日。すべてを諦めて悟ったような希里を作り出したのは、こんな悲惨な現実なんだ!と打ちのめされます。そして、押し込めてた気持ちが時に爆発するところでは涙がこぼれました。
体の弱い妹へ向かう両親の愛情、取られてしまった恋人、彼女のために捨ててしまってる自分の人生。それをただ受け入れて、献身して、ちゃんと自分と向き合えない意固地な希里が「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」で、外山さん、そして、お客様によって和やかになっていくようでうれしい。誰かを思う気持ちが本物になってきたみたいで。
けれど、結局本当のところはすべてあかされていません。秘密はそのまま闇の中へ。それがいい。温かな優しさと穏やかな眠りさえあれば。
『ハミザベス』   栗田有起/集英社/1470円/★★★★☆
ある日、母と二人暮しのまちるのもとに”父”の遺産が転がり込む。それを契機に母のもとを離れ、父の残したマンションで生活を始めたまちるの自立物語。
これが栗田有起のデビュー作。彼女の作品のテーマは一貫して親離れなのかなと思う。その原点がココにあるのだなと。両親の、それよりは母(もしくは保護者から)の庇護を離れること、逃げること、手放すことを主人公たちはそれぞれにやってのけている。
それが、いっけんほのぼのした日常のなかで、優しさにうまくまぎれていて、スパイスがきいているのだ。そこが好きなところ。甘すぎないメルヘン。
『お縫い子テルミー』   栗田有起/集英社/1470円/★★★★
人のために縫うこと。それが身につけたすべて。南の方の島で、祖母・母と三人で居候暮らしをしていたテルミーは、ある日母の束縛を逃れ東京、歌舞伎町へまぎれこむ。そして、シナイくんに恋をするのだ。
でも、彼とは絶対結ばれない。せつない恋。不毛な恋。優しいけれどけして振り向いてくれない、彼の名前が”シナイ”というのは意味深じゃ!お互いの気持ちを知りながら交わす会話が気が利いてて絶品。好きなシナイくんの誘い文句(お礼の意)に屈せずつっぱねるテルミーはかっこいいな。
同時収録の「ABARE・DAICO」の小学生コマの夏休みはスゴイ。ひと夏の体験もいろいろ。こんな冒険もあるんだね。
『マルコの夢』   栗田有起/集英社/1365円/★★★☆☆
これまで読んだ栗田有起っぽくない。進化系?不思議度はUP。
姉の住むパリへ就職難の一馬は行く。そして”ル・コント・ブルー”のキノコ係に任命される。そして、日本へ”マルコ”というキノコを探しにいきます。ここまでは、まあ普通。その後の展開が不思議世界へ。キ、キノコのお化けが・・・。”王子様”の姿で夢に出てくるところなんか好きです。笑える。純粋な日本産なのに日本語のおぼつかない外国人みたいで。
『しぶちん京都』   グレゴリ青山/メディアファクトリー/1050円/★★★★☆
独特な雰囲気のマンガで描かれる”京都”。京都生まれのグレゴリ青山さんの体験記です。
まず”しぶちん”とは”ケチ”のこと。物の始末を大切にする土地柄、根深く先行するしぶちんな話は大笑いです。
なかでも、学生時代に体験した、錦市場のお味噌屋さんでのバイトは笑撃的。味噌詰めのはずが、経営者のお台所の手伝い、いわゆるお手伝いさんみたいになったときの話。大奥様のおどろおどろしい”しぶちん”ぶりときたら・・・。京都生まれ京都と育ちのグさんですら縮みあがるんですね。
『ブンブン堂のグレちゃん』   グレゴリ青山/イースト・プレス/1380円/★★★★★
古本屋でのバイト時代の体験記。ブンブン堂の店長さんがいい味出してます。古書店街の人々もずいぶん変わってますわぁ。グさんのマンガはホントに面白くてすっかりファン。本好き、古本好きにはたまらない1冊です。
『グ印観光』    グレゴリ青山/メディアファクトリー/1155円/★★★☆☆
グレゴリさんが「モーニング」にて連載していた作品をまとめた本。
やっぱり、彼女の珍体験はすばらしい(話の広げ方も)と思います。インド映画から、旅先であった変人友人、山で暮らす知人、思わず”プッ”と噴出しちゃう。なんといっても上海で出会った”マイタケくん”ったらすごい。いろんな災難を呼び込み、巻き込まれ、まったく懲りない。災難に巻き込まれたくないが、話は聞きたいので非常に楽しめました。
