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「美月」
 静かな教室にあたしの名前を呼ぶ声だけが響く。思いのほか大きな声にあたしはびっくりしてしまった。彼とふたりだけになったのは初めてだった。彼にはなんとなく近寄りがたいイメージがあって、2年になって同じクラスになってから一度も話をしたことが無かった。
  彼、―沖 慶介―はクラス委員であったし、なんとなく彼の目が怖かった。表情だけでは容易に彼の思考を読み取れない感があった。
「…沖くん…?」
 なんて言い出せばいいのかわからなくて、なんとなく彼の名前を口に出していた。彼の視線はまっすぐ自分に向けられている。あたしは目のやり場に困って下を向いてしまった。
 ふと周りの空気が動いたと思うと、あたしの髪が揺れた。彼の長い指先が髪の毛に触れていた。
「綺麗な髪だな…」
 突然のことにびっくりして言葉が出なかった。あんまり触れられたくないのになんとなくあがらえない雰囲気があった。しかし、彼が何を言いたいのか全く読めない。第一、なんで教室にふたりきになってしまったのかさえよくわからない。明日のスポーツ大会の準備で先程まで、何人か残っていたのにいつのまにかにいなくなっていた。なんとなく沈黙が重い気がする。でも、しゃべる言葉さえ浮かんでこない。
「俺さ…、美月のこと好きなんだ。」
 突然耳慣れない言葉が入ってきた。本気で言っているのか冗談で言っているのかよくわからない。その表情はさっきから全く変わらない。
「…あたし…沖くんのこと…良く知らないし……それに……」
 あたしは何を言っているのかだんだんわからなくなって、頭が混乱してきた。
「…あ、あたし…好きな人がいるの…」
 今の言葉にも彼の反応は無い。
「はるか…って呼んでもいい?」
 それどころか全く意に介してないような言葉をかけてくる。なにしろ生まれてこの方"好きだ"なんていわれたのは初めてである。どうしていいのか全然わからない。嬉しい気持ちもあったし、怖い気持ちもある。
「榎本だろ」
 ギクリとした。なんだかわからないけど、顔が熱くなっているような気がした。

 その時ガラリと教室のドアが開いた。さっきまで教室にいた子達が戻ってきた。
「委員長〜〜」
 言いながらこちらに近づいてくる。
「スポーツ大会のプログラム貰ってきたよ〜。」
 手にもっている束を彼に渡す。
「どうも。助かったよ。」
 彼はそういい、それを受け取った。
「さて、準備も整ったし帰ろうか。」
 誰にとも無くそういい、立ち上がった。


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