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【た】

『くうねるところすむところ』    平安寿子/文芸春秋/1750円/★★★☆☆
危ないところを助けてくれたとび職の男性にひとめぼれ。そこからつまらなくて不安な毎日が変わっていくのだ。一気に主人公梨央に気持ちが重なってワクワクしてくる。一方、夫と離婚し、父の会社を継がなくてはいけなくなった姫こと響子。危なっかしいけれど潔い態度にスカッとしました。
家を建てるという仕事の世界が目新しくておもしろくて良かったけれど、初めて梨央が一から家づくりに立ち会うシーンは、アツアツ情熱的興奮心ありありの態度とセリフがうっとうしかったな。作者の心の声か?おかげでしらけてしまった。
『うなぎ鬼』   高田侑/新潮社/1783円/★★★★☆
うわぁぁぁぁ。ホラーだ。
しばらく前に、なんかで取りあげられてて、姉も読んだとかいうのを聞いて、ぼんやりと覚えていたので手にとってみたら!(上に戻る)こういうタイプのホラーは基本的に嫌いだけどすごく面白かった。精神を蝕むような怖さです。
ストーリーは、借金まみれの勝は組関係の仕事をしていると思われる千脇に拾われ仕事をするようになる。ある日仲間の富田とともに千脇から頼まれた仕事は、荷物の運搬だったが…。
人の妄想をうまく使っていると思う。ところどころ挿入される悪夢とかは効果をねらいすぎてちょっとどうなのかと思うけれど。2〜3時間で一気に読めてしまうというか、読まされたという感じです。
『13階段』   高野和明/講談社/1600円/★★★☆☆
陰気な話ですが、スリルがある。映画も楽しみです。
『怪しいシンドバット』   高野秀行/集英社文庫/580円/★★★☆☆
以前「ミャンマーの柳生一族」を読んで衝撃をうけました。この人破天荒で面白い・・・と。世界各地を自分探しで放浪するのだというのではなく、「怪獣を見たい」、「幻の幻覚剤を体験したい」という、しっかりとした目的を持って旅される方。早稲田大学の探検部出身だからか、(かつて「幻獣ムベンベを追え」という本を出している。探検部が本当に探険するところだとはじめて知りました)とても、理知的な感じがします。
とはいえ、紛争地域に幻覚剤を試しに行くなんて、とうてい正気の沙汰とは思えませんが。まるで船乗りシンドバットがたくさんの事件に巻き込まれるように、高野氏もしっかりえらい目にあっていることを楽しめる(?)本。
『神に頼って走れ!』   高野秀行/集英社文庫/500円/★★★☆☆
自転車で日本縦断。それはよくある話。しかし、高野氏は道中で出会う神様に願掛けしながら行うという。そして、めざすは大願成就。
とはいえ、難しいことは何もない。とっても軽く読める本。
『辺境の旅はゾウにかぎる』   高野秀行/本の雑誌社/1575円/★★★☆☆
高野氏の本にあまりはずれはありません。だって、単なる旅エッセイじゃないもの。毎回毎回・・・。これは、すでに単行本として出ている本には収録されていない、雑誌に掲載された文章のようで、短いものや時期もばらばら。断片的ではありますが、高野秀行ワールドを楽しめるアソート的な本ではないでしょうか。私は未読の、「アヘン王国潜入記」のその後である、アヘン王国脱出記が冒頭からあって、そうとう目玉が飛び出る内容でした。
かつて読んだことない、体験したことない、特殊でスリリングな世界を味わえます。
『高野優の子育てハミング日和』   高野優/学習研究社/1260円/★★★☆☆
姉のもんちがよく勧めてくれる本(まんが)。とうとう貸してくれました。うちには子供がいないから、「あるある」と共感することはないけれど、姪っ子たち、友人の子供と交流すれば、「納得なこと」もたくさん。もちろん、子育て経験がなくても楽しめます。
可愛いばかりじゃない子供たちとの攻防、ホント大変だろうけどハミングしながら一緒に育って行けたら楽しいでしょうね。爆発したり反省したり。でも、最後はアハハハハと笑えたら最高でしょう。
『空の名前』   高橋健司/光琳社出版/2625円/★★★☆☆
雲、雨、光、風。それぞれに名前があるということを知りました。この本を読んでから、今まで同じだと思っていた雲の形が、それぞれ個性を持って見えてきました。毎朝、本を片手に雲の名前をさがしています。
『官能小説家』   高橋源一郎/朝日新聞社/1800円/★★★☆☆
一言で言って妄想の世界である。小説が作家の頭の中で作られた想像の世界だから、まさにその通りといってしまったらそれまでだが、夏目漱石、森鴎外、樋口一葉・・と文豪たちがつらつらと出て、しかも、「えぇっ」といったエロチックな世界を繰り広げると、小説とはいえ困惑してしまう。

ところで、恋愛の中でどんなものが一番切なく感じるだろうか。想いが通じる瞬間か。やはり別れの瞬間か。
1つのことを教え教わる師弟関係で、尊敬と同化の気持ちがいつの間にか恋愛に変わる瞬間はそうでないか?樋口夏子が桃水によって作家と仕立てられる過程は「マイフェアレディ」や「プリティウーマン」の世界にだぶっていく。そして師には自分が育て上げていくという至上の喜びをもたらしていまう。
だが現実はそううまくはこばない。たいてい終わりはやってくる。桃水の壊れっぷりは人が新しく生まれ変わるまでにかかる過程でどれだけエネルギーが必要かが感じられた。

