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【な】
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『弟切草』   長坂秀佳/角川文庫/672円/★★☆☆☆
夏といえばやっぱり怪談にホラー小説。表紙がちょっと怖そうなので「弟切草」に挑戦。プレステのゲームだそうですね。私はゲームは不得手なので、よく知らないんですが。昔「バイオハザード」は買ったんですけど、途中で放り出しました。飽きっぽいですね。

ストーリーは公平と奈美の二人の視点で書かれているところが面白い。ゲームの視点切り替えみたいになっていて、「あれどういうこと?」とういことも、もう片方の目線で見直すことが出来ます。
ホラー小説としての怖さはいまいちでしたが、続きもあるみたいなので、ちょっと読んでみよーかな。
ところで弟切草の花言葉が「復讐」て知ってました?花言葉ってコワッ。でもどんな植物なのか見てみたい。
『アースダイバー』   中沢新一/講談社/1890円/★★★★☆
東京を縄文時代の地図と照らし合わせて歩いてみるとという趣旨の本。かつて海が深く入り込み、岬の突端となっていた土地が現在主要な建物、神社仏閣となっているという事実に驚かされる。洪積層(もともと土地)と沖積層(もともと海)の渇きと湿り気が現代の街の雰囲気まで作用しているなんて・・・。東京にあまり親しんでない私にはその空気感の違いはわかりにくいけれど、現代と過去がリンクしている事実は時の流れを感じられて面白かった。
『FUTON』   中島京子/講談社/★★★★☆
田山花袋の「蒲団」。作者名とタイトルは誰もが知ってるほど有名。あらすじまでもまぁ知られているといってもいい。しかし、読んだという話を、読んでの感想を聞いたことがない。あまり人に読まれない本らしい。私も読んだことが無い。
さて、中島京子の「FUTON」。アメリカで田山花袋の研究をしているアメリカ人の大学教授が主人公。教え子の日系人に恋し、日本に遊びに行った彼女を追いかけていっちゃう。そこで、いろいろあるのだが、彼のストーカー的な行動と、彼が書き直していく「蒲団」の新約がいいかんじにかぶってておもしろい。2倍楽しめる作品。
『猛スピードで母は』   長嶋有/文芸春秋/1300円/★★★★☆
猛スピードで母はどうなるのか?中途半端で切られた言葉はなかなか頭を離れない。
表題の『猛スピードで母は』は第126回芥川賞受賞作品。そして一緒に収録されている『サイドカーに犬』は92回文学界新人賞受賞作品だ。どちらかといえば、『サイドカーに犬』の方が好きな作品。

『サイドカーに犬』の薫は、私が経験した小さい時の目線を持っていて、一気に引き戻されたような気がした。聞き分けはいいけど、何もいい子ぶりたいわけじゃない、誤解された子供。
そして、『サイドカーに犬』の洋子、『猛スピードで母は』の母不良で柔軟ででも芯には曲げられない物をもっている二人。かっこいいと思う。
結構なことがおこっているのに穏やかな印象を持たせる話。私の好みの作家さん、こんにちは♪
『ジャージの二人』   長嶋有/集英社/1575円/★★★☆☆
男二人の夏休暇。妻の浮気とそのごたごたで疲れた息子と、夏は仕事しない主義の父がすごすゆったりまったりの1週間。離婚再婚のおかげで、ある時期から離れて暮らしてきた父と息子。でも、やっぱりあまり言葉はいらないようです。祖母の趣味(?)の古着集めのおかげで二人ともが着る事になる小学校のジャージ。小豆色、二本線のひびきがなつかしい。胸元の学校名と名前を書く場所という言葉が郷愁を誘います。まあなんかタイトルがいいね。
『裁判官の爆笑お言葉集』   長嶺越輝/幻冬舎新書/756円/★★★☆☆
裁判官制度導入に伴って、一時有名になりましたね。どんな面白い言葉があるのかと思いましたが、裁判にあまりなれてない私には、なんでこれが?と思うような普通の言葉でした。でも、そういうものも、判決の現場では珍しい現象なのでしょうね。
けれど、人のぬくもりを感じるものもあって、それは、犯罪の末に亡くなった命に対する敬意のひとつなのだろうなと思いました。
『土の中の子供』   中村文則/新潮社/1260円/★★★☆☆
第133回芥川賞受賞作。
自分を傷つけることに魅せられる私。幼少期に親に捨てられ、預けられた親族にひどい虐待を受けていた。
主人公の”私”と同棲する白湯子の心の空虚さに驚かされた。自暴自棄のように自身を痛めつける彼らは、暗いというよりは、あやふやで定まらない不安定さが不安感を誘う。それでいながら、かすかな光を感じさせる結末に安心させられた。しかし、彼らはあまりに真剣に個人について探りすぎている気もする。もっともっと全体を見てもいいのに。
生きることに目的がなければならないとか、何かを達成しなければならないとか、本当の自分は何か見つけなければならないとか、そういうあやふやな言葉を信じさせられてきた結果なのだろうか。タクシーの客が、自分の息子について語る「自分の問題を、自分の中だけで解決しようとしている。だから、パンクするんだよ」という言葉が印象的だった。
『天使の骨』   中山可穂/朝日新聞社/1325円/★★★☆☆
劇団を解散し、呆然と暮らすミチルの前に羽がぼろぼろの天使が現れる。それは出現頻度が徐々に増え、その数がとうとう50人を超すようになった。
占い師に「西に行けば死ぬ」と予言されながら、ミチルはヨーロッパへと旅立った。