『ナマの京都』   グレゴリ青山/メディアファクトリー/1050円/★★★★★
京都生まれ京都育ちのグレゴリさんによって暴かれる京都(笑)
いろんな京都本を読んでますが、このシリーズが一番好きかも。まさに<ナマ>物で、古色伝統に粉飾されている京都とはまったくちがう、生きてる京都に出会えます。なんてったって、人が一番面白いものね。
好きなのは、グレゴリさんのバイト体験談を基に書かれたもの。京都生まれということをのぞいても、料亭や伝統ある商家でのアルバイトはめずらしいのでは?ここにも、いけずな人がうようよしてて、(自分が働くのは嫌だけど)とっても面白いところでした。
『グ印関西めぐり』   グレゴリ青山/メディアファクトー/円/★★★★☆
ディープなアジア旅行記や、京都のダークゾーン(?)を面白おかしく紹介してくれるグレゴリ氏。
関西も彼女にかかればディープな旅ができるようですね。
和歌山の山奥で2年間生活したという話が実は一番面白かったです。
『カウント・プラン』   黒川博行/文春文庫/457円/★★★★☆
眼に入ったものを数えずにはいられない計算症の男、坊主と葬儀屋の傷害事件、幼馴染の女たちの殺人事件、ごみをあさる男・・・。あらゆる犯罪が日常茶飯事となってきた、現代の犯罪者と刑事たちの心模様が我々を引き付ける。趣味趣向、考え方が違うだけで同じ人間。その人間くさいところが滑稽に感じさせたり、憐憫を感じさせる。
「犯人分かった!」と思ったら最後にあっさり裏切られる。そこもまた心地よい。良い作家の良い作品に当たった〜という楽しい気分にさせられた。
『文福茶釜』   黒川博行/文春文庫/520円/★★★★★
金の欲、欲、欲である。古美術、古道具の世界はちょっとたくらむとお金が増えそうな場所なのだ。欲に目がくらんだ腹黒の二枚舌の男たちが金儲けのために、一芝居も二芝居もうつ。うまくひっかけてやるつもりが、だまされる側だったとか。そこがまた面白い。どいつもこいつもである。
美術雑誌の佐保、表具屋の牧野、古道具屋の坂辺・・・。あわよくば”わしだけええ目見たろ”と奔走する姿におお!と興奮し、騙されて大損して、元を取り返そうと地方周りをする姿があわれだったり。それでもへこたれないところがすごくいい。大阪弁のテンポとキレで楽しませてくれます。
『二度のお別れ』   黒川博行/創元推理文庫/567円/★★★☆☆
三協銀行新大阪支店に強盗が侵入。ピストルを奪おうとした客を撃ち、400万円とその客を人質にとって逃走した。大阪府警捜査一課の黒田と亀田ことマメちゃんの黒マメコンビが活躍するシリーズ第1弾。
人質から身代金を奪い取る方法が当時世間を騒がせた、グリコ・森永事件の犯人と似ているということで、マスコミに騒がれ作者が警察から事情を聞かれるをいう椿事までおきた。作品と実際の事件を混同するはた迷惑なことだ。ストーリーはテンポがよく、黒マメコンビの軽快な大阪弁のやり取りも面白い。第1回サントリー・ミステリ大賞で佳作に入賞した。デビュー作。
すでに2冊彼の作品を読んだものにいわせれば、人物描写も、会話のテンポもここに原点がある!、やはりいい作品書かれるな〜と惚れ惚れする。どうしてコレが佳作だったんでしょうね。担当者の見る目がなかったのか、当時それなりの評価がなかったから今の黒川氏があるのか。もちろん、ラストはもったいなかったものの充分満足させられる1冊。
『疫病神』   黒川博行/新潮文庫/700円/★★★★☆
建設コンサルタント 二宮は小畠に依頼された産業廃棄物処理場をめぐるトラブルに巻き込まれた。なりゆきでコンビとなったのは極道の男、二蝶興業の桑原だった。
黒川氏の作品の醍醐味は大阪弁のテンポのいい会話、徹底的に調べたであろう取材力に人臭さだ。産廃の世界に極道の世界、賭博シーンの詳細さ、ゼネコンの影まで匂わせ一気にラストへと持っていく。臨場感に手に汗にぎる。そして、次々にせまる妨害に遭いながら、毒を食らわば皿までのような二宮の腹のすわり具合がいい。おいしい話にいっちょかかわろうとする桑原との駆け引きも目を離せなかった。観世懲悪という話ではないけれど、それなりに腑に落としてくれるラストも心地よし。