話を戻そう。明治と現代の作家たちが行き来する空想文学世界はほんとのところどうなのか。作中で漱石が言う言葉がある。「現実のわたしたちはいつも一つの道しか選べない。それが唯一の道ではないと、最良の選択ではないと知りつつ、しかしその道を歩んでゆく。だが、別の道が、もっとたくさんの道があって、そこをもう1人のわたしが歩いているのだ。森さん、夢見るとは、もうひとりのわたしが歩くどこかの道を想像してみることではないか。」
それが作家の仕事ではないか、と思う。言葉で綴られる官能的な世界。
「官能小説家」はもう一つのパラレルワールドだ。
『南極でオン・ザ・ロック』   高橋三千綱/角川文庫/357円/★★★☆☆
南極の氷でウイスキーを飲んでみたい。そんな単純な理由で南極ツアーに出発。希望は叶えられたもののトラブルにも遭遇。なんといっても、高橋氏の自信に満ち溢れ少々うぬぼれ調の語り口が面白い。嘘のようなホントのようなで煙に巻かれてみてください。
あの角川春樹氏企画の旅にゆく「エンヤ、ペティウォラ、エンヤ」も面白い。
『縁切り神社』   田口ランディ/幻冬舎文庫/495円/★★★☆☆
このタイトルと表紙の写真で「ホラー小説?」と理解しました。(実際はそうではないのですが)ショートストーリで、男と女の切ない、悲しい話がつづられている。どこか、自分自身にも「ある、ある」といえるストーリがひとつはあるでしょう。
彼との今の関係に疲れたら読んでみてはどうですか?
ちなみにタイトルの「縁切り神社」の話しはちょっとゾッとしますよ。
『コンセント』   田口ランディ/幻冬舎/600円/★★★☆☆
田口ランディさんの本を読むのは3冊目。初めての出会いは「ひかりふるしま 屋久島」だった。
この話は兄の死後、死臭をかぎ分けられるようになった朝倉ユキが、やがて自分の中の能力を知り、生きる意味を見つけていくという内容だろうか。

「なぜ自分は生きているのか」というのは誰もが持つ疑問ではないか。それを知ることのできる人を幸いだと思う。ちょうど映画「アンブレイカブル」を見た直後なのでこう思うのか、他の人と違う能力を自分の中に発見して、そして、それを役立てられるというのはちょっと魅力を感じる。ヒーローって憧れますよね。
最後の終わり方は「おや?」と感じたが、まだこの話には続編があるそうなので、これから挑戦してみようと思う。

ところで、彼女はとても小柄な方だそうですね。知り合いが、カンボジアの地雷除去作業を見てまわるときご一緒したそう。(でも作家さんと知らなくて後でびっくりしていた。)
『からだのひみつ』   田口ランディ+寺門琢己/新潮文庫/500円/★★★☆☆
人はおどろくほどカラダに支配されている。そういうことがわかります。最近の人間は頭でっかちになってるけどね。田口さんの歯に衣着せぬ言葉がおもしろい。寺門さんのどことなくソフトな語り口と対照的で楽しめる会話が成り立ってます。2人はとにかく正直すぎる!
それよりなにより、人が環境にあわせて生きつづける生物だということ、空恐ろしくもあり、たのもしくもある。死があるからこそ、人類という種のくさりは続く。尊い気分。
もう少し、自分のカラダの声を聞いてみよう。本当の生きがいが見えてくるかもね。
『遺伝子が解く! アタマはスローな方がいい!?』   竹内久美子/文芸春秋/1365円/★★★☆☆
読者の質問に答えるという形の生物学的Q&Aエッセイ?誰もが興味を持ちそうなところをわかりやすく読みやすく、少々脱線しつつ説明してくれてるのでカジュアルに楽しめる。
「わたしたちが食べてるのはウニの体のどの部分か?」(ウニのあの1つ1つの塊は、1個体につき五個ある、精巣または卵巣だ)とか、「ヒトとチンパンジーの1%の違い」(たった1%でも全部でおよそ30億もの塩基対の1%だから3000万塩基対の違いだとか)について、おぉ!というくらい為になりました。ダウン症についての、著者の考察も胸を打つものがあり。私はこの説に賛成したい。
ちなみにタイトルとなってる「アタマはスローな方がいい?」では、賢そうな人は実は賢く見せかける戦略者だ!というのにはギャフンとやられましたね。「ホントはピントずれ」、「何もわかっちゃいない」、「独創性のない紋切り型」・・・なんだか耳が痛いぞ。
『ミシン』   嶽本野ばら/小学館/1000円/★★★☆☆
「世界の終わりという名の雑貨店」、「ミシン」を収録。
古風で、乙女チック、そして残酷さを持つ。洋服を”お洋服”といい、デパートを”デパートメント”という。登場人物は非常にナイーブで内向的な少女と青年。Vivienne Westwoodや、MILKなど、独特なセンスを持つお洋服とともに、彼の作品にも独特なムードが漂っている。そう、言ってみれば薔薇ですか?純粋でもカマトトじゃないのでいい。乙女チックでそうなら救われないから。
どちらかといえば「世界の終わりという名の雑貨店」が好き。雪が降る場面とキリキリした雰囲気がいい。
『鱗姫』   嶽本野ばら/小学館/1200円/★★★★☆
嶽本万歳!って思いました(笑)乙女ワールドと怪奇と猟奇を旨い具合にミックスしていて、この雰囲気はよい。女性には切っては切れぬ「美」と由緒ある名家の暗い因縁、病、許されぬ恋、お洋服。なんと乙女の好きなものが満載じゃありませんか。
関係ないですが、主人公の楼子が、梅図かずおの「おろち」のある1話が怖くて今も印象に残っているという部分があるのですが、私もあるのです。たしか梅図かずおのマンガだと思うんです。手術室で少女の血が抜かれるという場面があったような・・・内容はさだかでないのですが、かなりショッキングでした。今でも「ぞぞぞ〜」とした感覚は思い出せます。もしかしたら、同じマンガだったのかな?そういう怖さって、いつまでも体から離れないような気がしませんか?
『ツインズ』   嶽本野ばら/小学館/1400円/★★★☆☆
『ミシン』に収録されていた、「世界の終わりという名の雑貨店」の続編。
”君”の面影を引きずりながら生きる僕が書いた手紙が小説として出版される。思い出の残る京都を後にして東京へと出て行った僕は、Jane Marpleのお洋服を身につけ、血の涙を流すマリア像を売る少女と出会う。
神が乗り移り言葉を話させるという彼女の救いようのない生活。ごみ、援交、リストカット、新興宗教。想像を絶するような激しさを持つ彼女から離れられない僕に少々イラっとさせられる。でも、その優しさにウルっともさせられる。過去の悲しみを解き放てるのか?現在の状況を受け入れられるのか?臆病ながらそれを乗り越えようとするところは買いましょう。しかし、神がかって自分の腕を切りつけ、ホッチキスで治療しようとするシーンは静止できません。痛いし、吐きそうになる場面もある。読みきるには多少勇気が要ります。
『斜陽』   太宰治/角川文庫/230円/★★★☆☆
父が死に、母と弟の3人で暮らすかず子。貧しくても貴族らしい母に、貴族らしく生きることにはむかう弟。かず子は穏やかに自分の境遇を受け入れながら、不道徳に生きようとする。

