機内音楽考

2002年8月12日執筆


いきなりだけど、機内音楽を聴くなら童謡系がオススメである。 なぜって、日本や海外のポップスは街中やテレビでいくらでも流れてるんだから、わざわざ機内でまで聞く必要がないのだ。 クラシックやジャズもしかりである。 日本人が好きな「せっかくなんだから」精神からすれば、「せっかく飛行機に乗ってるんだから、飛行機でしか聞けない音楽を」となり、自然と聞くべきものは童謡、もしくは落語くらいしか残らない。
そんなわけで典型的な日本人思考の私は、飛行機に乗るとほとんど童謡を聴いている。 中には小学校以来耳にしていなかった曲などもあり、曲と同時に小学校の頃の給食の思い出がふいによみがえったりしてけっこうなごめて楽しいものだ。

ということで、以下はこの間(2002年7月下旬〜8月上旬)の海外出張の行き帰りの飛行機で流れていた機内音楽童謡チャンネルについての雑感である。

 

◆ ナビゲーター ◆

まず、童謡チャンネルを語るにあたり、はじめにこのチャンネルのナビゲーター(曲と曲との間に、雑談や曲の紹介をするDJ役)について述べねばなるまい。

ポップスやクラシックなどが、落ち着いた素敵な声でちょっと高級感をも漂わせるナビゲーターであるのに対し、童謡のナビゲーターはかならず、アニメの声優である。 しかも思いっきり典型的アニメ声。 しかも二人の会話形式。 むろん会話の内容は背筋が凍るくらいしらじらしいものである。

今回はりえちゃん(推定小学生の役。 アニメ声)とお兄さん(推定20代なかば、推定独身の役。 体操のお兄さん声)の会話であったが、その一例を紹介しよう。(話題はスイカ。)

>>おにいさん「子供の頃、すいかの種、どっちが遠くまで飛ばせるかーなんて競争したよね。
        すいかの種飛ばし世界選手権なんてのも、ほんとうにあるんだよ!(爽やか)」
>>りえちゃん「へー、そうなんだあ」
>>おにいさん「よーし、おにいさんも優勝めざして練習するぞー!!(元気)」
>>りえちゃん「おなか、こわさないようにね(半あきれ)」

こちらこそ『へー、そうなんだあ』である。

もう少し詳細に観察してみよう。
今回のフライトはJALだったが、実はANAも同じように二人の会話形式である。 組み合わせもおしゃまな女の子(推定小学生)+お兄さん(ANAはおねえさん)という酷似っぷりなのだが、女の子の性格だけは少し違う。 ANAの方がJALより性格がキツイのだ。
私はいつもANAを愛用しているためANAの娘の会話を聞きなれていたせいで、今回のフライト(JAL)では「ん!!?? りえちゃん、ちょっと性格丸くなった?? 成長したなあ・・(遠い目)」と当初勘違いしてしまっていた。 よく考えたら別人だ。
ちなみにANAの娘だったら、上の会話はこうなっていただろう(推定)。

>>おねえさん「子供の頃、すいかの種、どっちが遠くまで飛ばせるかーなんて競争したよね。
        すいかの種飛ばし世界選手権なんてのも実際あるのよ(爽やか)」
>>りえちゃん「えー、ワタシも出てみたーい(ぶりっこ)」
>>おねえさん「よーし、おねえさんも優勝めざして練習するわよー!!(元気)」
>>りえちゃん「はっ、勝手にやれば(薄笑)」

おそらく、ANAのシナリオ作成者はマゾなんだと思う。

◆ すいかの名産地 ◆

さて、最初に笑ったのはこの曲である。 「一度聞いたら頭の中を回って離れない曲」として有名らしく、名前だけはどこかで聞いたことがあったが、曲を実際聞くのは初めてである。 実際聞いてみると確かに頭を離れなくて困るが、それ以上に歌詞もシュールである。 以下、歌詞を全文引用しつつ解説を加えたい。

♪友だちができた。すいかの名産地〜。
♪なかよしこよし。すいかの名産地〜。
♪すいかの名産地〜、すてきなところよ。
♪かわいいあの娘の晴れ姿、すいかの名産地〜。
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ

最初の2センテンス「友達が出来た」「なかよしこよし」から、夏休みにおじいちゃんおばあちゃんのところに遊びに行った男の子が、そこで地元の子と仲良くなったんだねーという微笑ましい光景が目に浮かぶ。 麦わら帽子と虫取り網に、日に焼けた肌の男の子たちの笑顔、いいねえ、健やかだねえ〜って感じだ。 子供のころの岡山の田舎での夏休みを思い出してしまった。

ところが、4センテンスめを聞いて愕然。
かわいいあの娘の晴れ姿? へ? 友だちって女の子ですか?
しかも、晴れ姿? 妙齢ですか?
ここに来て大幅な軌道修正が必要となる。 なぜすいかの名産地にいきなりガールフレンドが出来るのか? 答えは一つしか無いだろう。
メル友である。

つまりこの歌は、すいかの名産地にメル友が出来た、っていう歌なんですね。 それできっとこの歌の主はメールで「どこに住んでるの?」と質問、相手の女の子はちょっと怖いから様子見として「すいかの名産地よ(^^。 自然がいっぱいですてきなところよ(^^」と特定されないような住所を答えた、ってとこであろう。 バリバリ警戒されてるんだけど、この男はそれに気づかず浮かれてるという、ありがちな光景である。 もしかしたら男は、彼女のスイカのような爆乳まで想像して浮かれているかもしれない。

♪五月のある日。すいかの名産地〜。
♪結婚式を挙げよ。すいかの名産地〜。
♪すいかの名産地〜、すてきなところよ。
♪かわいいあの娘の晴れ姿、すいかの名産地〜。
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんち、すいかがごろごろ