『国境』   黒川博行/講談社文庫/1170円/★★★★☆
『疫病神』の続編。建設コンサルタントの二宮と極道の桑原コンビが戻ってきました。今度は、詐欺師を追って北朝鮮まで潜入。今ほど彼の国のひどさを報道されない時期にこの濃厚さ!800ページを越える分厚さながら一気に読ませます。うおぉぉぉ!面白い!濃厚キャラクターコンビは北朝鮮という超独裁国でどう立ち回るのでしょう?それは読んでのお楽しみ♪
やはり今回も桑原のベタベタの大阪弁もたまりません。二宮の引き気味のセリフとのかみ合い方も最高!それにヤクザの事務所でケンカをしかけたりするときの言葉。う〜むぞくぞくしますね。読後しばらく思考回路が大阪弁(「ねむたいこというな」とか「どつきまわしたろか」とか)になってました。
さて、詐欺師の追跡劇は、極道の面子とお金への執着まで絡み合って緊迫感が高まっていきます。最後まで気を抜かせないスリルと笑いで黒川博行先生サイコーな1冊です。
『ドアの向こうに』   黒川博行/講談社文庫/509円/★★★☆☆
大阪府警捜査一課の文田ことブンと総田こと総長コンビに今回はプラス京都人の五十嵐。京都風をふかすエリート青年刑事をブンはいけ好かなく思っている。しかし、バラバラ事件と心中事件が意外なつながりをみせ、3人は事件の糸口をうまくつかんでいく。
『海の稜線』に続く、大阪対○○。今度は京都と対決させてます。前回の東京人エリートほどのこちらをハラハラさせないのは、同じ関西だから?と思うのもつかの間、ブンと五十嵐のねちねちいやみ合戦。二人のちんまいケンカはしゃーないなぁと苦笑させ、かえって仲の良さを感じさせます。相変わらず、ブンは母親にうまい発想をさずけてもらっているようですが、いつか、より頭の切れを発揮する(かもしれない)今後の作品を楽しみにしています。
『トットのピクチャー・ブック』   黒柳徹子/新潮文庫/★★★☆☆
武井武雄のイラストが印象的で、正直表紙のおばけはかなりこわい気もする。内容は黒柳徹子さんのエッセイを、彼女が好きな武井武雄のイラストで飾ったという本。実は、武井氏が亡くなる前にイラストの依頼を承諾してもらっていたという経緯もあり、黒柳さんの希望と武井氏の娘さんの努力もあって出来上がったものであるらしい。
以前古本ハントの本で「これは買い!」というので紹介されていて(「文庫雑学ノート」岡崎武志)、早速古本屋で100円で購入した。これは、たくさん発行された本なのでお安く手に入れられるとのこと。しかし、武井氏のイラストはすばらしいということだった。口上にたがわず、素敵なイラストたち。武井武雄を好きになることはほぼ間違いないと思う。じゃあ、エッセイの中身はイマイチなのかといえば、そういうこともなく、いかにも黒柳さんらしい真面目で、真摯で、ちょっと的を外した話がおもしろかった。


【け】

『グッド・オーメンズ』   ニール・ゲイマン、テリー・プラチェット/角川書店/上下各1890円/★★★★☆
1999年、恐怖の大王がふってくる。子どもから大人までなんとなく不安にさせたノストラダムスの大予言は今や昔。世紀末から8年も経った今では笑い話だけど、まだまだ未来が確定していない時期に読んでいたら、もっと違う感想をもったかもしれない。
ひとことで言うとハラハラドキドキ抱腹絶倒作品、真面目なことはちょっとのずれで(真剣になればなるほど)おかしくなるものなのだ。
ハルマゲドンの鍵となる「神に反抗するもの」を、担当の悪魔がうっかりミスで行方不明に、そして大混乱。でも、そのおかげで、人が好きな天使と悪魔が、そして、未来を憂える人たちが違う運命に向けて立ち上がる。本人達は真剣そのものだが、神の意志をも反する展開が笑わせてくれる。映画「オーメン」を彷彿とさせる前半、(なのに、みんなが信じているものは、単なるイギリス人の子)どんでん返しの後半は結果オーライの「グッド・オーメンズ」へと変貌していく。決まりきった何かも、信じる力があれば変えられる。そして、一番ひどいことをし続けるのは人間。
『ケンタロウの「おいしい毎日」』   ケンタロウ/講談社/1260円/★★★☆☆
料理家ケンタロウの初エッセイ。
