海辺のカフカ(上)(下)  著者:村上春樹



最初はゆっくりと、しかし上巻の途中からは止めきれずに一気に読んだ。
とても丁寧に、計算されて構成された小説だったような印象を受けた。
これまでの村上春樹の集大成と言えるようにも思える。
今まで扱ってきたモチーフが、洗練されて集められたような感じだった。
猫、図書館、森。
これまで扱われてきたテーマも、同様に洗練され、しかし複雑に絡みあって取り込まれている。
暴力、性欲、破壊性、記憶と忘却。

相変わらず(これまでの村上春樹の小説と同様に)私には、何を言わんとしているのか、
何がメッセージなのか、明確にはっきりと読み取れたわけではなかった。
だけど、おぼろげながら、これまでよりも少しだけ明確にその世界観のようなものに触れることができた。
それは私自身の成長なのだろうか。
それとも著者の世界観がまとまってきたのだろうか。
おそらく両方だとは思う。
しかし、彼の小説を読んで、とりとめもなく疲れてしまっていたこれまでとは、
少し違う、手ごたえのようなものを感じ取ることができた。
はっきり言って、非常にとりとめのないストーリーであり、
それはストーリーと読ぶのが正しいのかどうかもよくわからない。
読んでいる時は夢中になっているが、それはどういうストーリーの小説なのか、
要約しなさい、と言われれば途方にくれてしまうだろう。
そこにこめられた主題は複雑だし、流れている物語は冗長でなかなか端折ることはできそうになかった。
こんな内向的な主題について、ここまで読者を惹き込んで読ませる著者の才能を思った。
そこから私が得たものを、言葉にすることはなかなか難しい。
しかし私がこのHPに感想を書き込むときというのは、
深く揺り動かされた時である。
私の中の何かは、「海辺のカフカ」によって、深く揺さぶられてどこか出口を求めた。
結局のところ、それを文章にして出すことはできそうになく、
こうして書く文章は、作品紹介とは言えそうにない。
ただ、感想のようなものとして言えることは、
この小説は、生きることの暗く激しい部分をどこかに抱えているならば、その人に
何らかの形でかなり深く影響するだろう、というような気がした。
小説の主人公が15歳の少年でなければならなかったということも、
おそらくその辺りに関係しているのかもしれないなと思う。
   (03.1.7)


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