昔々の話という印象です。実際、戦中、戦後が舞台なのでもうとんと昔ですが。当時は「斜陽族」とか言う人たちもでてきたほどのベストセラーだったようです。

おっとりと、新しい生活を受け入れる姿も、不道徳に生きようとする姿も、どこかコメディのようで笑ってしまう。
しかし、かず子が弟の先輩の上原にせまる様子は、女の強く、したたかな感じがにじみ出ていてなんともいえません。
『三年身籠る』   唯野未歩子/マガジンハウス/1575円/★★★☆☆
もともと映画のシナリオだったのを小説としたみたいです。
タイトルどおり、三年間身籠った冬子と妹緑子を中心にした不思議な話。京極夏彦の「姑獲鳥の夏」と同じなのか?という疑問は早々に氷解します。だって、本当に三年間身籠ってるんだもん。もちろん、そんな非常識なことは起こらないだろうけれど、子供とずっと一体でいたいと思う母心と、危険がいっぱいで怖い外になんか出たくないと赤子の心が一致すれば思えば起こりえる事態なのでは?と納得させるところもある。だって、赤ちゃんって生まれたとたんあんなに泣くじゃないですか。ある意味、不登校、引きこもりの若者をも髣髴とさせる。血まみれの子供が「パパ」といいながら駆け寄るラストのところは「悪魔の赤ちゃん」ですよ!ホラーぽい。
おっとりしてるけれど頑固な冬子、浮気性の徹、派手でパンクな緑子、緑子が恋焦がれている海くん、そして、冬子と緑子の母と祖母。個性的ですごくいい味だしてて、異常事態にはへこたれないけれど、それぞれの関係に迷って暴れて仲直りする。家族の物語でもある。
途中、冬子の過去の男たちが登場する。時を遡るにしたがってエキセントリックな男性になっていって、一番最初の小山田くんが印象的だ。昨日別れたばかりみたいに「よお」とふわりと手をあげるところ、「ボクは宇宙人だから」という不思議くんなところ、もう行かなきゃといえば「おう、ほじゃね」というさりげないところ、ちょっとヤバイ子だけれども、彼に会ってみたいと思わせるところがあった。
『春の鐘(上・下)』   立原正秋/新潮文庫/各440円/★★★☆☆
奈良へ単身赴任していた鳴海は偶然妻の浮気現場に遭遇する。妻への愛情が薄れていく中で信楽の陶工の娘、多恵と出会う。古都奈良でいつしか彼らは惹かれあい、魂を通わせるようになる。
夫婦の関係を考えさせられる。妻の心の隙を埋めるように、別の男の身体を求めてしまう。あくまでも悪いのは妻の方だが、妻の不貞にたいして感情を見せない夫というのもどうだろう?子供のために夫婦関係を壊さないふりをするというのもどうだろう。別に好きな人間ができたり、夫婦関係を続けられないならば離婚という道をとってもいいのではないかと思う。作中に書かれてないが、そういう生殺しの態度が妻への制裁だったのかな?内容としては渡辺淳一を連想させる。食べ物と寺、仏像などの美しさは見事。
『蓬莱洞の研究』   田中啓之/講談社文庫/730円/★★★★★
高校に入学したら吹奏楽部に入部する予定だった諸星比夏留。しかし、入部したのは民俗学研究会。怪しい仲間と楽しい(?)学園生活爆発です。フルートがうまい、ホームレスのような顧問に、ひと癖もふた癖もある先輩たち。民俗学の知識はすばらしいですが、あやしいったらない。
そもそも高校自体が怪しさの極みで、誰一人入ってはならない常世の森とかあったり、夜中に行われる学校行事だったり。変な生物が出てきたり。どんだけ破天荒に話を盛るんだという話。
比夏留はこのへんてこなパラダイスで見事に事件に巻き込まれます。しかし、独楽という古武道の家柄の変なワザを繰り出したり、薀蓄のボーイフレンドに助けられたりで解決していきます。エンタメ満載、トンデモなうんちくも満載、比夏留の食欲もいやってほどみせられておなかイッパイの一冊です。
『邪馬台洞の研究』   田中啓之/講談社文庫/730円/★★★★★
私立伝奇学園高等学校民俗学研究会シリーズ第2弾。
副題の「伝奇」は「田中喜八学園高等学校」の略ですね(田中は「たなか」ではなく「でんなか」と読むから)。作者の執念深い駄洒落熱を感じます。
またもやあの民俗学研究会の連中のドタバタ学園ちょこっとミステリですが、徐々にシリアス感は強くなってます。顧問の薮田の野望というか陰謀というのが見え隠れしてきて。
一作目はそれほど気にしなかったのですが、何でもかんでもダジャレ落ちって・・・いいんでしょうか?
比夏留と保志野の恋(?)の行方も気になる今日この頃。
『天岩屋戸の研究』   田中啓之/講談社ノベルス/924円/★★★★★
3部作、いよいよ完結です。しょっぱなは、かなり冗談が多くて、明るく楽しい話かと思ってたらどんどん雲行きが怪しくなってきました。シリアス注意報です。
でも、むやみに強調されてた比夏留の大食い(独楽のために太りたいんですね。)がここに結実します。大筋のストーリーとはずれますが、ソバの大食い大会の比夏留の活躍はすごく気持ちがよかった。
さて、国史を大きく覆す秘密が学園の”常世の森”にあるという、壮大な話、こちらもいよいよ結末です。顧問という名の下に、怪しげな態度をみせていた薮田の真意もわかります。田中啓之的なぐっちゃぐちゃにしといてそれで終わるのかよという結末も、まあ、いいけどね。
『笑酔亭梅寿謎解噺』   田中啓之/集英社/1890円/★★★★★
落語がききたくなりました。上方落語とミステリの融合?不良少年竜二と落語家梅寿が事件を解決する落語ミステリ。人情あり涙あり。解決されるのは事件だけじゃないところがまたいい。
不良少年だった竜二が預けられたのは落語家の家。無理やり弟子入りさせられ、兄弟子にいじめられ、逃げ出す機会をうかがいながらもなれない世界でちょっとづつ一人前になっていくんですよ。すれてるようで、単に素直に甘えられる場所がなかった目標のなかった子が、ちょっとづつ落語に魅せられていく過程は、落語慣れしてない読者と強く共感するんじゃないかな?いい話です。
『蠅の王』   田中啓之/角川ホラー文庫/900円/★★★☆☆
なんかの本の解説で、田中啓之の作品はSFでもホラーでも結局のところ思いついたダジャレのために存在すると書いてありました。激しく気になって、この本を手に取ることに。
驚くほど吐きそうなグロテスクな表現に満ち満ちています。徹底しています。勇気がないと読了できないんじゃないだろうか。読む人を選ぶ内容です。
遺跡で大量の赤子の骨の発掘。身に覚えのない妊娠をする少女。連続する児童殺人。悪魔崇拝者の宗教団体。虫・虫・虫。残酷で、下品といっていいほどの殺人描写を切り抜けられるのは、瀬美たちの事件への謎解きの部分だったのに・・・。全体的にやりすぎですが、中途半端じゃないところがいいともいえます。
そして、ここにもあるんですよね。ダジャレ。なんかうれしくなっちゃった。そうか、そうだったのか。
『おちくぼ姫』   田辺聖子/角川書店/300円/★★☆☆☆
日本版シンデレラ。千年も読み継がれる作品はいつ読んでも新鮮。
『痴人の愛』   谷崎潤一郎/新潮社/514円/★★★☆☆
本人たちがいいならそれで。。。
『パリのカフェをつくった人々』   玉村豊男/中央公庫/762円/★★★☆☆
パリといえば、オープンカフェ。いまや、わたしたちの町でもおなじみとなっていますが、フランス文化の一面である、カフェやブラッスリー(居酒屋)、はたまた、クレープリーの起源をたどる旅。今から8年ほど前におとずれたパリで、旅行中のわたしたちの食事の重要な部分をしめていたカフェのサンドイッチを思い出しました。
東京の人口を地方出身者が大多数占めるように、パリも地方からの出稼ぎ者がほとんどである。そして、彼らの商法の1つとしてカフェができたと聞かされて驚きました。働いた分の見返りがすぐ得られる仕事。休みよりもお金という現実的な話もさることながら、一歩一歩改善してきた彼らの姿勢には脱帽。また、地方の郷土料理、ブラッスリーの名物、生がき、また、ガレットのおいしそうな写真が食欲を誘います。あーまた行きたいな。
『チョコレート工場の秘密 フィルムブック』   ロアルド・ダール/評論社/1680円/★★★☆☆
日記でも紹介しました、勘違いで借りてしまったでかでか絵本。出されたときは驚いちゃったけれど、物語のおおよそのあらすじはつかめました。聞いた話だけれど、小説と映画とではラストが違うらしいですね。本、予約しなおしましたから、そこのあたりを楽しみにしておきたいと思います。映画の写真がふんだんできれいな絵本。
『チョコレート工場の秘密』   ロアルド・ダール/評論社/1260円/★★★☆☆
おおよそのあらすじを上の本にて知ってましたので、すらすらと読めました。といいますか、もともと、とても読みやすいです。児童書ですから。どうしてもあちこちに突っ込みどころを見つけてしまう自分が憎い(笑)あの純粋だった心はどこへ行ったんでしょうね。といいつつも、素直に楽しめました。
子供向けの本というのは意外と残酷。ワンカの工場も魅力的だが残酷。しかし、正しいことが正しく悪はきちんと始末されるというところは気持ちいい。
『檸檬婦人』   団鬼六/新潮文庫/438円/★★☆☆☆
嗜虐性も、被虐性も特に興味はないですが、興味半分で鬼六さん読んでみた(笑)
回想録と過去の未発表作、父親の思い出など意外とあぶない性描写ではないエッセイものが多くてちょっと安心。博打と相場と女で家族に迷惑をかけまくった父を思い出しながら、「あの頃の父にくらべたら自分はぜんぜんだな」と思い返すところが面白い。また、バイアグラを使う使わないの話、恩師の十八番話である土佐藩士たちの切腹の様子などが印象に残った。