旅に関する話を探している時この本にめぐり合った。『天使の骨』とはまたロマンチックなタイトルだ。だが、ミチルを待っているのは楽しい旅ではない。生きることに疲れ、死んだまま生きている彼女にとってすべてから逃げ出して放浪しているだけだから。
『猫背の王子』の続編として書かれたこの作品、前作はまだ未読。しかし、単独でも充分楽しめた。傷つき疲れきった彼女を、出あった人たちは暖かく癒してくれる。悲しみにあふれた世界が少し和らいで、やがてミチルがもう一度前を向いて歩く決心をしてくれたことが救われた。
第6回朝日新人文学賞受賞。
『猫背の王子』   中山可穂/マガジンハウス/1223円/★★★☆☆
天使の骨の前作。劇団カイロプラティックを率いるミチルの狂気と悲しみが充満している。そして、最初から最後まで貫かれるエロティックさがありながら、非常に清潔で無邪気な感じがした。
それにしてもなんて悲しくて救いがないのか。ゲイとして女を愛する女の純愛を通す救われなさ、信頼しきった者の裏切り、劇団の終焉、少女たちの熱狂。どれもこれもが読むものの心にナイフを突き立てるようだった。
『天使の骨』へと続く道程だと割り切ればいいのか、ミチルが子供だと見捨てればいいのか。きっとこちらを先に読んでいたら悲しくて仕方がなかったと思う。
『なまなりさん』   中山市朗/幽ブックス/1050円/★★★★☆
図書館で本を探していたらこの本が目に飛び込んできた。
『なまなりさん』
あの『新耳袋』シリーズを手がけた一人中山市朗さんの本だ。今、季節的に怪談はなぁ・・・と思いつつ、あらがえない何かにひかれて借りてきてしまった。
そして、一気に読了。あえて『新耳袋』では取り扱ってなかった呪い、因縁、怨霊満載の長編で、これは本当に実際あった話なのか?(そうみたいだけど)と呆然と考えてしまうほどの内容でした。あまりの忌まわしさにブルブルでした。いらないことに首をつっこんだような居心地の悪さみたいな。
それはそうと実話なら中山さんもただ事じゃないはずだけど…と思って中山市朗のブログを拝見したらやっぱり何かあったみたいですね。ハハハ。
『新耳袋』とは違った呪いコワシおとろしな内容です。心して読んでください。
『西の魔女が死んだ』   梨木香歩/新潮文庫/420円/★★★☆☆
西の魔女、それはまいのおばあさん。若いとき英国から日本へやってきたおばあさんは、自分のことを魔女という。登校拒否で学校へ行かなくなったまいはおばあさんのもとで過ごすことになった。

あぁ・・泣いてしまった。母方の祖母を亡くしたことを思い出した。
私は祖父母と一緒に暮らしたことはない。特に大好き!といえるような強い感情も持っていなかった。でも、自分が大人になって、やっと対等に物が言えるようになった矢先、それをする前にいなくなったということを悲しく思った。そしてこの本の中に理想に思っていた人物がでてきたので、ぐぐっとなってしまったのだろう。
両親が受け止められない部分をフォローする存在と言うのは大切なんだなと思う。周りでおじいさん、おばあさんと暮らしてきた人たちの話を聞いていると、余分におやつを持っているのを盗み見てしまったように嫉妬してしまう。世代がぐっと離れた人たちとの交流とは非常に大切なことのように感じる。愛される記憶はたくさん持っているほうがいい。
『からくりからくさ』   梨木香歩/新潮社/1680円/★★★★☆
死んだ祖母の家に下宿人を迎えることになり管理人として一緒に住み込むことになった蓉子。鍼灸大学に通うマーガレット、美大で機織について学んでいる紀久、同じくテキスタイルの図案研究をしている与希子、そして蓉子の人形りかさんたちはままごとのような家族として生活をはじめる。