そしていきなり、結婚まで妄想が膨らんでいる。 正直、これはちょっと怖い。 「五月のある日」なんて、しっかり日取りまで決まっているのは、おそらく彼の中に何か理想の結婚式像があるのだろう。 メル友の方の無事を祈るばかりである。 すいかがごろごろのリフレインも偏執狂的で怖くなってくる。

♪とうもろこしの花婿。すいかの名産地〜。
♪小麦の花嫁。すいかの名産地〜。
♪すいかの名産地〜、すてきなところよ。
♪かわいいあの娘の晴れ姿、すいかの名産地〜。
♪すいかがごろごろ、すいかがごろごろ、すいかのめいさんちッ

ここまでくると何が言いたいのかすら分からない。 まったく壊れている。 強いて解釈するなら、メル友は小麦色の肌だったんだろうか。 晴れ着の写真を送ってもらったのだろうか? それとも、彼の想像の中で小麦色の肌になっていたんだろうか?

その後、この二人はどうなったのであろう? 男の方はちゃんとひきこもりから脱却できただろうか? 女の方はネットストーキングされることもなく、この男と縁を切れたのだろうか?
そんなあやうげな余韻を残す歌であった。

◆ 南の島のハメハメハ大王 ◆

この曲は子供の頃に大好きだった歌で、聞いてて癒されてしまった。 上条恒彦氏の渋いながらもコミカルな歌声もぴったりである。

しかし、これって「ハメハメハ」大王だったっけ? カメハメハ大王じゃなかったっけ? やはり実在した人物の名前そのままはまずいってことで変えたんだろうか?
しかしそれなら、4番の歌詞「南の島に住む人は〜、誰でも名前がハメハメハ〜♪ 覚〜えやすいがややこしい〜♪ っ会う人会う人ハメハメハ〜♪」の方がよっぽど差別的でやばいはずである。
とすると、もともと曲名はハメハメハ大王だったのか。 私の幼い頃の記憶は、中学高校の世界史の授業により歪められていたのか。 教育とはかくも恐ろしいものである。

◆ ずいずいずっころばし ◆

さて、童謡を聴いていると、たまに歌い手が子供なのか大人なのか分からない歌に出くわす。 この、ずいずいずっころばしがまさにそうであった。
歌い手の設定としては、声の質からして明らかに幼稚園くらいの女児である。 ところがこの歌い手、声は幼稚園の女の子なのに、音程・リズムともやけに正確なのだ。 果たしてこんなに完成度の高い歌声を持つ幼稚園の女の子がいるだろうか? そう考えるとこの歌は大人が子供っぽく歌っているのかと思える。 しかし、それにしては、舌っ足らずさと声質がホンモノの子供っぽい。 しかし、それにしてはヘンに上手すぎる・・・

そんなことをつらつら悩むうちに曲は終わり、りえちゃんの声が私の耳に飛び込んできた。「さいとうまことさんと、○○児童合唱団のみなさんで、ずいずいずっころばしでした♪」。 ・・・待て待て待て待て!! 「さいとうまことさん」ですと? 急いで機内音楽ガイドをチェックする。 「斎藤 誠」さん。 斉藤 真琴さんなどではない。 そうか・・・男だったのか・・・。 しかも、ごていねいに、さん付け。
思うに、斎藤誠氏は童謡の世界では大家なのであろう。 50歳を過ぎても衰えぬその童謡力は、後を追う気鋭の若手をも震撼せしめているに違いない。 それだけでなく、カラオケなどでもひっぱりだこだと思われる。 彼の歌う河村隆一 童謡バージョンを聞いて涙を流さぬ者はいないという。 ううむ。 深い。

◆ その他 ◆

ほか、手元のメモには「31匹」と「50km/hr」とだけメモが残されている。 なんのことかと思い出すのに苦労したが、実は、31匹は「おさかな天国」に登場する魚の種類(りえちゃん談)。 50km/hrはイルカの泳ぐスピード(出典:イルカのダンス。おにいさん談)だとやっと記憶の底からひっぱり出せた。 このように、実用的な知識を増やすことも出来るのが童謡チャンネルの素晴らしいところである。

(終)

【オマケ】 うどんですかい、そばですかい

さて、ひととおり童謡も聞き終わったところで、オヤツが運ばれてきた。 サンドイッチやらお饅頭やら色々あるが、ここも「せっかくだから」精神を発揮し「らーめんですかい」をもらうこととする。 一度聞くと忘れがたい名前だから覚えている人も多いと思うが、つまりはJAL機内限定の日新の即席めんである。 姉妹に「うどんですかい」「そばですかい」がある。

解説するまでもなく、このネーミングは空の「スカイ」と「ですかい」をひっかけたものだ。 実際、らーめんのフタには「らーめんdeスカイ」(訳:空のラーメン)と書いてあった(括弧内筆者注)。
しかし、ん? ここでひとつ疑問が生じる。 フランス語の読み方からすれば、「らーめんdeスカイ」の読みは「らーめんどすかい」ではないのか?

らーめん どすかい・・・京都弁である。
語尾からすれば京都弁のツッコミである。 しかも、ちょっと軽蔑気味の。
そう考えると、ギリシャ行きの機内でまでカップめんを食べる私に、冷ややかに「らーめんどすかい・・」とツッコミを入れる舞妓さんが想像され ちょっと興奮した。

【後日談】

「すいかの名産地」のCDが欲しくなり巨大CDショップの童謡コーナーを探したが、「すいかの名産地」が収録されているCDは100枚以上の童謡CDの中のたったの一枚だけだった。 どうやらマイナーな曲であるらしい。
布教に努めねば。