【つ】

『幕末純情伝』   つかこうへい/角川文庫/470円/★★★☆☆
私は何を隠そう「坂本龍馬」をこよなく愛する人間だ。というわけで、幕末関係のことも必然的に勉強する。フィクションはフィクションでいいのだが、龍馬が総司を追っかけるってのはどうかな?と思っていたが、別段気にすることもなくこの作品は面白かった。名前と時代設定はかぶっていても、根本的に別な話ですから。

新撰組の沖田総司が実は女。しかも土方を好きで、龍馬や、桂小五郎にいいよられるなんて、歴史ファンにしたら馬鹿にしたような話かもしれない。当然そんなことはありえないことなので、完璧に別世界と考えられるからいい、という人もいるかもしれない。
それにしてもあまりの飛躍ぶり、崩壊ぶりはおどろきかつ笑える。
そして単純に総司という女性の恋愛に強烈に共感してしまえる。振り向きもしない男をいつまでも追っかけてしまう女の性がせつなくて、総司が美人(これは重要)でモテまくり、歴史上の人物と恋愛できるというのは感情移入してしまいやすいのかもしれない(爆笑)
それにしても「幕末純情伝」の「龍馬」は愛らしいがばっかだね〜。女の尻を追っかけるばかりでなく、この女は俺が抱いてやらんと一生男をしらないだろう、と仕方なしでおかめ顔も抱くのだ。意外と女性の扱い方とかはこうだったのかもしれないですね。いやはや。
『龍馬伝 野望編』   つかこうへい/角川文庫/560円/★★★☆☆
つかこうへいしの龍馬はスケベ男だが憎めない。言葉は荒っぽいし下品でバカだが、非常に情の深いヤツだ。
日本の維新回天の事業を推し進めていく史実を一部たどっているが、フィクションである。沖田総司が女で帝の娘、その兄が勝海舟、ついでに岡田以蔵が幼なじみ、総司の初体験の相手は土方。そして我が龍馬が愛する女性は沖田総司なのだ。時代設定と歴史上の人物の名は実在するものだが、完璧にパラレルワールド。
愛がテーマのこの作品、けっこうぐちゃぐちゃのどろどろな人間模様が書かれている。自分の業績を誰も認めてくれん!とぼやきながらも仲間たちの尻拭いしてまわる龍馬の姿が愛らしい。
『龍馬伝 青春編』   つかこうへい/角川書店/1400円/★★★☆☆
総司を思うあまり新選組に入隊してしまった龍馬。恋煩いのために頭が周りが見えなくなり、芹沢とオカマの関係に!総司の出生の秘密のために京都入りができない隊士たち。そんな中、慶喜の子舞姫と帝を結婚させることに奔走する龍馬。果たして大政奉還はなるか?!