草や木から染めるというのはどうやらとても面白いことのようだ。その植物が内に隠していた本性が思わぬ色ででてくるなんて、そのたびに一期一会で楽しいだろう。古い日本家屋でおばあさんがしていたような「昔のスタイル」で暮らそうとする彼女たちの日常の一コマ一コマをみているだけで「ホォー」と一息つけてよかった。
しかし、ひとつの家で暮らす4人の女性に意外な接点があってミステリー仕立てにもなっている。淡々としている話に変化をつけるためなのだろうが、このエピソードは余計な気がした。
四季折々の日本、そしてマイノリティーなものたちを愛することの大切さがわかる一冊。
『エンジェル エンジェル エンジェル』   梨木香歩/出版工房 原生林/1260円/★★★☆☆
梨木さんの小説にはおばあさんがつき物なんだな〜とまず思った。『西の魔女が死んだ』、『からくりからくさ』そしてこの本でもやっぱりおばあさんが出てくる。
良い子のふりをするにも限界が来ている孫娘コウちゃんと、寝たきりの祖母さわちゃんが夜中のおトイレの時間を利用して交流する。コウちゃんのいる現実と、さわちゃんの昔の記憶が交互になっている。文章の色がそのつど変わっていて面白い。
『りかさん』   梨木香歩/新潮文庫/500円/★★★★☆
リカちゃん人形がほしいとたのんだら、黒髪の市松人形だった。おばあちゃんがくれたりかさんは、人と心を通わせる事ができたのでした。
女の子の夢がかなうような話。でも人形がこわいな〜と思っていればホラーでしかない(笑)もちろん、このりかさんは人を怖がらせるような人でなしの人形ではない。持ち主の心をなごませるすてきな人形だ。この本は「からくりからくさ」の容子さんとりかさんとの出会いのころの話である。ようこがりかさんと出会った後、人形たちや、その他人でないものたちの気持ちを知る事で心が豊かになっていくところ、人の気持ちを理解することを知っていくところが好きだ。
「ミケルの庭」では「からくりからくさ」のその後が書かれている。
『裏庭』   梨木香歩/新潮文庫/620円/★★★☆☆
近所にある誰も住まなくなった洋館。かつては英国人一家の別荘だった。今は子どもたちのかっこうの遊び場。そこには洋館の持ち主バーンズ家が守り続けてきた秘密の「裏庭」が存在した。両親からかまってもらえない照美はその裏庭へ迷い込んでいく。そこで冒険がはじまった。
少女の成長物語であり、傷を負ったまま成長した大人の魂の癒しと前進の物語。誰もが抱えている悲しみや、傷の痛みを持っていることを悪いことではないと思わせてくれる包容力があった。照美の母、そのまた母から続く因縁が断ち切られることを暗示させるラストがよい。
『家守綺譚』   梨木香歩/新潮社/1470円/★★★★★
亡くなった友人の実家の守をたのまれた綿貫。彼が住まう家にはときどき不思議な訪問者たちが訪れる。隆盛に植物たちが伸び盛る庭、一階の座敷の床の間にかけられた掛け軸、迷い込んだ野良犬、疎水とつながる池。どれもしっとりと包み込んで読むものを招き入れる物語だ。なにより、綿貫や隣の奥さん、和尚と誰もが不思議をすっと、当たり前に受け入れる空気がいいと思う。植物に恋慕されても、死んだ友人が現れても犬のゴローが仲裁名人という話を聞いても、ナルホドと。その優しさが温かく感じた。今までの梨木作品の中で一番これが好きと言い切れる。ステキな一冊だ。
『娘の学校同窓会』   なだいなだ/集英社文庫/315円/★★★☆☆
なだいなだ氏が4人の娘さんの学校の校長となのってつづった娘の学校シリーズが復活。すでに、母となった長女、数学者となった次女、医者となるために勉強中の三女、パリに留学中の末っ子たちへむけて、平和論、いじめ報道、結婚や健康について語っている。
今から20年ほど前の作品だが、驚くほど現代の問題解決に進歩のない事に気がつく。相変わらず戦争はあるし、学校のいじめ問題はおおっぴらに報道される、そして少しの解決もない。環境は前から悪くなっている可能性大で、その対策もそれほど進んだとはいえないだろう。何も変わらない、本当に驚かされる。私たちは何をしてきたんだろう。なだいなださんの杞憂もよくわかる。マスコミの報道は小さいところを突っつくようにして大きく報道されている。大切な事がなんだかわからなくなってきている。私たちは何も考えなくなっている。現状はますます悪くなっている気がする。そして、子供と向かい合う事がどういうことかをよくわからなくなっているかもしれない。自分が母親になったときどうなれるかわからない。でも自分で考えたい。どうすればいいのかを。
『坊ちゃん』   夏目漱石/新潮文庫/★★☆☆☆
ところどころに嫌味を感じるのですが。。。
『子規の画』   夏目漱石★★☆☆☆
漱石のへの子規思いやりを感じる。
『彼岸過迄』   夏目漱石/角川文庫/399円/★★★☆☆
同じ下宿に住む森本のとんずらで家主に疑われたり、須永の叔父に探偵のまねことをさせられたり、須永の家に入っていった女性に興味を持ったりしているが、敬太郎はあくまでも客観的な立場にたっている。「友達の話だけど・・・」状態である。一人の観客として世間を見聞きして、これから進む世界はこんなことがあるんだなと納得するような話だ。しかし、これがなかなか。夏目漱石って面白いなと思った一冊だ。