彼のレシピ本は男子にガツンと来るごはんが多いので、愛用してます。太一くんとの男子ごはんも毎週見てますし、古本屋でしたが、本も大量買いしちゃいましたし。それから、その古本屋に行くたびに、姪っ子が「ケンタロウサン、ケンタロウサン」というのがかわいい。話がズレました・・・。
料理から食のこと、空港でのこと、日常の些細な疑問。ケンタロウさんのイメージどおりの、おおらかさと明るさ満載のお気楽エッセイです。

【こ】

『欲望』   小池真理子/新潮文庫/667円/★★★★☆
事故のために性的不能者となった美しいもと同級生正巳にひかれる類子。妻子ある男、能勢との肉体関係を続けながら、正巳との精神の官能を味わうことを強く切望する。数十年ぶりに写真展で見かけた、かつての友人たちが写る写真から、切なく甘く甘美な愛がよみがえる。
非常に切ないです。能勢との肉体の行為を交わすこともさることながら、正巳との言葉や視線、その場の空気というのか、そういうもので感じさせられる快感がヒシヒシと感じられました。それでいて、彼らの感情のやりとりが初恋のようで純粋。ストーリーに三島由紀夫の「豊饒の海シリーズ」を織り交ぜながら類子たちの愛と性と死を書き込んでいる。彼らのそれぞれに抱える痛みと愛が絶妙な恋愛小説にしたてていると思った。
ようやく「豊饒の海シリーズ」ラストの「天人五衰」に取り掛かれそうです。
『ゆがんだ闇』   小池真理子他/角川ホラー文庫/630円/★★★★☆
小池真理子、鈴木光司、坂東眞砂子、小林泰三、瀬名秀明、篠田節子の6名の作家の作品が1冊で読める。心の闇、科学の闇、日常の闇。普段見逃していたゆがみを見せ付けられる恐怖がある。私のなかでは、坂東眞砂子の「白い過去」と小林泰三の「兆」が一番怖かった。
『プワゾンの匂う女』   小池真理子/徳間文庫/580円/★★★★☆
派手でセクシーな女性蘭子。ディオールのプワゾンを愛用し、遊び歩く彼女の周りで不可解な死が。
一昔前の作品のために化粧や服装、性についての考え方などが古く感じる。しかし、殺人事件に絡む謎の美女という描写、13年前のある事件、精神的な病気と古さを吹き飛ばすほどの吸引力があり最後までぐいぐい読ませる。また、別れた夫婦でありながら離婚後も友達のようにつきあっている雄と由梨の心の揺れもきちんと書かれていて、ミステリーの謎解きとあわせて楽しめるのも魅力。
『死者はまどろむ』   小池真理子/講談社ノベルズ/714円/★★★☆☆
作家の間宮は、家族とともに過疎の村、夢見村に別荘を購入し避暑でやってきた。自然の美しさ、この土地にいることでみんなが幸せな気分になる不思議な土地。しかし、村にはよそものを拒むような秘密が存在した。
『墓地を見下ろす家』で彼女のホラーにベタぼれ。1年後に出版されたこちらもなかなか見逃せません。『墓地〜』がギリギリまで追い込まれる恐怖なら、『死者〜』は真綿で包まれじわじわと殺されるような恐怖。本当に怖いのはどちらでしょうね。
『蜜月』   小池真理子/新潮文庫/460円/★★★☆☆
美しさと才能を持つ天衣無縫な一人の男と6人の女。それぞれの蜜月は濃厚で切ない。肉体の快楽に溺れるだけの関係でも新雪のような無垢なすがすがしさを感じた。それは、父親の愛人であろうが、人妻であろうが、ただ愛しく思えばそれを行動に移す、辻堂環のせいだろう。一途に向けられるまなざしを持ち、ただただ感情のまま、思うまま素直に立ち居振舞う彼のせい。平凡な生活に身を置く女たちの人生に、鮮やかな血にもにた朱を激しい印象を残した環。胸を締め付けるような激しい、濃厚な恋をさせてもらった女は幸せだ。
『恋』   小池真理子/早川書房/714円/★★★★☆
1972年。連合赤軍が浅間山荘事件をおこした同じ日に矢野布美子はなぜ猟銃で殺人事件をおこしたのか。大学教授片瀬信太郎と雛子、そして布美子のめくるめく官能と、美しい絵画のように彩られた日々。

おかしな関係だった片瀬夫妻の世界にどんどんなじんでいき、布美子が官能に浸っていき酔ってしまうというのも充分理解できる。誰しも美しいものを欲してしまうから。
彼らの間は倒錯的な性でエロティックな雰囲気なのに、”いやらしい”という言葉は選べない清らかさがある。それはなぜなのか?規定の概念にない関係の純粋さのためなのか、それとも純粋に享楽の空気を味わっているからなのか?