笑っちゃいますよね。思わず成り行きで男と×××していまう芹沢鴨。その後にもくせになっちゃってるし、近藤さんのお見合い騒動、土方と総司の関係、総司のヌード写真と、めちゃくちゃです(笑)「愛ってなんだ〜」と叫んでしまいたくなりました。今回も結局龍馬の思い届かず、二人の仲は持越しです。
『龍馬伝 決死編』   つかこうへい/角川文庫/640円/★★★★☆
野望編に続き、スケベで下品で「愛と自由」のために奔走する龍馬が登場する。とうとう総司の心は完璧に龍馬へとむいているが、何と彼は総司をさっさと置いて京都を離れてしまう。龍馬を想う総司の恋心とせつなさも最高潮だ。

つかこうへいワールドがいとおしくなってきた。何をやっても誤解されてしまう龍馬と、彼によって引き上げてもらった幕末の有名人たちの卑屈さと、いじいじさがもう笑うしかない。そして、注目は総司が「好きだ」といったのに龍馬においていかれるところ。その後愚痴りつつも、仲間にいじめられつつもけなげに待っていた彼女。最後に龍馬と再会したときは思わず涙がでそうだった。幕末のパラレルワールドつかこうへいワールドで真のデモクラシーを目指す龍馬。現代と過去がごちゃ混ぜになった、人間くさい仲間たちとの競演は私を元気にしてくれた。
『寝盗られ宗介』   つかこうへい/角川書店/980円/★★★☆☆
一ノ瀬花之丞一座の音響係雄二が、フィアンセの筆子へ書いた手紙と言う形で物語りは進む。
座長は劇団員をそそのかし、自分の奥さんと駆け落ちさせようとする、のけ者にされるといやみをねちねちと言う・・・。しょーもないことをして、困った座長であるが、駆け落ち相手に職を世話し、困った人にはお金を与え、劇団員の父親の墓をたててやる。情の深いヤツだ。憎めない男をかかせるならつかこうへい、そう思った。ラストは泣かせる。一気に読みきることをオススメする。
『鎌田行進曲』   つかこうへい/角川書店/300円/★★★☆☆
はじめての主役をやることになった銀四郎は、妊娠した恋人小夏を、大部屋ヤスに押し付ける。「大好きな銀ちゃん」のために身を投げ出すヤス、銀四郎をあきらめようとする小夏、優しかったとおもったら急にいやみったらしくなり、最後に暴力まで振るう銀四郎らのめちゃくちゃな三角関係が炸裂する。彼らのサド、マゾぶりが救いようのない笑いをさそう。
今から21年前に映画化され、当時小学生だった私もテレビで放映されたのを見た覚えがある。詳しい内容はわすれたが、風間杜夫さんが演じる銀四郎の印象だけが残っている。階段落ちで有名。
第86回直木賞受賞。
『津山三十人殺し』   筑波昭/新潮文庫/620円/★★★☆☆
一夜のうちに村人30人を惨殺した事件。今でも日本、いや世界の犯罪史上空前の惨劇と知られる「津山事件」。横溝正史の小説で映画化された「八墓村」の・・・といわれるほうがピンと来る人が多いかもしれない。当時の検事調書、供述調書、新聞記事などを引用し、事件の真相へとせまる記録は、事件が私怨に起因し、怨恨の生々しさを含みながらも、犯人の淡々とした冷静さを強く感じられるだろう。
事件のきっかけは驚くほど単純。なのに犯人の用意周到さ、自己中心的様子、冷静さが最近の犯罪を彷彿とさせるところもある。そういうところが怖かった。
『サヨナライツカ』   辻仁成/幻冬舎/520円/★★★★☆
正直こんな話は好きじゃない。
婚約者がいる男が運命の女に出会ってしまう。彼女の翻弄され、心に深く傷がつくくらい愛し合っているのに、婚約者との結婚、出世という決められた道を選ぶ。
悩み続ける男と、1人の男を胸に抱いて死んでいく女。過去が深く深く記憶に焼きついて、25年目にバンコクを訪れた時にその記憶がよみがえるシーンはドラマチックでギュッとなる。
上の二人の印象が強くて余り目立たないが男の妻の存在も忘れられない。タイトルになっている「サヨナライツカ」という同タイトルの詩を書き、「私は死ぬ時には、あなたと子供たちを愛した記憶を思い出すわ!」と力強く言い切る素敵な女性だ。彼女の存在があるから、この作品もより美しく感動を呼ぶのかもしれない。

でも、どこまでいっても男の幻想って感じですよね。
『旅人の木』   辻仁成/集英社文庫/340円/★★★☆☆
両親の死後、音信不通になっていた兄を探すために、最後に連絡のあった街を訪ねる。兄のアルバイト先、恋人と訪ねるとうち、自分が知っていたものと違う像を結び混乱していく。

小学校時代から家出を繰り返し、大人になってからも定住しない兄。9つという年齢差を考えなくても非常に理解しづらい人間。しかし、幼ければ幼いほどその不思議さは一つの魅力としてうつる。その兄の形を模倣しようとした僕も、もしかしたらとらえどころのない人間になっていたのかもしれない。旅人の木というマダガスカル島原産の旅人たちの喉の渇きを潤してきた木は「自分を探す旅」に出発した僕の心の乾きも潤したようだ。
『海峡の光』   辻仁成/新潮文庫/362円/★★★☆☆
函館の少年刑務所で働く斉藤の前に、少年のころ自分をいじめた花井が入所してきた。看守として、斉藤は花井を監視する。

場所が刑務所であり、過去の因縁を持つ花井と出会うという設定ながら、暗さを感じさせない。非常に静かな作品だ。過去と立場が逆転し権力を振るえるようになっても、花井からいつか本当の自分を見せるだろうと思い、そうしてくれることを期待する。過去とのギャップにかえって斎藤自身が狼狽しているようだ。そして社会にでることで、学生時代の優等生という型にはまれなくなった花井の悲しさが感じられる。
芥川賞受賞。
『白仏』   辻仁成/文芸春秋/1238円/★★★☆☆
鉄砲屋の息子として生まれ、発明家として一家を支えた江口稔。夢枕に立つ仏に導かれ、島に白仏を建立した、辻さんのお祖父さんがモデルとなっている。