そして、職をたのむ須永の叔父がなかなか会ってくれないとき、占いをしてもらう場面がある。占いの婆さんは当たり障りのないどちらとも取れる忠告を言う。それを聞いた敬太郎は世間に流されることにするのだ。
占い婆さんの言われたとおりに行動するが、実は敬太郎自身が願ったことだろう。その後彼は好転していく。人は占いたいと思うことがあるとき、意外と答えを決めていることが多い。誰かに後押しを頼む意味で占いをする。聞き役で終わるこの小説内で敬太郎が世間とふれあう印象的な場面だった。
『三四郎』   夏目漱石/新潮文庫/340円/★★★★☆
熊本から東京の大学に入学した三四郎は、全てが目新しい新しい世界で出逢った里美美禰子に恋をする。『それから』、『門』に続く三部作の序曲をなす作品。
夏目漱石の作品では、暗くも重くもない普通の生活を書き取った作品が一番好きかも。田舎から出たばかりの三四郎が、はじめ学校の勉強への迎合の仕方も見極められず、友人の与次郎に振り回され、都会的な女美禰子に翻弄され、俗世界われ関せずの野々宮や、広田に自分の行く末を見る。それでも、どこか楽しんでいるところがいい。新しいことを素直に受け入れる柔軟さが気持ちいいんだろうね。
そして、三四郎の心を乱す美禰子の存在。誘うようで袖にする。捕らえられたようで逃げている、謎の女っぷりがおいしい。画家の原口のモデルになっているところへ三四郎が訪問する場面。そこで三四郎が見た彼女、襦袢の襟から出た首、羽織を引っ掛けた椅子、疲れて無防備になった美禰子がふっと脳裏に浮かんだ。なんともいえない奔放でいて、真面目な色気を感じてハッとした。彼女はいい女だ!
余談だけれど、『吾輩は猫である』、『坊ちゃん』のあとしばらくして『門』を読んだけれど、『門』を読んでみようと思うまでには時間がかかった。中高生の自分には夏目作品にはなんの魅力を感じなかったから。『坊ちゃん』にいたってはホント何がいいたいの?だった。でも、時を置いて『門』を読んだことで、彼の作品を見直すことができてよかった。