彼らの関係を言葉で言い表すことはできない。けれども純粋に魂と魂の間にみっちりと結ばれていたというのはよくわかる。そして、それがいつしか消えてしまうことも。そしてその時は激しく血が流れるということも。読むものは最後の最後まで涙を流さなくてはならないだろう。
『幽霊物件案内2』   小池壮彦/同朋舎/★★★☆☆
以前「幽霊案内」を読んだときも怖いと思ったが、こちらもなかなかである。タイトルどおり、”物件”にまつわる怪異譚であるが、目新しい怪談というよりは昔からある収集話。特別怖がらせようという演出を使わないルポ風のもの。とはいえ、読んでいるとゾクゾクするのは間違いない。
『四月天才』   小泉吉宏/文芸春秋/1150円/★★★☆☆
「ブッタとシッタカブッタ」、「大掴源氏物語 まろ、ん?」の小泉氏の短編集。作者いわく、「朝起きたら頭の中にあった」という小説たち。怖かったり、切なかったり、面白かったりのちょっとずつ楽しめます。なんとなく忘れ難いふわりとした作品たち。装幀は吉田篤弘、吉田浩美のクラフトエヴィング商会。
『台所のおと』   幸田文/講談社文庫/514円/★★★☆☆
10話からなる作品集。
つらつらと書かれている言葉が流れるようで、うっかりするとその波にのまれてしまうような作品たちだ。

中でも「雪もち」という作品が気に入っている。酒の問屋へ嫁いだばかりの埴子が、雪の降りしきる日に、主人の友人夫婦宅へ酒粕を届ける話。雪に日にあった、自分の知らなかった事実がつるりと見えるところが印象的だ。

どの作品たちも五感をフルにつかって読ませてくれる。
『おとうと』   幸田文/新潮文庫/360円/★★★☆☆
物書きの父、継母、げんとおとうとの碧郎。病気や経済状態の悪さのため、夫婦仲も親子の中もうまくいかないず、彼らはよそよそしく、どこか冷たい。げんは、この環境が壁朗に影響をあたえていると思う。だんだん不良となっていく彼はやがて19歳で結核を発病する。
3つ違いの姉であるげんは、リュウマチの継母の変わりにおとうとの面倒と家事を一手に引き受けている。碧郎に母親のようなあたたかいまなざしをむけながら、どうしてもいたらないときは、気のつかない母や甘やかす父に腹立ててしまう。しかし、自分の結婚もかえりみず、おとうとの看病にあたるげん。両親の愛情がおとうとばかりに集中している事実にやきもち焼きながらも不憫なおとうとへの気持ちをかける彼女の気持ちがいじらしかった。
幸田露伴という有名な父をもった彼女が、満足でない家庭環境、おとうとの死と暗い現実を淡々とつづるこの小説は、心をしんとさせてさみしい。しとしとと降る冷たい雨のなか、げんと碧郎の心の交流や、そっと見せる父の愛情は雲の切れ間から時々のぞく太陽のように、われわれを温かくつつんでくれる。
『キッチン・ルール』   小林カツ代/朝日出版社/880円/★★★☆☆
知っているようで意外と知らない、お台所のルール。主婦暦もずいぶん長くなりましたが、たまには基本にかえります。
これからの人には目からうろこの、そうでない人にも新しい発見があるかも。楽しく読ませてもらいました。
『カツラーの秘密』   小林信也/草思社/★★★☆☆
知られざるかつらの世界。ちょっと興味がありました。世の男性方が戦々恐々となってしまう(もちろん女性も有)、ハゲの向こうにあるのはどんな世界なのか。有名なAD社とAN社は、いったいどういう商売をしているのか。あたらしい髪の毛の付け心地は?値段は?知らないことがいっぱいいっぱい。
著者はこの本で、ご自身がハゲだったことを、カツラー(かつら愛好者)だったことを告白している。(詳しくは知らないけれど)地位も知名度もある人のこの発表はおそらくすごいことなのでしょう。社会的に(どうこうなるのか?)明日からの自分の身のおき場所にこまりそうだ。が、しかし、AD社のかつら元使用者として、そして、この閉鎖的なカツラーの世界を打破するため著者は立ち上がりました。と、まあ、大げさに書きましたが、未知の世界の体験者の話というものは何でもおもしろいものなのです。カツラーはカツラーを見破れる、他人がすぐさま気がつくカツラは暴力だなど、知性あふれる(?)話満載です。大手の会社の(いまは変わったのかもしれないけど)商売の仕方は、閉鎖的なそして、人の弱みであることに、ずいぶんとつけ込んでいるんだなと実感します。
もうかなり前の本ではありますが、新しい物を買うときなどの心構えについても考えさせられますよ。勇気を持って比較検討せよ、おかしいと思ったら変えてみよ、体験談は人に話せです。
『ザ・ポエット 上・下』   マイクル・コナリー/扶桑社/各641円/★★★★★
今年読んだ翻訳本でイチバン面白かった!