幼い頃から死の先にあるものが何か疑問を持ち、自分がこの世にいる意味を問う。決して答えの出ることではないが、兄の死、敵兵の死、友人の死、母の死を看取るたびに自問自答する。死が間近にあるだけ、それをしっかり受け止められる。だから、まっすぐにどんなにどん底に落ちても這い上がってこれるのではないだろうか。
たくさんの死人が出てくる。そして輪廻転生を思わせる逸話も出てくる。しかし、それは全てちゃんと生きることへの助言になっている。また、人知を超えた先で人間とこの世界を支配し変えていくものの尻尾をとらえてやろうとする話が面白い。瞬きの間に世界が少しずつ変わる。どこが変わったかを見てやろうと老人になった稔は思うのだ。
きちんと生きた人の物語は心を強く打つものだった。
『千年旅人』   辻仁成/集英社/1400円/★★☆☆☆
タイトルに引かれて読んでみた。
「砂を走る船」、「シオリ、夜の散歩」、「記憶の羽」の三篇が収録されている。
辻さんの作品は映像であって音楽でもあるなと今回初めて感じた。リピートされて、増幅され、幻覚を見せる。支離滅裂であるが、まとまったものである。上手く言えないがそんな感じだ。
一番良いなと思ったのは「砂を走る船」のリズム感。そして「シオリ、夜の散歩」の悲しみ。「記憶の羽」のラストだ。
表題の「千年旅人」があとがきのタイトルだなんて!辻さんが出会った千年旅人はどんな人だったのだろう。人生走ってなくていいんだなとホッと肩の荷がおりるような気がした。
『そこに僕はいた』   辻仁成/新潮文庫/362円/★★★☆☆
父親の仕事の関係で転校が多かった辻氏の小・中学校時代。ケンカ友達に初恋の人、変わったクラスメイト、硬派な先輩。誰の中にもある青春を呼び起こすエッセイ。

この本を1ページ1ページ繰るごとに、思い出があふれてきた。小学校の低学年のときは毎日近所の子どもたちと町内にある川へ魚をとりに出かけた。自転車で走りまわったり、ケイドロをして暗くなるまで遊んだ。近所のサツマイモ畑の黒いビニールを破って逃げたし、こっそり火遊びもした。友達に大ボラも吹いたこともある。建築途中で放置された家にみんなで忍び込んだりもした。
その後、転校して新しい学校に初めて登校した日は、みんなが注目するし、今までの常識が全部覆されるし、不安と興奮がごちゃまぜになった。一番初めに声を掛けてくれた初めての友達とは、その後派閥が変わり仲たがいをした。
辻氏を懐かしくさせる思い出が私自身の思い出を思い出させてくれた。
それから中でも「ゴラスが行く」は面白いので必読です。
『愛のひだりがわ』   筒井康隆/岩波書店/1800円/★★★☆☆
母を亡くし独りぼっちになった愛。子供の頃犬に噛まれたため、左腕が不自由となった彼女は、小料理屋「おかめ」を飛び出し、行方不明になっている父親を探す旅にでた。