【に】

『きいろいゾウ』   西加奈子/小学館/1575円/★★★★☆
”ムコ”と”ツマ”というぴったんこな名前の夫婦。互いに想い合い、田舎暮らしのほのぼのさとあいまって2人の優しい空気が伝わってきます。”ツマ”の心象風景と”ムコ”の日記の対比も、同じもの、同じ体験もそれぞれの感じ方見え方で違うことがわかっておもしろい。また、”ツマ”には不思議な能力があって、植物や動物声が聞こえたりする。それがときどき掛け合いの漫才みたいになって、笑っちゃう。カンユさん(野良犬・メス)の食べ物をねだりにくるときの「ないんだったら、ないんだったら、いくから」とか、耳につきそう。小学3年生の大地くんと”ツマ”との、大人っぽいコミュニケーションもちょっとドキドキ・・・というのも中盤まで。”ムコ”さんの過去、”ツマ”の能力、平凡で穏やかさの仮面で隠されてた、見ないようにしてた現実が徐々に暴露されてくる後半は穏やかムードは一変する。大人になると”みないふり”する能力に長けてくるのねー。イヤイヤ!
ちょっと子供っぽい文章と、思わぬ方向転換のシリアスな雰囲気は読むものをとらえて放さないところがある。きいろいゾウの秘密も最後にピッタリと来る。でもね、”ムコ”さんの日記の件、どーも腑に落ちないのよ。結局見てたの?見てなかったの?どうなの?
『さくら』   西加奈子/小学館/1470円/★★★★☆
幸せな家族の物語・・・かと思いきや!穏やかな世界が徐々に崩壊の道をたどりそして、また再生していく。もう最後は大泣きでした。
華奢で美しい母、無口だけれど穏やかな空気を持つ父、百パーセントヒーローの兄、だれもが振り返るほど美しい妹。鼻のぶちが珠に瑕だけど上品でおしゃべりな犬さくら。物語は、両親の悪いところばかり受けついだ次男の薫の目を通して進んでいきます。暖かくて明るくて幸せに満ちていた家族が深い傷を負ってバラバラになっていく。まるで現代の「積み木くずし」みたいだなぁと思いました。彼らはあまりに幸せに浸りすぎていて、最初は事実を直視できないけれど、少し時を置いてもう一度絆を強くしていく。山あり谷ありの人生。うまく行かないときもある。神様は打ち返せないボールは投げてこないんだ。いつでもなんとかなるんだ。と勇気を振り絞りたくなる、明るい気持ちになる話でした。
『華麗なる誘拐』   西村京太郎/講談社文庫/640円/★★★☆☆
「日本国民一億二千万人を誘拐した。五千億円を支払え」という大胆不敵な脅迫電話が首相公邸にかかってきた。ブルーライオンズと名乗る犯人は喫茶店でシュガーポットに毒物を入れ、無差別殺人を始める。
そんなばかな、と一笑に付してしまいそうな内容の設定と思いきや、読みすすむにつれその着想にうならされる。あなどれない。1970年代後半に書かれたということで、少々セリフに不適切感がただよう場所もあるが、設定は今をもっても新しく感じられた。
西村京太郎というと、十津川警部のトラベル・ミステリーをすぐ思い浮かべるが、これは私立探偵左文字夫婦が活躍する。
ついつい、大量に生産される小説というのは、軽視しがちたが、たくさんのトリックや設定を駆使してつくられるその才能と、たくさんのファンをひきつける魅力はすばらしいと思う。
『豪華特急トワイライト殺人事件』   西村京太郎/新潮社/500円/★★★☆☆
西村京太郎は列車の中で読むと最高。
『寝台特急カシオペヤを追え』   西村京太郎/徳間文庫/600円/★★★☆☆
時刻表のトリックは理解できません(笑)
『七人の証人』   西村京太郎/講談社文庫/560円/★★☆☆☆
殺人事件の証人を孤島へつれてきて再度検証するのは荒唐無稽な話だ
『四国連絡特急殺人事件』   西村京太郎/講談社文庫/660円/★★★☆☆
瀬戸大橋、明石海峡大橋、しまなみ街道もなかったころの話。
『東京駅殺人事件』   西村京太郎/光文社文庫/540円/★★☆☆☆
殺人事件の起こり方がちょっと複雑すぎ。
『十津川警部の困惑』   西村京太郎/講談社文庫/540円/★★★☆☆
十津川警部のちょっとした事件簿です。ほろりとさせられたりして。
『寝台特急六分間の殺意』   西村京太郎/講談社ノベルズ/714円/★★★☆☆
短編6編収録。時刻表のトリックばかりでなく、貨物列車、寝台車のシャワー、秘境駅などふんだんに盛り込まれている。しかし、刑事とは犯罪が起こる前にあんなに行動するもんかしら?防犯というのは大切だけど。アクティブな十津川警部と亀さんの拍手。


【ぬ】

『慟哭』   貫井徳郎/創元推理文庫/756円/★★★☆☆
連続幼女誘拐殺人事件、警察内部のキャリア ノンキャリアの確執、マスコミによる捜査一課課長の私生活暴露、新興宗教、不倫、別居・・・。現代社会に病のように蔓延する題材を見事に織り込んでいる。貫井氏の文章力の鮮やかさに、これがデビュー作なのと驚きを隠せない。私が言えることは「四の五の言わずに読め!」(笑)ということでしょうか。
(以下はネタバレを含みますので、読みたい方はドラックしてからどうぞ。)

途中まで「こんなもんか」と高をくくっていたが、後半の20ページで事態は急変(笑)思いっきり鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。『姑獲鳥の夏』や『ハサミ男』のような心地いい裏切りをしてくれる。1章ごとに視点を変えて書かれている文章はそういうつながりだったのかともう一度読み返させる。
また、注意深く文章を読んでいると犯人についての幾つかのヒントが隠されている。例えば、娘を悲惨な形で失ったと匂わした回想や、佐伯捜査一課課長の「娘のことなら気違いになる」という言葉、なんといってもカバラ数術の意味を知っていれば早い段階で答えをつかめるかも知れない。

