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彼女のことを知ったのは入学してまだ間もない頃だった――
もう満開に咲いていた桜がほとんど散り始めていた。新入生代表挨拶なるものをやった俺は程なく、前期クラス委員をおしつけられ…いや、任された。その初仕事の帰り道だった。
ふいに話し声が耳に飛び込んできた。声がする方に思わず目を向けると、同じ学校の生徒が―学校内だから当たり前ではあるが―電話で話していた。
「…良かったね〜〜!!!!ずーっと好きだったもんね〜vv
彼のこと。良かったじゃんっ!!紫、おめでとうっ!」
バカに明るい声とは裏腹にその少女の目からは透明な雫がポロポロこぼれていた。喜びの涙でないことは明白だった。その表情には一点の喜びすら見られなかった。
「おめでとうっ〜!!また学校で話聞くよ〜vv じゃぁねっ!!」
そう言って彼女は電話を放した。その場にうずくまるように顔を伏せた。大きい声ではなかったけど、確かに泣いている声だとわかる。彼女の長めの黒い髪がサラッと肩から落ちた。
ドキっとすると同時に、頭から離れない光景だった。
見てはいけないものを見てしまった気がする。盗み見するなんて最低だと思いながら、でも目が離せなかった――
何日か経って、F組に顔を出した時、その彼女の姿を見つけた。
―彼女…隣のクラスだったのか…―
クラス委員を呼んでもらってる間、視線はなんとなく彼女に向く。彼女の傍にはもうひとり少女がいて、その少女は"紫"と呼ばれていた。
―あの時の電話の相手のコか…―
目と耳を凝らして聞いていたが、肝心の少女の名前がわからない。
「…沖っ。沖!沖ってば!」
大きな声で呼ばれて視線を教室内から目の前の人物に戻した。
「悪い…」
「どうしたんだ?ぼーっとして、おまえらしくもない…」
F組のクラス委員の山岡がそう言った。彼とは中学時代からよく仕事をしていた。彼もまたクラス委員などをよく引き受けていて、例に漏れず(?)高校に上がってもその仕事を任されているようだった。
「なぁ…山岡。」
「なんだ?」
「あの窓際で紫って子と話してる背の高い女のコ誰?」
「あ?美月のことか?…秋葉と話してるやつだろ、美月はるかだよ。」
山岡は俺のほうに一瞥をくれて、にやっと笑った。
「めずらしいな。おまえが女のコの事聞くなんて。…ふーん、美月みたいなのがタイプなんだ。」
なにやら含むところがあるようで、一瞬だけ嫌な感じがした。だけど、彼はこう返してきた。
「誰にも言わないからさ。」
山岡は一言そういうと、話題を次の委員会の話に変えた。なんとなくそっけない気がして、少し寂しさを感じてしまった。今は気になる程度…俺は今まで誰とも女のコの話をしたことがなかった。友達すらも、萎縮してそういうことは全く聞いてこない。この気持ちが何なのか、やっぱりまだわからない。好きなのか、それともただあんな現場を見ちゃったから気になるというだけなのか…。誰かに問いただして聞いてみたかった……
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