昔のマンガやドラマに出てくるような不幸な少女、愛。そんな境遇に負けない彼女に「がんばれよー」と声援をおくりたくなる。設定が今のようで、少し未来の日本。殺人や強盗が横行し、警察も崩壊、自衛団が町を守るという状況。無関心と放任、悪行をとめる歯止めもない世の中は行き着いてほしくない私たちの未来のようだ。
しかし、不自由な腕も、状況もふわっと誰かが助けてくれる。それを素直に受け取れるところがいい。心が曲がらない愛だから誰もが見捨てないのだろう。そして、彼女が犬と会話する能力があること!野犬となってしまった彼らに助けられながら旅は続く。犬たちも人間の世界と同様悲しい。飼い主に見捨てられ、首輪をはめたままとなった犬、捨てられても人間を慕う犬。
教訓話が盛り込まれた現代の昔話。このままでいいんですか?と私たちに問いかけてくるようだった。
『TRICK the novel』  監修:堤幸彦 蒔田光治・林誠人/角川文庫/600円/★★☆☆☆
ドラマのセリフとまったく同じ、小説版だからと特別な特典もない。ビデオを何度も見尽くしている身には目新しいところがなくて残念だが、画面で拾いきれなかった細部を確認するにはぴったりだ。それから、登場人物の名前を再確認するためにも・・・。
借り物の本だが、さて、TRICK2も読むべきかどうか目下検討中である。
『TRICK2』   監修:堤幸彦 蒔田光治・太田愛・福田卓郎/角川文庫/600円/★★☆☆☆
やっぱり読んでしまいました(笑)
2はビデオをざっとしか見てなかったので、ストーリーと登場人物の把握には役に立ちました。1と同様にドラマと同じじゃん!という感覚はそのままでしたが、少々奈緒子と上田の心の動きが書き込まれていたので許します(笑)
ドラマの時は感じなかったのですが、1より2の方が奈緒子の気持ちが上田にいってるのがよくわかりました。えへへ。
『TRICK〜劇場版』   監修:堤幸彦・蒔田光治/角川文庫/400円/★★★☆☆
結局劇場版まで手を出しました・・・。
「今までよりは小説っぽい」です。そして、今まで以上に薄い本。はっきり言うとTRICKファンだけが読んでください(笑)それも、今までのドラマ、映画をきちんと見てる方限定!これだけ読んだらTRICKに対する評価が下がる可能性がアリます。お気をつけください。
『夜市』   恒川光太郎/角川書店/1260円/★★★☆☆
独特の世界観。子供の頃に訪れた”夜市”へいずみとともに訪れた裕司。売っていないものはない市場だが買い物をしないとけして出られない・・・。表題作「夜市」と、夏休み友人と迷い込んだ古道。あやかしの物語が切ない「風の古道」の2篇収録。
「夜市」は第12回ホラー小説大賞受賞作だが、はじめ何が怖いのよと思いました。正直・・・。でもジワジワ効いてくるというのでしょうか。市場の持つ底知れぬ不思議さ、小さい頃にわけもなく怖いと思ったイメージが閉じ込められているような気がします。
私が好きだったのは「風の古道」のほう。古道に紛れ込んだ子供達を助けてくれるレンの、どこかしらスナフキンのようなアウトロー的イメージにグッときました。切ないお話です。
『蘆屋家の崩壊』   津原泰水/集英社/1575円/★★★★☆
伯爵と綽名される某有名怪奇作家と三十代にしていまだふらふらしている猿渡との不思議な旅。幽鬼の世界に迷い込んだようでちょっと怖いです。ホラーと呼んでもいい。この二人の接点が、豆腐というのもいい。豆腐ってどことなくホラー的じゃない?(ちがう?)無類の豆腐好きが送る恐ろしくも魅力的な7編の短編集。
一番怖くてお気に入りなのは2話目の「猫背の女」(だったかな?)一度映画を見に行った女性に付きまとわられる、いわゆるストーカーものなんですが、半端ないところがいいんですよ。望月峯太郎の「座敷女」を髣髴とさせる。でも、「猫背〜」の女は他の人には普通に見えるというのがミソなんです。誰にも見れないよりたちが悪いかも。最後まで徹底してますよ。
それから富士市での蟹の話も捨てがたい。赤い巨人の謎が解ける瞬間、唖然です。
全体的に美しいという印象を受けます。怖さも程よいのでどなたにもオススメしたい。
『妖都』    津原泰水/講談社/★★★★☆
東京で続発する不可解な事故と自殺。それは幽霊とはちがう姿見えない死者たちの仕業。両性具有の噂があるCRISISのヴォーカル チェシャの自殺の後に起こる不可解なできごと。死者が見える少女達。東京を舞台に死者と恐怖の洗礼は加速度を増して人々を襲い、驚愕の真実が姿を現す。怪奇小説の真骨頂。
純度の高いホラーを読めました。「芦屋家の崩壊」のときも感じたけれど、文章から受ける印象が美しいのです。ホラー小説も多種あるけれど、グロテスクなのに美しい気がする。神話とのからみとかは、らしいという気もしますが、この手の話が好きな人にはたまらない一冊でもあります。
『綺譚集』   津原泰水/集英社/1785円/★★★★☆
津原泰水、恐るべし。いろとりどりの”美しい奇譚”がつづられている。恐ろしく、おぞましく、いとしい世界。こんな引き出しほしいなぁ。すばらしい作品でした。
「約束」が印象深かったです。想いよりも”約束”がこの世にずっと留まるというところ、よかったです。悲しくうつくしい寓話でした。
『ピカルディの薔薇』   津原泰水/集英社/1785円/★★★★☆
「蘆屋家の崩壊」の続編。
「夕化粧」がいちばん怖かった。ある作家の独り言めいた話だが、死んだ女房の話の結末がゾクゾクさせてくれる。思いもよらない恐怖を並べられるときが、津原泰水最高!と思う瞬間だ。不思議で怖い異界を垣間見せてくれる作品たち。そして、コワイツボの幅の広いこと。表題作の「ピカルディの薔薇」も逸品です。なのに、どこかコミカルだったり、ロマンティックだったり、単純でなく、奥が深くて味わい深いのだ。
『赤い竪琴』   津原泰水/集英社/1785円/★★★★☆
今度は怖い話ではありません。大人のプラトニックな愛。一気に恋する少女へともどれます。大人の恋愛の法がずっとロマンティック?
祖母の形見分けで出てきた、ある詩人の日記が2人の男女を出会わせます。自分以上にそっけなく、でも強引な寒川に、その日のうちに暁子は惹かれてしまう。まるでハーレクインロマンスのようです。ありふれた出会いと状況なのに、どんどんひきこまれてしまう。恋愛小説は、あたりまえ過ぎる方がいいのよ。近くにいて、相手にふれられそうなのに、さわれない。そのもどかしさが好ましい。私の大好物です。運命には逆らえないの?彼らには悲恋しかないのでしょうか?津原氏はこんなラブストーリーを書くのね。フフ。
『アクアポリスQ』   津原泰水/朝日新聞社/1470円/★★★★☆
近未来の水上都市に現れる巨大な牛と少年。タイチがかつて目撃したそれらは、アクアポリスの存亡に関わる重要な事柄だった。Jとともに、タイチはアクアポリスとそこに住む人たちの救済にたちあがる。
オカルトとSFが融合したような、少年がキーとなるこの手のストーリーにありがちな内容ではあったが、とても読みやすくはある。
しかし、都市計画と陰陽師、新しい生き物という組み合わせ(もちろん、無理な話ではないけど)、ちょっと飛躍してて、腑に落ちないところもあり。ラストのまとめかたももうちょっと。スタイリッシュなアニメっぽい読み物として楽しめます。


【て】

『星の王子さま』   サン・テグジュペリ/新潮文庫/500円/★★★★☆
たしか、ずっと昔に読んだことがあるはずなのに、覚えているのは象を食べたボアの絵だけ。けれど、きっと、大人になって読んだ、今の方がずっとずっと胸に残る。
わがままなバラを置いて旅に出た王子さま。砂漠で僕と出会い、旅の途中で見てきたいろんなことの話を、思いつくまましてくれる。質問には知らん振り。王子さまが見てきた大人たちに、何一つ思わない大人はいないだろうな。最後、勇気を振り絞って旅立つシーン、泣けて泣けてしかたなかった。大切なものは目に見えない。大好きなものがあの星を光らせてくれている。そう想像するだけでどんなに心があたたかくなるか。大切なことを忘れがちな大人に読んでもらいたい一冊。
『一度も植民地になったことがない日本』   デュラン・れい子/講談社+α新書/880円/★★★☆☆
本屋でタイトルを見たときから惹かれてました。30年近くヨーロッパで暮らした日本人の目から見、そして、感じ、体験した日本の姿、ヨーロッパで認識されている日本の様子を紹介した本。
著者目線のとりとめもない話っぽいから、これを読んでいろんな別の意見をもつ人も多いでしょう。
でも、単純に(私は何でも単純に考えてしまうので)日本人はもっと自分に自信を持ってもいいのかなと思いました。日本人のいい習慣や考えを大事にしていきたいということ、自分の意思は主張すること、あまり他人の目線を気にしすぎないこと。などと重くとらえると耳が痛いですけどね。
難しい内容でもないので(それくらいかるーい内容。分析が冷静になされているわけでないから)、面白く読める本です。
『永遠の仔』   天童荒太/幻冬舎/1800円/★★★☆☆
ジラフ、モグル、優希の3人は小学校の一時期、松山市の郊外にある双海小児総合病院の児童精神科ですごした。彼らは心に深い傷を負っていて、互いに救いを求めていた。
それから17年後、神奈川で3人は再会する。彼らは癒されることなく傷を抱えた大人になっていた。