ちなみに「慟哭」とは「声を立てて泣き悲しむこと」の意。子供を奪われた親の叫びが聞こえてくる作品だ。
『転生』   貫井徳郎/幻冬舎文庫/680円/★★★☆☆
心臓移植後、不思議な体験をする和泉。心はどこにあるのか、脳死からの臓器移植、ドナーとの関係をテーマにしたミステリー。
ドナーの記憶が移植者に影響する。そういう映画・小説はたくさんあります。そして、信じてはいなくても、なんとなくそういうことがあるかもという気持ちは捨てきれない私達。そこをズバッとついてきます。
ドナー探しからいつしか、妖しげな組織の登場と、思わぬ展開に驚かされますが、タブーをタブー視せず、移植問題を真っ向から受けとめ、考えるきっかけになる本でした。


【の】

『破線のマリス』   野沢尚/講談社/650円/★★★☆☆
誰かの意思で作られた情報を見せられているのか?
『恋愛時代(上・下)』   野沢尚/幻冬舎文庫/600円/★★★☆☆
離れられない縁を持つ者同士だが、一件落着までにものすごく時間がかかることがある。
理一郎とはるもそう。お互い大切に思い愛し合っているが、わだかまりがあって、さやの中に納まるにはしっくりこない。2人だけでそうやっているのはいいが、巻き込まれる周囲はたまらない。
しかしよくよく考えてみると、恋愛というのは穏やかに過ぎていくということがまれではないか。どちらかが浮気をしたり、気持ちが通じ合わなかったり、どうしても許せないところがあったりなんてのはよくある話。そしてその鬱憤は、周囲が親身なかぎりさいげんなく撒き散らされるのだ。
この中に出てくる人々はなんと彼らに優しいだろう。物分りがいいのだろう。環境がそうさせるのかもしれない。
そして、どんなに遠回りしても、収まるべきものが収まるとホッとさせられるのだ。
『龍時01-02』   野沢尚/文芸春秋/1400円/★★★☆☆
2006FIFAワールドカップドイツ大会は、日本はグループリーグ敗退で終わりましたね。まったくもって残念でした。
けれども将来日本代表のユニフォームを着てほしい逸材が現れました。それは志野リュウジ。右サイドのトップ下でゲームを創るファンタジスタの才能を秘めた少年。この本の主人公です。彼は日本サッカーに反発してスペインサッカー界に身を投じます。もちろん、リーガ・エスパニョーラなんてのは夢のまた夢ですが。底辺からのスタート。厳しいチェックをうけ、人種差別にあい、でもそこから這い上がろうとします。これがなんかかっこいいんだ。リュウジはわりと冷めたガキなので、むかつきますが、秘めた熱さを持ってる。だからコチラも熱くなってくるのです。ワールドカップのうっぷんはこの本で晴らしましょう。
『死体菜園』   カーラ・ノートン/翔泳社/1680円/★★★☆☆
浮浪者や精神に障害がある人、病気の人、老人。下宿屋の家主の老婦人ブエンテは彼らを温かく迎え入れる。そんなある日、ソーシャルワーカー ジュディが気をかけていたバートがいなくなる。ブエンテのその場しのぎの言葉に疑惑を持った彼女は警察へ捜査を依頼する。ブエンテのキレイに整えた庭からは7体の遺体が発見された。
以前アンビリーバーで見てゾッとした話だが、仲良くしていただいているいちごさんのHPで本が出ていることを知って読んでみた。
センセーショナルな出来事で、死体がどんどん発見された割には証拠があがらず、遅々として裁判もすすまない。本当にイライラしたが、審理が始まると手に汗をにぎった。彼女は彼らを殺したのか?その謎は本人しか解きようがない。真実は本人がしゃべらなければ墓場へ持っていける。訳者の言葉がずしりと心に突き突き刺さった。
『死んでも忘れない』   乃南アサ/新潮文庫/540円/★★★☆☆
結婚、離婚、再婚、出産、死別。その都度家族の構成は変わる。血のつながりの中で生きているうちには感じないことが、もし両親が離婚したら?そして、後に再婚し新しい家族が構成されたら?
母親に置き去りにされ、その後の父の再婚で新しい母ができた渉。穏やかに見えた「あたらしい家族」の中に新たな命が誕生してから、ギクシャクしてしまう。
幸い自分自身にはそんな経験がないのでわからないが、血のつながりのみで家族が出来上がっていくのではないんだなと感じました。
家族が再編されていくこの話を通して、もう一度あなたの家族のこと考えてみてください。
『暗鬼』   乃南アサ/文春文庫/500円/★★★☆☆
今時めずらしい、大家族に嫁いでいった法子。明るく隠し事のない、なかなかいい家族に見えたが、実はそこに秘密が。
優しい旦那に、気さくで明るい姑。可愛い義妹に祖父母。それに舅と義弟の8人で幸せな新婚生活を送っている法子。そんなある日、近所で起こった火事が原因で彼らに疑心を持つようになる。