双子の兄の自殺を不審に思い、独自に調査をはじめた新聞記者のジャック。そして、実は殺人課の刑事の自殺という同様の現象が全米各地で起こっていることを突き止める。FBI捜査官とともに連続殺人犯「ポエット」を追うことになるが・・・という、ハラハラワクワク本。事件を追う楽しみと、FBIと新聞記者のせめぎあい、捜査官とのメイクラブの行方などなど注目点は満載だ。
私が最初に読んだのは、ボッシュシリーズの「天使と罪の街」で、彼の作品の登場人物が一堂に会するというすばらしい試み(ぷぷ)の本でした。まぁ、そういう流れでこの本を手にすることになったのですが、先に読んだ本のおかげで、結末は知っているという恐ろしくつまらない(はず)な状況だったのです。そういう、不幸な読書でありながら、いくつも仕掛けられているどんでん返しを楽しめてしまいました。登場人物たちの微妙な駆け引きというのもいいし。もちろん、興味をもたれた方は「天使と〜」は一度おいといて、「ザ・ポエット」からお読みください。
『ダーク・エンジェル 戦闘前夜』   マックス・アラン・コリンズ/角川文庫/686円/★★☆☆☆
いやはや。「ダーク・エンジェル」は良いですね。強くて美しくて、セクシーなマックス。私大好きです。ドラマもビデオもいいですが、シアトルで隠れながら暮らすマックスが、ここにたどり着くまでのエピソードがこの本で明らかになってます。彼女の周りに平穏はないですね。
ファンの方は是非お読みください。
『ダーク・エンジェル スキンゲーム』   マックス・アラン・コリンズ/角川文庫/648円/★★★☆☆
その終わり方はないだろう!とファンを嘆かせた、不完全燃焼のセカンドシーズン。ターミナルシティのその後が書かれています。ジェネスティックたちのターミナルシティへの立てこもりに対する猶予は48時間。そして警官の皮をはいで回る連続殺人事件の犯人は誰なのか?彼らに自由と独立の世界は来るのか?またマックスとローガンのその後も気になるところ。
セカンドシーズン11話でのイライラはココで解消。
『ダーク・エンジェル 最終戦争』   マックス・アラン・コリンズ/角川文庫/629円/★★★☆☆
ダーク・エンジェルついに完結編。
ジェネスティックたちにようやく平和が訪れた。しかし、マックスたちを悩ませ続けたカルト集団のホワイトがまたマックス抹殺の為に現れる。そしてローガンも誘拐されてしまう。

マックス&ローガンの愛の行方とウィルスの行方にようやく決着がつく。二人を見守ってきた皆さん必見ですよ〜。
『琉球空手、ばか一代』   今野敏/集英社文庫/500円/★★★☆☆
今野氏は警察小説で有名ですが、格闘家でもいらっしゃるらしい。自伝的エッセイ。少年時代のあこがれからはじめた空手を現在も続けている(教室も主宰している)というのはすごい話です。
で、タイトルはお察しのとおり、有名な極真会館の創始者をモデルにした漫画「空手ばか一代」からとってる。ここでは、今野氏の空手への思いも熱く語られてます。いろんな深い思いが伝わってきます。五月女ケイ子さんのイラストとが、まじめばかぶりを表していて面白いです。

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