最近、親による児童虐待が騒がれている。昔はなかったかといったら、やっぱりあっただろうと思う。幼いころ受けた傷は大きくなっても癒えることがなく、例えば暴力を受けて育った子どもが、自分が親になったとき同じことをすることがあるという。
しかし子どもはどんなにひどいことをされても、認めてもらいたい、ほめてもらいたいと思うのだ。親からしたら些細なことが、子供の心を傷つけて、将来に影響の残してしまうこともある。

話はそれるが後半で、介護専用ホームの施設長が言った言葉にドキッとした。
「わたし、思うんです。生活において、自分の居場所を整える、家事。次の世代を育ててゆく、子育て。そして、先の世代の死をしっかりと見取るという意味での、介護。これをしないでいい人間というのは、本来、子ども?だけじゃないでしょうか。」
この言葉を実践している人はすばらしい。子育てと介護はまだのわたしは、ほんとにその心構えがあるのかと不安になった。子どものまま、子どもを育てることになるんじゃないかという不安もある。どちらかの両親が倒れてはたしてちゃんと看てあげることができるのか。
子どもを虐待する親は自分の立場を受け入れきれてない人ではないだろうか。気がついたらなりゆきでしかたなく母親になったり、父親になったり、または一度その役割を果たしていながら何かの拍子に放棄してしまい、その子どもたちが犠牲になっているのではないのか?
本当に親って大切だと思う。その役割をきちんとはたさないと大変なことになるのだと思う。


【と】

『闇の楽園』   戸梶圭太/新潮文庫/781円/★★★☆☆
長野県坂巻町を舞台に、カルト集団、産廃業者のたくらみ、お化け屋敷のテーマパークと犯罪と町おこしが絡み合って、テンポよくラストまで突き進む。

町おこしのアイデア募集、新興宗教、産廃業者のごみの不法投棄、乱交パーティーとバラバラの種火が最後に大きく燃え盛る。少しオーバーだが、ニュースで聞きなれた単語が織り込まれながら、新しい世界を作り出していて、しかし、現実に起こったような読了感がある。
ただ、新興宗教の結末の部分をもう少し書いていてくれたらな〜と思った。
文庫本で2.5センチの厚さはありますが、すぐに読みきらせるスピード感がいい。
『牛乳アンタッチャブル』   戸梶圭太/双葉社/1575円/★★★☆☆
雲印乳業の低脂肪乳を飲んだ消費者たちが食中毒症状が!ずさんな管理の工場、怠惰な現場の職員、現実を直視せず保身しか考えていない役員たち。ついに、本社人事担当役員 柴田の元に、モラルも何もない会社内部の人間の首切りチームが結成された!
エゴの塊の登場人物に最初はかなり引いてしまうが、そいつらをバッタバッタと切り捨てていく”食中毒事件特別調査チーム”の活躍に胸がスッとした。アクの強いキャラたちの内部告白や行動パターンが、悪人だと納得させるし、ラストのジェットコースターみたいな盛り上がりも映画のよう。(映画「アンタッチャブル」とはまったく似てないけど)バカバカしさ満点の話しかと思えばそれだけでなく、読後感はさっぱりすっきりさせてくれる。
『燃えよ!刑務所』   戸梶圭太/双葉社/1575円/★★★★☆
2008年、日本の刑務所の収容率を100%を軽く越えた。対策を協議する”刑務所過剰収容対策委員会”が召集された。メンバーの一人である元警察官僚OBである花菱はある日、ウクレレを持ったデブの天使に啓示をうける。それは”刑務所の民営化”だった。
目的達成のために奔走する花菱に、これまたちょい引き気味になるがバイタリティーと目的達成への熱意になんとなく一緒に巻き込まれる。モラルがかなり変形しつつも、核心をついているし、なんにせよ面白い。最後の最後に地獄へと落とされつつもどんでんがえしするところがカッコイイ。がんばれ花菱!
『ギャングスタードライブ』   戸梶圭太/幻冬舎/1575円/★★★☆☆
敏子は、母の親友だった麗子おばさんに子ども、理沙の誘拐をたのまれる。幼なじみの一生とみごと誘拐に成功するが護衛役のやくざに追い回されるは、麗子は死ぬは、知らない第三者が身代金を要求するはのドタバタ劇に。
戸梶氏にしては強烈なSEXや血みどろグロテスクシーンも少なくてちょっと安心。しかし、その分迫力が減っていたかも。形勢があっちいったりこっちいったり、スピード感のある作品。一気に読みきれる。
『1億人のためのミステリー』   友清哲/ランダムハウス講談社/952円/★★★☆☆
書評家のイチオシ、ギョーカイ人が選ぶ私のミステリーBEST3、ミステリー界をいろどる名探偵。手を変え品を変えて、ミステリーの今を斬る!どんなミステリー読めばいいかな?と考えてる方はこの本を読めばいいんじゃない?私も読みたい本が見つかりました。
でも、いわゆる通人のアドバイスよりも、参考になったのは読者アンケート。好きな作家と1、2、3位に見られる相互関係とか、通勤電車などで何日もかけて読んだ本、家族が寝てからコソコソ読んだミステリーなどちょっと変わった質問と回答が笑えました。もっと質問の量が多くてもいいのに!
また、福井晴敏、歌野晶午、貴志祐介、阿部和重、冲方丁のインタビュー、伊坂幸太郎密着レポートもあり。ファンの方は必見です。
『歴史をかえた誤訳』   鳥飼玖美子/新潮文庫/500円/★★★★☆
言葉というのは、言いたいことや考えを伝えるツールだけではないということがひしひしとわかる本。文化と生活がのっかって、その重みがあるからこそ言葉。単に誤訳としては片付けられない歴史上の事件、すごくおもしろかったです。そして、通訳者と、通訳者を使う人の考え方1つで変わってしまうことの多いこと!ただ、言葉がしゃべれるだけでは重大なミスをも起こることも。訳者はまさに話者となって話さなければならないというところ、ほとんど役者とイコールだなぁと思いました。通訳者は、その本人に成り代わらなければならない職業なんです。ホント深い。
語学とは”話せる”だけでは全然ダメなのだ。もちろん、職業としない人にはそれで充分なんだけれど、自分自身のコト、相手の国のコトともによく理解し、学び、日々切磋琢磨の姿勢が大切。

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