結婚しても相手の家族と一緒に暮らすのは負担が大きい。例えそれが人のいい優しい人たちだといっても。その上なにやら得体の知れない秘密を抱えている家族ならなおさらだ。法子の疑心と共に変貌していく家族が恐ろしい。最後の結末にもゾゾゾ・・・。下手な怪談よりも恐かった。
家族というのは外からはわからないルールや秘密をもっている。もしそれが常識からはずれているものだったら?結婚をひかえている皆さんお気をつけ下さい。
『団欒』  乃南アサ/新潮文庫/460円/★★★☆☆
つくづく思う。「家族」て不思議な集団だ。「家族」で当たり前のことが外では変なことだったりする。内輪だけのルールで生活が出来上がっているから。

しかし、いくら他の家と違うといっても、この話に出てくる「家族」は異常だ。娘夫婦の寝室に出入りする母親や、異常にきれい好きで整頓好きの親子、子供のままの夫婦、死体を協力して始末する家族・・・。
「ママは何でも知っている」は『暗鬼』にどこか通じるところがあってぞっとする。何でもオープンで隠し事なしなんて気味が悪い。「ルール」にしても「僕のトんちゃん」にしても家族の中の一部が暴走して、結果大変なことになっている。なんでもほどほどがいい。まだ家は大丈夫。かな?
『不発弾』   乃南アサ/講談社/1680円/★★★☆☆
『かくし味』、『夜明け前の道』、『夕立』、『福の神』、『不発弾』、『幽霊』の6編収録。
どれにも、現代の病める人間たちがでてくる。
『かくし味』には、離婚し新しい街でよりどころになる場所を探す男、『夜明け前の道』では、自殺を考えるタクシードライバー、『夕立』は、痴漢から大金を巻き上げようとする女子高生、『福の神』は人によって態度を変える上司、『不発弾』は家庭の中で孤立する父親、『幽霊』は窓際に追いやられていたディレクター。
彼らは私たちの身近にいて、もしかしたら私たち自身かもしれない。ただ違うのは、「あれっ」と思ったかどうか。急に正気に戻ってしまった人たちなのではないだろうか。
表題の『不発弾』では、うまくいっていると思っていた家庭が、当に自分の知らない場所に変わっている。そこまで追いつめられている夫もそうですが、追いつめている妻にゾッとする。多分妻も気がつかないうちに、そこまでやっているのだろう。読んだあと、少し主人に優しくなった(笑)
どこまでもどこまでも流されていっても、別れ道はあるだろ。そのときどうします?
『涙(上・下)』   乃南アサ/新潮文庫/620円・700円/★★★★☆
東京オリンピック直前に、結婚を間近に控えていた警察官が事件に巻き込まれ失踪する。萄子は突然失踪した婚約者を探し、日本中を旅する。

おすぎさんが絶賛ということで、すぐこの文庫本を手にしました。ただ、60年代は私の生まれる前の時代。懐かしいという気持ちにはなれません。
しかし、萄子の「自分自身の気持ちに区切りをつけるため」に勝を追い続ける姿は、哀れであるがすごく共感してしまいます。例えそれが周りから見れば虚しいことに見えても、真実を知らなければ前に進めないこともあるのだと思います。自分の気持ちに区切りがつかないと一歩も前に進めないのだから。
けれども、自分自身に嘘をつきたくないと正直な姿は彼女特有のわがままだなと思います。

お嬢様であった、世間知らずの萄子が一つ一つ大人になっていく様子は、何がきっかけで人生が変わるかわからない不思議さを感じました。そして、全ての真実を知った後、流しても流しても枯れない涙を流した後に「どうしようもないことがある」と納得しなければ区切りがつけられない正直さが好ましくも思えました。そしてそれが、私自身も涙がとまらなくなる瞬間でした。

「どんなに打ちのめされても、嵐にあっても、生きてさえればまた人間は歩いていける。」
『ピリオド』   乃南アサ/双葉文庫/900円/★★★☆☆
フリーのカメラマン宇津木葉子は離婚し妻子ある男性とつきあっている。ガンで余命いくばくもない兄の妻は同級生の志乃だ。ある日大学受験の為に上京してくる甥を預かることになる。

女が一人で生きていくためには想像以上の体力と気力が必要なのだ。
想像することはできる。でも私には一人で生きていくことはきっとできないだろう。
葉子の目の前に区切りをつけなければならない出来事がラッシュのように押し寄せる。ガンで入院中の兄であったり、不倫中の杉浦とのことであったり、もう何年も帰っていない故郷の家であったり。その上甥と姪の問題や杉浦の奥さんが殺されたりと難問、事件が降りかかる。まさに一刻も迷えない伸ばせない状況。すべてにピリオドを打ったときたった一人の女に何が残るのだろう。何もないとは思いたくない。「それはそれで仕方がない」と割り切ろうとする葉子が眩しくて悲しくなった。
『6月19日の花嫁』   乃南アサ/新潮文庫/580円/★★★☆☆
もう一度同じ人と恋愛。ステキかもしれない。
『ボクの町』   乃南アサ/新潮文庫/740円/★★★★☆
見習いとして霞台駅前交番に赴任した高木聖大。警察手帳にプリクラ、耳にはピアスで今風の若者の彼は、生意気な高校生にはすぐぶちきれあたり毎日失敗の連続。模範的で優秀な同期の三浦とはまったく正反対。職質も失敗、初検挙も出来ない彼はやがて警察官としてやっていく自信をなくすが。

目を覆いたくなるような失敗の連続で、昔見た堀ちえみのドラマ「スチュワーデス物語」を思い出しました。新人だから失敗してもそれも仕事みたいなもんだけど、聖大には反省しようというところがないのがひどい。先輩や上司の言葉がぜんぜん通じてないのをみていると、ジェネレーションギャップというのを感じました。しかし、自分の新入社員時代を思い返してみると、かなり生意気なヤツだったような。上司にも先輩にもわがままバンバン言ってたし。いつの時代も若者というのはそういうものなのかもしれません。
新入社員の奮闘記としても、また、交番での勤務風景、警察官としての生活をかなり詳しく知ることができて、そこも話をぐいぐいひっぱっていってくれる要素かも。駐禁や検問、そんなとこでスピード違反者とりしまるの?って腹をたててしまいがちですが、彼らも同じ人間。同じく働く人なのよねと感じました。
『鎖(上下)』   乃南アサ/新潮文庫/各660円・580円/★★★☆☆
「凍える牙」の続編。武蔵村山市で占い師夫婦と信者が惨殺される事件が起きた。音道貴子は警視庁の星野とコンビを組み捜査をはじめるが、この相棒のわがままで鼻持ちならない行動のため音道は何者かに連れ去られる。音道貴子絶体絶命にピンチ。
捜査が難航するうえに、女性刑事であるがゆえのよけいな苦労に翻弄されるさまは気の毒で気の毒で・・・。相棒星野を本気でなぐってやりたくなった。どこの世界にもやなヤツはいるもの。
そして、音道の拉致監禁を救出すべく、あの滝沢刑事も登場。思いもよらない彼の思い込みの激しさにも驚かされます。親子、夫婦、相棒それぞれの関係が事件を通して浮き彫りになっていて面白い。上下2冊ですが、一気に読めました。
『食う寝る坐る 永平寺修行記』   野々村馨/新潮文庫/660円/★★★☆☆
30歳ある日、突然出家を選び、仕事も彼女も、家族もおいて曹洞宗の本山 永平寺の門を叩いた筆者。一般の人が知る事は出来ない修行僧の生活、思いの少しを覗き見ることができる。
指導担当である先輩の雲水の言うこと、すること、どんなに腑に落ちなくても受け入れなければいけない。食事も粥に、味噌汁、お新香と少しのおかず。朝は早くに起きて公務を務め、トイレである東司に入るときにも一つ一つ作法がある。何から何まで作法通りにこなしていく生活に「なぜ」は必要ない。そこは永平寺だから。
見習いの雲水のときの神経が張り詰めるような緊張感、全山の行動を支配する鳴らし物を鳴らすためにかけていく真剣さ、便用という購買部に消しゴムの一つを楽しそうに買いに来る雲水の姿、どれも読んでいる方に心を打たす何かがある。しかし、修行に打ち込む事で別に神秘的なこともおこらない。ましてや1年やそこらで悟れるというわけもない。だが、筆者は一生懸命に修行してきた後、山を降りるときに「0」になっている自分に気づく。それは何もないことだが、次に「1にも3にも5にもなれる0」であると。その時の清清しい空気を感じられてこちらまで気持ちがよくなった。

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